「ン…………」
闇の中で、一つの影が動いた。
そのシルエットは、ムクリと上半身を起こし、かすかに周りを伺う仕草を見せる。
「ん、あ〜…………あ、ふ……」
夜半に目を覚ました女性―――ジャネスはのん気な声と共に、座り込んだまま伸びをした。
意識がハッキリしてくると共に、エルニド特有の生暖かい空気が鼻腔をくすぐってくる。
起きたとは言え何をするとも無く、しばらく土くれでできた部屋に座り込んでいたが、
数分後、背筋を立てて屹立し、部屋の外に足を進めた。
「あーあ、みんなだらしなくなっちゃって……」
部屋を出るなり、ジャネスは苦笑を浮かべる。
彼女が見渡すそこかしこに、人間と亜人が、酔いつぶれた状態でいびきをかき鳴らしていた。
あたりには空になった酒瓶が転がり、夜風は酒の甘い匂いを次々に運んでくる。
―――ここはマブーレ。亜人の里。
つい先日まで、不気味な魔物の幻が闊歩し、
人間からも亜人からも打ち捨てられた状態になっていた場所。
それを救ったのは、一人の若者の歌と、協力し合った亜人と人間。
島一帯に流れる歌の中、現世に実体化した魔物は次々に追い払われ、
マブーレは再び、亜人達の故郷としての地位を取り戻した。
今宵は、無礼講で亜人と人間が酒を酌み交わし、
島を取り戻したことに歓喜の声を上げ続けた日。
このように肩を寄せ合い、分け隔てなく両者が酔いつぶれるなど、そうそう無い事である。
けれど、それは祝福の証。ジャネスも存分に騒ぎ、
人間と亜人の垣根が一つ、取り払われたことを心から喜んだ。
目が冴えてしまった彼女は、あてもなく里の中を歩き回る。
夜も深くなった今では、老いも若きも眠りの淵に落ちて、
里はちょっとした静けさに包まれていた。
「―――――――――♪」
そんな中、かすかな旋律がジャネスの耳を刺激した。
「何…………歌……?」
ジャネスは首をかしげる。耳を澄ますと、その音は、
里の高台にある、草地から聞こえてくるようだった。
興味を惹かれた彼女は、ピョンピョンと軽快な足さばきで岩場を回りこみ、
高台に続く坂路を上っていく。
間もなく目の前に広がった緑の広場。
そこの一角に露出した岩盤の上に、一つの焚き火がたかれ、
すぐ側の草地に誰かが腰を下ろし佇んでいた。
音―――いや、歌声は、確かにそこから聞こえてくる。
「ね、そこにいるの、だーれ?」
ジャネスは背後から声をかける。すぐに気付いた人影は振り向き、やや驚いた顔を見せた。
「もしかして…………スラッシュ、さん?」
「あ、あぁ。えーと、君は―――」
「ジャネス。亜人のジャネスだよ」
屈託無く名乗りをあげ、歌っていた人物―――スラッシュに近づく。
「もしかして、歌が里のほうまで聞こえてたかな?」
「うん、風に乗ってちょっとだけ、ネ」
「ゴメン。里の人を起こすつもりじゃなかったんだけど……」
申し訳なさそうに詫びるスラッシュに対し、ジャネスは首を横に振る。
「んーん。いいよ、気にしなくたって。歌が聞こえる前から、あたし、起きてたし。
それに他のみんなは酔っ払って寝ちゃって、
あんな小さい音が聞こえても全然起きてないみたいだよ」
そんな彼女の見解を聞いて、スラッシュも安堵の表情を浮かべた。
「えーと、スラッシュ……さん、だっけ」
「いや、スラッシュでいいよ。こんな時でも『さん付け』で呼ばれてもぎこちないし」
歌人からの申し出に、ジャネスもパッと顔を輝かせる。
「んじゃ、あたしの事もジャネスでいいよね。では改めて……スラッシュは何してたの?」
「ン……別に何か、ってほどでもないんだけど。
僕も眠れなくってね。気分を紛らわせようと、ここで軽く歌ってたんだ」
「ふーん…………よいしょっと」
相手が、他人行儀しない接し方である事を知り、
ジャネスも気兼ねなく、彼の横に腰を下ろす。
「そういえば、良かったね。コンサートが上手くいって……」
目線を遠くに向けながら、ジャネスは言った。
「歌自体は、あたしも前に聞いた事はあるんだけど、里に伝わるアレに、
まさかあんな力があるとは思わなかったなぁ」
ジャネスの話すとおり、里の長が教えた歌とスラッシュの歌唱力が結びついた時、
それは劇的な効果をもたらした。
これまで触ることが出来なかった魔物の幻は実体化し、
結果として、魔物らを打ち払えるきっかけを作ったのだから。
「僕も驚いたよ。自分の歌が、あぁいうカタチで役に立つなんて……」
そう語る若者の顔には、しかし、喜びより強く、悔いの色が滲んでいた。
「こんな事がわかっていれば、もっと早くに里を救うことも出来たのに…………」
「故郷のため、として……?」
ジャネスの声に一瞬、ハッとした表情を見せ、すぐに肯定する。
「うん。母さんの故郷のために…………ジャネスも知ってたんだ?」
僕が、人間と亜人の間に生まれた者だって事―――そう結んだスラッシュに、
頬をポリポリとかきながら、ジャネスが応える。
「ん、まぁ、その……ファルガさんと長の言い合う声が聞こえちゃって。
キミの母さんが亜人で、その人がこの里出身だって事とかが……ちょちょいっと」
「そうなんだ……。確かに僕の身体にも亜人の血が流れている。
父さんの血が濃いのか、外見はほとんど人間だから、気付いてくれる人は少ないけど」
自分に言い聞かせるように言葉を連ねるスラッシュに、
ジャネスは意識して気楽に呼びかけた。
「でもさ、亜人だって千差万別なんだよね。
純粋な人間以外をまとめて『亜人』って呼んでるようなご時勢だし」
そう言うと立ち上がり、やおらクルリと一回転して、軽やかに笑う。
「あたしだって、おばあちゃんと、ひいおばあちゃんに人間の血が入ってるらしくってさ。
あたしもそれが受け継がれちゃったみたい」
次に、長めの耳をポンポン叩き、シッポを左右に振ってみせる。
「ね。こんなところ以外は、人間みたいなカッコだもん。
でもまぁ、人間の町とか行く時はこの方が便利なんだけどね」
よく見ると、ジャネスの外見は人間とそれほど違いがあるわけでない。
どちらかというと、人間が亜人の真似をしている―――と表現した方がしっくりするかもしれない。
ただ、童顔の割に、たわわに実った胸、滑らかに張りの有る太ももなど、
肉厚な―――人間的な表現をするならグラマラスな―――身体つきには、
獣人系の亜人としての影響が出ているようだったが。
彼女の身体に見とれたようなスラッシュの視線は気にせず、
もう一度チョコンと彼の横に座ると、再び口を開く。
「これだけ混血の人もいるんだしさぁ。
あまり亜人だの、人間だの、区別するのも変だとは思うんだけど……なかなか難しいよね」
「僕もそう思う。人間だって、亜人だって、ちゃんと話を交わせばわからない人たちじゃない。
お互いにいい文化を持った、尊敬しあうべき存在なのに、
どうしてこうも、溝が深くなっているんだろう」
小さく、だが深い溜息をついて、スラッシュは続ける。
僕も人間と亜人のいさかいが無くなる様、もっと力になりたいんだけど、と。
どこか弱気な顔を見せるスラッシュの姿は、
ジャネスにとって初めて見るものだった。
モンスタートレーナーとして、人間と、彼らの町とも交流があった彼女は、
歌手として名を馳せていたスラッシュを、ポスターなどで何度か見たことも有る。
そこにある彼の姿は―――ポスターでも、写真でも―――常に自信に溢れ、
自らの歌や行動に誇りを持っているようだった。
実際、昼のコンサート・ステージ上では、一筋の迷いも無く、
歌手としての役柄を演じきっていた。
しかし今は、亜人と人間の間で心が揺れる、経験の浅い若者の姿をさらけだしている。
たった二人……ジャネスしか、周りには居ない場所で―――。
これまでイメージしてきた彼とのギャップに、ジャネスの胸は妙に高鳴った。
最初はそーっと……だが、すぐに勢いをつけて、傍らのスラッシュに手を伸ばす。
そして彼の顔を挟むように手に取ると、自らの胸のうちに抱え込んだ。
「うわっ!? と、うっぷ……!!」
不意にバランスを崩され、顔を柔らかな双丘に挟まれたスラッシュは、
驚きの声をあげつつ手足をバタつかせる。
それでも構わずに、さらにギュッと力を込め、横から身体を密着させると、
ジャネスは相手に言った。
「ほら……一人で悩みすぎてもダメだってば」
慰めるかのごとく、優しい口調で言葉を紡ぐ。
「今日の事だってさ、スラッシュだけでもダメ、あたし達だけでもダメ。
……どちらかだけでは、里を開放できなかった。
スラッシュの歌、みんなの力、それらが合わさって、初めて里を取り戻せたんだよ」
「………………」
「あたし達だって、頑張れば亜人と人間の余計な争いなんか無くせると思う。
だって、一つの目的のために、協力する事だってできたんだもん。
それにほら、スラッシュのお父さんたちもさ、2つの種族の垣根を越えて、一緒になったんでしょ?」
「……うん」
「じゃあさ。スラッシュも一人で悩まずに、同じような考えの人たちと一緒になって、
そこから頑張る事を始めればいいんじゃないかな。
全部自分で抱え込んでも大変だし……何より、一人っきりじゃ寂しいよ」
「……うん、うん……」
たどたどしいが、精一杯の思いやりの言葉をかけるジャネスに、
いつの間にかスラッシュはゆったりと身体をゆだねていた。
まるで、母親に癒されるかのごとく、彼女の豊かな胸に抱かれるままに。
最後に、「こんなの、私のガラじゃない言葉だけど」と、照れくさそうにフォローしたジャネスは、
改めてすぐ眼下にある、スラッシュの顔を見やる。
これまで、ポスターなどで見かけては、見とれるしかできなかった存在が、
今宵、この場所で、自らの腕の中で甘えるように身体を預けている。
なりゆきとは言え、想像もしなかったシチュエーションに、
彼女の心は倒錯的な昂ぶりに侵されつつあった。
「……やっぱり、キミってハンサムだよね」
「ん、そうなのかな……」
「うん。こんなに近くで見てると、あたしもドキドキしちゃう」
こんなに近くに―――その言葉に、スラッシュの身体が一つ揺れる。
過程はどうあれ、女性の身体に密着、というか、そのものずばり、
満ちた乳に顔を押し付け、感触をたっぷり堪能している格好に、
今更のように恥ずかしくなった。
「あ、あ、その、悪いっ!!」
慌てて身体を離そうとしたスラッシュ。しかし、ジャネスは両手の力を緩めようとしない。
それどころかさらに腕を絡ませ、余計に互いの身体をピッタリと近づける。
「ちょっ……ジャネスッ……?」
「うふふ……離してなんかあげないよん……♪」
そう言うジャネスの声は、楽しそうに、興奮を抑えきれないように、青年には聞こえた。
ズリズリと身体を震わせ、ジャネスは呟く。
「キミの身体、随分と熱いよ。……ね、胸に触ってるとわかる?
あたしもすっごく心臓がバクバクしてるの。
何だか変な気持ち。初めてだよ、こんなの……」
「ジャネス! その……おかしいってば! 離し、むぐっ」
「うん、さっきからおかしいかも」
否定はしないよ、と微笑んで、ぎゅうぎゅうと―――実際にはむにゅむにゅと、
相手の顔を胸で撫でまわす
一方のスラッシュも、もがくうちに女性の甘い香りに満たされ、
次第に抗う力が霧散していってしまう。
「コーフン……してるのかなぁ。キミみたいなコに、あんな風に頼られちゃうと、
あたしも抑え切れなくなっちゃって……ホント、おかしくなったみたい……」
やや年下の相手にすがられ、甘えられる……しかも彼の身分はトップスター。
手の届かない場所にあった青年に対して、ただ独占したいという心理が、
彼女の心と身体を火照らせる。
もう一度、スラッシュの顔を手で挟みこむ。
クッ、と相手の顎を上向かせると、ジャネスはゆっくり唇を重ね合わせた。
抵抗は――――――無い。
すぐに舌を潜り込ませ、彼のものと絡ませる。
チュチュ…………二人の唾液が交じりあい、より粘っこくなった水気が互いの口を潤わせた。
「……キミ、ホントにあのスラッシュだよね」
一旦、口を離し、うっとりとした瞳で男を下に見ながら女の亜人は言う。
「……あぁ」
「『マジカル=ドリーマーズ』のバンドで有名な―――」
「嘘はついてない……よ」
「だよね。あたし、今、夢の中に居るみたい……」
静かに呟くと、もう一度彼女の手ほどきでキスを交わす。
「こういうの、イヤ?」
ジャネスの問いに返事は無い。が、拒絶の色も見られない。
戸惑いながら、彼女の誘惑に魅入られている風にもとれる。
「ん、ふ……」
不意に、震える声が漏れる。
座ったまま、抱き合う形になっていた二人は、より肌をすり合わせている。
4本の足は、それぞれ相手の足に絡むようなかたち。
そしてジャネスは、自らの股間をスラッシュの太ももに押し付け、
その部分を中心に、小さく上下にこすっていた。
与えられる刺激は、快感となってジャネスの身体をくすぐる。
「あ、ふぁ、んん…………っ」
明らかに上ずった声と共に、彼女はもどかしげな吐息を出していた。
見ると、大きめの目は妖しく潤み、頬はほんのりと染まっている。
「ジャネス……やめよう、こんな……」
「ダメッ、動かないで……急に足を動かされちゃうと、んぅ、あそこがいっぺんに痺れちゃう……」
何とか理性を繋ぎとめ、必死に制止させようとするスラッシュの言葉も、
盛り上がってきている彼女を止めるには至らない。
まだ何か、制止を呼びかけるスラッシュを尻目に、
ジャネスは目ざとく、彼の盛り上がった下腹部を確認すると、
―――いつの間にモコモコしたグローブを外したのか―――手の先を伸ばし、
その部分を撫ぜ始める。
「キミも……そんな気分になっちゃってるんだよ、ね?」
「!! これは、あのっ……!」
スラッシュは狼狽する。身体の反応をコントロールできていない状況に。
とは言え、無理も無い。見事な胸で慰められ、キスを交わし、
今は自らの太ももで自慰に近い行為が行われているのだから。
これで何も反応がなかったら、むしろ年頃の男としては異常な部類に入るだろう。
目を白黒させるスラッシュを見ながら、ジャネスはクスクスと面白げに微笑む。
身体を押し付けたまま、巧みに彼の身体を草の上に寝かせると、
その上で抱きすがりながら、耳元で囁いた。
「いいかな……いいよね、最後までいってしまいたいな……」
男女の行為を促す言葉に、スラッシュは身を震わせる。
それはあまりにも抗いがたい、魅力的な誘いだった。
理性的な一人の自分が拒もうとしても、直情的なもう一人の自分は受け入れろと背中を押す。
「よっ……うん、と」
返事も出せない様子に、了承の意と受け取ったのか。
ジャネスは器用にシャツとズボンを脱ぎ捨て、青年の身体にまたがる。
何も纏わぬ姿になった彼女の身体は、確かに人間とほとんど変わらないようだった。
それどころか、ボリュームに溢れながら綺麗に整った乳房、ムッチリと張りのある腰つきなどは、
巷を行きかう人間の美人も、途端に自信を失くすほどのレベルかもしれない。
横の焚き火の光に晒され、オレンジ色に浮かび上がった彼女の裸体を目にし、
スラッシュは横になったまま、ごくりと喉を鳴らした。―――目の前の亜人が、ひどく艶かしい。
一方、相手にまたがった女の方は、タイツ式のズボンの前隙間から男根を誘い出し、
自らの芯の部分を近づけた。そこはもう、十分に潤っている。
「こんな風にするの、初めてだよ」
変な感じになったらゴメンね、と言い残し、ゆっくりと腰を下ろしていった。
いきり立った性器はみるみるうちに飲み込まれ、柔肉の間で包まれる。
「あ、あぁ…………んんん!」
「うぁ…………あ」
瞬間、二人の口から歓喜の息が漏れた。
スラッシュのモノを全てくわえ込んだ後、ジャネスはつややかな表情で微笑みかける。
「エへ、へ。全部、入っちゃった……」
「ジャネスの中、すごく……熱い」
「うふ……ふぅん、スラッシュのも、だよ……んっ!
あっ……う、んん、くふっ、ぁぁん、うっ……」
短く、濁った声を出しながら、青年の身体の上でジャネスは腰を揺らし始める。
硬く張り詰めたモノは、その度に彼女の中をこすり、新しい快感を生み出していく。
ゆったりと前後に、次には円を描くように……様々に動きを変える身体。
控えめな焚き火の光を浴びながら、一心に交わりを愉しむ姿は、
とても淫らで、そして美しかった。
「はっ、はっ……ジャネス、凄く綺麗……」
乱れる声の狭間で、無意識にそんな言葉が、下になる男の口から放たれた。
「はぅっ……そんな、お世辞……あたし、ん、恥ずかしい……」
性の悦びと、照れの双方で頬を染めながら、亜人の女は首を振った。
「お世辞じゃないよ、ホントに」
「うん……ぅうん、そういう事にしておく……あうっっ、それでも、嬉しぃ……な……あふう!」
緩やかな刺激に物足りなくなったのか、次第にジャネスの動きが激しく、奔放になっていく。
繋がった部分からは、絶えず湿った音が漏れ出し、
彼女の豊かな胸は、重力の影響を受けないかのように、たぷん、たぷんと大きく揺れる。
それまでなすがままだったスラッシュは、その光景に欲情を抑えられなくなり、
下から手を伸ばして彼女の胸を包むように掴んだ。
すぐに少し力を込めて、柔らかな塊を揉みしだく。
「ああっ!? ダメっ、そんな……でも、イイっ!」
「ジャネスのって……凄く立派、だよね……」
「アハッ、少しは……自信ある……んん! だ……。
ね、も、もうちょっと、いっぱい触って……欲し……」
彼女の要望に応え、左右から寄せて持ち上げたり、
先端の突起をコリコリと弄んでみる。
……スラッシュも、女性との体験は初めてというわけではない。
しかし、このようにすべすべした肌と、質感があるカタマリを手に収めるのは、
彼の記憶にはない事だった。
半ば夢中になって、指先を躍らせる。
その間にも、ジャネスの腰の動きは激しさを増していく。
スラッシュの方からも軽く突き上げる動作を加え、
二人の間の悦楽は、より同調したものへと変化していった。
「ひゃっ、ふあ、あぁん、あた、あたし……おかしいよぅ、さ、さっきよりずっとおかしいっ!」
湧き上がる感覚を振りほどくように言い、だがさらにその感覚を貪ろうと、
女は精一杯、男根を絞り上げる。
じゅぶじゅぶと、愛液の中でまみれあう二人。
じっとり汗ばむ肌は、蒸し暑い夜の熱気のせいだけではない。
「僕もっ……すご……ジャネス、いいよっ!」
「あたしも、あたしもぉっ!!」
互いに不明瞭な悦びの声をあげ、ひたすらに相手と高めあう。
既に、最も感じる部分を探り当てたジャネスは、ただひたすらに上下運動を繰り返し、
青年もそこに目がけて幾度も自分のモノを押し当てた。
片手で相手の乳房を抱え、もう片方の手で相手の腰を掴んでコントロールし、
少しでも動きを同じくさせようと努力する。
「あ゛あ゛ぁぁ……もぅ、もぉっ、ダメェ……あたし、止まんないよぉ……」
むせび泣くように呻いたかと思うと、ジャネスはクタリとスラッシュの胸の上に倒れこんだ。
それでも、「あっ、あぁっ、あっ」と小さく息を刻みつつ、
本能のままに、繋がった股間のみを細かく、素早く動かしている。
彼女の目は、押し寄せる愉悦の前に緩みきって、焦点すら定かではない。
もはや、意識のほとんどが性欲に満たされ、リードする余裕すら無くしているようだった。
そして、余裕が無いのはスラッシュも同じ。
刺激され続けた男根の根元に、白いマグマが押し寄せ、今すぐにでも爆発しそうになる。
最後に何とか口を開き、終わりが近い事を告げる。
「ジャネス、もう出るっ! お願いだから、抜い……てっ……!」
「いやっ、抜いちゃいやぁ……っ」
そう言うと、ジャネスは男の上に覆いかぶさったまま、秘所をグッと余計に押し付けた。
たまらず、スラッシュは全てを彼女の中に吐き出してしまう。
ぐっぷ、ぐっぷ、ぐぷぅっ―――。
「あ、そんな…………」
「ゃん……熱ぅい……」
戸惑う男と、満足げな女。
互いに亜人の血を引く一組の男女は、それでも同じように、
満天の星空の下で、快感の波の前に身体を震わせるのだった。
夜風と、肌に触る草々の冷たさが、行為の後の火照りを少しずつ沈めていく。
「はぁぁ…………」
多少の時間が流れ、ようやく身体を起こしたあと、スラッシュは深く溜息をついた。
最初からリードを取られて誘いに乗り、結局、最後には抑えきれずに、
彼女の中で果ててしまった―――。
申し訳なさとむずがゆさが心を巡り、何とも言えない気分になる。
そんな彼の心を知ってか知らずか、ジャネスも起き上がると、
抱きつきながらゴロゴロとじゃれついてきた。
「エヘ……終わりのほうなんか、もうワケわかんなくなっちゃった。
何だか、まだ身体がジンジンしてるみたい。
……ホント、素敵だったよ、キミ」
そう言うと、チュッっと短く頬にキスをする。
「……里の事が一段落したら、また他の街にいっちゃうんでしょ?」
「え、あ、うん。そのつもり。歌手としてバンドを率いているのが、
本来の僕の仕事だからね。一つのトコに居続けるってのは……」
「そっか、そうだよね」
スラッシュの返答に、何か思案顔で考え込むジャネス。
お互いはまだ裸のまま。
もちろん、身体を寄せあっている状態では、むにゅむにゅと胸が押し付けられている。
また自分のモノが反応してしまうとマズい……そう思ったスラッシュが、
『そろそろ着替えて、下に降りない?』と切り出そうとした瞬間、
相手はパチンと手を叩き、表情を輝かせる。
「そうだ、そうだよ。……ね、ね、ね。あたしもついていっていいかな?」
「はぁ?」
彼女の申し出に応えた青年の言葉は、あまりに間の抜けたものだった。
「ううん、バンドの邪魔をしようってんじゃないの。
……あたしも小さめのモンスターや動物を調教して、
ちょっとした見世物とかできるんだけどさ。そんな時はやっぱり人間の町のほうが稼げるんだ。
気に入った人なら、しつけを仕込んだ動物とか買ってくれるしねー」
「…………えーと、それで?」
「うん、つまり街から街の移動を一緒にできないかなって、お願いしたいわけ。
で、街に着いたらキミはバンドの公演。あたしは街角で見世物。
そのへんは邪魔なんかしないから、ねぇ?」
そう頼み込むと、途端にしおらしげに声色を変え、上目遣いでスラッシュの顔を覗く。
「それにほら……女の子が一人で旅をするのって結構大変なんだよ……。
あたしにとっては、移動の時は道連れがいたほうが安心できるし。
……まぁ、その……エヘヘ……他にも、せっかくお近づきになれたキミと、
離れたくはないかなぁ……なんて……♪」
一人、悦に入った微笑をたたえると、あっけに取られたスラッシュの身体をカクカク揺らす。
「ねー、お願ぁい、ねぇったらー……」
「いや、あの、他のメンバーとか、スケジュールを考える世話役の人にも聞いてみないと…………」
しどろもどろになって、スラッシュは上手く答えを返せないでいる。
だが、何となく彼は気付いていた。この女性(ひと)とは、付き合いが長くはなりそうだなぁ、と。
しばらくのち、今をときめくトップバンドのボーカルが、
いくつかの街でプレイベートな時間を過ごしていた時の事。
何度と無く、彼の側に一人のウサギ亜人が寄り添っていたのが目撃される。
むろん、この事実は少なからずエルニド一帯を中心に、
―――特に独身女性の―――世間を騒がせる状況になるのだが、
ボーカルの男性は聞かれても涼しげに受け流していた。
一方のウサギ亜人の女性に至っては、
『あたし達は、人間と亜人で仲良くする事を実践してるだけだよ』
と、臆する事無く答えを返すありさま。
……結局のところ、二人の間柄がどういうものであったか。
その答えについては、二人が共にいる時間、この上なく幸せそうに笑い合っていた事が、
何よりも雄弁に語っていたのだった。
〜〜〜END〜〜〜