自分の時代ではないとどこか落ち着かない感じがする。
魔王にとって見ればそれは育った中世と言われる時代ではなく、ジール王国が統治していた時代だ。
ガルディア王国という観点から見ると魔王軍との戦況活発な中世も、平和ボケしている建国千年祭の時代も同じようなものなのだろう。
クロノの時代でもあるから、そこに滞在する時間が必然的に長くなるのはどうしようもない。
そのような気持ちを共有できるものは、そう、特定されるのだ。
ガルディア王と和解したおてんば姫は、クロノを連れていくことに固執しすぎて他が見えなくなりがちだ。
ゲートなんとかを作った発明少女の複雑な表情までは気がつかないのだろう。
「そんな視線を注ぐのであれば、言葉に出してもいいのではないか?」
壁にもたれかかったまま、必死にロボの調整の振りをしているルッカに魔王は声をかけた。
もちろん、クロノとマールには気づかれない範囲でだ。
「な、何の話? 魔王さまともあろう方が勘違いなんてするのね」
そう言いはしたがメガネの下の光るものを隠せてはいなかった。
この娘が人を気遣ってやらなければ、この集団は大いにまとまりを欠く。
想いだけで集まっているというのもあるがクロノが寡黙な分、ルッカがリーダー格に順ずる。
ルッカが二人の仲を見て気落ちすると、必然的に集団は個々の人間でしかなくなる。
だから魔王は進言してやるしかなかった。互いという個人を意識するのに慣れていないため、それを避けたい気持ちがあった。
「私はいつまでも続くものなどない、と知っている。欲しいものは自らの手で掴むしかないこともな」
ルッカは少しだけ手を止めて、聞こえるか聞こえないか程度の声で礼を述べた。
ガッシュが眠りについた今、色々な調整をするのは彼女しかいない。
そういう責任をみな、無意識に押し付けてるのではないか。
一人に頼ることによるリスクの高さを、この集団はクロノの死という形で学んだのではなかったか。
今日は久しぶりに父と母と過ごす。ルッカはそう告げてクロノとマールと祭りを回るのを辞退した。
結局、その行動を取った彼女に魔王はそれ以上何も言わなかった。
その間、カエルは罰の悪そうな顔でパーティを見回した。
カエルの世界でも、人間なのかカエルなのか判別しにくいものを受け入れるほど懐は広くできていない。
「ねぇカエルはどうするの?」
「俺かっ、俺は、俺はだな……」
いやにモジモジするカエルを前にしてエイラが我慢できなくなったようで、今にもカエルに飛びつかんばかりだった。
「食べられたいなら エイラ 喜んで食べるぞ!」
「……あんたまだ、食べるつもりだったの?」
「違う! そうではない。俺は命の賢者にお会いしたいのだ」
住む世界は違ってもやるべきことはあるのかと魔王は顎に手を当てて神妙そうに考えてみた。
そう、魔王はこの世界でやりたいことなど見つけられないのだ。この世界では居場所がないと思う気持ちを止められない。
いや、どこにいてもそう感じでしまう。誰かに必要とされる場所を失ってからどれくらい経ったのだろう。
「その姿じゃ、あんまりうろつけないもんね〜」
「恐竜人 似てるの 走ってたぞ」
「あれは仮装なの、エイラ」
魔王が考え込んでいたら、いつのまにか、全ての視線が魔王に集まっていた。
カエルに呪いをかけたのは魔王だったから、その呪いについて一言二言あるのだろう。
だが魔王に無言の圧力など大した意味も持たない。
「何か言いたいことがありそうだな」
威圧的に言うと、皆それ以上、何も言わず何も言えず。
とりあえず夜が更けてきたので家に帰るものは帰り、世界の違うものはシルバードの周りで夜を越すことにした。
「カエルさんを戻そうとは考えないのデスカ」
「そのように言葉にしたものはいなかったのでな」
小さな火の魔法で焚火を操りながら、魔王はそうコメントした。
今までも、そしてこれからも魔王に心からぶつかってくるものなど、いやしないのだ。そう、姉のサラを除いて。
ロボは人間ではない。計算した答えと違いが出たため、そう問いただしてるだけなのだ。
あの場ではルッカによる調整中で電源が切られていた。今、カエルを人間に戻すべきかと話題を振ったのは魔王のほうだったのだ。
エイラはカエルを狙うような姿勢のまま眠っている。カエルもカエルで本当に人間であったのか疑わしくなる眠り方をしていた。
「この者は私を許すことなどこれからもない。頼むことなどするわけがない。だからといって、他のものを介すなど私の好むところではないのだ」
「魔王さんは、手厳しいのデスネ」
「魔族に育てられはしたせいかもしれぬ」
「そういうことにしておきまショウ」
魔王自身も迷っていた。魔王として君臨していたころは自分の野望を叶えるのと引き換えにビネガー達の望みを叶えてやっていた奴らの望む魔王となり、奴らの望む戦いをした。その過程にあったことについては魔王個人としての意思ではなかったのだ。
カエルが今も人間に戻りたいと考えているのか、それとも亡き者の意思と罪をその背に負うつもりでい続けるのか。
次の日、魔王は自らもボッシュに会いに行くと言い出した。幼少時の知己がこの世界にいることを忘れていたのだ。
カエルは狭いシルバードの中で魔王と一緒になることに遠慮して、結局、ロボとエイラが一緒に行くことになった。
「まずは私たちが先に行きマス。カエルさんがお会いしたがっているというのも伝えておきマスから」
「エイラ ドリストーンの使い方 見たかった」
意外にもエイラが乗り気だった。てっきりクロノたちに付いて祭りを見るのではないかと思ってたのだ。それこそ原始のリズムを躍らせたら敵うものがいない上に、飲み比べなら嬉々としてやるだろう。
「良かったのか?」
「踊りと酒 じじい いなくても できる」
魔王に向かって、にぃっと笑うエイラにそれ以上の反論は無用だった。魔法もなく、その鉄拳一つで恐竜人の文明を滅ぼした女だ。ロボが操縦席に座り、その後ろで魔王はなんとなく居心地が悪かったのを覚えている。
ボッシュはロボに古代の技術を教え、ロボがその知識をもってエイラにドリストーンが、どれ程のものであるかを実験しながら教えていた。
手の空いたボッシュはそうしてようやく魔王との会話の機会を得たのだった。
「お元気そうで何よりです、ジャキさま」
「私を覚えているとはな」
「忘れませんとも。 ご存知ですか、近くのメディーナ村には像まであるのですよ。まさか再び合間見えるとは想像もしませんでしたな」
「……1つ、聞きたいことがあるのだ」
さすが三賢者と謳われただけのことはある。その中でもボッシュは幼いジャキの話にも耳を傾けてくれたものだったし、
自ら魔力を封印することに賛成してくれたのもボッシュだった。
魔王としてしていた数々のことは、人道的ではなかったと理解している。
だが人と違うことによる差別、魔王の場合はあまりの魔力の高さゆえ、そして家族が家族らしからぬ幼少の記憶ゆえだ。
人の見地からすれば人道的でない、と結論づけられる。だが魔族からすれば?
魔力による異形、そして屈折した環境にいれば人との争いは無理からぬことだったのではないか。
「魔王軍の行い全てに非があるとは申しません。ジャキさまは後悔なさっておいでだ。魔王として情を持つのは魔王らしくない。
しかし優しさを忘れていなかったからこそ、サラさまの為にラヴォスを覚醒させ決着を付けたかったのでしょう。
優しさがあったからこそ、メディーナの村民はジャキさまを敬っていたのでしょう。
魔族を一国家として成立させたのはひとえにジャキさまだからこそ成せたものだと思いますよ」
「私が優しいだと? 巻き込んでばかりで誰一人として救えてなどいない」
「おやおやジャキさまは、勇者バッチだとかそういうものがお望みですか」
ボッシュには魔王が既に答えを見つけているのを見抜いた。マント下に隠れたサラのお守りを今でも見に付けているのも見えなくともわかる。
「ボッシュ! お前もカエルにするぞ」
「お優しいジャキさまは、さようなことなどなさりません」
ボッシュは昔と同じ笑みを魔王に見せた。
そのあと、ロボとエイラが階下から上がってきて、ゆったりとお茶を楽しんだ。不思議な飲み物だと評するエイラに、香りを楽しむだけのロボ。
そんな彼らと普通に過ごす魔王の姿を見て、ボッシュは少しだけ涙ぐんだ。
(本当に立派にお成りあそばした)
ボッシュにとって時代を違えても仕えるべき主人はジール王国を築き上げた王族の者だ。
ボッシュの知恵と技術に幾人もが縋っても、ボッシュが全てを投げ打ってでもと思えるのは王族の血を引くものだけだった。
父王亡き後、ジールさまが女王となりサラさまと、そして幼いジャキさまがご成長なさるのを見守るのが賢者としての務めだった。
「魔王さんの悩みは解決したようデスね」
夕方になって昼寝を始めたエイラを横目にロボはシルバードに乗り込んだ。
「お前にはわかるのか」
「そういうことにしておきまショウ。ワタシが帰って、カエルさんが来る予定デス。それまでエイラさんをお願いしマス」
そういうものなのか、と魔王は思ったがロボの中で計算式が成立したのだろう。もう見えてはいないロボに、口元だけの笑みを向けた。
ボッシュのところに来て良かった。誰かに話をするのが、これほど肩の荷を降ろすものだとは知らなかったのだ。
「ところでジャキさま、感慨深いところ申し訳ありません。ボッシュめの家にお二人もお泊めすることができんのですよ」
それが結局は、事の発端だった。
野宿をすると言い張る魔王に、女性にそんなことをさせてはいけないと指摘をし、魔王とエイラはメディーナ村の宿に行くことになった。
しかもそれだけではない。エイラは昼寝から覚めず、浮遊の魔法を使おうとする魔王をまたしてもボッシュは止めたのだ。
「なぜ、私が、このような」
両手でエイラを抱えた途端、エイラは猫が甘えるの如く魔王の首に腕を回して顔を埋めた。
身動きの取れなくなった魔王を他所に、ボッシュは戸を閉めて二人を追い出してしまったのだ。
恨むぞ。このように仕向けた者どもに、呪いをかけてやる!
村に着くまでは魔王も少なくともそう思っていた。だが着て早々ボッシュの言葉を思い出したのだ、ここでは顔が割れてしまっている。
実際に顔を合わせたことなどもちろんないが、それでも魔王の如何を聞いてはいるに違いないのだ。
宿で部屋を取る際にやけに顔を見られるのは、気のせいなどでは断じてない。
「お客さんの顔、どっかで見たことがある気がするんですよねぇ」
昔であれば魔王の手下など魔法の1つでもチラつかせれば、他愛ないくらいに懐柔できた。
しかし今は事が事だったのだ。エイラに首をがっちりと締められていては身動きが取れないどころか、面が知れているのなら、沽券に関わる。
「10倍の料金を出そう。宿を貸しきれ」
有無を言わせないつもりだったし、その通りになった。宿の主人すらも追い出せたのは幸いだった。
主人からすれば予想外の大金が入ったのだ、パブにでも行くに違いない。
そんなことで衆目曝されることを避けてようやく、魔王は一息つけた。
もちろんさっさとエイラをベッドに下ろさないことには、体が自由にならないが。
まだ相変わらず昼寝から起きる気配も見せない。
魔王は昔から猫には好かれる性質ではあったが、エイラも猫と同じであったかと関心を抱いた。
お茶の成分に原始人にとってのマタタビでも入っていたのかと思うくらい、エイラから戦闘意欲が抜けていた。
「いい加減に離れないか」
「うーん」
こうも首筋に顔を埋められては落ち着かない。無理やり引き剥がそうとした魔王だったが、
エイラの腕力のほうが勝って、そのまま二人してベッドに横たわる羽目になった。
体制からすると魔王がエイラを押し倒したような形だった。
更に具合が悪いことに魔王の手の付いた先が、エイラの胸だったのだ。
始め手がどこに触れているかもわからなかったが、その弾力と、体制に魔王は困惑した。
焦る己がみっともなくもあり、早く離れるべきだと思ったが、意識の混濁している相手と、久方ぶりに沸き起こる感覚に手を離せないでいた。
「熱い エイラ からだ、熱い」
気づいたのかとギョっとなったが、当のエイラはやはりマタタビでも嗅いだのか、瞳を潤ませて再びがっちりと魔王に抱きついた。
エイラと自分の体に挟まれて手が抜けないどころか、更に押し付けられている。押し付けられているのは胸ばかりでなく、
「待て! ……っまずい」
エイラの肢が魔王に絡む。そして無意識なのか腰が動いて魔王の臀部に扇情的なリズムでもって圧迫を始めた。
「無理 エイラ 待てない」
意識がその実しっかりしているのでは? とも思う。
エイラは魔王の手を取り、指の先を噛んで引っ張るようにして手袋を剥いだ。
そして素手になった魔王の手を、ずらして露わになった己の胸に重ねさせた。
張りがある、などという生易しいものではない。四肢を彩る筋肉からは想像もできないほどに柔らかく、
それなのに弾力があって、見事としか言えない乳房だった。
下から持ち上げるようにして掴むように揉み、指先で乳首を摘まんでは弾いた。エイラは甘い声を漏らして、頬を染めた。
一度、強い口づけを施してから、魔王は覚悟を決めて装備を解いた。
もし今ここで戦闘が起こったら、魔王は滅んでもエイラは生き残るだろう。彼女は本能で生きているのだ。
これが自然の成り行きでなることも、彼女の本能に従うべきところなのだ。
魔王がエイラの肢体を見事だと思ったように、エイラも魔王の体を潤ませた瞳で検分していた。
そしてどうやらお眼鏡に適ったらしく、魔王の舌を快く受け入れた。
まるで獣だ。魔王の髪を指で梳いて遊ぶ女などこれまでいなかった。いや、存在させなかった。
魔王は今、エイラから放たれる強烈な動物性に、自分の中に流れる血の鼓動を感じずにはいられなかった。
魔王もまた原始の血を受け継いでいるのだ。
「女、私を求めるか」
「おまえ 変。エイラ 強い男 好きなだけ。クロたちの中で おまえ 一番 強い男」
強ければ誰でも良かったのかという問いは必要なかった。エイラはクロノと旅を共にしながら、世界を時を飛び越えながら強い男を常に探していたのだ。
楽しければいいというものではない。気が合うから求めるのではない。
エイラにとって、『自分にはないものを持つ』強い男が、最も求めるべき相手なのだ。
エイラはずっと戦いながら思っていた。もしかしたらエイラ達、恐竜人達、どちらかという選択ではなくお互いに混ざり合うべきなのかと。
だがティラン城は滅んだ。アザーラは死を選んだのだ。
イオカにいて、他の世界を知らなかったエイラは、いつかキーノと契りを交わすだろうことを予感していた。
クロノと会ってもそうだった。しかし最後の最後になって仲間として加わった魔王はエイラの中の何かを打ち砕いたのだ。
「欲しければ、求めよ」
「エイラ 欲しい。お前 ジャキ 欲しい」
エイラに名前を呼ばれたのは不思議な心地だったが、それは魔王の精気を高めさせた。今まで己に傅く者ばかりだった。
魔王はエイラの前に膝をついても、それはそれで構わないとさえ思えた。
「お前も エイラ 欲しいか」
先ほどエイラがしたと同じように、魔王はエイラの手を掴み、滾る雄を握らせた。
エイラがその気を出せば握りつぶせないものなど存在しない。だがそれでもエイラは幼子のような握力で、震える指先で魔王を包み込んだのだ。
指の輪が剥き出しの亀頭と捲られた包皮を優しい摩擦でもって撫で上げる。
色素の薄い魔王だが、リビドーに従う今、熟れた果実のように充血し、らしからぬ期待に打ち震えているように見えた。
「ジャキの ここ すごい 熱い」
指が透明なカウパーを亀頭全体に擦り付けて行く。堪らなくなった魔王は再びエイラをベッドへ押し倒して舌を舌で絡め取った。
口唇の交わりは性交と直結する。湧き上がる情欲は舌を、唾液を通じて共有される。
片手は豊かな胸を愛撫し、もう一つの手は未開の茂みへと下降していった。エイラの喘ぎは余すことなく魔王が飲み込んだ。
指でなぞるのを繰り返し、秘部を掻き分け親指の腹で潰すようにしてやると、魔王の雄を握っていた手から力が抜けて、頭を振って啼いた。
「おかしくなる エイラじゃなくなる」
「ここも、ここも、全てお前だ」
濡れそぼったエイラの中心は長い魔王の指をぬるりと銜え込み、粘着質な音を立てた。
エイラの首筋に舌を這わせ、うなじの匂いを吸い込む。本能が踊りだす。この女と交われと本能が魔王を支配していくのだ。
襞を押し広げ、切っ先を宛がう。膝の裏を抱えあげると、エイラはその眼を腕で覆っていた。
あれほど積極的だったくせに、挿入の瞬間を怖がるか。
魔王として君臨していたころと同じような高揚感が迫り、サディスティックな勢いで一気に全てを埋め込んだ。
エイラは声にならない叫びを上げて体を撓らせた。
「あ あ あ……!」
拳で握りこんだような強い圧迫で、それは二度目の波となって魔王を襲った。見れば浅く抜いた魔王の陰茎は血に染まっていたのだ。
「……愚かな」
魔王の言葉は、初めてだと告げずにいたエイラに向けてのものではなく、そんなことすら感知できずにいた己に向けてのものだった。
「すまん。でも エイラ 平気。だから 最後までする!」
エイラは腕を伸ばして魔王を引き寄せた。それは結合を深めるもので、エイラはまた苦悶の声を漏らした。しかし首の後ろに腕を回されて、魔王はその意思の強さに感服した。
エイラの敬謙な姿勢に不満を持ったとでも思ったのか、エイラの目尻から涙が零れたのを見過ごさなかった。
そのまま肌を密着させて動きを再開させた。
膣圧に慣れてきた頃、エイラの吐息にも艶が出てきた。二人の呼吸は等しく、体液の混ざりが動きをスムーズにしていった。
片足を持ち上げて真横から就くようにすると挿入が深くなり、それまで以上にエイラは啼いた。
これまで体を重ねてきたどの女よりも極上の体だと魔王は思った。
あんなにも普段から肌を露出しているにも関わらず、エイラの心は純粋で、魔王が踏み入る今の今までその純潔を保っていたのだ。
その意識は魔王の睾丸まで一直線に刺激を送った。限界が近づいているのだ。
魔王に理性を捨てさせ、動物的な欲求を露わにさせた。競り上がる快楽が未経験なほど強烈であってもおかしくはない。
絶頂への飢餓は破壊行為にも似ている。
エイラの金糸の巻き毛が、伏せられた瞳が、艶かしく開かれた唇が、汗を滲ませた首筋が、破壊してもよいと懇願しているのだ。
最後の駆け上がりに、エイラもまた追従した。
両脚が魔王の腰に巻きついて、魔王の射精の全てをエイラはその体で受け止めた。
荒くなった呼吸が治まらない魔王を、エイラはぎゅっと抱き締めて嬉しそうに笑った。
「エイラ 後悔してない。ジャキ 選んだこと みんな 正しい」
私がこの女に慰められるとはな。
しかし悪い気がしない。この世界が平和だからそう思うのか、魔王にはわからなかった。
貸切にした宿で、だが一番広いベッドの1つでエイラにしがみ付かれながら魔王は眠りについた。
他人の温もりを感じながら休むのは長い時の中で初めてのことだったと、後になって気づいた。それほど違和感なく安らかだったのだ。
エイラが好奇心半分以上で凝視していた。
手袋を嵌め直して詠唱をする魔王を、その場の誰も邪魔しなかった。辺りの空から雲という雲が引いて太陽とは違う光が空から真っ直ぐに降り注いだ。
カエルはまさに潰れたような声を出して、地に手を着いた。
異形への過程は肉体に相当な負担をかけるものだから仕方がない。四肢が伸びていき、衣服を突き破る。
深い森の髪をした男の姿が、カエルが今までいた場所にいた。
「終わったのかの」
「……呪い自体はとき終わったが」
エイラは見慣れない男に、いや見知ったカエルがいなくなったことに言葉をなくしているようだった。
魔王から見ても端正な顔立ちのカエルの中身に、エイラが興味を持ってしまうのは少し複雑な心境だった。
「俺は、人間に戻ったのか」
「ほう。カエルのほうが馴染んでいたか?」
「……貴様、やはり刃を交えなければいけないようだな」
人間に戻った同時に不穏な空気を発する二人をボッシュが慌てて止めようとした。
しかしそれよりもエイラのほうが早かった。素早さではクロノと同等、それ以上だ。
「ジャキ すごい! カエル 人間にした すごいすごい!!」
もともと人間だったのだがというカエルの訂正の言葉は聞こえていないようで、
勢いで倒されてしまった魔王はエイラを押さえつけるのに一悶着あったとか、なかったとか。
「エイラ お前の子 宿るまで 諦めない」
耳元でエイラがそう囁いたのは、もちろん魔王にしか聞こえなかった。
end