「大星団ゴズマ! 地球乗っ取り作戦!!」  
 
エピソード1「赤い果実」 
 
「ん……んう〜〜〜〜ん」  
 さやかは喘いだ。少しづつ意識を取り戻し始めたようだ。  
「あ…はあ……ん、くうっ、ん、ん〜〜ん」  
 しかしアハメスから受けたダメージは重く、まだ朦朧としている。  
ズッキ―――ン  
 さやかの全身を激痛が駆け抜けた!  
「あっ、つ!?痛たたたた」  
 痛みの刺激に朦朧としていた意識が一気に覚醒へと向った。  
「うあっ」  
 うなだれていた頭が跳ね上がり、背すじがビクン、と反り返った。  
「うううっ、あっ、はっ、ああっ」  
 激痛のためか、言葉は意味をなさない。もがくさやかのからだが揺れた。  
「グフォフォ、お目覚めか?渚さやか」  
 聞き覚えのある声が耳に入った。しかし激しい苦痛に喘ぐさやかはそれが誰なのかすぐには思い出せなかった。  
「はっ、ああっ……うぐっ、つっ……だ、誰っ?」  
 苦しい息をしながら誰何するさやか。  
「グフォッ?オレがわからないか?マーゾだ。宇宙獣士のマーゾ様だ。思い出せ!」  
 マーゾがさやかに語りかける。  
「マ、マーゾ?」  
 曖昧模糊としたさやかの記憶が次第に形をなす。  
「あっ……あたし……アハメスと戦って、それで……」  
 ズッキ―――ン  
「うあっ、あっ!」  
 再び激痛が走り抜ける。身をよじって苦痛に耐えるさやか。マーゾの触手で宙吊りになったさやかのからだがブラブラと揺れた。  
「どうした?痛むのか?」  
 マーゾが尋ねた。しかしさやかは答えるどころではない。全身を襲う激痛をこらえるので精一杯だ。  
 
「う、あ、はあ……ひぐっ」  
 脂汗を流して苦しむさやか。背すじがビクリと跳ね、痙攣を起こす。  
「キュウ―――ン」  
 バンバが子犬のような声で鳴いた。まるで苦しむさやかを心配しているかのようだ。  
「そんな声を出すなバンバ。こいつは敵だ。お前のからだを切り裂いたのを忘れたわけではあるまい?」  
「キュ〜〜ン」  
 マーゾにたしなめられ声を落とすバンバ。  
「うぐっ、がっ、はあああっ、いっ」  
 次第に呻き声が激しくなる。からだの痙攣も止まらない。  
「キュキュウ〜〜ン」  
 苦しみ悶えるさやかを見ていられなくなったのか、バンバは巨大な口を開き、長い舌を伸ばしてさやかの頬を舐めた。  
 ペロペロッ ペロペロッ  
 リズミカルに舐める様はまさしく犬のようである。  
「どうしたバンバ?ご主人様でも思い出したか?仕方のない奴だ」  
 マーゾはあきれている。  
「キュウ〜〜〜ン」  
 ペロペロッ ペロペロッ ペロペロッ ペロペロッ  
 必死にさやかを舐めるバンバ。  
「ふっ、あっ、はあっ、いっ、くあっ」  
 しかしさやかの苦悶は一向に治まる気配がない。  
「ウ――ブルルルオ―――ン」  
 バンバの鳴き声が遠吠えに変わった。なんともいえない哀切感がこもった遠吠えだ。  
「バンバ、お前この女を助けたいのか?」  
 マーゾが問う。  
「ブルル、ブルルル」  
 バンバの唸り声には肯定の響きがあった。  
「今助けても、アハメス様が戻って来ればどうせ処刑される。無意味だ」  
 マーゾは指摘する。  
 
「ウォ―――ン、ブルルルルルウォ――――――――ン」  
 バンバの遠吠えはますます大きくなった。悲壮感すら漂っている。  
「わかった。わかったからその哀しげな鳴き声はやめろ。こっちまで暗くなる」  
「ブルル?」  
 マーゾの言葉におとなしくなるバンバ。マーゾのツタが絡まり合っているとしか思えない右手の、人差し指の先と思しきあたりから鋭い針状のモノが生えてきた。  
「今からこの女に麻酔を行う。オレの体内で合成した地球人用の微量の麻薬を注射すれば、しばらくは苦痛を止められるだろう。それでいいな?」  
「キュウ〜〜〜ン」  
 自分の願いを聞き届けられ、嬉しそうなバンバ。  
「とりあえずこの女、降ろすぞ。手伝え」  
「キュンキュン」  
 マーゾは触手を操って苦痛に悶えるさやかのからだを空中に吊られた状態から降ろしにかかった。バンバもさやかの脚に絡んだ触手を操作し手伝う。  
「よし、あのあたりに降ろすぞ」  
 マーゾは比較的たいらで、小石が少ないポイントを指示した。マーゾとバンバは協力してそのポイントにさやかの肢体をやさしく横たえた。  
「ぐっ、はあっ、ひっ、いいっ」  
「キュ〜〜〜〜ン」  
 苦悶するさやかを心配そうに覗き込むバンバ。  
「まずは注射だ」  
 マーゾは仰向けに横たわるさやかの、首の下に左手を挿し入れ上体を起こすと、さやかの首すじに右人差し指から飛び出した針を近づけた。  
「うぐっ、ああっ」  
 身悶えするさやかのせいで、針の狙いが定まらない。  
「おいバンバ、見てないで手伝え。この女の動きを止めろ」  
「キュウ〜〜ン?」  
 マーゾに言われてゴツイ腕をさやかの顔へと伸ばすバンバ。  
 
「違う!その不器用そうな手じゃなくて、触手を使え。そっちの方が簡単だろ?」  
「キュン!」  
 慌てて手を引っ込めるバンバ。それからさやかの両脚に絡んだ触手をほどく。  
「よし、そいつでこの女の頭を固定するんだ。そっとだぞ?慌てて首をへし折ったりするなよ?」  
「キュンキュン」  
 マーゾの本気だかジョークだかわからない指示に従い、バンバはさやかの頭へと触手を伸ばした。  
 シュルル シュルルル  
 一本は後頭部のあたりを、もう一本であごを押さえるバンバ。身悶える首の動きがピタッと止まった。  
「うまいぞ。動きが止まった。さあ、お嬢さん、注射の時間だ……」  
「ううっ、ふぐっ、いっ、ぐうっ」  
 固定されたさやかの首に再び針を伸ばすマーゾ。  
 プチュッ  
 慣れた手付きで針を刺す。  
「ひっ?」  
 針が刺さったのを感じたのか、一瞬さやかの喘ぎが止まった。  
「心配するな、ただの麻酔だ。すぐに楽になる」  
 適量の麻薬を注射するとマーゾは針を抜く。  
「もういいぞバンバ」  
「キュン」  
 バンバは触手をさやかの頭から放し、覗き込む。さやかは未だ治まらぬ苦痛に喘ぎ、パンチラも気にせず自由になった両脚をひとしきりバタバタさせていたが、やがておとなしくなった。麻酔が効いたようだ。  
「気分はどうだ、渚さやか?」  
 マーゾが尋ねる。  
「はあっ……痛みが消えたわ……楽になったみたい……」  
「そいつは良かったな」  
「お礼を言うべきかしら?」  
「礼ならバンバに言え。あいつがお前を助けたがったんだ。オレは放っておくつもりだったんだが」  
 首の後ろをマーゾに支えられて上体を起こした格好で、さやかはバンバの怪物じみた顔を見上げた。  
 
「キュ〜〜〜ン」  
 子犬のように鳴きながら長い舌を伸ばすバンバ。  
「ちょっ、や、やめて!?」  
 自分の顔に迫る不気味な舌を避けようとしてさやかは、上半身が拘束されていることに気づく。  
 ペロペロッ ピチャッ  
「きゃっ?やだ、やめて!くすぐった〜〜〜い」  
 舌を避ける術がなく、くすぐったさに脚をバタバタさせるさやか。  
 ペロッ ピチッ ピチャッ  
「いやん、もうやめてよ〜〜くすぐったくて死んじゃう〜〜」  
「おいバンバ、そのへんにしておけ。あんまり敵とじゃれるとアハメス様がお怒りになる」  
「キュ〜〜ン」  
 しぶしぶ舌を引っ込めるバンバ。名残惜しげな風情だ。  
「ふうっ」  
 ようやく舌から解放されて一息つくさやか。その顔はバンバのよだれでベタベタだ。  
 ペキッ  
 小枝をへし折るような音がした。  
「バンバ、食え」  
 手にした赤い球状の物体をバンバに投げるマーゾ。  
「ブルッ」  
 巨大な口を開けてキャッチするバンバ。  
「キュウ〜〜〜〜ン、キュンキュン」  
 赤い玉を噛み砕き、美味しそうな鳴き声を立てる。  
 ペキッ  
 再び聞こえたその音は、マーゾの胸のあたりに生えた真っ赤な果実をもぎ取る音だった。マーゾは植物型の宇宙獣士なのだ。  
「渚さやか、お前も食うか?」  
 さやかの口元に差し出すマーゾ。果実は少し小さめのりんごに似ていた。  
「きゃっ!」  
 叫んでさやかは顔をそむける。  
 
「それ、ツタみたいなのが出てくるんじゃないの?」  
 以前、マーゾはゴズマの作戦で市街地に赤い実をバラまいたことがある。その実が成長すると、ツタのような触手を伸ばして人を襲う“人喰い植物”になるのである。  
「グフォフォフォ、あれとは違う。マーゾルシアンの実は宇宙では高級なフルーツだ。地球人の味覚にも合うはずだぞ?」  
「マーゾルシアンの実?」  
 疑い深げに赤い実を眺めるさやか。  
「そうだ。……毒でも入ってると思うのか?お前を殺す気ならさっき麻酔の代わりに毒を注入することも出来たのだぞ?」  
「それはそうだけど……」  
 さやかの言葉は歯切れが悪い。  
「敵のほどこしは受けん、というわけか?立派な心がけだが、まあ食べておけ。最後の食事になるかもしれんからな」  
「最後の、ですって?」  
 さやかは驚いて振り返った。  
「そうだ。アハメス様が戻って来ればすぐ処刑が始まる。お前の命もあとわずか、というわけだ」  
「………」  
 ショックを受け黙り込むさやか。  
 シュルルッ  
 マーゾはさやかの両腕のいましめを解いた。  
「えっ?」  
 不思議そうにマーゾの顔を見上げるさやか。  
「これで食べやすくなっただろう。おっと、ブレスレットは外させてもらったぞ?またあのレーザーを喰らうのはごめんだからな、グフォフォフォ」  
 愉快そうに笑うマーゾ。  
「あっ?いつの間に!?」  
 左手首を右手で押さえてさやかはマーゾを振り返った。  
 
「グフォフォ、気絶している間は無防備だったぞ?いつでも盗れた」  
「返してよ!!」  
「ダメだ!捕虜に武器を渡すバカがいると思うか?」  
「むぅぅ……フン」  
 頬をふくらませてソッポを向くさやか。  
「グフォ、ホラ、食え」  
 さやかの胸元目がけ、ポイと実を放るマーゾ。  
「きゃっ」  
 反射的にさやかは受け取った。  
「美味いぞ。……朝食はまだだろう?腹が減ってはいないのか?」  
 一晩中異星人を探し回り、朝は大立ち回りをやってのけたさやかのお腹はペコペコだった。赤い実から甘い香りが立ち昇り、さやかの鼻孔をくすぐった。  
 シャリッ  
 ついにさやかは実を齧った。  
「!?あっま〜〜〜い!!」  
 赤い実はとても瑞々しく、上品な甘さの果汁がさやかの口に広がった。  
「すっごくジューシィだわ。こんなの初めて!!」  
 シャリシャリッ シャリッ  
 むさぼるようにさやかは実を齧ると、あっという間に食べ尽くした。  
「もう一個どうだ?」  
 マーゾがもうひとつ実を差し出す。  
「え?いいの?あなたの分は?」  
 マーゾと視線を合わせて尋ねるさやか。  
「おいおい、共食いさせる気か?オレは食わんよ」  
 マーゾは呆れる。  
「あ、そうか。……だったらあなた、何を食べてるの?」  
 実を受け取りながら質問するさやか。  
 
「ン?オレか……水……かな?」  
「水?それだけ?」  
「オレは植物だからな」  
「そっか。じゃ、お返し」  
 天空に向けて右手を上げるとさやかは気を集中する。  
「むぅぅぅぅ」  
「ン?何をする気だ?」  
 マーゾの問いに答えず気を集中し続ける。  
 やがてポツポツと水滴が降り始めた。  
「何?雨か?」  
 そんなはずはない。ここはハードウォールに囲まれた閉鎖空間なのだ。  
「この水は……お前の仕業か!?」  
「うふふ」  
 にっこり微笑むさやか。気象コントロールは得意技なのだ。  
 ザッ  
 水滴は次第に量を増し、一気に降り出した。まるでスコールだ。  
「キュ〜〜〜ン、キュキュ〜〜ン」  
 突然の雨にはしゃぐバンバ。  
「おいっ、やりすぎじゃないか?」  
 マーゾが咎める。  
「そ、じゃ、お〜しまいっと」  
 さやかが右手を下ろすと雨はピタッと止む。  
「ほお、凄い力だな?」  
「お味はど〜お?」  
 いたずらっぽい表情でさやかは問う。  
「ン?ああ、なかなか美味い水だったぞ?」  
「ホントにい?」  
「ああ、本当だ。かなり強いエネルギーを感じる。これがアースフォースというやつか?」  
 感心するマーゾとさやかの視線が絡み合う。  
 
「うふ」  
「グフォ」  
「うふふふ」  
「グフォフォフォ」  
「うふふふ、クスクス」  
「グフォフォフォフォフォフォ」  
「クスクス、うふ、あはははははは」  
「フォフォフォフォフォフォフォフォフォフォ」  
 ふたりで大爆笑するさやかとマーゾ。不思議そうに眺めるバンバ。一気に雰囲気が明るくなる。  
「あはははは、ね、マーゾ」  
「フォフォフォ、フォ、なんだ?」  
「これ、外してくれない?」  
 上半身に巻きついた触手を指差すさやか。  
「ム?ダメだ」  
「なによ、ケチ」  
「ダメなものはダメだ!」  
「フ〜〜ン、そんなにあたしの胸に触っていたいんだ?H!!」  
 マーゾの触手はさやかの柔らかな胸を締め付けていた。  
「ムゥ?あ、これは失礼」  
 慌てて触手を緩めるマーゾ。  
「あ?こら、何をする?」  
 触手の緩んだ隙にうしろを向いて、さやかはマーゾに抱きついた。  
「何だ?色仕掛けか?」  
「ん〜〜ん、親愛のしるし」  
 さやかのしなやかな肢体を胸に抱き、マーゾは内心ドギマギしている。  
「ありがと。これから処刑されるあたしを気遣ってくれたんでしょ?」  
「渚さやか、お前……」  
「うれしかったわ。あんなに爆笑したなんて久しぶりよ」  
 上目遣いにマーゾを見るさやかの目に涙が光る。  
 
「今までずっと戦い続けてきた宇宙獣士にこんな気持ちになるなんて……。不思議、まるでずっと前から友達だったみたい」  
 さやかの言葉にマーゾの心が揺れた。  
「お前の気持ちはわからんでもないからな」  
「え?それって……」  
「オレも昔戦ったんだ。ゴズマと」  
 驚きに目を瞠るさやか。  
「ギルーク様とアハメス様とオレは、あの星王バズーと最後まで戦った戦士だったんだ。いわばチェンジマンの先輩というわけだ」  
「なんですって!?」  
 衝撃の告白にさやかは驚愕した。  
 <つづく>  
 

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