「ねぇ、ジーマ…いつまでこうしてるの?」
静かな夜の住宅街。古ぼけたアパートの向いの屋根の上。
ディタはいつものようにジーマの膝の上に座りながら、退屈そうに呟いた。
彼女が見つめる先には、狭い四畳半の部屋で楽しげに笑い合う男と女――否、男とパソコンがいる。
「もうあの子のプログラムが発動する危険がないなら、監視する必要ないと思うんだけど」
「いいじゃないか、たまにはこんな呑気なのも」
そう言うとジーマはディタを後ろから抱き締める。
「それともディタは、俺たちの本体がある…薄暗くて機械だらけのあの部屋に早く戻りたいのか?
戻ったところで面倒な任務を与えられるか、廃棄されるだけだぞ」
“あの子”の中に組みこまれた“あるプログラム”の発動を止めるために、国のデータバンクの端末として造られたジーマ。
そしてジーマを守るために造られたディタ。
既に任務を終えた二人にどんな処置が待っているかはわからない。
だがそんなことは、与えられた任務をプログラムに従って行うだけのパソコン自身が気にするべき事ではないだろう。
「ジーマ、それでもこの国で一番のパソコン?
自分の未来をあれこれ考えるなんて無駄な事、普通のパソコンはしない。…それじゃあ人間みたいだ」
皮肉たっぷりに言ったのに、後ろからはくつくつと笑いが零れる。そして
「それは嬉しいな」
呟いてジーマはディタを抱き締める腕を一層きつくしてくる。
以前は居心地の良かったこの腕の中だが、最近、妙に居心地が悪いとディタは思う。
ただ抱き締められているだけだというのに、体中をたくさんの情報が駆け巡るのだ。
わけのわからないその情報は、処理しきれずにディタの機能を恐ろしく麻痺させる。
声は出ず、体も動かず、他の事は何も考えられなくなって、体中の回路がショート寸前に熱くなって…。
「……って、どこ触ってるの!」
「どこって胸だろ?」
ジーマはしれっと言い放ち、ディタのほとんど膨らみのない胸を服の上からやわやわと撫で回す。
「俺とお前は、かなりの国家予算と最先端技術の粋を集めて造られた、“あのお嬢さんを除けば”この国で一番のパソコンだ。
それは中に積んでいるOSだけじゃない」
「どう…っ、ふ…いう、こと?」
飄々と語りかけながら、ジーマはディタの胸を弄ることを止めようとはしない。
次第にディタの頬が紅潮し始め、甘い吐息が零れ始めていた。
「ボディに関してもこの国で一番を目指して造られたそうだ」
言いながらジーマはディタの細く白い首筋に舌を這わせ、両手で胸の頂点を強く摘んだ。
「ん、あッ!」
「とりあえず外側の感度はなかなか良好だな。こっちの方は…」
するりとわき腹を撫で下ろし、ジーマの手がディタのホットパンツに伸びる。
「ッ!?…ふざけないで!こんなことして何になるの!?」
「“パソコンとしての性能”は、俺もお前もあのお嬢さんにわずかに及ばない。
でも“こっち”なら勝てるかもしれないぞ?」
先日、あの子を破壊できずに不戦敗を記してしまったディタのプライドをジーマはくすぐる。
「…あの子に、勝てる……?」
「可能性はある。だから、お前の体をいろいろ調べてみたいんだよ」
見下ろせば、明るい部屋で白いふわふわの服を着て楽しそうに笑っているあの子。
あの子を見ているだけで、ディタの中でチリチリと何かが焦げる。
スカートからのぞく柔らかそうな太腿、くびれた腰、膨らんで服を押し上げる胸、流れる金色の長い髪、そして太陽のような笑顔……全てディタには無いもの。
「…わかった」
ポツリと呟いて、ディタはその身をジーマの腕の中に預けた。
「調べたいなら、好きにすれば?」
あの子に勝ちたい一心でそう言ってはみたものの、十数分足らずでディタは自らの言葉を後悔する事になる。
頭から首、腕、指先、胸、背中…あちこちにキスを降らされたのは、仕方ないと諦める。
強く首筋に吸い付いてキスマーク(しかも桜の形になるように)を付けられたのも、まぁ許すとしよう。
胸を露にされて撫でまわされたのも、まだ我慢できる。
しかしさすがにホットパンツのジッパーを下ろされ、差し入れられた手でくすぐるように触れられると、甘い吐息が零れてしまう。
「…んっ…はぁ、ん…」
触れるか触れないかの所で、指先はディタの疼くソコを掠めていく。
長身のジーマの膝の上で後ろから抱き締められているディタには、微かに身を捩るしか抵抗の術はない。
「本当に、ディタはかわいいな」
ふっと笑ってジーマがディタの頭にキスを落とす。
そんな微かな感触にさえ、ディタの体は震えてしまう。
「ちょっと腰上げてくれるか?」
ぼんやりした思考回路は拒否することなくその言葉に従う。
するりと大きな手が腰に伸び、あっという間にホットパンツと下着を脱がされた。
そしてジーマは膝を立て、足を開いていく。
彼の太腿の上に跨っているディタは、必然的に脚を大きく開かれる形になる。
「…ジ、ジーマッ!?やめてよ、こんなの!誰かが下を通ったら――」
「ディタのいやらしいところが丸見えだ」
言うや否や、ジーマはその長い指をディタの中に一気に突き立てた。
「っは、ああぁあッ!!」
ガクガクと震えるディタの体を抱きとめ、ジーマの指は容赦なくソコを掻き回す。
指を一本から二本に増やして手前をくすぐり奥を抉り、空いた指で上方にある紅い突起を摘み上げる。
「ひぅっ!…ん、く…はっ…あ、ぁッ…」
「すごいな、ちゃんと濡れてきたぞ?」
くぷ、と音がして引きぬいた指をジーマはディタの目の前にかざす。
咄嗟にディタが顔を背けたその指は、粘度の高い透明な液体で濡れ、指の間に糸さえ引いていた。
「…ディタ」
優しく呼ばれて反射的に顔を上げた瞬間、顎をつかまれ、濡れた指を口に突っ込まれた。
「ぅんんんんっっ!!」
「おいしいか?」
いっそ指に噛み付いて食いちぎってやろうかとディタは思った。
しかしジーマの保安プログラムであるディタには、ジーマを傷つける事はできない。
ましてや「スケベ!変態!エロオヤジ!ロリコン!」…などと頭の中で叫んだ所でどうにもならない。
口に突っ込まれた指が次第に優しく動きだし、空いていたもう一方の手がディタの手を掴む。
「触ってみるか?」
その意味を解するより先に、指先に生温かく濡れたものが触れる。
蠢くソレは、まるで生きているようだった。
そえられたジーマの手にわずかに力が入り、そのままディタの中指がくぷん、と自分の中に飲み込まれた。
「指動かして自分のイイ所探してみな?…そう…いい子だ」
上ではジーマの指に口を犯され、下では促されるままに自分で自分を弄ぶディタ。
空いた手で、ジーマは再びディタの胸を揉みしだく。
「…ふぅ、ん…んんぅ…」
くちゅくちゅと卑猥な音を立てながら溢れ出した液体がディタの手を濡らし、零れて水溜りを作る。
口の端から涎が零れるのも構わず、ディタはとろんとした瞳でジーマの指をしゃぶる。
思わずジーマは苦笑した。
あの勝気で真っ直ぐな少年のようなディタがここまで淫らに乱れるとは想定外。
ましてやそれを見ているだけの自分の体も反応し始めようとは。
「…ぅ…ふあっ…」
不意に口から引きぬかれたジーマの指を、ディタは物欲しそうに目で追う。
「こっちはもういい」
短く告げるとジーマはディタの体を横たえ、上から覆い被さった。
「…もう調べ終わったの?あの子に勝てる?」
問われて「あぁ、そういう話の流れだったな」とジーマは気付く。
「ね、ジーマ…」
細い腕が伸びてきて、ジーマの首に絡み付く。
「わたしとあの子、どっちがこの国で一番?」
「そんなの―――」
お前が一番に決まってるだろ、と言いかけてジーマは口篭もる。
折角だからもう少し、従順で淫らなディタを楽しみたいと思ったのだ。
「――本当の使い方をしてみないとわからないな」
「本当の…使い方…?」
「そう。ココの本当の使い方を、な」
言いながらジーマは再びディタの中に指を埋める。
「“あの人”は自分の願いを試すためにお嬢さんの起動ボタンをココにつけ、再起動するたびに初期化…つまりお嬢さんが記憶を失うように造った」
「だから…ん…アイツは、あの子と“せっくす”できなくて、ぇ…ドーテイ。
毎晩、あの子に…“ふぇら”とか、ぁん…“テコキ”させて…シャセイしてる。
…そんなの、もう見飽き……あッ…」
頬を染めて自分の下で身悶えながらとは言え、こうも淫語を連発されれば、流石のジーマも閉口せざるを得ない。
もっともそれらを実況しながら教えたのはジーマなわけだが。
「あ〜……話、戻すぞ?
お嬢さんのココにはボタンが有るから、ココ本来の機能はきちんと再現されていない。
でもディタのココにはボタンが無いから、機能がきちんと再現されている可能性が高い。
事実、お前のココはもうこんなに濡れている」
「だったら、ぁ…もう、っん…わたしの…勝ちで…」
「いや。もっとしっかり中の方を調べないとわからないな」
ともっともらしい事を言いながら、ジーマは前を寛げて自身を解放した。
「……な…何ソレっ!ジーマの、アイツのよりかなり大きくないッ!?」
ディタが絶叫する。
既にいきり立ったソレは、ここ数周間の監視中に見た本須和のモノとは比べ物にならないだろう。
(※注・本須和のモノが平均と比べてどうか、という点に関してはここでは明記しない。)
薄く笑みを浮かべたジーマはディタの膝を割ってその間に腰を据える。
「“この国で一番”を目指して造られたのは、お前だけじゃなく俺もだからな。
しかも兄妹というコンセプトで設計されたから、俺は大きくてお前は小さい」
「無理っ!絶対無理ッ!そんなのぶち込まれたら絶対壊れるっっ!!」
振り上げられた拳を冷たいコンクリートに押え付ける。
バタバタと抵抗する脚も、腰さえがっちりと掴んでしまえば欲情を煽るだけ。
ジーマは有無を言わさず一気にディタを貫いた。
声も無く華奢な体が一瞬で硬直する。全身を小刻みに震わせ、拳を強く握り締めるディタ。
しかしそんなディタの様子に気付くでもなく、ジーマは自らの快感に酔い痴れた。
「っ…さすが、だな…食いちぎられそうだ…」
熱く不規則に弛緩を繰り返すソコは、まさに生きているように蠢き絡み付く。
止まっているとそのまま飲み込まれてしまいそうで、ジーマは激しく腰を動かした。
「……思った…以上だ…!…んっ…」
人間さながらに再現された花弁は肉棒に抉られる度に卑猥に歪み、多量の蜜をこぼす。
ぬるりとしたその感触がジーマを包み、潤滑油となって一層動きを加速させる。
「…はっ、…いいぞ、ディタ………おい、ディタ?」
ジーマはふと、黙ったまま何の反応も示さないディタの顔を覗きこんだ。
唇を噛み締め、ぎゅうっと目を閉じ、大粒の涙を零すディタ。
とても快感を享受しているようには見えない。
そっとジーマが二人の繋がった部分を見下ろすと、零れる液体にわずかに朱が混じっていた。
「もしかして……痛いか?」
ジーマの問いに、ディタは黙ったまま微かに首を上下させた。
それはジーマの予想の遥か斜め上をブッ飛んでいく新事実。
人間の女性に基づいて忠実に再現されたディタのソコは、処女膜と破瓜の血と痛みというオプションが付けられていたのだ!
この国では既に“夜専用”のパソコンが開発・実用化されているが、ここまで忠実に再現されたパソコンが開発されたというデータはジーマの中にはない。
「この国で初…これが本当の“初物”」
「…誰が上手いコト言えって言ったの」
わずかな沈黙の後、どちらともなく微かな笑いが零れる。
「こんなところに税金使うなんて無駄だね」
「ちゃんと使えば無駄にならないぞ?」
ぐ、とジーマが腰を擦り付けると、わずかにディタの顔が歪む。
その表情に躊躇いを見せたジーマの頬に、ディタがそっと触れた。
「大丈夫。…好きにしていいよ、ジーマ。
わたしは元々ジーマを守るために……ジーマのためだけに存在するんだから――」
「…ん、ん、ん…はっ…ぅ、ふ…」
小刻みで緩やかな律動にディタは微かに吐息をもらす。
好きにしていいと言ったのに、ジーマはディタの様子を伺いながら穏やかにしか動かない。
その優しさが嬉しくて悔しくて、せめてもの抵抗に首に回した腕に力を込めると、そのままキスが降ってきた。
優しかったキスは次第に深くなり、貪るように互いの口腔を犯していく。
声帯で声を出しているわけではない自分たちになぜ舌があるのかディタは疑問に思っていたが、やっとその理由がわかった。
互いの舌が触れて絡み合うだけで全身が熱くなり、どうしようもなく快感が広がっていく。
それはまるで合法ドラック。
「はっ…ぁ…中毒、になりそ……っん…シアワセって、こういうの…?」
肩で息をしながらディタがぼんやりと見上げると、見る間にジーマの眉間にしわが寄る。
「…悪い。限界だ」
言うやジーマはディタの腰を抱え上げて中腰になり、上から一気に突いた。
「ひッ、ああああぁああッ!!」
一瞬、目の前が真っ白になった後、ギシギシと体が軋む感覚でディタは我に返った。
抱え上げられた腰はちょうどディタの眼前にあり、二人が繋がっている様がありありと見える。
激しく上下する肉棒、巻きこまれ絡み付いて形を変える紅い花弁。
じゅぼ、ぐぽ、と絶え間なく聞える水音と共に、抉られて掻き出され、飛び散る愛液。
「っ…ぐ…あっ…は、激し、過ぎッ…ぁ!あッ…」
ぐいぐいと上から体重を掛けて最奥を抉られたかと思えば、ずるりと引き抜かれ、完全に抜け落ちる寸前でそれ以上のスピードで押し戻される。
縋るものの無いディタは、ただ拳を握り締めるしかない。
「…アっ、はぁんッ!…ダメ……コワれるっ!…ア、ぁあああッ!!」
頭からつま先まで強烈な電気が走って硬直し、ガクガクと痙攣して再びディタの意識が飛ぶ。
それと同時にジーマも衝動に任せて、込み上げた欲情の全てをディタの中に放った。
「……っ、はぁ…」
ディタから体を離し、大の字に寝そべったジーマは大きく息を吐いた。
何とも言えない気だるさが全身を包む。
一体、ジーマとディタの製作者たちは、何を思ってこんなところまで二人を人間そっくりに造ったのだろう。
ただ出来るというそれだけの技術への挑戦か、それとも“エルダ”のように何か願いを託されているのか。
不意に、隣のディタがもぞもぞと上体を起こす。
「…大丈夫か?」
返事は無く、どこかボーッとしたままディタは俯いている。と、おもむろに脚を開いた。
こぽりと音がして白濁した液体が零れだし、白く細い太腿をゆっくりと伝っていく。
ゆるりと華奢な手がソコに伸び、指先で拭った。
掬い取ったその液体を物珍しげに眺めたかと思うと、ディタはちゅぷと口に含んだ。
「…ん……ぷ、は…」
指を口から離しながらディタはちらりと横目でジーマを見る。
思わずジーマは視線をそらした。治まったはずの熱が体を、回路を再び熱く焦がす。
必死で「X=sinβ+…」などと小難しい数式を思い浮かべようとするが、まったく思考がまとまらない。
そうこうしている内にディタはジーマの腰に跨り、後ろ手でジーマ自身を握っていた。
「ぅ、おあっ!?ま、待て、ディタ!」
慌てふためいて制止するジーマの声も聞かず、ディタはそのまま腰を落した。
「あぁんっ!…はッ、入ったぁ…」
ふわりと笑みを浮かべたディタは、ジーマの腹に手をついて腰を振り始める。
「……ココ、熱い…わたし、壊れちゃった…かもっ…」
体重を掛けて奥まで飲みこみ、前後左右に擦りつけて円を描いてぐりぐりと抉る。
「ぁ、あ…どう、どうしよっ…止まらな、ぁ…はぁんッ!…ジーマ…ジーマぁッ…!」
蕩けきった顔で切なげに悶えながら、ディタはジーマの上で美しく淫らに跳ね踊る。
「俺は……この国で一番…シアワセなパソコン、だな…」
今夜は眠れないだろうという確かな予感に苦笑しながら、ジーマは与えられる快感に身を委ねた――……。
「……す…すげぇ……」
古いアパートの窓辺で外を見上げ、本須和はぽつりと呟いた。
「どうしたのヒデキ?もっとすごい“えーぶい”外にある?“あおかん”?」
「わわッ!こ、こら!ちぃは見ちゃだめだ!」
本須和は慌ててちぃの目を両手で塞ぐ。
「ちぃ?…ヒデキのここ、元気。ちぃ、がんばって処理する!」
明日、厚手のカーテンと耳栓(二人分)を買ってこよう…などとぼんやり考えながら窓を閉め、本須和は自分の足元にうずくまるちぃの頭を優しく撫でた。
夜も更け、東京タワーに沈む月が重なる。
その姿はまるで古代バビロニアの人々が夢に見た“天まで届く塔”。
不可能を可能に、夢を現実にしてきた人間の背に翼が生える日はそう遠くないかもしれない。
人ではない命もシアワセになれる…そんな日が来たのだから。
(終)