頭上の空は、いつも通りの雲一つ無いマリンブルー。眼下に広がるのは、朱々とした珊瑚礁を透かしきらめくエメラルドグリーン。  
春の陽気が心地良い、爽やかな潮風を感じる。この見渡しの良い小高い砂丘はセルジュのお気に入りの場所だ。  
「う〜ん……」  
大きくノビをすると、そのまま砂に寝転がる。ちょうどそこは木陰になっていて、昇り始めた太陽の日差しはセルジュの寝入りを妨げない。微かなさざ波の音を聴きながら、穏やかな眠りにつく。  
「セルジュ」  
見始めた夢も束の間、聞き慣れた声で目を細める。パッチリとした青い瞳──キッドだ。どうやら機嫌が悪い。  
「おい、ワガママ姫がカンカンだぜ。何か頼まれてたんだろ??」  
「…あ゛……」  
「じゃねぇだろ…。八当たりされるオレの身になってみろっ」  
セルジュの顔を覗きこみ、キッドは愚痴をこぼす。  
セルジュとレナがキッドと出会ってから数ヶ月、自然とキッドはレナの姉の様な関係になっていた。  
元々ワガママな性格のレナに、頼れる兄貴肌のキッド…歳は同じとはいえ、最近は仲の良い本当の姉妹のように見える。  
 
「やべ…コモド大トカゲのウロコを取って来いとかなんとか…だったな。キ…キッド……あいつ…怒ってた……?」  
「そりゃあもう。オレもセルジュと一緒にパシッて来いってさ」  
口は笑ってるが目は笑っていなかった。  
レナはゴネ始めると無敵だ。キッドにとっては、とばっちりもいい所だろう。  
「……そ…そう」  
「ん??で、いつまでそうやって寝てるつもりなんだ??」  
「!」  
「いでででで!ち・ぎ・れ・る…!!」  
キッドはおもむろに、細くきゃしゃな腕からは想像もつかない程の力でセルジュの頬をつねる。  
「わ、わかったキッド!行く!行くって!」  
キッドのふんっとした表情。セルジュの顔から手が離れると、つねられた…というより、ねじられたと言った方がいいだろう、セルジュの頬は赤々としていた。  
「ほれ、さっさと立て。行くぞ」  
「ふぁい…」  
 
 
緑色の淡い光で草木が賑わう時間はもうすでに過ぎ、森は暗闇に包まれ始める。  
キッドは昼間から、レナの言うコモド大トカゲを捕まえるため、深い森の中を先頭をきって歩き続けていた。  
その後ろを歩くセルジュは、キッドの少し離れた範囲を探す。  
しかし、一匹も見つからないうちに、日も暮れようとしていた。  
 
「…セルジュ」  
キッドは足を止め振り向くと、続けてこう言う。  
「今日はこれまでだ。あの遺跡んトコで休むぞ」  
とは言っても、丸一日歩いていたのに全く疲れていないようだ。この様子からも、長年の鍛錬を想像できる。  
もしこれがレナだったら、疲れた疲れたのゴリ押しで文句を言い続けてたんだろうな…と、セルジュは思う。  
「OK。それじゃ俺、食い物調達してくるよ。キッドは火起こしてゆっくりしてて」  
「ハッハッハ!ま、当然だよな。こんなカワイイ年頃の女のコにそんな労働は似合わないってもんだからなぁ」  
「ハイハイ。そんな年頃の女のコが大好きなイノシシの丸焼きでもご馳走しますって」  
「おっいいねぇ。頼んだぜ」  
 
 
葉のざわめく音でも、たき火が木を弾く音でもない、妙な物音で目を覚ます。月の位置からすると2時を過ぎた頃だろうか。セルジュは寝惚け眼で辺りを見回す。  
クチュクチュ…  
「うっ…ん……」  
セルジュは息を呑んだ。いつもの毅然としたキッドはそこにない。  
小きざみに体をくねらせ、快楽を感じる度に息を漏らすキッドは、今まで見たことのないような──そう、光惚の表情をしている。  
 
ゴクッ  
唾を飲み込むセルジュ。女のこういった行為を見るのはもちろん初めてだ。寝たフリをしながら、薄目でキッドを凝視する。  
セルジュはたき火からは少し離れ、キッドからは死角になっている位置で眠っていたので、自慰に夢中になっているキッドはセルジュのデバガメには気付かない。  
キッドはあぐらをかいた体勢をしていて、短いスカートの中に自分の右手を入れ、下着の脇から自分の性器へと指を滑らし、快感を求める動作を繰り返す。  
パチパチと穏やかに燃えるたき火は、キッドの全身からうっすらとにじみ出る汗を輝かす。  
 
セルジュはそっと股間に手を伸ばす。  
すると、毎晩こそこそ読むようなチンケな雑誌とは違う、生々しい女体を前に、思春期の男のそれは素直に反応していた。  
ハーフパンツの上から音をたてないよう、ゆっくりと刺激を始める。  
キッドが夢中でいじる薄いピンク色の縦筋は、スカートの影からちらちらと見え隠れし、セルジュはそれをじっと見つめる。  
「うっ…」  
驚く程早くセルジュは快感を得、トランクスの中を精液が満たす。  
「おいセルジュ!」  
しまった…。セルジュは思った。イク瞬間の振動で音を立ててしまったようだ。  
「てめえ何こそこそ見てんだ」  
「ごっごめん…」  
人には絶対に見せたくないであろう、有られもない姿を見られた後というのにもかからわず、いつも通りの強い口調。  
やはりキッドは、恥ずかしがる…などというものとは無縁らしい。  
壁の陰からでもセルジュの膨張した股間ははっきりと見てとれる。キッドはそれに気付くと、続けてこう言う。  
「ヘッ、なんだセルジュ。やっぱり俺様の魅力的な体に興奮したのか??お前ばかり見るなんて、太ェ野郎だ。出て来い」  
「うっうん…」  
 
一歩歩く度にゴワついたトランクスの着ズレが若い亀頭を刺激し、セルジュの顔を歪める。  
すると裾の脇から、先程セルジュが作り出した白い液体が糸を引いて垂れ落ちてくる。  
そのまま焚き火を挟み、キッドの正面に腰を下ろし、勃起した部分をかばう様にあぐらをかく。  
キッドに目を合わせられないセルジュは、どんな顔をしたらいいか分からなかった。  
「なんだよセルジュ。別に見られて嫌でもないんだぜ」  
その言葉を聞くと、早くなる心臓の鼓動を何とか静めつつ、チラリとキッドの体を見る。  
しかしパツンパツンになったハーフパンツの膨らみが気になり、やはり恥ずかしくてキッドの顔は見れない。  
「へへへ…。どうだこの量……。見られながらこうすると感じちまうぜ…」  
キッドのまだ幼さの残る性器からは、多くの愛液が滴り落ちる。  
ピチャピチャと音をたて、キッドは火照った身体を夢中にいじくり続ける。  
この、驚くほど自分の感情に正直なキッドを見ると、セルジュもまるでそうするのが自然のように、ハーフパンツのジッパーを下ろし、トランクスをめくるり、ギンギンに勃起したペニスを露にした。  
 
そして、既に白くくすんだ体液がこびりついたそれを右手で軽く握ると、上下に擦り始める。  
シュッシュッシュッ…  
セルジュがその行為を覚えたのはいつからであろうか。一人、毎晩のように繰り返す自慰を、今は女の目の前でしている──。  
リズミカルに摩擦を続けるその行為を、まじまじと見つめるキッド。  
「…。おい…下向いてないでこっち見ろよ。女の子のココ見るのなんて、どうせ初めてなんだろ?」  
「う…ん……」  
セルジュはキッドの体にそっと目を向ける。  
薄い純白のパンティはすでに膝の辺りまでズリ下げられており、キッドは両手でスカートをたくしあげ、これみよがしに自分の性器を見せつける。  
セルジュの興味深々の様子に、キッドはある確信をし、こう呟く。  
「ちぇっ、なんだ。レナとはまだヤってなかったのかよセルジュ?」  
「なっ何言ってんだよ。別にレナとはそんなことないんだって」  
「ふ〜ん…。レナはそうは思ってないみたいなんだけどなぁ」  
「えっ?どういう意味??」  
「ヘヘッ。つまり、セルジュとこういうことしたい…みたいなこと言ってたぜ…?」  
キッドは立ち上がると、メラメラと燃え続ける焚き火を周りこみ、セルジュの前へと歩き出す。  
 
「こっこういうことって…?」  
キッドはそのセリフは無視し、セルジュの股の間へ身をかがめる。  
そして先端から透明の液体を垂らし、ピクピクと震え、ギンギンに固くなったそれを口に含めると、慣れた調子で刺激を始める。  
セルジュはその女にされるがまま、快楽へと浸っていった。  
この初めての感覚に、セルジュは虚ろな表情を浮かべる。  
「うっ…ん……キっキッド…もっもう出るっ」  
キッドはなおも舌を絡ませ続ける。  
亀頭の表面、脇から裏側の筋へと、まるで何処が男に快感をもたらすのかを知り尽しているようだ。  
「あうっ」  
ビュッビュッビュッ  
セルジュの尿道から、大量の生臭い精液がキッドの口へと注がれる。  
しかしキッドはそれに構わず、射精によって硬度が落ち始める男根をしゃぶり続ける。  
キッドの淡い紅色の唇からは、唾液の混じった生暖かい濁白の液体が糸を引いて溢れ出す。  
その液体のヌメリが加わり、セルジュのペニスにまとわりつく快感はさらに増す。  
「キッキッド…。もっもうやめてよ……」  
 
拒絶するセルジュのこのセリフは、まるで真実味を持たない。  
キッドの後頭部に手を当て、自分に快楽をもたらすイソギンチャクの様な生き物を、さらに股間へ押し付ける。  
しばらくするとセルジュのペニスはまた、ガチガチの硬度を取り戻し、その軟体動物の刺激をダイレクトに感じ始める。  
セルジュの腰がピクピクと震え、次の射精が間近になった頃、キッドはようやくそのペニスを解放する。  
細い糸でセルジュの男性器とキッドの幼い唇が繋がり、やがて途切れる。  
その唇にまとわりつく子種を軟らかい舌でペロリと舐め取ると、キッドは今まで聞いたことのない、オンナの色気を感じさせるような声でこう言う。  
「フヘヘヘへ…。セルジュ…今度はお前だけ気持ちイイ思いはさせねぇぞ……?」  
 
「…だっダメだって。…もう…やめにしよう……」  
女のフェラチオを味わった後の余韻に浸っているセルジュは、このキッドの言葉にそう返すしかなかった。  
なにせそれはつまり──  
「はぁ?オレの聞き間違いか??もしかしてテメェは、こーんな可愛くて女らしくて純なコがセックスしたいって言ってんのに“やめにしよう”なんて言うつもりか??」  
──セックス…セルジュにとってはまだ経験したこともない未知な行為だったからだ。  
「…うん」  
「そうかそうか。オマエはそんなにレナが気にかかってんのか。では聞こう。オマエはレナとキスくらいしたのか?どうなんだ??」  
「っち、違うって!だから俺とレナはそんなんじゃ──」  
そう言いかけた瞬間、キッドの唇はセルジュの口を塞ぐ。  
あまりの不意打ちに、セルジュは間近のキッドの顔をただ眺めるだけだ。  
ピチャ…  
閉じられた目。わずかに荒い鼻息。初めて体験する、女の軟らかい唇。  
キッドは中腰の姿勢になり、その強引な口づけは、なおもセルジュを離さない。  
女の唇の温もりは、背中から全身の力を吸い取るようだ。  
「ん…」  
 
男の緊張が和らいだ頃、キッドはセルジュの口の中へと舌を侵入させる。セルジュとキッド、男と女の繋がった口の中で二つの肉が絡み合う。  
先程セルジュが射精した精子の生苦い味がキッドの舌に残って、二人のぬるい唾液と絡まり、互いの温もりを求め合うようなやり取りが続く。  
やがて女の頭が離れ、セルジュは再びキッドを見ると、毅然とした強気な態度で責めるような口調でこう言う。  
「…どうだ?女の接吻ってのは??率直な感想を聞こうじゃないか」  
「…。気持ち良かった…。でっでもさ…」  
「でも??なんだ????早く言ってみろ」  
「…セ……セックスは…やっぱよそうよ…。レナに…悪い……し…………」  
「ふっふっふっ…。やーっと本音が出たか」  
 
セルジュのどっちつかずの態度からようやく思い通りのセリフを吐き出させたキッドは、してやったりな得意気の表情を浮かべる。  
「だいたいな、セルジュ。男のクセにそんな弱気だったら、これから何〜も進展なんてしねぇぞ。まあ、レナもレナだけどな…」  
「…っ!関係ないだろ!?んなこといちいちキッドに言われたくないよ!」  
痛い所を突かれ、キッドの売り言葉に過剰反応するセルジュ。  
「だからな、オレは心配してんだよ」  
「キッドにそんな心配されるいわれは無い!俺はもう寝る!!」  
すると今まで丸出しになっていた自分の下半身をさっさと服にしまうと、セルジュはその場にごろんとふて寝を決め込み、二人の口喧嘩はこうして終わる。  
「ちっこのムッツリスケベの童貞のクセに」  
「…」  
キッドはこう吐き捨てるが、セルジュの反応は無い。  
真夜中の森林の閑散とした闇の中、鈍く鮮やかなオレンジ色の灯が二人の体を包み、パチパチと薪を弾く音だけが響いている。  
セルジュは目を閉じていても、キッドの気配を近くに感じていた。が──それは何のことはない、ただ自分の側で寝るつもりなんだろう…と思うだけで、不思議なことはまるで無かった。  
シュル…  
パサッ  
 
──?何の音だろう?そう思う間もなく、柔らかい声色が自分を呼ぶ。  
「セルジュ」  
薄く目を開ける。するとセルジュの前には、全ての衣服を脱ぎ捨てたキッドが立っていた。  
セルジュはしばらくの間、その細く締まった肢体の美しさにみとれてしまう。  
──薄い恥毛が生えたそこから、僅かに六つ腹筋が割れる下腹部、なだらかなくびれのある腰、小振りだが形の良いぷっくらとした乳房へと視線を流し、そしてキッドの顔へ目を向けると、先程の口喧嘩の時とは別人の様な“オンナ”の表情で自分を見ているのに気付く。  
その時までキッドは、セルジュが自分の全裸を観察する様子をじっと見ていた。  
そして自分と目が合うその瞬間を待ち構えていた様に、ニヤリと何かを企んでいる様な笑みを浮かべ──  
「…??」  
ガバッ!  
──次の瞬間、キッドはセルジュに向かって勢いよく飛びかかり、セルジュはその笑みの意味を理解する。  
「セルジュ〜〜〜〜〜!!!」  
「うわぁあぁあぁあ〜〜〜」  
セルジュの抵抗も空しく、あれよあれよといううちに上着、ハーフパンツ、トランクスと脱がされ、生まれたままの姿へとされていく。  
その二人の取っ組み合いは、まるで無邪気にじゃれあう子供の様だ。  
 
「くっくっく…無様だな、セル君」  
「なにすんだよぅ」  
マウントポジションを取られ、セルジュは成す術もない。  
そして自分の胸をセルジュの体に押し付けつつ、そのまま強引に口づけをする。  
「どうだ?オレの体は??へへへ、またお前のチンコ、おっ立ってきたぜ?」  
「…ん」  
しばらく目を見つ合い、二人の間に沈黙が流れる。  
「ふぅ」  
ごろんとセルジュの隣りに寝っ転がるキッド。  
そのまま添い寝しながらこう呟く。  
「だからなぁ。オレはお前と今やりたいんだよ。レナとやる前にな」  
「え……それって…?」  
「んっ??いやっだからな、どうせ童貞でも捨てねぇと、ずっとレナに何にもできねぇんじゃねぇかって思って、な?」  
「…」  
するとおもむろに起き上がるセルジュはそのままキッドの体に股がると、キッドの頭の両脇に手をつく。  
ぎこちなくキッドの左胸をまさぐりながら、ゆっくり唇を合わせる。  
生暖かい乳房の柔らかい感触、そしてキッドの荒い吐息を感じる。  
ドクン…  
意を決したセルジュは、自分のペニスをその女の性器へと近づけていく。経験の無いその行為に胸の高鳴りがより激しくなる。  
 
「へへ…そうだ。男はやる時はやらねぇとな…」  
このキッドのセリフが聞こえていないのか、返答する余裕がないのか、セルジュは懸命にキッドの股の入口をまさぐる。  
「落ち着けって。ほらここだ」  
セルジュのそれを優しくつまみ、先端をゆっくりと自らのワレメへと近づけていく。  
「…挿れるよ」  
「ああ…」  
ニュププッ  
「んっ」  
刺激に敏感な若い亀頭が子宮の内側とこすれ合わさり、その初めての快感の感動に浸る暇もなく、早くも股間に熱が沸き上がる。  
挿入の刺激に顔を歪めるキッドを間近で眺めつつ、セルジュはそのままの姿勢でなんとか射精を我慢するばかりだ。  
が──  
「んっ」  
ドクッドクッドクッ…  
「おっおい…!」  
──初めて体験するオンナの子宮の生々しい感覚に、セルジュの抵抗は無に等しかった。  
「はぁはぁ…出ちゃった…」  
「ったく…」  
 
 
 
キッドと一緒に寝転がり、高い木々の隙間から大小様々に輝く星空を眺めながら、セルジュは口を開く。  
「キッド」  
「なんだ?」  
「俺…今度……レナに告白してみる…」  
「……あぁ」  
 
 
 
山吹色の光が青黒い空をゆっくりと浸食していく。やがて眠っていた森は再び生命の活気を取り戻し、元気にさえずる小鳥が森の朝を知らせる。  
「おっし!セルジュ!さっさと見つけちまおうぜ!!」  
「ああ。手ぶらで帰ったらそれこそレナのカミナリが落ちるからな」  
──その後、丸三日かけて森を探し周り、ようやくコモド大トカゲを捕まえた。さすがにヘトヘトでレナの待つ村へと戻った二人。  
しかし、あまりの遅さに結局またセルジュとレナの大喧嘩が始まることになるのだった。  
しかしながらキッドは、セルジュにどんな感情を持っているのだろうか。  
キッドは、セルジュとレナの二人と長く一緒にはいられないことは薄々感じていた。  
レナとセルジュの仲の進展を望んでいるのは確かだが、もしかしたらセルジュに対し、特別な感情があるのかも知れない。  
 
END  

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