「大星団ゴズマ! 地球乗っ取り作戦!!」  
 
 エピソード2「さやかとマーゾ」 
 
「ギルーク様とアハメス様とオレは、あの星王バズーと最後まで戦った戦士だったんだ。いわばチェンジマンの先輩というわけだ」  
 ツタが絡まり合ったような姿をした植物型のグロテスクな宇宙獣士マーゾはとんでもない過去を告白した。  
「なんですって!?」  
 驚愕に目を瞠るさやか。  
「驚くことはない。大星団ゴズマの構成員のほとんどは、ゴズマに征服されたり滅ぼされた惑星の生き残りなのだから」  
 さやかの脳裏にこれまで戦ってきた宇宙獣士たちの姿が浮かぶ。  
「そういえば、宇宙獣士デモスはアトランタ星人のタローと名乗ったわ。他の星を侵略しないとふるさとの星、アトランタを破壊するとバズーに脅されていたみたい」  
「それがバズー様のいつもの手さ。オレのふるさとのギラス星はもうない。ゴズマの侵略に最後まで抵抗したせいで見せしめに破壊されてしまった」  
「なんてことを……」  
 ゴズマの残虐非道さにさやかは息を呑む。  
「ギラス星とアハメス様のアマゾ星は、同盟関係にあった。ギラス星とアマゾ星の連合軍を率いていたのがギラス星一の勇者だったギルーク様だ」  
「ギルークが……」  
「当時オレはギルーク様配下の戦士のひとり、勇者ギルフェンと呼ばれていた。“ギル”というのがギラス星での勇者の称号だ。名の知れた勇者の名前には必ず“ギル”がつく」  
「勇者ギルフェン……それがあなたの本当の名前なのね」  
「そうだ。……ゴズマの侵略を受け、オレたちは勇敢に戦った。しかしゴズマの物量には敵わなかった。敗色が濃厚となったある日、オレたちはギルーク様とアハメス様に呼ばれてある作戦を立てた」  
 マーゾの過去の話に真剣に耳を傾けるさやか。マーゾは続けた。  
 
「それはゴズマのボスのバズーを直接狙う作戦だった。ゴズマは色んな宇宙人の集まりだ。バズーの力を恐れて従っているに過ぎない。頭を潰せばあとは烏合の衆、なんとかなる、とオレたちは考えたんだ」  
「それで、バズーの暗殺を企てたのね?」  
「暗殺…とはちょっと違うがまあそんなもんだ」  
「失敗してバズーの怒りに触れて、宇宙獣士にされちゃったの?」  
 首を振ってマーゾは否定した。  
「違う、オレは志願したんだ。バズーを倒す能力を持った宇宙獣士に自ら志願して改造してもらったんだ」  
「!?なんですって!!」  
 驚愕するさやか。  
「ゴズマと戦うためにチェンジマンになったお前たちの境遇とよく似てるだろ?だから言ったんだ、お前の気持ちはわかる、と。お前の立場はかつてのオレの立場と同じだ。苦しむお前を見捨てられなかったのも、そのせいかもな」  
「……そうだったんだ……」  
 つぶやいてさやかはマーゾの胸のあたりに手を置き、ゆっくりと撫でさすった。  
「おい……」  
「……今はこんなだけど昔はあたしたちとおんなじだったのね?」  
 愛おしそうにマーゾのからだに触れながらさやかは言った。  
「……まあ、ギラス星人も地球人と同じヒューマノイドだからな」  
 マーゾの顔があさっての方向を向いているのは照れているからだろうか?  
「怖くなかったの?人間じゃなくなるのに?」  
「そりゃ、怖くなかったと言ったら嘘になる。が、あの時のオレは人間でなくなる恐怖よりも母星を救うためにからだを投げ出す使命感の方が強かったのさ」  
「改造手術は痛くなかった?」  
「痛みはない。むしろ気持ち良かったくらいだ」  
「ええっ?」  
 驚いてマーゾの顔をまじまじと見るさやか。  
 
「気持ちいい?って一体どんな手術だったの?」  
「ウ〜〜ン、多分お前がイメージする手術とは違うだろうな。オレたちは改造するのにからだを切り刻むような野蛮なやりかたはしない」  
「じゃあ、どんな?」  
 興味深げに上目遣いでマーゾの顔を覗き込むさやか。照れ隠しにソッポを向くマーゾ。  
「……オレたちの世界にはラピューヌという生き物がいる」  
「…ラピューヌ?それどんな生き物なの?」  
「ンー、なんていったらいいか……地球にアメーバっていうグニャグニャした不定形の生き物がいるだろ?」  
「ええ」  
「あれをもっと大きくした感じだな。オレの改造のときはラピューヌを使ったんだ」  
 グニャグニャした巨大なアメーバを想像するさやか。  
「なんだか気持ち悪そう」  
「ン?そんなことないぞ。慣れればかわいい生き物さ」  
「フ〜〜ン」  
 疑い深げなさやかの眼差し。マーゾは続けた。  
「そのラピューヌの特殊能力が改造のときに必要だったんだ」  
「特殊能力?」  
「そうだ。ラピューヌには複数の生き物を混ぜ合わせるちからがあるんだ。そのちからでオレはマーゾルシアンの樹と融合し、今のからだを手に入れた。そのときから勇者ギルフェンは宇宙獣士マーゾルシアンになった。長ったらしいからみんな縮めてマーゾと呼ぶがな」  
 さやかの頭の中に、人間と植物と巨大アメーバが混じり合っていく映像が浮かぶ。それはあまり気持ちのいいものではなかった。  
「やっぱり気持ち悪いわ」  
「いや、それがとても気持ち良かったんだ」  
「ええっ?」  
 さやかはとても信じられないという素振りを見せた。マーゾは説明する。  
 
「ある生き物の細胞と別の生き物の細胞をくっつけようとしても普通はくっつかない。なぜだかわかるか?」  
「……細胞と細胞の間に拒絶反応が出るからでしょ?」  
 さやかは即答した。  
「正解だ。さすが電撃戦隊の頭脳、頭がいい」  
「そんなこと……」  
 ほめられてかわいく頬を赤らめるさやか。  
「つまり、その拒絶反応ってやつをどうにかしないといけないわけだ」  
「そうね」  
「そこでラピューヌの出番さ。ラピューヌは別々の生き物の細胞間に働く拒絶反応を取り除くちからを持っているんだ。便利だろう?」  
「………」  
 なんと答えていいかわからずさやかは絶句した。マーゾはかまわず続ける。  
「それで、オレの改造のときにラピューヌを使ったんだがそれがメチャクチャに気持ちが良かったんだ」  
 そのときのことを思い出したのか、マーゾの言葉に悦楽感が混じる。  
「拒絶反応を取り除きながらラピューヌがからだの表面から中に入ってくる……いや、染み込んでくると言った方が近いか……。最初は違和感があって変な感じだったが、そのうちにとてつもない快感が襲ってきたんだ。  
細胞ひとつ一つが爆発したようなメチャクチャな快感だった。あのときほどの心地よさは生まれてこのかた一度も経験したことがない」  
 マーゾの言葉からその快感の凄まじさが読み取れる。  
「ふ〜〜ん、そんなに気持ち良かったんだあ」  
「ああ、凄いぞ!まるで細胞ひとつ一つでSEXしてるような感じだ。普通のSEXの何十倍、いや何百倍もの快感を一度に体験したようだった」  
「いやん……」  
 マーゾの直截的な表現に、さやかはポッと顔を赤らめ下を向いてしまう。  
「ン?どうした?下なんか向いて……」  
 マーゾが怪訝そうに尋ねた。  
「だって……マーゾが変なこと言うんだもん……」  
 さやかの言葉には羞恥の響きがある。  
 
「変なこと?変なことって何だ?何か変なこと言ったか?」  
 マーゾは心底不思議そうに首を傾げた。  
「凄まじい快感をSEXに喩えたことか?」  
「いやん、だからやめてって」  
 さやかの顔は耳まで真っ赤だ。  
「おかしなやつだ。SEXは変なことじゃないぞ。愛し合う男女なら誰だってする。愛の最高の表現だ。そうは思わんか?」  
「………」  
 さやかは恥ずかしさでもう何も言えなかった。  
「どうした渚さやか?なにを恥ずかしがっている?まさか処女だと言うわけでもあるまい?」  
「バカッ!!」  
 さやかは顔を真っ赤にしてマーゾをグーでぶん殴った。  
 バキッ  
「グワッ!?」  
 物凄い音がしてマーゾの首がのけぞった。アースフォース適合者のパワーはチェンジする前でも凄まじい。  
「もう知らない!!」  
 マーゾに背を向けて立ち去ろうとするさやか。しかし未だに絡みついていたマーゾの触手に阻まれる。  
「なによこんなもの!!」  
 力任せに触手を引きちぎろうとするさやか。しかしさすがにビクともしない。怒り狂うさやかをマーゾは後ろからそっと抱きしめた。  
「オレが悪かった渚さやか」  
 マーゾに抱きしめられ、さやかはおとなしくなる。  
「お前の方から抱きついてくるくらいだから本当に処女だとは思わなかった」  
「だから!!」  
「わかったもう言わん。SEXの話はもう終わりだ」  
 暴れ出そうとするさやかのからだをマーゾはギュッと強く抱きしめた。  
 
「もうお前の命も残り少ない。ケンカなんてバカなことで時間をムダにするのはやめよう」  
「……そうね」  
 すっかりおとなしくなったさやかのからだからマーゾは離れた。さやかは力が抜けたようにペタンと座り込む。  
「話を元に戻すと、宇宙獣士になったオレはギルーク様の指揮の下、バズーに戦いを挑んだ」  
 さやかは放心しているようで、話をちゃんと聞いているのかわからなかったが、マーゾは続けた。  
「オレはマーゾルシアンの強力な触手の力でバズーに取り付いた。そしてラピューヌの力でヤツと融合しようとしたんだ」  
「バズーと融合!?」  
 さやかは驚いて顔を上げる。  
「そうだ。ヤツと融合してしまえばコントロールすることも可能だと考えたのさ。しかしその考えは甘かった」  
 固唾を呑んで聞き入るさやか。  
「ヤツは思った以上の怪物だった。融合しようとするオレの細胞を強力なエネルギーで弾き飛ばしやがった!」  
「……!!」  
「オレは負けてゴズマに捕らえられた。やがて連合軍は敗北したと言う知らせを聞いた。ギラス星は見せしめに破壊され、アマゾ星はゴズマに征服されたようだった。アハメス様は行方不明、ギルーク様もオレと同様に捕らえられたらしかった。  
 もっとも、武勲を認められたギルーク様はバズーに忠誠を近い、すぐにゴズマの遠征軍司令官に抜擢された。そうなるとオレだけ意地を張っても仕方がない。あきらめてゴズマに入団した、というわけさ。ま、バズー様を狙った罪とかで何年も監禁されてたがな」  
「……哀しかった?ふるさとを壊されて……」  
 哀しいマーゾの過去にさやかの声は震えた。  
 
「そりゃあな。必死で守ってきたものがある日突然木っ端微塵になったんだ。哀しくないわけがない。監禁生活の最初の数ヶ月は泣き暮らしてたよ」  
「そうよね。ふるさとを失った哀しみはみんな一緒よね」  
 さやかの瞳から涙がひとしずくこぼれた。  
「なんだよ、泣いてるのか?」  
「………」  
 喉がつまって声にならない。  
「お前はやさしいな」  
 マーゾがさやかの髪をやさしく撫でた。  
「オレは敵だぞ?お前のふるさとを侵略しているのはオレの仲間たちだ。憎んでくれていいんだ」  
「だって……あなたの過去を知ってしまったらとても憎んだりできないわ!」  
 さやかの両目から涙が滂沱と流れた。あふれ出す感情をさやかはコントロールできなくなった。  
「うっ、うっ、うっ、えっ、ひっく」  
 両手に顔を伏せ泣きじゃくるさやか。  
「お、おい、泣くな、泣かないでくれ」  
 マーゾはどうしていいかわからずオロオロする。  
「えっ、えっ、えっ、ぐすっ、ぐすっ」  
「キュウ〜〜〜〜ン?」  
 突然泣き崩れたさやかに、どうしたの?と言いたげな風情でバンバが近づいてきた。  
 ペロペロッ  
 長い舌を伸ばし、バンバはさやかの手の甲を舐める。まるで慰めようとしているかのようだ。  
「うえっ、えっ、えっ、ぐすっ、ひっく」  
 バンバの舌の熱さ、柔らかさを手の甲に感じ、さやかは泣きながら顔を上げた。  
「キュウ〜〜ン、キュウ〜〜ン」  
 ペロペロペロッ ピチャッ  
 さやかの頬をバンバはやさしく舐める。そのやさしいタッチにさやかの哀しみも少しずつ癒されていく。  
 
「ぐすっ、すん」  
 ようやく泣き止み、さやかは涙をふいた。  
「慰めてくれたの?バンバ、ありがと」  
「キュウ〜〜〜ン」  
 さやかの感謝の言葉をバンバは喜んでいるようだ。  
「あなたも昔人間だったの?」  
 さやかはバンバに尋ねる。  
「いや、バンバは人間じゃない。ジューラバンバだ」  
 マーゾが代わりに答えた。  
「ジューラバンバ?」  
 聞き慣れない言葉にさやかは戸惑う。  
「宇宙で主にヒューマノイドが飼育する、家畜だ」  
「家畜?ペット?」  
「そうだ。地球の犬に似ているな」  
 さやかはバンバの怪物じみた顔をまじまじと見つめた。  
「犬みたいな生き物をこんな風に改造しちゃったの?」  
「ああ。こいつはシーマの作戦に必要な能力を持ったボディに、コントロール用のジューラバンバの脳みそを埋め込んで造られた合成宇宙獣士だ。ジューラバンバは従順だからな」  
「ひどい……」  
「バンバがお前を助けたがったのも、以前ヒューマノイドに飼われてたからだろうな。ご主人様を思い出したんだろう」  
 さやかはグロテスクなバンバの額のあたりを優しくなでた。  
「キュウ〜〜〜ン、キュキュ〜〜〜〜ン」  
 バンバは心地よさげな鳴き声を上げた。  
「……マーゾ……」  
 震える声でさやかはマーゾを呼んだ。  
「なんだ?」  
「これ以上バズーに忠誠を尽くす意味なんてないわ!一緒に逃げましょう!ゴズマなんてもうやめるのよ!!」  
 さやかは物凄い剣幕でまくし立てた。その迫力に押されるマーゾ。  
 
「お、おい、無茶を言うなよ」  
「なにが無茶よ!いつまでバズーの言いなりになっているつもりなの!?あなたたちの身柄は電撃戦隊が保護するわ。絶対にゴズマに渡さない!!だからあたしと一緒に来て!ゴズマを抜けて!」  
 さやかは必死でマーゾに訴えかけた。  
「お前の気持ちは嬉しいが……それは無理だ」  
「なにが無理なの?ふるさとを破壊したバズーが憎くないの?」  
「憎くないわけではない。が、もう諦めている。それに、どこへ逃げてもムダなのだ。網の目のように張り巡らされたゴズマの情報網からは逃げられん。必ず捕らえられ、殺される」  
「そんなことないわ!あたしたちが守る!守るからお願い!一緒に……」  
「渚さやか……」  
 マーゾの三つの目がさやかを見つめた。その真剣な眼差しがさやかの胸を射る。  
「これから死んで行くお前に真実を話そう。本当は軍事機密で話しちゃいけないんだが……」  
「なあに?一体……」  
 マーゾの真剣さにさやかも緊張する。  
「お前たちがこれまで阻止してきたゴズマの作戦は全て囮だ。全ては真の侵略作戦を覆い隠すための陽動作戦だったのだ」  
「なんですって!?」  
 凄まじい驚愕がさやかを襲った。  
「真の作戦は地球の乗っ取りだ。世界各国の政府首脳は既にゴズマの息がかかった人間に占められつつある。やがては血を流すことなく地球はゴズマの星となるだろう」  
「そんな……そんな!!?」  
 さやかは足元がガラガラと崩れるような感覚を味わっていた。  
 <つづく>  
 

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