……誰が予想できただろうか。彼が再び、時の輪廻と関わろう事になるとは。  
彼自身、予測し得なかった事……クロノ、マール、ルッカ、  
馴れ合った仲間ではなかったが、旅を共にした者達がこの世を去った時から、  
もはやそのような因果とは交わらないと思っていた。  
 
だが、世界は今一度彼を―――魔王を、次元を行き交う物語と絡め合わせた。  
既にジャキの名を捨て、世界の謎と神秘を追う、一介の旅人に身を変えた男は、  
新たなクロノトリガー……セルジュと出会い、そして―――。  
 
 
 
(……新しく世界が構築されているのか…?)  
アルフは胸の中で呟いた。  
セルジュがクロノクロスを奏でた時、それまで相対していた時喰いは崩壊を開始した。  
時喰いに囚われたサラが解放され、光の中に消えていくと、  
戦いの場だった次元の狭間は急速に歪み、目まぐるしくその姿を変えていった。  
闇の中を細かい光の筋が走り、合間に、  
オパーサの浜、亡者の島の魂火、マブーレの水辺など、様々な風景が通り過ぎてゆく。  
恐らくは分たれた二つの世界が、この場所を中心にして混ざり合ってきているのだろう。  
 
ふとあたりを見回すと、いつの間にかアルフは一人になっていた。  
セルジュや、他の者の姿は見えない。  
それだけではなく、アルフの五感は天地の目標を失い、  
空間に漂っているような、奇妙な感覚を味わっていた。  
「俺も……『本来の世界』に送り還されるのか……」  
そう言ってから、フン、と鼻を軽く鳴らす。  
セルジュというパーツが補完された本来の世界―――、  
細かいところで、これまでの出来事、歴史が違う部分もあるやもしれない。  
が、どこに行っても自分は自分、自らを見失わない自信はあった。  
既に名は捨てているが、過去に魔王と称され、  
実際に多大なるチカラを秘めた彼だからこそ持てる、ある種の自負だった。  
 
空間の流れに身を任せ、静かに目を閉じる。  
その瞼の裏に浮かんだのは、光にとともに消えていった姉……サラの姿だった。  
天に昇りながら彼女はとても穏やかな表情をし……どこか笑みに似たモノさえ浮かべていた。  
ようやく時喰いから解放され、時空の虜囚の身に終止符を打たれた、  
そんな思いから成されたものなのか。……今となってはわからない。  
ただ、弟……アルフの心にも、そんな姿を見てかすかな安らぎが生まれた事は確かだった。  
 
 
(アルフ……)  
彼の名を呼ぶ姉の声が浮かんでくる。。  
魔法王国の、懐かしい思い出。もう忘れてしまったと思っていたのに、  
何故か今になって鮮明に頭の中で響く。  
(アルフ……アルフ……)  
「ねえ……さん………」  
思わず、わずかに唇を動かす。と、一つの疑問がアルフの心に生まれた。  
“アルフ……俺の新しい名前……。なぜ、姉さんがその名を…呼ぶ……?”  
その名はクロノ達との旅を終えてから名乗りだした名前。  
本来なら、もうずっと以前に別れた姉が、知るはずもない。  
そう戸惑う間にも、呼び声は続く―――、  
(アルフ…アルフ………アルフ…)  
「……アルフッ!」  
「!!?」  
それは幻聴ではなかった。姉の声によく似た、だが確かな現世の声が聞こえる。  
アルフは目を開け、首を動かしあたりを見回すと、遠くに人の姿が見えた。  
闇と、過ぎ行く光、世界の風景の中でもはっきりとわかる、  
金色の髪を持ち赤い服を身にまとう女性、キッド。  
「アッ、アルフッ、聞こえてんのかよ…!? こらぁっ!」  
空間の中でジタバタともがき―――だがあまり前に進まず、  
遠くから怒鳴り声に近い声を挙げていた。  
 
 
アルフはしばし呆然としてから、我に返りキッドの方へ流れていく。  
少しずつだが確実に近づき、数メートルのところまでたどり着くと  
二人は手を伸ばし、指を絡めて互いの身体を引き寄せた。  
「はっ…はっ……ど、どうなってんだ、いったい? 他の奴らは??」  
「わからん。俺も気づいた時は一人で漂っていた」  
その答えに、ハァー……っと溜息をつくと、キッドは改めてあたりの様子を伺った。  
やはりというか、二人以外に人の姿は無い。  
「これからどうなるんだ? 見覚えのある場所がドンドン流れていってるし…」  
「おそらく……本来の世界へと束ねられるんだろう。  
 俺たちが行き来した二つの世界―――それらが溶け合った、な」  
アルフの言葉に、キッドはブルッと身体を震わせる。  
「あ、あんまり想像できないな……この先の事なんて…」  
 
(しかし、何故俺たちがここにいる…)  
キッドが先の事を想像している中で、アルフは別の事を考えていた。  
ジャキと、彼の姉:サラの分身とも言えるキッド。  
二人がここにいるのは、これも時の因果が導いた結果なのか。  
 
時―――時喰い―――。  
そう考えて、ハッとした。  
「そういえば、お前は何処も変化はないのか?」  
アルフは唐突に訪ねる。少女は首をひねった。  
「何処って……何が?」  
「……あの時喰いとの戦いのあと、だ」  
「う〜ん……?」  
アルフからいったん手を離し、手のひらをグッグッと閉じ開きさせたり、  
肩を回したりするキッド。  
単純ではあったが自分に異常が見られない事を自認すると、改めて口を開いた。  
「別に変わったトコなんて……ないなぁ」  
「いや、ならばいいんだ……」  
「な、なんだよ。戦う前にオパーサの浜では、子どもみたいな幻に変なこと言われるし……。  
 もしかして、この変なトコでおかしくなっちゃうのか??」  
「そうじゃない。大丈夫だ、もう心配するな」  
不安げな表情を浮かべるキッドをなだめると、アルフは想像を巡らす。  
サラが時喰いから解放されてからも、異常なくキッドはここに残っている。  
ならば、そのまま彼女は彼女として、生きていく事になるのだろう。  
魂の奥底では姉……サラと繋がっているようだが、  
もう彼女自身はそれに囚われる事もあるまい―――。  
 
「ム……」  
アルフは目を細めた。  
通り過ぎていた光の筋の量が、急速に多くなっていく。  
闇に光の筋があるというより、光の中に影の線があるほどに、二つの割合は逆転していた。  
「アルフ、アルフッ!」  
言いようもない恐怖に駆られたキッドが、アルフにしがみついてくる。  
「怯えるな、俺はココにい―――」  
……そして二人は光の渦に飲み込まれた。  
 
 
ザラリとした砂の感触が肌を撫でている。照りつける太陽の輝きに射られ、  
アルフは重い瞼を開けた。  
彼は砂浜に倒れていた。そしてキッドも……。  
体を起こし、あたりを見ると、遠くに石で出来た港の建物や、帆船の影が見える。  
どこかで見た景色―――。  
「あれは……テルミナ、か?」  
残る記憶を掘り起こすと、確かにテルミナの一角と一致する。  
どうやら二人はテルミナ近くの浜で倒れているようだった。  
二度、三度頭を振り、意識をしっかりとさせる。  
傍らでうつぶせになっているキッドは、目を回しているが外傷のようなものはなさそうだった。  
ただ気を失っているだけらしい。  
しばらくして仰向けにしてやり、その頬を軽く叩いた。  
「う……う……ーん…」  
低いうめき声を出した後、カハッ…と一度咳き込み、キッドの目が開いていく。  
「なんだ……いった…い……オレ…?」  
ようやく鮮明になった彼女の視界に入ってきたものは、仮面をつけた妖しげな男。  
ギョッとした表情を浮かべると、よろめきながらもその身を離し、  
アルフに対して身構える。  
「だ、誰だ! こんなところでオレに何をッ……こんな……ところ…??」  
まだ意識が朦朧とするのか。軽くうめくとキッドは片手で頭を抑えた。  
 
余計な警戒を抱かせぬよう、仮面の男は勤めて穏やかな口調で質問する。  
「気付いたか……お前、自分の名前はわかるか?」  
「ば、バカにするな! オレの名は……キッド、そう、キッドだよ!」  
それを聞いて、フ……と、アルフの口元に安堵の色が浮かぶ。  
『本来の世界』に繋がっても、彼女の人生は記憶として構築されたらしい。  
だが、どうやらこの世界では、自分―――アルフと、キッドは  
『出会わない歴史』を刻んでいたようだ。  
 
「…質問には答えてやったからな。次はそっちの番だぞ!  
 オマエは誰だ、そんなヘンテコな仮面をつけやがって。なんでオレの側にいた!?」  
9割の威圧と、1割の不安で構成された口調でキッドが詰問する。  
一つ息を吐くと、アルフは自らの仮面を静かに外した。  
仮面の下から、ルビー色の目に代表される端正な顔立ちが現れ、  
キッドは思わず「ほぉっ……」と魅了されたような溜息をつく。  
そのような様を意に介せず、アルフは口を開いた。  
「俺の名はアルフ。お前達と―――」  
そう言って、アルフは気付いた。ここにはもはや、自分と目の前の女しかいない事に。  
やや間を置いて言い直す。  
「―――いや、お前と旅を共にしてきた者だ」  
 
 
宿の一室に甘ったるい熱がこもる。  
あまり華やかとは言えぬベッドの上で、一組の男女が絡みあっていた。  
「ア……んん」  
女の方は自らの金髪を揺らしながら、男の愛撫を味わっている。  
男は二人だけの時の常として仮面を外し、素顔で女との交歓に臨んでいた。  
キッドとアルフ……これが幾度めの交わりになるだろう。  
 
新たな―――キッドは以前の体験を思い出していなかったが―――世界に移ってから、  
二人は一年以上も旅を共にした。  
当初こそ『胡散臭いヤツ』とアルフを警戒していたキッドだったが、  
彼に敵意がない事、そして心の奥底に彼女を包むようなモノがある事に気付いてから、  
むしろ彼女から彼になつくようになっていた。  
そうなれば後は早いもの……。(この、本来の世界でも)育て親であるルッカを亡くし、  
天涯孤独の身になっていたキッド。  
強気な性格の裏で、身近な者への親交と愛情に餓えていた彼女にとって、  
アルフに同行者以上の感情を持つようになったのは、ごく自然な成り行きだった。  
そしてアルフも―――彼女の想いに応えるようになっている。  
 
キッドの脚間に顔をうずめているアルフは、その舌の動きを休ませた。  
(俺は……何をやっているんだろうな…)  
唇の端が皮肉るようにわずかに曲がる。  
もう一人のサラ―――キッド。一人の人間としてみた場合、彼女はサラとは別人である。  
万が一、アルフの子を身篭った場合でも、その子に近親性異常が表れる事はない。  
遺伝子レベルから別の女性なのだから。  
しかし、一つの魂から分たれた彼女ならば、  
ある意味アルフの『この世界』での肉親とも言える存在ではないのか……。  
そう考えると、今の身体を交える関係はどこか背徳的な匂いを帯びる。  
 
「ア…アルフ……?」  
キッドの口から、愛する男の名が紡がれる。  
それには止められた愛撫へのじれったさと戸惑いが含まれていた。  
「…どうした」  
「なに……考え込んでんだよ…」  
「別に。何でもない」  
「何でもない、って……気になるってば、んぁぁぁぁ!?」  
キッドの疑問は、自らの嬌声でかき消された。  
アルフの舌が再び秘裂をなぞり、溢れる媚液をわざとらしく音を立て吸い上げ始めたから。  
「ズ、ズルイぞ…そんなんで、黙らせようった…って……!!」  
強烈な官能の前に、そのままキッドは抗う声を失った。  
包皮から脱し、プクリと膨らんだ淫芽を、アルフの舌がねっとりとなぶってゆく。  
その度に身体の内を甘く、激しいスパークが駆け抜け、彼女の意識をかき乱した。  
男から与えられる責め……それに煽られ燃え上がった欲情は、  
彼女に生まれたかすかな疑念を、あっという間に溶かし消してしまった。  
「んふっ、んふぅぅっ!」  
口をパクパクとさせながら、鼻にかかった声を絞るキッド。  
秘所で舌を躍らせるアルフの頭に手を添え、ただ受け止める事しか出来ない。  
 
しとどに濡れきったソノ部分と、薄桃色に染めあがった肢体……。  
十分に快楽に囚われた様を確認すると、アルフは彼女の身体を裏返しうつぶせにさせる。  
そのまま腰を持ち上げ、後背位から亀頭を彼女の入り口に押し当てた。  
「ま、待って……」  
アルフの仕草に呼応し、キッドがベッドに手と膝を立てて四つん這いの格好を取り、  
互いの腰を動かしやすい姿勢をとった。  
「じゃあ、いくぞ」  
「う、うん」  
一つ声をかけ、アルフは腰をゆっくりと突き出す。  
ずぬぬぬ……男根が押し込まれ膣内を掻き広げると、キッドの中で新たな快感が生み出される。  
「い、んっ……ンッ……」  
イヤイヤをするように首を左右に降り、その圧倒的な感覚に抵抗しようとするが、  
結局のところ無駄な努力だった。  
アルフの、ゆっくりと、だが確実に快感を掘り起こす動作に、たちまち翻弄されてしまう。  
「あっ、あぁんっ、ふァァァ!」  
引き抜かれ、次の瞬間にはまた挿れられる―――。  
次第に部屋の外などを気遣う心も忘れ、打ち寄せる男の動きと共に、  
艶やかな吐息で肉感的な悦びを表現する。  
二人の結合部から流れる、ぬちゅちゅ、ずちゅちゅというイヤらしい音も、  
より強い欲情を引き立てていった。  
 
と、アルフはキッドの身体を抱え上げると、後ろから繋がった状態のまま自分の腰を後ろに降ろす。  
自然に彼女はアルフの股の間に座り込むような格好……後背座位のカタチになった。  
自らの体重で、キッドはスブスブとアルフのモノを飲み込んでゆく。  
「うぁぁ!? こ、こんなカッコって…スゴ過ぎ……くぅん!」  
それは加減もできない、突然の奥深い挿入。  
この体勢になっただけで、キッドは軽く頂きに達してしまった。  
アルフに腰掛けた姿勢で、ぶるぶると身体を震わせる。  
抱きかかえる男も、しばし動きを止め、相手が落ち着くのを待つ。  
―――ハァッ…ハァッ…―――切ない息継ぎが再開されてから、ようやく腰を揺らし始めた。  
「ちょっ……やぁん、こんなのぉっ! ダメッ、すぐにオカシクなるってばぁ!!」  
キッドの口から甲高い声が漏れる。が、それは拒否の意思ではない。  
四つん這いより強烈な刺激を受けるようになった身体は、アルフの注入に応えて上下に揺れ、  
彼女からも積極的に快楽を得ようとしている。  
最初は戸惑うように…そして、すぐに奔放な彼女らしく、大きな動きに変えていく。  
アルフもただ腰を上下に往復させるだけでなく、左右斜めに突き上げる方向を変えたり、  
小刻みな振動を加えたりと、巧みな変化を混ぜていった。  
「……そんなに、イイのか?」  
「イイとか、気持ち良いとかっ……もう、そんな…ぁっ……レベルじゃないよぉ……」  
細かく刻まれる悦びの声を抑え、ようやくまともな言葉を並べる。  
アルフは柔らかな含み笑いを漏らすと、腰の動きを保ったまま、  
彼女の耳を甘噛みし、肩口に舌を這わせ、片手で乳房を揉み、  
更なるいたわりと、愛撫を与えてゆく。  
そのつど、「ひゃうっ」「くはっ」と敏感な反応を表すキッドと、  
快楽を貪りあう、生理的な鬼ごっこを繰り返した。  
 
「アルフ、オレ……ふぁぁあ」  
「く…我慢しなくても…いい、お前がイキたいのなら……っつ」  
「で、でも、オレだけ…………あ、んっ、ダメ、やっぱりッ……もう、もうダメェッ!」   
押し寄せる愉悦に耐えられず、キッドの身体がガクガクと震え始める。  
四肢がとろけてしまうような錯覚に酔いしれ、自らを支える事も出来ない。  
それでも止まぬ互いの腰の動き。そして一際張り詰めた声が響く。  
「ダメだ、く、ぁん……もう、ヨ過ぎて……あっ、アァッ、あぁぁぁぁ―――!!」  
ガクンと大きく身体を揺らすと、背後から貫かれたまま、  
キッドはぐったりと後ろのアルフに身体を預けた。  
昇りつめ、動く事がなくなった彼女は、  
ただ唯一の反応として、結合している陰部から愛液を流し続ける……。  
 
ぐちゅ……湿った音を出し、アルフは女の腰を持ち上げ、一物を引き抜いた。  
それは精を解き放たないまま、未だ固く上を向いている。  
 
キッドはというと、肩で息をしながらシーツの上で横になっていた。  
甘いシビれが内に留まり、思うように身体が動かない。  
だが、全身のチカラを振り絞って上半身を起こすと、  
アルフの身体に擦り寄り、男根に手を添える。  
「ン……?」  
「このぉ…ままじゃ、はぁフッ…はっ…不公平……だろ?」  
上気した紅顔のまま、いたずらっぽく微笑むと、  
未だ彼女の愛液が乾かぬ男根に舌を這わせる。  
 
「ん…あ…オマエも、ちゃんと最後まで気持ちヨク……なってもらわないと…」  
自分のモノだった粘着的な蜜を舐め取るキッドは、  
20に届かぬ年に似合わず、ひどく淫らな姿―――。  
その様子を目にするアルフは、倒錯的な昂ぶりに襲われた。  
一旦口を離し、女は、唇の周りについた雫をペロリと舌で拭き取ると、  
逞しいアルフの分身を指で添え、そのまま上下にさすりだす。  
「……このままイッっちゃっていいから、な」  
もう片方の手は彼女自身の股間の火照りを慰めつつ、キッドの愛撫は続いた。  
なすがままにされているアルフの背筋を快い寒気が走り、  
張り詰めたモノの先に熱い濁流が集まってゆく。  
「ううっ…!」  
整った顔立ちがわずかに歪んだ瞬間、ペニスの先から白い液体がほとばしる。  
ビクン、ビクンとそれは打ち震え、次々と放出される種が、添えられている細い指先を汚した。  
放たれた精を悩ましげに見届け、キッドは自分の秘裂にあてがっていた指を離す。  
「ンフ…、 これでお相子だから」  
「お相子って、なぁ…」  
こんな時でも負けん気の強さを出すキッドに、アルフが呆れたような笑い顔で応じた。  
 
情事の後のけだるい雰囲気の中、キッドは横寝するアルフの身体の上に乗りかかり、  
幾多もの口付けを繰り返していた。  
口腔にはもちろん、頬やまぶた、首筋にまで、飽きもせず柔らかな唇を重ねる彼女に、  
―――流石にやや面倒に思いながらも―――アルフは好きなようにさせている。  
そのうち気が済んだのか、キスを止め上目遣いで男の美顔を見据えると、キッドが口を開く。  
「今日のお前……なーんか乱暴だったな…」  
「ん、それほどでもなかっただろう……」  
「いーやっ、オレがそう感じたから、間違いないの」  
不満、と称するには鋭さが欠けた口調に、睦み合いの相手を務めた側は逆に問い掛ける。  
「ああいうのは、好かんのか?」  
「あ、あ…なんて言うか……―――」  
四つん這いで、後ろから幾度も貫かれ、  
まるでケモノのように悦楽を求めていた自分。  
つい先ほどまでの乱れた姿を思い返し、キッドの顔が一瞬にして赤くなる。  
「べ、別に嫌だったってワケでも―――ナイんだ、けどさ……」  
いつもとは違う刺激を愉しんだ事を言葉の裏に示しつつ、恥ずかしさで一杯になった彼女は、  
それきりアルフの胸に顔をうずめてしまった。  
アルフもそれ以上追求せず、抱きつくキッドの背中に手を回す。  
彼の仕草に安心したのか。しばらくすると、キッドは穏やかな寝息を立て始めた。  
 
 
……旅を繰り返すうちに気付かされた事があった。  
この世界の謎と神秘はあまりに多く、広きに渡り、  
魔王と言われていた彼でさえも、全てを知り尽くすことはできそうにない。  
だが―――だが、今は傍らで眠る、優秀で愛しいトレジャーハンター。  
この相手がいれば、一人で旅を重ねるよりは、  
全てとは言わずとも、より多くの事象をこの手に収める事ができるのではないか?  
(ならば……)  
アルフは呟く。これからもキッドと旅を共にするのも、そう悪いことではないかな、と。  
そして半ば気付いていた。小難しい理屈とは別に、ただキッドを離したくない、  
そういう感情も確かに芽生えている事も。  
 
ここまで思い至り、彼はふと、自分の思考を可笑しく感じた。  
馴れ合いの関係など嫌っていた…魔王として孤高を誇っていた…自分が、  
いつの間にか、二人だけの旅はおろか、  
特定の者と身体を重ねる行為も厭わなくなっている事に。  
その発見は決して不快なものではなかったが、多少の驚きは禁じ得ない―――。  
 
 
窓の外はまだ、闇に包まれている。  
明日の旅立ちに備え、アルフはゆっくりと瞼を閉じた。  
夜明けまでのしばしの間、二人に安らぎの時間が与えられてもいいハズだった。  
 
---END---  
 

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