キングサイズの葉が豊かに生い茂る木々を、雨だれがリズミカルに叩いていた。  
 秩序なく絡み合い、もつれ合って天へと這い上がるつる草が随所にはびこった、巨大な岩塊の群れ。  
 それらの隙間を埋め立てるように、苔類やシダ類といった湿り気を好む植物たちが縦横に広がる。  
 人の手が入ることのほとんどない、原始の種々雑多な緑は野放図に溢れかえり、濃密な空気を持つジャングルを形成している。  
 とはいえ、今はその野放図さにもやや翳りの兆しがあった。  
 気候の変化を、おそらくは敏感に嗅ぎ取っているのだろう。  
 この世界は現在、以前の肌にまとわりつく熱気は鳴りをひそめ、一転して寒波が打ち寄せつつある。  
 ラヴォス落下時に吹き上げられた大量の土砂が衝撃で遥か上空に拡散し、太陽光を遮る薄い被膜となってしまったからだろう、というのがロボやルッカの見解だった。  
 
「動いてる間は気にならなかったけど、じっとしてると、やっぱり少し寒いね」  
 剥き出しになった肩口を自分で抱きしめ、マールが言った。  
「そうだな……。けっこう雨に当たっちゃったし」  
 その隣で、ため息のように大きく息を吐き出し、クロノが同意する。  
 水滴のベールと岩壁が檻となり、二人を外界から隔てている。彼らがいるのは、この時代の人々が『狩りの森』と呼んでいる地の奥だった。  
 断崖が斜めに張り出して天然のアーチを作る、その根元の部分だ。  
 洞窟と呼べるほど広くも深くもないが、木の洞のように一部がくぼみ平らな岩棚になっていて、ひととき雨をしのぐにはまあまあの場所を確保できたといえた。  
 
 エイラの助言で、彼女と共に六千五百万年前の世界へと質の良い防具を求めて訪れたクロノたちだったが、それを作っているイオカの村人は、この時代における貨幣価値のあるもの  
―― たとえば、動物や魔物の牙だとか、角だとかいったものでしか、品を譲ってはくれないらしい。  
 その辺りは、元とはいっても酋長であるエイラの口利きで融通してもらえないものかとクロノなどは考えたのだが、そういうわけにもいかないということだった。  
 そういった経緯で、二人はここに森の名どおり『狩り』にやってきていた。  
 それなりの期間をクロノたちと同道してこの時代を離れていたエイラは、村人たちと、殊にキーノとは積もる話もあるだろうと、クロノやマールに気遣われる形で村に残っていた。  
 この森の動物や魔物は、一般の村人たちも狩りに来ている。  
 今のクロノたちにとってはそうそう脅威とはなりえないだろうということもあり、二人でも充分と判断したのである。  
 実際、事前にある程度狩りのポイントとなる地点とコツも教わってきていたし、戦果は上々だった。  
 しかし、そろそろ帰ろうとした矢先にこの雨で、こうして足止めを食らったのだった。  
 急いで突っ切って帰っても、村にたどり着く頃にはすっかり濡れ鼠になっているに違いない。  
 せっかくの収穫を雨ざらしにするのも何なので、おとなしく止むのを待っているのが現状というわけだ。  
 
 クロノは濡れた青い上着を脱いで広げ、刀や荷物と一緒に傍の雨が当たらない位置に置いておいた。  
 そのままでは乾かないにしても、冷たい服を着続けるよりはましだろう。幸いアンダーシャツまでは染みていなかった。  
 そのおかげで、かえって上を脱いでからの方が寒さも緩和された気がする。  
 岩壁を背もたれに二人並んで地面に座り、見るともなく雨にけぶる森を眺める。  
 この調子だと、当分止みそうにない。  
「こんなことなら、火を焚けるもの持ってくれば良かったかも」  
 マールがぼやく。クロノよりも薄着な彼女は、殊更寒さが堪えるようだ。  
 それでも来る時には薄手のマントを羽織っていたのだが、当然のごとく濡れていたので今は外している。  
 長丁場は予想していなかったため、かさばるような野営の道具などは全くここに持ってきていなかった。  
「ルッカがいたら、火なんて一発なんだけどな」  
 無いものねだりとわかりつつ、クロノは苦笑した。  
「それに、ロボもか。魔王……は、頼んでもダメかもしれないけど」  
 炎の技の使い手である仲間の面々を、指折り数えてみる。  
 するとマールはくすりと笑った。  
「魔王も、きっと頼んだら大丈夫だと思うよ。ああ見えて、優しいところあるもの」  
「……そうか?」  
 それはひょっとしてマール限定の話なんじゃないかと、うがったことをちらりと思う。  
 同じペンダントの所持者というせいなのか、魔王は姉であるサラとマールのことをどこか重ねてみている節がある。  
 マールはマールであってサラじゃない、と複雑な気分になるのは、自分が彼女に恋愛感情を抱いているが故の、独占欲から来る嫉妬だったりするのかもしれないけれども。  
 ……と。  
 そんな微妙な男心を感じとりでもしたのかどうか、マールが唐突にこちらへ身を寄せてきた。  
 クロノの腕に自分の腕を巻きつけ、強く抱きしめる。  
「なっ、いきなり何だよ?」  
 雨で冷えた肌の感触に驚く以上に行動そのものに戸惑い、クロノは目を白黒させた。  
「あ……その、本当に寒くなってきちゃって。……こうしてていい?」  
「……ま、まあ、別にいいけど」  
 空いた側の手で頬を掻き、視線を泳がせる。いいとは答えたものの、落ち着かない。  
 暖をとることに気をとられているようで、本人はどうやら意図せぬ所業らしいが、思いきり密接して胸を押しつける状態になっているのである。  
 布越しにも柔らかなふくらみがすり寄せられる感覚に、クロノの心臓が急激に早さを増した。  
 おまけに、ついつい横目でそちらを窺えば、白い生地が水で肌に張りついて、まだらに透けた太ももとその周辺を見下ろせてしまった。  
 気のせいか、下着までうっすら輪郭が浮いているように見える。  
 
(う……)  
 いったん気づいてしまうと、今まで意識せずにいられたのが嘘のように、頭がそのことで一杯になってくる。  
(いやいやいや、待て。落ち着け。別に、これぐらいならまだ……)  
 実のところ、彼女とは精神的にも肉体的にも恋仲といえる関係になっている。  
 この手の事柄に対する免疫や耐性がまるきりないわけではない。  
 ……が、そこはそれ、色々な意味で春まっさかりな青少年の悲しい習性というやつで。  
「げ」  
 クロノは思わず小さく呻いた。  
 当人の意向に反して、下半身は完全に張り切りだしていた。  
 こうなると上着を脱いでいたのも仇で、一目見たら明らかな様相を呈している。  
(や、やば……)  
 さすがにこの状況でマールに勘づかれるのはかなり気まずい。  
 クロノはそろそろと膝を曲げ両脚を胸元に引きつけるようにして、うつむき加減の姿勢をとった。  
 何気なさを装い、手を下腹部近くに持ってきて、マールの視界からその周辺を遮る。  
 だが、その動きが逆にマールの不審を買う原因と化した。  
「クロノ、どうしたの? おなか痛いの?」  
「い、いや……何でもない」  
 とりつくろう笑みを浮かべたものの、不幸なことにマールはごまかされてくれなかった。  
「そんな青い顔して、何でもないってことないでしょ? ……あ! もしかして、さっきの狩りの時に怪我してたんじゃ……」  
「違うって! 本当に、どこも何ともなってないから!」  
「もう、だったら見せてみてよ、ほら!」  
「うわ、ちょっ、待っ……!!」  
「…………え?」  
 クロノの隙をかいくぐり、お腹を探ろうと伸ばした手に触れた妙な感触に、マールは一瞬固まった。  
「……あー……」  
 動かぬ証拠を突きつけられた犯人のごとく、もはやこれまでとばかり、うなだれるクロノ。  
 この場合、モノを突きつけたのはクロノ側ではあるが。  
「あの……えっと……?」  
 把握が追いついていないようで、マールはおろおろしている。  
 クロノはあきらめの境地で ―― というより、むしろこれは開き直りの域かもしれない ―― だらしなく足を投げ出し、背を岩壁に預けた。  
 狭苦しそうに張りつめて、ズボンを押し上げているそれがあからさまになる。  
 
「ど、どうしてそんなふうになってるの……?」  
 真っ赤に染まった頬を手で押さえ、マールが戸惑いがちに尋ねる。  
 彼女は奔放で活発な質とはいっても、基本的に純粋培養な箱入りの姫君だ。  
 クロノと恋人として同衾したことはあっても、男に関しての知識や理屈としての理解が今ひとつ乏しいところがある。  
 身体を重ねる際にそうなるのは経験的に知っていても、なぜ今この状況で?と思考停止に陥っているというのが彼には手に取るようにわかってしまった。  
「生理現象だよ。……というか、マールのせいなんだけど」  
 ひたすらいたたまれない気分をどこかに追いやりたくて、クロノは投げやりに言った。  
「わ、私のせいなの?」  
 マールは矛先を向けられて目をぱちくりさせた。  
「そう。だから、責任とってどうにかしてくれ」  
「そ、そんなこと言われても……どうにかって、どうやって?」  
 ほとんど照れ隠しの軽口のつもりだったのだが、マールはどうもごく真面目に受け取っているように見えた。  
 殊勝な態度で問うてくる辺り、クロノが怒って本気で責めていると勘違いしている風でもある。  
 ―― ひょっとして、これはチャンスだったりするんだろうか。  
 彼女のことを利用するようでちょっと気は引けるが、ものは試しとクロノは考えを巡らせた。  
「そうだなあ……」  
 マールのことだから、外で抱かれるのは恥ずかしいと嫌がりそうだ。  
 ……だったら。  
「口で」  
「くち……?」  
「つまり……オレがいつもマールにベッドでしてることの、逆をやってくれればいい」  
「……ベッドで、って……? ……え、えええっ!?」  
「できない?」  
 返事に窮してマールは沈黙に入った。  
 クロノとしては興味がなくもない事柄だったが、何しろお互い初めて同士だったためにまだ経験も浅いし、普通にしているだけで満足でもあったので、これまで言い出すような機会もなかった。  
 それに、常日頃ベッドの上ではほぼ受け身に徹している彼女には、ある意味最もハードルが高いかもしれない。はっきり言って駄目で元々の要求だ。  
 うまいこと承諾してもらえればラッキー、ぐらいの気持ちだったのだが。  
「……が、がんばる……」  
 座った膝の上できゅっと拳を握りしめ、マールはか細く呟いた。  
 どうやら、災い転じて福だったようである。  
 
 先の発言よりもさらにもう少し具体性のある、踏み込んだ内容をマールに口頭でレクチャーし(といっても、クロノだってさほど詳しくはないのだが)、地面に腰かけたままの状態で、前身ごろだけ下着ごとズボンを下ろしてその一帯を露出させた。  
 外気に触れて寒さでうっかり縮みかけたものの、気合でどうにかキープ。……何か根本的なところで当初と問題が引っくり返っている気がするのは、考えないことにする。  
 その間、マールはというと、赤くなっていたのはどこへやら、なぜか凝視といっていいほど興味ありげにそれを見つめていた。  
「あ、あんまりそんなジロジロ見るなよ」  
 やり場のないむず痒さと居心地の悪さを感じて、クロノは落ち着きなく身じろぎした。  
 嫌悪感あらわに目をそむけられるよりはいいが、あいにくと女の子に見せつけて喜ぶ類の性癖は持ち合わせていない。  
 ただ、こちらはマールの裸を一度ならず隅々まで眺め回したことのある身でもあるので、勝手といえばずいぶんと勝手な言い草なのだが。  
「あっ……ご、ごめんなさい」  
 マールは律儀に頭を下げた。  
「こうやって間近でちゃんと見たのって、初めてな気がして……」  
「……ああ。確かにそうかも」  
 マールが恥ずかしがるため、光源のしっかりした環境で事に及んだことは滅多になかった。  
 それに何より、そういう状況下でじっくりこちらを観察するような余裕が彼女にあったとは思い難い。―― 主に、クロノが行為の時にがっついているという理由で。  
「まあ、ええと……それはそれとして」  
「う……うん」  
 うなずいたはいいが、いざとなるとやはり困惑とためらいが強い様子だった。  
 クロノの前にぺたんと座り込んだまま、マールは悩み込む仕草で指先を自分の唇に当てている。  
 ……が、しばしの逡巡の末、何かを思い切るように彼の足の間に屈み込み、そこに顔を近づける。  
 そのまま上目遣いでクロノを見上げ、  
「あ……あのね。私、こういうの、うまくできないかもしれないけど……ごめんね」  
 言って、マールは根元近くに片手を添えて、鈴口に唇をつけた。  
 バードキスを繰り返すように、何度か優しくついばんだ後、おもむろに舌先で撫でる。  
 ぺろり、と幼児が棒つき飴でも舐めるような所作で、舌が上下を行き交った。  
「……っく」  
 クロノは思わず喉元から短く息を洩らした。  
 技巧もなく、稚拙と呼んでも構わなさそうな動作であれど、こんなふうにされるのはクロノとて初めてである。  
 彼女の中に自ら入り込むのとはまた違った粘膜の触覚が快を誘った。巧みでない分、焦らされているようにも感じる。  
「あ……だ、大丈夫? 痛かった?」  
 その息の音を、苦悶によるものと思ったらしい。マールは焦って口を離した。  
「いや……いいから。大丈夫だから、続けて」  
 手のひらでマールの耳元を包み、微笑みかける。雨が乾ききらずまだ湿り気の残る金髪に、指先をそっと滑らせた。  
「……ん」  
 そうされて、マールは少し嬉しそうにうなずいた。  
 
 再び口唇でクロノを包み込み始める。  
 そのうちに、おそるおそるという感じだった動きも、徐々に慣れて興が乗ったようで、遠慮の色が抜けてきた。  
 しかも、そうしろと指示した覚えはないのに、ある程度反応で気づいたのか、敏感な部分を探り当ててそこを中心に攻めるということまで自然と学習してしまったらしい。  
「う、ぁ……」  
 自分で動くならまだしも加減がつくが、今回手綱を握っているのはほぼマール側である。  
 思いがけなく急ピッチで射精感が込み上げてくるのを抑えきれず、クロノは慌てて叫んだ。  
「マ、マール、ちょっと待った! ストップ!」  
「?」  
 今度は咥えたまま、目線だけで不思議そうに問いかけるマールだったが、それが裏目に出た。  
 腰を浮かせて引き抜くのも間に合わず、クロノは彼女の口内で暴発させてしまった。  
「……っ!?」  
 まん丸に目を見張り、マールが口元を押さえてむせかえった。  
 ほとんど反射的にクロノから顔をそむけ、地面に向かって苦しげな咳を繰り返す。  
「ご、ごめん……」  
 いくらなんでもいきなりそこまで求めるつもりではなかったので、クロノは反省してマールの背に謝罪の言葉をかけた。  
「……ああ、びっくりした……もうっ」  
 マールはしかめ面で振り返り、顎の周りを拭った。よほど苦しかったと見えて、目の縁が涙で光っている。  
 鎖骨から胸の谷間の辺りには、白濁の伝ったラインが描かれていた。  
 わずかにこくんと喉元が動いたのは、口の中に残っていた分を飲み下したからだろう。  
(……うわ……)  
 まずい、と思った瞬間にはもう手遅れだった。  
 たった今出したばかりだというのに、性を強く意識させる彼女の有様に興奮してきてどうしようもなくなる。  
 凶暴なまでの衝動が、内側から突き上がってきた。  
 ―― マールを抱きたい。  
 今すぐ、この場で。  
「……マール」  
 手をつかみ、勢いよく胸元に少女を引き寄せる。  
 倒れかかり、小さく悲鳴を上げるのにも構わず、彼はマールを抱きすくめた。  
 湿った肌や服がひんやりとしていたが、そんなことは気にならないぐらい、身体が全体に火照りだして止まらない。止められない。  
 
「今度は……こっちで」  
「え……? きゃあっ!?」  
 張りのある腰の曲線に手を滑らせ、服を引っ張り下ろそうとすると、マールは再度悲鳴を上げた。さっきよりも必死さのある声で。  
「こっちって、まさか」  
「そのまさか、かな」  
 クロノはからかう調子で笑った。  
「そ、そんなのって……!」  
「責任、とるんだろ?」  
 そう明言したわけじゃないとつっぱねられるかとも思ったが、マールは痛いところを衝かれた様子だった。  
「……どうしても……?」  
 弱りきって、泣き出してしまいそうな表情になる。  
 罪悪感がちくりとクロノの胸を刺した。なんだかまるで、とてつもなく非道なふるまいをしているかのような気分である。  
 しかし、そこはあえて無視して強硬姿勢を貫くことにした。  
 彼女の無垢で誠実な心根と、こちらに向けられた愛情に甘えているのは自覚済みだ。わかってやっている分、なおさら性質が悪いという説もあるが。  
「どうしても」  
 きっぱり言い切ると、マールは絶望感すら漂わせ、途方にくれる顔をした。  
 冤罪で死刑執行を言い渡された時の自分も、もしかしたらこんな顔してたんだろうか、などとクロノは場違いなことをなんとなく思った。  
 
 
「うぅ……恥ずかしいよ」  
 これで通算五度目になる「恥ずかしい」を口にしながら、マールがクロノの上着を敷布にして地面に四つんばいになった。  
 上着はまだ生乾きだったが、地べたに直接手や膝をつかせるよりはいいかと、クロノが誘導したのだ。  
 こんな場所で全部脱がせないで、とマールとしてはそこはどうしても譲りたくない点だったようなので、必要な部分だけという約束で妥協することになった。  
 誰かに見られる心配もここじゃまずないだろうし、使うところだけって方が、かえってやらしい気がするんだけどな。……なんて思いつつ、クロノはしいてそれは言葉に出さずにおいた。  
 腰留めの金具を緩め、服のズボン部分と下着に手をかけてずらすと、マールは過敏に身をすくめてクロノを制止しようとした。  
 だが、彼が何か言おうとする前に、羞恥に必死で耐えるようにかぶりを振り、抵抗をあきらめる。その健気さが全て自分のためのものだと思うと、余計に可愛く感じられた。  
 
「……あんまり見ないで、ね……」  
 さっきのクロノと同じ言葉を、消え入りそうな声でこぼす。  
 考えてみれば、今は天気が悪いとはいえまだ夕方にもなっていないので、近くで見つめ合う分には充分すぎるぐらいの明るさである。  
 そんな視界の通る中で秘部を目にするような場面というのは、クロノの方にもさしてあったわけではない。マールがやたらと恥らっているのは、その辺の事情も大きそうだった。  
 でもなあ、とクロノは少し意地の悪い言い方をした。  
「さっきマールだってオレのを見てたんだから、おあいこだろ?」  
「そ、そうだけど……ん、んんっ」  
 なめらかな感触の小ぶりなお尻に手をかけて、さっきのお返しとばかり、マールの淫花にしゃぶりつく。  
 意外なことに、そこは舐める前から濡れて潤っていた。  
 こちらばかりが一方的に気持ちよくなっているのかと思っていたが、案外、奉仕する側も快感を覚えていたりするものなのかもしれない。  
「あっ……あぁ、あ……!」  
 舌を縦に丸めて挿入し、出し入れして内部の蜜を掻き出す。それを唾液と混ぜて塗り伸ばすように、全体を満遍なく蹂躙していった。  
「ひっ……く、ぅ……あんっ……! ……だ、だめ、クロノッ」  
 マールは悩ましく背を反らした。特に繊細で感じやすい萌芽を舌と唇が通過するたびに、ぴくん、ぴくん、と身体全体が揺れる。  
 その周辺を重点的に嬲ってやるように切り替えると、さらに大量の蜜が溢れてきた。  
「や、やだ……んっ、うぅ……ど、どうして、そんなところ、ばっかり……ぃ!」  
 恥ずかしさと快楽が頂点に達したらしく、涙混じりにクロノを責める。  
 マールも似たようなことオレにしてきたじゃないか、と言おうとして、不意にすとんと腑に落ちた。  
 実際はその真逆で、さっきのアレは要するに、こっちが普段していることをそっくり真似して返してたってことなのか。面映いような、くすぐったいような気分で、内心こっそり苦笑う。  
 飽和してもはや保持が追いつかない、互いの体液の混合物が、下着に零れ落ち始めている。  
 頃合と見て、クロノは口をつけるのを止め、立ち膝になって彼女の入口に自分のものをあてがった。  
「……あ……」  
 顔だけわずかに振り向かせ、マールがとろけた眼差しでその挙動を追う。  
 早く繋がりたい、彼女の中に潜り込ませろと強く主張してやまないそれの勢いのまま、彼は一息に貫いた。  
「……っ」  
 短い息の音だけが、マールの喉を鳴らす。  
 最奥まで到達したのを確信すると、すぐに腰をぎりぎりまで引き戻し、再び突き込む。  
 それを繰り返すごとに、彼女は目に見えて乱れ、吐息を荒れさせた。  
「はっ、う、あぁ、ん……っ!」  
 
 森に住む獣の一部にでもなったかのように、少し性急にすぎるほど、彼女のことを貪る。  
 口で、というのも新鮮で良かったのだが、やはりこうして交わる方がマールを直に手に入れられているという実感がある。  
 誰にも渡したくない、心から愛しい少女とひとつになっていられるそのことが何より幸福で心地良く、そして、体内に熱を生む。  
「く、クロノ……っ、な、なんだか、……あっ……激し、い、っ……! ……あぁっ!!」  
「……ぅ……くっ」  
 ペースやら調整やらに気を回すことも忘れてほとんど一気に駆け昇り、彼女の内側にその熱をありったけ流し込んだ。  
「……は……」  
 かくり、と糸の切れた人形のように、マールが力なく頭を垂れた。  
 嵐と変わらぬ愛欲の奔流から解放され、肩を上下させて息をつく。その肩の、うなじに近い辺りに、クロノは身体を溶け合わせたまま口吻けた。  
「……んっ」  
 絶頂がまだ尾をひいているのか、マールは怯えるようにかすかに震えた。  
 そんな彼女の様子を見ていると、悪いなと思う。  
 ……だけど。  
「マール……その、ごめん。……まだ足りない」  
「え……」  
 ぼんやりしていた瞳に、じきに理解の色が浮かんだ。  
「う、うそっ……うぅんっ」  
 背中にとりつくように覆いかぶさり、ぐっと突き上げる。  
 小刻みに、奥に振動を与えるような動きで、再びマールを本能の渦へと巻き込んだ。  
「あ、あぁ、あ、あっ」  
 揺すぶられ、深々と押し込まれて、マールは息絶え絶えに喘いだ。  
 胸の谷間に指をかけ、そのまま服を引き下ろす。まろび出た可愛らしい乳房を、クロノは片手で抱きかかえるように揉みほぐした。  
 全体にしなやかで柔らかい少女の身体の中でも、とりわけ触り心地の良い部位を愉しみ、弄びながら、ぐいぐいと自分自身を押しつけ密着させる。  
 高めていくというよりも、高みに昇りつめたままそこから落ちないように、可能な限りさらに上へ上へと、限界の果てまで二人で駆け抜けていく。  
 何も考えられなくなるほど、ここが外であることも気にならなくなるほど、相手に溺れる。  
 虜にして、虜にされて、頭が真っ白になった。  
「……あああっ……!」  
 再び訪れた絶頂に、意識が爆ぜる。  
 半ば無意識のうちに彼女の中におきざりにし、ようやく人心地ついたように、クロノは全身から力を抜いた。  
 互いの浅く短い息遣いと、激しく脈打つ心音が、そぼふる雨の音色よりも大きく耳に響いていた。  
 
 雨上がり、雲間から西日がほの赤く洩れ差す中を歩いて、クロノたちはイオカ村に戻った。  
 生活しやすいようにある程度地面の踏み固められた広場にも、あちこち水たまりができている。  
 もはやすっかり顔なじみになった村人たちと軽く挨拶など交わしつつ、二人はエイラの居住しているテントへ足を向けた。  
 普通の家屋のように扉をノックというわけにいかないので、外から大きめの声で呼びかける。  
「エイラ、いる?」  
「……おう! そこでちょっと待つ!」  
 一瞬の間を空けて、返事が戻ってきた。  
 内側で何やらしばらくごそごそと気配が動いた後、彼女にしては珍しいことに、入れと促すのではなく、家の外で二人のことを出迎えた。  
 急いで飛び出してきたらしく、いくらか息を弾ませている。  
「待たせた! ……クロたち、意外と戻るの早い!」  
「え、そう?」  
 マールはちょっと驚き気味に、クロノと顔を見合わせた。  
 もうじき夕暮れ時である。出かけたのは朝の早いうちの話なので、それなりに時間は経っている気がするのだが。そんなに狩りの腕を見くびられでもしていたのだろうか。  
「まあいい。二人とも、エモノ、いっぱい獲れたか?」  
「ああ。ほら」  
 少しばかり得意気に、クロノは獲ってきたものの入った包みを示してみせた。  
 それを見て、エイラはふと、という感じで言った。  
「そういえば、さっきまで、外、雨の音してた。濡れなかったか?」  
「まあ、そこそこ濡れたけど、途中で雨宿りもしてたから」  
 そう答えてから、クロノはマールにちらっと目を遣り、思わせぶりな笑いを浮かべた。  
「それに、おかげで思わぬ収穫もあったし……イテッ!」  
 何のことを指しているのか察して、マールが思いきりクロノの腕をつねった。  
「……? クロ、いったい何の話してる?」  
「いいの! 何でもないったらないの!」  
 顔を赤らめながら、マールは懸命にごまかす。  
「??」  
 わけがわからない、というふうに、エイラは首を傾げるばかりだった。  
 

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