エピソード・ファイナル「アースフォース」
「さあ、つづけよう。オレたちの最後の仕事を……」
「ええ、マーゾ……」
しっかりと抱き合ったふたつのからだを名残惜しそうに引き離しながら、ふたりは対話に戻った。
「問題になるのはやはりカネだな」
「そうね」
「では次はカネ……“貨幣”と“金融”について、レクチャーするぞ」
「はい、マーゾ先生」
マーゾの先生振りも板についてきた。
「“カネ”は便利な道具だ。その価値の通用する場所ならどこでも、等価値のモノと交換できる。欲しいモノが所持金より安ければ、なんだって手に入れられる。ここまではわかるな?」
「ええ、常識よ」
さやかは胸を張って言った。
「うむ、では次は“金融”について講義するとしよう」
「わかったわ」
マーゾは隣に腰掛けるさやかの可憐な姿に目をやる。“愛しい”という思いがふつふつとたぎってきた。
「銀行に預貯金をすると、利子がつく。なぜだ?」
マーゾはさやかに簡単そうな疑問を投げかけた。しかしそれは、本当は奥深い問題でもあるのだ。
「え、えーと、持っていればなんにでも交換できるという性質がお金にはあるわね」
「うむ」
「いってみれば、それはお金の所有者の権利みたいなものじゃないかしら?」
「そうだな」
「その権利を一時放棄して銀行に貸与するわけだから、その代償に利子をもらうのは当然じゃないかしら?……どう?この答え……」
さやかは小首を傾げてマーゾを見つめる。そのしぐさはマーゾには限りなく愛らしく見えた。
「まあまあだ。地球の金融事情に限っていえば、百点満点をやってもいい」
「やった……」
素直に喜ぶさやか。だがすぐ疑問が浮かぶ。
「……地球の?いま地球のって言ったわよね?」
「ああ」
マーゾは首肯する。
「じゃあ、地球以外の星にもお金があって、金融機関とかあるわけ?」
さやかは思いついた疑問をマーゾにぶつけた。
「もちろんだ。宇宙にも当然貨幣はあり、様々な形態の金融システムがある。だからこうしてオレがレクチャーできるんだ」
「そっか、そうよね。宇宙にもお金があるのね。おもしろ〜〜い。うふふ」
納得して微笑むさやかの笑顔にマーゾの胸は高鳴る。
「だが、この利子というやつが、はなはだ問題だ」
「え?どうして?別に問題ないじゃない」
やれやれという風に肩をすくめてマーゾは言った。
「返却すべき利子が加速度的に増加すると、地球のあらゆる資源をカネに換えてしまわなければならなくなるのだぞ?」
「ええっ!?」
思いもよらないマーゾの答えに驚くさやか。
「環境破壊が進む要因は、金融機関に利子を返すため、企業が手近の資源を根こそぎにして、利益を上げようとするからだ。地球が無限ならよいが、残念ながら地球は有限だ。いずれは資源を枯渇させ、滅亡が訪れる」
「なんですって!!?」
当然の権利だと思っていた“利子”が地球の滅亡の引き金になると聴き、さやかの頭脳は混乱したのだった。
「預金者が利子をもらうことが、破滅の原因……」
さやかは混乱した頭脳を必死でまとめようとする。
「そうだ。預金者が利子をもらえる“プラス利子”制度を導入した金融機関が支配的な惑星国家はほぼ百パーセントの確率で滅びる。それが宇宙の常識だ。
オレはゴズマの侵略作戦実行のため、宇宙を飛び回っていたが、プラス利子のせいで星が荒れ果てたり、滅んだりするのをいくつもこの三つの目で見てきたのだ」
マーゾの言葉には疑いようもない真実味がある。優秀な頭脳を持つさやかも異議を差し挟めなかった。
「それが事実なら……地球は本当に滅んじゃうの……?」
恐怖に歪むさやかの顔をマーゾは痛々しく感じた。しかしうそはつけない。
「残念ながら、そうだ。われわれゴズマが地球侵略を決定した要因のひとつがそれなのだ。ほうっておけばやがて滅びる惑星を、なんとか救わねばならん、というわれわれの“正義”が、地球人の支配から地球を解き放つことを決意させた」
マーゾはゴズマの正義を語った。
「それじゃ、アハメスの言ったことはみんな本当なのね?地球を破滅させるあたしたち人間は悪……地球を解放しようとするゴズマは正義……ああああああああっ」
真実の重みに耐え切れなくなったさやかは悲痛な叫び声を上げた。そのまま腰を折り、膝に顔を伏せて号泣する。
「さやか……」
恋人の嘆きをマーゾはどうすることも出来なかった。ただ、やさしく髪を愛撫するだけ。
「キュウ〜〜〜ン」
バンバが心配そうに駆けつけてきた。
「バンバ……しばらくそっとしておこう。さやかのこころは深く傷ついたのだ。お前の舌でも癒せぬくらいにな。……さやか……思い切り泣くがいい。そして全ての悲しみを洗い流してしまえ。オレたちにはまだやらねばならない仕事があるのだからな」
マーゾは泣きじゃくる恋人を救えない自分の無力を呪っていた。
「ぐすぐすっ ぐすっ すん……」
ひとしきり泣きじゃくったさやかはようやく泣き止んだ。膝に伏せた顔を上げ、泣きはらした真っ赤な両目を手でこする。
「さやか……気がすんだか?」
言いながらマーゾは自然にさやかの肩を抱き寄せた。さやかもそれを受け入れ、マーゾにからだを預ける。
「ん……ごめんなさい、泣いちゃったりして……」
「いいんだ。信じていた物に次々裏切られれば、泣きたくもなるさ」
マーゾはさやかの髪をそっと撫でた。その愛撫のやさしさにさやかのこころも少し和む。
「キュウ〜〜〜〜ン?」
バンバがさやかを覗き込む。
「あなたにも心配かけちゃったわね?」
笑顔を取り戻したさやかが右手を差し出すと、バンバは長い舌でペロペロ舐めた。
「うふ、くすぐった〜〜〜い」
はしゃぐさやかの笑顔は、マーゾの宝物になった。
「どうする?少し休むか?」
マーゾは傷ついた恋人を気遣った。
「ううん、ずいぶん時間をムダにしちゃったもの、続けるわ」
気丈に答えるさやかをマーゾは抱きしめたい思いに駆られたが、そんな時間の余裕はなかった。
ペキッ
「そうか、じゃ、水分だけでも補給しとけ。涙が流れすぎて喉が渇いたろう」
マーゾルシアンの熟れた果実を手渡すマーゾ。
「ふ〜〜んだ、そんなに泣いてないもん」
さやかはふくれる。
「どうだか。……それ食べたら続きだ。時間はないぞ。いつアハメス様が戻って来られるかわからん」
「そうね。急がないと……シャリッ」
真っ赤な果実をほお張るさやか。
「やっぱりおいし〜〜〜い。最後にこんなおいしいもの、食べられるなんて、あたし幸せよ。ありがとマーゾ」
言いながらさやかはマーゾの横顔にキスをした。
チュッ
「さやか…」
たまらなくなったマーゾはついにさやかを抱きしめた。
「マーゾ……痛いわ」
マーゾはそのほとばしる激情のままにさやかをギュウッと抱きしめていた。
「すまない……だが、どうしようもないんだ……さやか……離したくない」
「マーゾ……あたしもよ」
さやかはマーゾの愛に応えるように両腕を広げ抱きしめ返した。ふたりのからだの密着度は高まり、それにつれて愛も高まっていた。
ビリビリビリ
「ム?なんだ?」
マーゾのからだに電気のようなショックが走った。さきほどさやかにこめかみに触れられたときとおなじような……今度はさらに強烈である。しかしやはり不快ではない。むしろ心地いい。
「このビリビリは一体……」
困惑するマーゾにさやかは静かな口調で話しかけた。
「アースフォース……」
「なに? アースオフォース? これが!?」
驚愕するマーゾ。
「そう、アースフォースよ……。地球はあなたを選んだの。あなたはもうゴズマじゃない。あたしたちと共に地球を守って戦う六番目の戦士よ」
「!!?」
衝撃がマーゾの体内を貫き走った!! 抱きしめていたさやかの顔を見つめる。
「さやか……一体おまえは……?」
さやかの瞳は、まるで神託を授ける巫女のように神秘的な輝きを宿していた。
「あたしたちチェンジマンは肉体を持たないエネルギー体であるアースフォースの依代よ……。今のあたしは草薙さやか個人というよりエネルギー体アースフォースの代理人的側面が強く出ているの」
「なんだと!?」
激しい驚愕の嵐がマーゾのこころを吹き荒れる。
「あなたにあたしのすべてをあげる。マーゾ、あなたとあたしはひとつになるの」
マーゾには、さやかの姿がまるで女神のように神々しく輝いて見えた。
「どうやって?どうやったらお前とひとつになれるんだ?SEXか?SEXすればいいのか?」
マーゾの頭は激しく混乱している。
「うふふ、ちがうわ。もっといいこと」
「もっと?SEXよりいいことってなんだ?」
混乱はさらに加速する。
「ラピューヌ……」
「なにぃ?」
ズズズズズズ
さやかの言葉とともに、マーゾの体内からゲル状の粘液のようなモノが染み出してきた。
「うあっ?どうなってるんだ!?オレのラピューヌが勝手に!!」
不定形生物ラピューヌは徐々に大きく広がり、さやかとマーゾを包み始めた。
「お前か?お前の仕業なのか!?」
「そう。あたしの……アースフォースのちからよ。愛してるマーゾ。あたしたちはひとつになるの。うふふ、うれしい」
さやかの笑顔はやっぱり天使だった。
「わかった」
「なあに?」
「オレのからだをやるよ」
「んん?」
「お前とひとつになれるなら本望だ。このまま死んじまってもかまわんさ」
「うふふ、あなたは死なないわ。もっともっと強くなるの」
「さやか……」
「マーゾ……」
ズズズズズズズズズ
異星の恋人たちの姿は巨大なアメーバのようなラピューヌに呑み込まれ、見えなくなった。
電撃戦隊チェンジマン・アナザーストーリー・パート2純愛ルート
「大星団ゴズマ! 地球乗っ取り作戦!!」・完
パート3純愛ルート
「第六の戦士! その名はチェンジユニコーン!!」
に続く。