なぜ、目を覚ましたりしたのか。  
ずっと眠っていれば、何も見ずに、何も感じずに、  
ただ暮らしていけたのに。  
 
どうして目が覚めたのかはわからない。  
ただ、はっ、として目を開けると、どこまでもつづく真っ暗な空間と、  
たよりなく細い柵が目の前にあった。  
そうしてぼんやりと、状況が戻ってくる。  
時の最果て・・・・・・。  
そうだ、昨日、戦いの後ここに来て・・・  
どこかの時代に移動するのも億劫だって、みんなで・・・  
ふと横を見ると、毛布をはだけて、エイラが太平楽ないびきをかいていた。  
その幸せそうな顔を見て、私は軽く笑った。  
明日も早い。ゆっくり寝ておいたほうがいい。  
エイラの毛布を直してから、もう一度横になろうとした、そのとき。  
――?  
違和感があった。  
枕代わりにしていたカバンから、眼鏡をとりだす。  
それをかけて、ゆっくりとあたりを見回した。  
そして、気づいた。気づかなければ良かったことに。  
クロノと、マールが、いない。  
 
胸の中に、真っ黒い墨が流れ込んでくる。  
わかっていたこと。わかっていたこと。わかっていたこと。  
何度も小さく唱える。  
わかっていたこと。わかっていたこと。わかっていたこと。  
それでも、心は震え、涙が流れる。  
 
ちりん。  
 
鈴の音が聞こえたような気がした。  
時の賢者の表情は、街灯の逆光と、目深にかぶった帽子とで、  
こちらからは読めない。  
しかし、そちらを見たせいで、あるものが目に入った。  
・・・・・・シルヴァードの発着所。  
わたし自身が最終点検して、切ったはずの電源。明り。  
コックピットの特徴ある薄く赤い電球の色が、  
真っ黒い空間に浮かび上がっていた。  
 
行ってはいけない。そんなことはわかっている。  
それでも、わたしはふらふらと吸い寄せられるように、立ち上がった。  
 
ちりん。  
 
また、鈴が鳴ったように思った。  
けれどわたしは振り返らずに、発着所へと向かった。  
 
 

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