「ン…………」  
闇の中で、一つの影が動いた。  
そのシルエットは、ムクリと上半身を起こし、かすかに周りを伺う仕草を見せる。  
「ん、あ〜…………あ、ふ……」  
夜半に目を覚ました女性―――ジャネスはのん気な声と共に、座り込んだまま伸びをした。  
意識がハッキリしてくると共に、エルニド特有の生暖かい空気が鼻腔をくすぐってくる。  
起きたとは言え何をするとも無く、しばらく土くれでできた部屋に座り込んでいたが、  
数分後、背筋を立てて屹立し、部屋の外に足を進めた。  
 
「あーあ、みんなだらしなくなっちゃって……」  
部屋を出るなり、ジャネスは苦笑を浮かべる。  
彼女が見渡すそこかしこに、人間と亜人が、酔いつぶれた状態でいびきをかき鳴らしていた。  
あたりには空になった酒瓶が転がり、夜風は酒の甘い匂いを次々に運んでくる。  
 
―――ここはマブーレ。亜人の里。  
つい先日まで、不気味な魔物の幻が闊歩し、  
人間からも亜人からも打ち捨てられた状態になっていた場所。  
それを救ったのは、一人の若者の歌と、協力し合った亜人と人間。  
島一帯に流れる歌の中、現世に実体化した魔物は次々に追い払われ、  
マブーレは再び、亜人達の故郷としての地位を取り戻した。  
 
今宵は、無礼講で亜人と人間が酒を酌み交わし、  
島を取り戻したことに歓喜の声を上げ続けた日。  
このように肩を寄せ合い、分け隔てなく両者が酔いつぶれるなど、そうそう無い事である。  
けれど、それは祝福の証。ジャネスも存分に騒ぎ、  
人間と亜人の垣根が一つ、取り払われたことを心から喜んだ。  
 
目が冴えてしまった彼女は、あてもなく里の中を歩き回る。  
夜も深くなった今では、老いも若きも眠りの淵に落ちて、  
里はちょっとした静けさに包まれていた。  
「―――――――――♪」  
そんな中、かすかな旋律がジャネスの耳を刺激した。  
「何…………歌……?」  
ジャネスは首をかしげる。耳を澄ますと、その音は、  
里の高台にある、草地から聞こえてくるようだった。  
 
興味を惹かれた彼女は、ピョンピョンと軽快な足さばきで岩場を回りこみ、  
高台に続く坂路を上っていく。  
間もなく目の前に広がった緑の広場。  
そこの一角に露出した岩盤の上に、一つの焚き火がたかれ、  
すぐ側の草地に誰かが腰を下ろし佇んでいた。  
音―――いや、歌声は、確かにそこから聞こえてくる。  
「ね、そこにいるの、だーれ?」  
ジャネスは背後から声をかける。すぐに気付いた人影は振り向き、やや驚いた顔を見せた。  
 
「もしかして…………スラッシュ、さん?」  
「あ、あぁ。えーと、君は―――」  
「ジャネス。亜人のジャネスだよ」  
屈託無く名乗りをあげ、歌っていた人物―――スラッシュに近づく。  
「もしかして、歌が里のほうまで聞こえてたかな?」  
「うん、風に乗ってちょっとだけ、ネ」  
「ゴメン。里の人を起こすつもりじゃなかったんだけど……」  
申し訳なさそうに詫びるスラッシュに対し、ジャネスは首を横に振る。  
「んーん。いいよ、気にしなくたって。歌が聞こえる前から、あたし、起きてたし。  
 それに他のみんなは酔っ払って寝ちゃって、  
 あんな小さい音が聞こえても全然起きてないみたいだよ」  
そんな彼女の見解を聞いて、スラッシュも安堵の表情を浮かべた。  
「えーと、スラッシュ……さん、だっけ」  
「いや、スラッシュでいいよ。こんな時でも『さん付け』で呼ばれてもぎこちないし」  
歌人からの申し出に、ジャネスもパッと顔を輝かせる。  
「んじゃ、あたしの事もジャネスでいいよね。では改めて……スラッシュは何してたの?」  
「ン……別に何か、ってほどでもないんだけど。  
 僕も眠れなくってね。気分を紛らわせようと、ここで軽く歌ってたんだ」  
「ふーん…………よいしょっと」  
相手が、他人行儀しない接し方である事を知り、  
ジャネスも気兼ねなく、彼の横に腰を下ろす。  
 
「そういえば、良かったね。コンサートが上手くいって……」  
目線を遠くに向けながら、ジャネスは言った。  
「歌自体は、あたしも前に聞いた事はあるんだけど、里に伝わるアレに、  
 まさかあんな力があるとは思わなかったなぁ」  
ジャネスの話すとおり、里の長が教えた歌とスラッシュの歌唱力が結びついた時、  
それは劇的な効果をもたらした。  
これまで触ることが出来なかった魔物の幻は実体化し、  
結果として、魔物らを打ち払えるきっかけを作ったのだから。  
「僕も驚いたよ。自分の歌が、あぁいうカタチで役に立つなんて……」  
そう語る若者の顔には、しかし、喜びより強く、悔いの色が滲んでいた。  
「こんな事がわかっていれば、もっと早くに里を救うことも出来たのに…………」  
「故郷のため、として……?」  
ジャネスの声に一瞬、ハッとした表情を見せ、すぐに肯定する。  
「うん。母さんの故郷のために…………ジャネスも知ってたんだ?」  
僕が、人間と亜人の間に生まれた者だって事―――そう結んだスラッシュに、  
頬をポリポリとかきながら、ジャネスが応える。  
「ん、まぁ、その……ファルガさんと長の言い合う声が聞こえちゃって。  
 キミの母さんが亜人で、その人がこの里出身だって事とかが……ちょちょいっと」  
「そうなんだ……。確かに僕の身体にも亜人の血が流れている。  
 父さんの血が濃いのか、外見はほとんど人間だから、気付いてくれる人は少ないけど」  
自分に言い聞かせるように言葉を連ねるスラッシュに、  
ジャネスは意識して気楽に呼びかけた。  
「でもさ、亜人だって千差万別なんだよね。  
 純粋な人間以外をまとめて『亜人』って呼んでるようなご時勢だし」  
 
そう言うと立ち上がり、やおらクルリと一回転して、軽やかに笑う。  
「あたしだって、おばあちゃんと、ひいおばあちゃんに人間の血が入ってるらしくってさ。  
 あたしもそれが受け継がれちゃったみたい」  
次に、長めの耳をポンポン叩き、シッポを左右に振ってみせる。  
「ね。こんなところ以外は、人間みたいなカッコだもん。  
 でもまぁ、人間の町とか行く時はこの方が便利なんだけどね」  
よく見ると、ジャネスの外見は人間とそれほど違いがあるわけでない。  
どちらかというと、人間が亜人の真似をしている―――と表現した方がしっくりするかもしれない。  
ただ、童顔の割に、たわわに実った胸、滑らかに張りの有る太ももなど、  
肉厚な―――人間的な表現をするならグラマラスな―――身体つきには、  
獣人系の亜人としての影響が出ているようだったが。  
 
彼女の身体に見とれたようなスラッシュの視線は気にせず、  
もう一度チョコンと彼の横に座ると、再び口を開く。  
「これだけ混血の人もいるんだしさぁ。  
 あまり亜人だの、人間だの、区別するのも変だとは思うんだけど……なかなか難しいよね」  
「僕もそう思う。人間だって、亜人だって、ちゃんと話を交わせばわからない人たちじゃない。  
 お互いにいい文化を持った、尊敬しあうべき存在なのに、  
 どうしてこうも、溝が深くなっているんだろう」  
小さく、だが深い溜息をついて、スラッシュは続ける。  
僕も人間と亜人のいさかいが無くなる様、もっと力になりたいんだけど、と。  
 
どこか弱気な顔を見せるスラッシュの姿は、  
ジャネスにとって初めて見るものだった。  
モンスタートレーナーとして、人間と、彼らの町とも交流があった彼女は、  
歌手として名を馳せていたスラッシュを、ポスターなどで何度か見たことも有る。  
そこにある彼の姿は―――ポスターでも、写真でも―――常に自信に溢れ、  
自らの歌や行動に誇りを持っているようだった。  
実際、昼のコンサート・ステージ上では、一筋の迷いも無く、  
歌手としての役柄を演じきっていた。  
 
しかし今は、亜人と人間の間で心が揺れる、経験の浅い若者の姿をさらけだしている。  
たった二人……ジャネスしか、周りには居ない場所で―――。  
 
これまでイメージしてきた彼とのギャップに、ジャネスの胸は妙に高鳴った。  
最初はそーっと……だが、すぐに勢いをつけて、傍らのスラッシュに手を伸ばす。  
そして彼の顔を挟むように手に取ると、自らの胸のうちに抱え込んだ。  
「うわっ!? と、うっぷ……!!」  
不意にバランスを崩され、顔を柔らかな双丘に挟まれたスラッシュは、  
驚きの声をあげつつ手足をバタつかせる。  
それでも構わずに、さらにギュッと力を込め、横から身体を密着させると、  
ジャネスは相手に言った。  
「ほら……一人で悩みすぎてもダメだってば」  
慰めるかのごとく、優しい口調で言葉を紡ぐ。  
 
「今日の事だってさ、スラッシュだけでもダメ、あたし達だけでもダメ。  
 ……どちらかだけでは、里を開放できなかった。  
 スラッシュの歌、みんなの力、それらが合わさって、初めて里を取り戻せたんだよ」  
「………………」  
「あたし達だって、頑張れば亜人と人間の余計な争いなんか無くせると思う。  
 だって、一つの目的のために、協力する事だってできたんだもん。  
 それにほら、スラッシュのお父さんたちもさ、2つの種族の垣根を越えて、一緒になったんでしょ?」  
「……うん」  
「じゃあさ。スラッシュも一人で悩まずに、同じような考えの人たちと一緒になって、  
 そこから頑張る事を始めればいいんじゃないかな。  
 全部自分で抱え込んでも大変だし……何より、一人っきりじゃ寂しいよ」  
「……うん、うん……」  
たどたどしいが、精一杯の思いやりの言葉をかけるジャネスに、  
いつの間にかスラッシュはゆったりと身体をゆだねていた。  
まるで、母親に癒されるかのごとく、彼女の豊かな胸に抱かれるままに。  
 
最後に、「こんなの、私のガラじゃない言葉だけど」と、照れくさそうにフォローしたジャネスは、  
改めてすぐ眼下にある、スラッシュの顔を見やる。  
これまで、ポスターなどで見かけては、見とれるしかできなかった存在が、  
今宵、この場所で、自らの腕の中で甘えるように身体を預けている。  
なりゆきとは言え、想像もしなかったシチュエーションに、  
彼女の心は倒錯的な昂ぶりに侵されつつあった。  
 
「……やっぱり、キミってハンサムだよね」  
「ん、そうなのかな……」  
「うん。こんなに近くで見てると、あたしもドキドキしちゃう」  
こんなに近くに―――その言葉に、スラッシュの身体が一つ揺れる。  
過程はどうあれ、女性の身体に密着、というか、そのものずばり、  
満ちた乳に顔を押し付け、感触をたっぷり堪能している格好に、  
今更のように恥ずかしくなった。  
「あ、あ、その、悪いっ!!」  
慌てて身体を離そうとしたスラッシュ。しかし、ジャネスは両手の力を緩めようとしない。  
それどころかさらに腕を絡ませ、余計に互いの身体をピッタリと近づける。  
「ちょっ……ジャネスッ……?」  
「うふふ……離してなんかあげないよん……♪」  
そう言うジャネスの声は、楽しそうに、興奮を抑えきれないように、青年には聞こえた。  
ズリズリと身体を震わせ、ジャネスは呟く。  
「キミの身体、随分と熱いよ。……ね、胸に触ってるとわかる?  
 あたしもすっごく心臓がバクバクしてるの。  
 何だか変な気持ち。初めてだよ、こんなの……」  
「ジャネス! その……おかしいってば! 離し、むぐっ」  
「うん、さっきからおかしいかも」  
否定はしないよ、と微笑んで、ぎゅうぎゅうと―――実際にはむにゅむにゅと、  
相手の顔を胸で撫でまわす  
一方のスラッシュも、もがくうちに女性の甘い香りに満たされ、  
次第に抗う力が霧散していってしまう。  
 
「コーフン……してるのかなぁ。キミみたいなコに、あんな風に頼られちゃうと、  
 あたしも抑え切れなくなっちゃって……ホント、おかしくなったみたい……」  
やや年下の相手にすがられ、甘えられる……しかも彼の身分はトップスター。  
手の届かない場所にあった青年に対して、ただ独占したいという心理が、  
彼女の心と身体を火照らせる。  
 
もう一度、スラッシュの顔を手で挟みこむ。  
クッ、と相手の顎を上向かせると、ジャネスはゆっくり唇を重ね合わせた。  
抵抗は――――――無い。  
すぐに舌を潜り込ませ、彼のものと絡ませる。  
チュチュ…………二人の唾液が交じりあい、より粘っこくなった水気が互いの口を潤わせた。  
「……キミ、ホントにあのスラッシュだよね」  
一旦、口を離し、うっとりとした瞳で男を下に見ながら女の亜人は言う。  
「……あぁ」  
「『マジカル=ドリーマーズ』のバンドで有名な―――」  
「嘘はついてない……よ」  
「だよね。あたし、今、夢の中に居るみたい……」  
静かに呟くと、もう一度彼女の手ほどきでキスを交わす。  
「こういうの、イヤ?」  
ジャネスの問いに返事は無い。が、拒絶の色も見られない。  
戸惑いながら、彼女の誘惑に魅入られている風にもとれる。  
 
「ん、ふ……」  
不意に、震える声が漏れる。  
座ったまま、抱き合う形になっていた二人は、より肌をすり合わせている。  
4本の足は、それぞれ相手の足に絡むようなかたち。  
そしてジャネスは、自らの股間をスラッシュの太ももに押し付け、  
その部分を中心に、小さく上下にこすっていた。  
与えられる刺激は、快感となってジャネスの身体をくすぐる。  
「あ、ふぁ、んん…………っ」  
明らかに上ずった声と共に、彼女はもどかしげな吐息を出していた。  
見ると、大きめの目は妖しく潤み、頬はほんのりと染まっている。  
「ジャネス……やめよう、こんな……」  
「ダメッ、動かないで……急に足を動かされちゃうと、んぅ、あそこがいっぺんに痺れちゃう……」  
何とか理性を繋ぎとめ、必死に制止させようとするスラッシュの言葉も、  
盛り上がってきている彼女を止めるには至らない。  
まだ何か、制止を呼びかけるスラッシュを尻目に、  
ジャネスは目ざとく、彼の盛り上がった下腹部を確認すると、  
―――いつの間にモコモコしたグローブを外したのか―――手の先を伸ばし、  
その部分を撫ぜ始める。  
「キミも……そんな気分になっちゃってるんだよ、ね?」  
「!! これは、あのっ……!」  
スラッシュは狼狽する。身体の反応をコントロールできていない状況に。  
とは言え、無理も無い。見事な胸で慰められ、キスを交わし、  
今は自らの太ももで自慰に近い行為が行われているのだから。  
これで何も反応がなかったら、むしろ年頃の男としては異常な部類に入るだろう。  
 
目を白黒させるスラッシュを見ながら、ジャネスはクスクスと面白げに微笑む。  
身体を押し付けたまま、巧みに彼の身体を草の上に寝かせると、  
その上で抱きすがりながら、耳元で囁いた。  
「いいかな……いいよね、最後までいってしまいたいな……」  
男女の行為を促す言葉に、スラッシュは身を震わせる。  
それはあまりにも抗いがたい、魅力的な誘いだった。  
理性的な一人の自分が拒もうとしても、直情的なもう一人の自分は受け入れろと背中を押す。  
 
「よっ……うん、と」  
返事も出せない様子に、了承の意と受け取ったのか。  
ジャネスは器用にシャツとズボンを脱ぎ捨て、青年の身体にまたがる。  
何も纏わぬ姿になった彼女の身体は、確かに人間とほとんど変わらないようだった。  
それどころか、ボリュームに溢れながら綺麗に整った乳房、ムッチリと張りのある腰つきなどは、  
巷を行きかう人間の美人も、途端に自信を失くすほどのレベルかもしれない。  
横の焚き火の光に晒され、オレンジ色に浮かび上がった彼女の裸体を目にし、  
スラッシュは横になったまま、ごくりと喉を鳴らした。―――目の前の亜人が、ひどく艶かしい。  
一方、相手にまたがった女の方は、タイツ式のズボンの前隙間から男根を誘い出し、  
自らの芯の部分を近づけた。そこはもう、十分に潤っている。  
「こんな風にするの、初めてだよ」  
変な感じになったらゴメンね、と言い残し、ゆっくりと腰を下ろしていった。  
 
いきり立った性器はみるみるうちに飲み込まれ、柔肉の間で包まれる。  
「あ、あぁ…………んんん!」  
「うぁ…………あ」  
瞬間、二人の口から歓喜の息が漏れた。  
スラッシュのモノを全てくわえ込んだ後、ジャネスはつややかな表情で微笑みかける。  
「エへ、へ。全部、入っちゃった……」  
「ジャネスの中、すごく……熱い」  
「うふ……ふぅん、スラッシュのも、だよ……んっ!  
 あっ……う、んん、くふっ、ぁぁん、うっ……」  
短く、濁った声を出しながら、青年の身体の上でジャネスは腰を揺らし始める。  
硬く張り詰めたモノは、その度に彼女の中をこすり、新しい快感を生み出していく。  
ゆったりと前後に、次には円を描くように……様々に動きを変える身体。  
控えめな焚き火の光を浴びながら、一心に交わりを愉しむ姿は、  
とても淫らで、そして美しかった。  
「はっ、はっ……ジャネス、凄く綺麗……」  
乱れる声の狭間で、無意識にそんな言葉が、下になる男の口から放たれた。  
「はぅっ……そんな、お世辞……あたし、ん、恥ずかしい……」  
性の悦びと、照れの双方で頬を染めながら、亜人の女は首を振った。  
「お世辞じゃないよ、ホントに」  
「うん……ぅうん、そういう事にしておく……あうっっ、それでも、嬉しぃ……な……あふう!」  
 
緩やかな刺激に物足りなくなったのか、次第にジャネスの動きが激しく、奔放になっていく。  
繋がった部分からは、絶えず湿った音が漏れ出し、  
彼女の豊かな胸は、重力の影響を受けないかのように、たぷん、たぷんと大きく揺れる。  
それまでなすがままだったスラッシュは、その光景に欲情を抑えられなくなり、  
下から手を伸ばして彼女の胸を包むように掴んだ。  
すぐに少し力を込めて、柔らかな塊を揉みしだく。  
「ああっ!? ダメっ、そんな……でも、イイっ!」  
「ジャネスのって……凄く立派、だよね……」  
「アハッ、少しは……自信ある……んん! だ……。  
 ね、も、もうちょっと、いっぱい触って……欲し……」  
彼女の要望に応え、左右から寄せて持ち上げたり、  
先端の突起をコリコリと弄んでみる。  
……スラッシュも、女性との体験は初めてというわけではない。  
しかし、このようにすべすべした肌と、質感があるカタマリを手に収めるのは、  
彼の記憶にはない事だった。  
半ば夢中になって、指先を躍らせる。  
 
その間にも、ジャネスの腰の動きは激しさを増していく。  
スラッシュの方からも軽く突き上げる動作を加え、  
二人の間の悦楽は、より同調したものへと変化していった。  
「ひゃっ、ふあ、あぁん、あた、あたし……おかしいよぅ、さ、さっきよりずっとおかしいっ!」  
湧き上がる感覚を振りほどくように言い、だがさらにその感覚を貪ろうと、  
女は精一杯、男根を絞り上げる。  
 
じゅぶじゅぶと、愛液の中でまみれあう二人。  
じっとり汗ばむ肌は、蒸し暑い夜の熱気のせいだけではない。  
「僕もっ……すご……ジャネス、いいよっ!」  
「あたしも、あたしもぉっ!!」  
互いに不明瞭な悦びの声をあげ、ひたすらに相手と高めあう。  
既に、最も感じる部分を探り当てたジャネスは、ただひたすらに上下運動を繰り返し、  
青年もそこに目がけて幾度も自分のモノを押し当てた。  
片手で相手の乳房を抱え、もう片方の手で相手の腰を掴んでコントロールし、  
少しでも動きを同じくさせようと努力する。  
「あ゛あ゛ぁぁ……もぅ、もぉっ、ダメェ……あたし、止まんないよぉ……」  
むせび泣くように呻いたかと思うと、ジャネスはクタリとスラッシュの胸の上に倒れこんだ。  
それでも、「あっ、あぁっ、あっ」と小さく息を刻みつつ、  
本能のままに、繋がった股間のみを細かく、素早く動かしている。  
彼女の目は、押し寄せる愉悦の前に緩みきって、焦点すら定かではない。  
もはや、意識のほとんどが性欲に満たされ、リードする余裕すら無くしているようだった。  
そして、余裕が無いのはスラッシュも同じ。  
刺激され続けた男根の根元に、白いマグマが押し寄せ、今すぐにでも爆発しそうになる。  
最後に何とか口を開き、終わりが近い事を告げる。  
「ジャネス、もう出るっ! お願いだから、抜い……てっ……!」  
「いやっ、抜いちゃいやぁ……っ」  
そう言うと、ジャネスは男の上に覆いかぶさったまま、秘所をグッと余計に押し付けた。  
たまらず、スラッシュは全てを彼女の中に吐き出してしまう。  
ぐっぷ、ぐっぷ、ぐぷぅっ―――。  
「あ、そんな…………」  
「ゃん……熱ぅい……」  
戸惑う男と、満足げな女。  
互いに亜人の血を引く一組の男女は、それでも同じように、  
満天の星空の下で、快感の波の前に身体を震わせるのだった。  
 
夜風と、肌に触る草々の冷たさが、行為の後の火照りを少しずつ沈めていく。  
「はぁぁ…………」  
多少の時間が流れ、ようやく身体を起こしたあと、スラッシュは深く溜息をついた。  
最初からリードを取られて誘いに乗り、結局、最後には抑えきれずに、  
彼女の中で果ててしまった―――。  
申し訳なさとむずがゆさが心を巡り、何とも言えない気分になる。  
そんな彼の心を知ってか知らずか、ジャネスも起き上がると、  
抱きつきながらゴロゴロとじゃれついてきた。  
「エヘ……終わりのほうなんか、もうワケわかんなくなっちゃった。  
 何だか、まだ身体がジンジンしてるみたい。  
 ……ホント、素敵だったよ、キミ」  
そう言うと、チュッっと短く頬にキスをする。  
 
「……里の事が一段落したら、また他の街にいっちゃうんでしょ?」  
「え、あ、うん。そのつもり。歌手としてバンドを率いているのが、  
 本来の僕の仕事だからね。一つのトコに居続けるってのは……」  
「そっか、そうだよね」  
スラッシュの返答に、何か思案顔で考え込むジャネス。  
お互いはまだ裸のまま。  
もちろん、身体を寄せあっている状態では、むにゅむにゅと胸が押し付けられている。  
また自分のモノが反応してしまうとマズい……そう思ったスラッシュが、  
『そろそろ着替えて、下に降りない?』と切り出そうとした瞬間、  
相手はパチンと手を叩き、表情を輝かせる。  
「そうだ、そうだよ。……ね、ね、ね。あたしもついていっていいかな?」  
「はぁ?」  
彼女の申し出に応えた青年の言葉は、あまりに間の抜けたものだった。  
「ううん、バンドの邪魔をしようってんじゃないの。  
 ……あたしも小さめのモンスターや動物を調教して、  
 ちょっとした見世物とかできるんだけどさ。そんな時はやっぱり人間の町のほうが稼げるんだ。  
 気に入った人なら、しつけを仕込んだ動物とか買ってくれるしねー」  
 
「…………えーと、それで?」  
「うん、つまり街から街の移動を一緒にできないかなって、お願いしたいわけ。  
 で、街に着いたらキミはバンドの公演。あたしは街角で見世物。  
 そのへんは邪魔なんかしないから、ねぇ?」  
そう頼み込むと、途端にしおらしげに声色を変え、上目遣いでスラッシュの顔を覗く。  
「それにほら……女の子が一人で旅をするのって結構大変なんだよ……。  
 あたしにとっては、移動の時は道連れがいたほうが安心できるし。  
 ……まぁ、その……エヘヘ……他にも、せっかくお近づきになれたキミと、  
 離れたくはないかなぁ……なんて……♪」  
一人、悦に入った微笑をたたえると、あっけに取られたスラッシュの身体をカクカク揺らす。  
「ねー、お願ぁい、ねぇったらー……」  
「いや、あの、他のメンバーとか、スケジュールを考える世話役の人にも聞いてみないと…………」  
しどろもどろになって、スラッシュは上手く答えを返せないでいる。  
だが、何となく彼は気付いていた。この女性(ひと)とは、付き合いが長くはなりそうだなぁ、と。  
 
 
しばらくのち、今をときめくトップバンドのボーカルが、  
いくつかの街でプレイベートな時間を過ごしていた時の事。  
何度と無く、彼の側に一人のウサギ亜人が寄り添っていたのが目撃される。  
 
むろん、この事実は少なからずエルニド一帯を中心に、  
―――特に独身女性の―――世間を騒がせる状況になるのだが、  
ボーカルの男性は聞かれても涼しげに受け流していた。  
一方のウサギ亜人の女性に至っては、  
『あたし達は、人間と亜人で仲良くする事を実践してるだけだよ』  
と、臆する事無く答えを返すありさま。  
 
……結局のところ、二人の間柄がどういうものであったか。  
その答えについては、二人が共にいる時間、この上なく幸せそうに笑い合っていた事が、  
何よりも雄弁に語っていたのだった。  
 
〜〜〜END〜〜〜  
 

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