飛びつきたかった。  
 ずっとずっと、飛びついて、そして、「おかえり」って言いたかった。  
 「馬鹿」って……言ってやりたかった。  
   
 
 メットを外してメガネだけになったルッカの苦笑は、闇にこぼれる。マールの部屋に居るであろうク 
ロノのことを思っているのだ。  
 (ルッカぁ……何で死んじゃったの、クロノ!嫌だよ、会いたいよ、寂しくて死んじゃうよ! 絶対、 
このままなんてやだやだやだぁ!)  
 耳にタコが出来てしまうほどに聞かされた言葉が耳に残っている。  
 うっとおしいと思うほどに、あの子が嫌いなわけではないんだけど、ただ、言いたい言葉を呑み込ま 
なければならなかったのも事実だった。  
 (私だって会いたかったわよ)  
 慰めるだけではなくて。  
 泣きたいのはこっちも同じだった。ずっと一緒にいたのだ。生まれた時から、ずっと。  
 だから全部知っている。何が好きで何が嫌いで、いつまでおねしょしていて、女の子が少し苦手で、 
でも自分だけには心を開いてくれてなじんでくれた幼なじみ。  
 ……幼なじみ……だから?  
 「馬鹿みたい、私。ちょっと外の空気吸ってこようかしら……ロボの調子も見てやらなきゃいけない 
し」  
 そういってルッカは部屋を出た。いつもの格好で。ただ、ヘルメットだけおいて。  
 
 ゆっくりと……宿を一階に向かって進んでいく。ぎしっ、ぎしっと音を立てて。  
 今、白い王女様と一緒に居るんだろうか。あの可愛い女の子と。そうして、二人で愛を囁き会ってい 
るのだろうか?  
 マールのことは大好きだった。この機械好きのせいで小さい頃から女の子のトモダチなんか一人も居 
なかったルッカに初めて出来た、女の子のトモダチ。明るく笑って、いつも元気であけすけで。  
 (マールってすごく可愛いんだよね)  
 クロノが死んでから、マールはよく話してくれた。  
 (クロノって優しいんだよ。えっとね、この前えっちしたとき、クロノってばすごくやさしくて……)  
 女の子の話だから真剣に聞いていたけど、ちくちくと体中に指す何かがあった。  
 (結局3回もしちゃった〜早くクロノ、戻ってこないかなぁ。そしたらたくさん甘えるのに)  
 そんなことを明るくは名須川いい女の子。  
 その、ちくりとした小さな痛みの名前をルッカは知らない。  
 だから、クロノの部屋の前を通りかかって、そこがどういうわけか内開きに飽きっぱなしになってい 
て、そこにクロノが居るのを見つけた時も、ルッカはただ、目を見開いただけだった。  
 一緒に居るんじゃなかったの?  
 飲み込んだ言葉が抜けていく。  
 (挨拶くらいしておいてもいいわよね、一人なんだから)  
 そう自分に言い聞かせて、彼女はゆっくりとその部屋に足を踏み入れた。  
   
 
 「邪魔してごめんね。生き返りおめでとうと行っておくわ、良く帰ってきたわね」  
 そんなことを言うルッカにクロノはうなずいて見せた。どこか無口な気がする幼なじみは、驚いたよ 
うにすると、コクコクとうなずいた。  
 「ただいま、ルッカ……マールは?」  
 「え? 見ていないけど。どうかしたの? 泣かせちゃダメよ、あの子のこと。あたしが怒るわよ」  
 「……じゃあさ」  
 ふと、空気が変わった。クロノの瞳にまっすぐに射抜かれて、ルッカは後ずさる。  
 「僕がルッカを好きだって言っても、ルッカは怒るの?」  
 
 突然言われた言葉は、意外なのかそうでないのか良くわからないものだった。面食らったと言った方 
が正しい。  
「怒るわよ……だって、マールはあなたのこと好きなのよ? そういってるし、わたしもそれで良いと 
思ってた。何よ、それで今更……!」  
「そんなの関係ないよ。確かにマールはいいコだけど、ずっと一緒だったんだ」  
 ……ずっと一緒。そう。泣くも笑うも、ずっと一緒で。一緒のお花畑で遊んで。一緒の機械で遊んで。 
何もかも知っている関係。  
(ぼく、おおきくなったらルッカちゃんとケッコンするんだ?)  
 そんな言葉を覚えている。でも。  
 突然言われた言葉を飲み込みきれずに、ルッカは目を逸らした。クロノの視線が痛かったからだ。刺 
し貫く、普段似合わないすべてを見抜かれるようなその目が。後ろを向いて、静かに応える。  
「それでもダメよ」  
「ルッカ!」  
「黙ってよ! 私はマールが大事なの! マールとずっと笑っていたいの! アンタなんかに、私たち 
の友情を壊して欲しくないのよ!」  
 本心だった。いや、二つあるうちの本心の一つ。  
 自分が我慢するのと、親友が、自分と幼なじみを憎むのと。どっちが、正しいの?  
 自分の気持ちを殺すのと、仲間の笑顔を殺すのと。どっちが、楽なの?  
「ルッカ、僕は……」  
「それ以上言うと、処分するわよっ。やっと出来た女の子のトモダチなんだから、あの子にわたしを嫌 
いにさせないでよ!」  
 涙なんか死んでも漏らしてやらない。後ろを向いて、ドアと床の隙間を見つめながら、ドアがよく見 
えないのは気のせいのはずだから。ルッカはぐっと唇をかみしめて、クロノに背を向けていた。メガネ 
を取りたい衝動に駆られたが、それも思いとどまった。  
「わかった、ルッカ、ごめん」  
 ややあって、漏れた声。  
「その代わり、一つだけお願いがあるんだ、聞いて欲しい」  
 後ろからかかってくる声に、ルッカが反応した。  
「……何よ、言ってみなさいよ」  
 後ろで、クロノが立ち上がる気配がした。後ろのすぐ側で、ゆっくりと近寄って。  
「一時間だけ、見ないフリしてて」  
 ルッカの答えは、静かに目を伏せることだった。メガネの隙間から指が差し入れられ、そっと瞳を覆 
い隠した。  
 膝と肩に手が掛かった。  
 抱き上げられる、気配がした。   
 
 夢を見ているような心地だった。  
 真っ暗で何も見えないまま、ただベッドに横たえられたのだとわかって、ルッカは自分の瞳を更にぎ 
ゅっとつぶった。メガネがじゃまだったら取ろうか、と言ったけど、クロノが何も言わなかったので、 
そのままにまかせておいた。  
 とさんっ、という音にどきどきしてくる。  
「怖い……?」  
「そんなわけないでしょっ」  
「ルッカって嘘つきだから、本当かどうかわからないんだけど。それでも怖くないんだ……僕は、怖い 
んだけどな」  
「っ……!」  
 嘘つきだと見透かされた後に素直に言われて、ルッカの心臓がびくんっっと鳴った。嘘に決まってる。 
怖くないわけがない。  
「昔、一緒にお風呂はいったよね?」  
 そんな風に言われながら、顔が目の前にある気配がし、唇に彼のそれが触れられた。ココまでは知って 
る。お互い、昔、大人って言うのがどういうものか知らなくてキスをした。その時はどうともなかったけ 
ど、今は。  
「んっ……くっ」  
 にゅるっ。  
「こうするんっ……にっふっ」  
 びくんっ。  
 唇をこじ開けられるかたちで、クロノの舌が進入してきた。ぎゅって抱きしめられて、ほおとあごを 
とらえられながらするキスに、ルッカの顔が跳ね上がった。にちゃにちゃとかき回す舌が気持ちいい。 
優しくされている。  
「……さわっても、いい?」  
「そんなことわざわざ聞くんじゃないわよっ!……ばか……」  
 ばか。  
 最期の一言は声にならなかった。  
 吐息がこんな近くにあるなんて始めての経験だった。ふっ、とほおに自然に触れられる行きが熱くて 
恥ずかしくて、ルッカはぎゅっとじぶんをだきしめた。少年はおどおどしながら、彼女の胸にさわる。  
 ぽよん。  
「きゃっ!」  
「っ……柔らかっ……」  
 ぽよぽよふにふに。  
「ひゃっあっひゃっあっ」  
 クロノの指がまるでおもちゃでももてあそぶように豊満とは言えない胸をまさぐった。おして開いて 
つかんで開いて、お遊戯じゃないんだからとおもう間にも声がとまらない。  
 
 クロノはといえば、頬を赤らめながら、ぷにぷにとつっついたりして、ベッドの上で楽しんでいる。 
ルッカのからだの上に自分の体を載っけて、その様子は本当に楽しそうだった。  
「何たのしんでんのよっ、あっ、あんっ!」  
「だってルッカには……いつもいじめられてきたから……」  
「どこの誰がいじめたって言うのよっ!んっ、んぅんっあっ」  
 いろいろ口だけいっておいても、遊ばれてるんだから何も言えない。クロノはそれが楽しくて、少し 
息を荒げながらルッカにむしゃぶりついた。んぅっ、と言う声が漏れるたびに愛しさが募って、たまら 
ない。体中が熱くうずく。下半身がどくん!と音を立てる。  
「んっ……やっ、あああっ!」  
 勢いに任せて、ルッカの上衣がずりあげられた。ぷるんっ、という音を立てて、やや小降りの形のい 
い胸が顔を出す。そこにダイレクトにさわって、柔らかく形を変えさせる。ルッカの声が更に甲高くな 
った。  
 ゆっくりと、ややおどおどしたような感じで触れられるクロノのほおが気持ちよくて。  
「ルッカ、お母さんみたい。すっごくやわらかい」  
 胸の大きさを気にしていたルッカのコンプレックスが、ただその一言で緩和されていくのが不思議で。  
「小さい頃、こんなふうに……おっぱいを吸ったんだ」  
 ちゅっ。  
 先端に触れられる濡めっとした舌。ぴくんっ、とルッカがはねた。そのままちゅるちゅると音を立て 
て吸われると、脳天に何かが突き抜けてきて、体中が熱くなってくる。自分のからだが少女ではないと 
思わされるとき。  
 小さいときには何も感じなかった胸が、小さい頃とは違った手にまさぐられる。ぴいんっ、とはじか 
れて、あんっ、と声を上げてしまう。  
「どう?ルッカ?」  
 感じながら、ルッカは無言で首をぶんぶんと盾に動かした。気持ちいいって素直に言ってやるには癪 
だったから。  
「じゃあ、続き、いくよ……?」  
 一つ、一つ、確かめるような心地で。しっかりと応答を待ってから、クロノはルッカのスカートに手 
をかけた。それがわかって、ルッカはふっと腰を持ち上げて、脱がせやすいようにしてやる。  
 するすると、足下にスカートが抜けて、タイツがくるくると足首へと抜けていった。めをつぶったま 
ま、裸になるのはとっても恥ずかしかった。親にしてもらった以来だ。  
 
 クロノも服を脱ぎ去る音がした。  
 ぬくもりが……降ってきた。  
 人肌が触れ合う感触が熱を持って、焼く。うずいて、ふれあうたびに熱を持っているようだった。ル 
ッカ、と呼ぶ声が熱かった。  
「あっ、あっ、クロノっ」  
 言葉が漏れていく。汗ばんで、肌がこすれあった。ルッカの足の付け根にクロノの熱い熱の固まりが 
ぶつかっていた。触れるたびに、それが大きいのがよくわかって、さらにどくんっとルッカの心のなか 
が熱くなってくる。  
 それがぬめっとしているのを文字通り肌で感じて、真っ暗な視界の中で、クロノの息づかいと肌だけ 
が感覚器官に触れてくる。  
「あっ、はっ、あっ」  
 乳首がつまみ上げられる。ちゅぷっと舌で転がされたかと思うと、れろれろと舐め上げられる。先程 
クロノが言ったように、赤ん坊が甘えるような仕草だった。  
 頭に熱の固まりがたたきつけられるような感触に、ルッカはあえいだ。  
(ねぇ、クロノ)  
 それは、入ってきてはならない想念。ひたむきなクロノの愛し方。優しくしてくれる、おどおどした 
ようなクロノらしい愛し方。  
(マールにも、こんなふうにしてるの?)  
 キスして。お互いの肌と肌を触れ合わせて。子どものようにベッドで甘えてくる。  
 あのかわいい王女様の言葉が離れない。  
「はぁっ、うんっ、あんっ、あああっ」  
「ルッカ、ルッカ、ルッカ!」  
(ねぇねぇクロノってば、とっても優しいんだよ?結局3回もしちゃった〜)  
 怒張がつつく。何かしてやりたくて、ルッカはそっとクロノのものを握ってやった。大きくて、暖か 
くて、強い。  
「ルッカ……?」  
「こうしたら、気持ち、いいの?」  
(マール……)  
 別に対抗意識のつもりはなかったけど、その分ゆっくりとしごく。クロノの息が荒くなってきた。そ 
うそう、こうでなくちゃいつものじゃないよね、と口の中でつぶやいたことをしるよしもないが。 
 
「ふっくっ、あっ、ふぅうん……」  
「ルッカっ……」  
 れろっ、とカリ首のあたりに舌を這わせながら、そのままちろちろと優しく優しくルッカは彼を撫で 
上げていく。アイスキャンディーを舐めるような仕草だった。  
口内に唾と先走りの液体が充満して、それが……変な味なのに、美味しくて仕方がなかった。  
 目はずっと閉じたまま。手探りのままだ。  
(一時間だけ、見ないフリしてて)  
 そう言われたから。  
 でも、不思議だった。今から彼が何をしようとしているのかがわかるから。仕草、気配、何をするか 
いわれなくても、ただ動きと熱を感じるだけで次の行動が伝わってくる熱さがあるから。  
 「ルッカっ……!」  
 たまらなくなったのだと、わかってきた。ルッカは彼の指の導くままに、ゆっくりとシーツに体を横 
たえた。  
 とさっ、と音がすると共に、心臓の鼓動が聞こえるくらいになってくる。ドキドキする。痛いくらい 
に。  
 剣を使い慣れた指先が、彼女をなでさすった。  
 びくんっ。  
 震える少女。  
   
 うなじからゆっくりとなで下げられる唇に、ルッカは小さく嬌声を上げる。  
 「あっ、はっ、あっ……!」  
 神経が研ぎ澄まされていて、触れられる部分一つ一つに悲鳴が上がってしまう。  
 「やっ、だぁっ」  
 つぶやく声に、クロノのほうが今度は面白そうに微笑む。全身を抱きしめられる感触が、こんなにも 
気持ちいい。

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