「ピンチ!捕らわれたさやか」  
 
エピソード2「アハメス出現」(その1)  
 
「ギゲゲゲゲゲゲゲゲ」  
「ギゲゲ、ギゲゲゲゲゲゲゲゲゲ」  
 不気味な声を上げながら殺到してくるグロテスクな怪物群・ヒドラー兵。  
 その悪夢にも似た光景に、たじろぎもせずたったひとりで立ち向かう女性がいた。  
「いくわよっヒドラー兵!!」  
 彼女の名は渚さやか。地球を狙う侵略者、大星団ゴズマと戦う電撃戦隊の女性隊員だ。  
「エイッ」  
 バキッ  
 鈍い音がしてさやかの手刀がヒドラー兵の首筋に決まった。  
 ブシュ――ッ  
 首筋から勢いよく吹き出す青い体液。ヒドラー兵はさやかの一撃であっけなく絶命した。  
「ヤァッ」  
 お次は裏拳!顔面を叩きつぶされこれまた絶命するヒドラー兵。さやかは華麗にアクションを決めながら、次々とヒドラー兵を倒していく。  
 大星団ゴズマの尖兵であるヒドラー兵は、常人の数倍のパワーを持っている。決して弱いわけではない。さやかが強過ぎるのだ。  
 アッという間に十数体のヒドラー兵がしかばねに変わった。恐るべきさやかのはやわざだ。しかし、広大な採石場を溢れんばかりに埋め尽くしたヒドラー兵は、別段、数が減った様にも見えない。  
「ギゲゲゲ」  
「ギゲゲゲゲゲゲ」  
 仲間を瞬殺され、ヒドラー兵も戦法を変えてきた。右手をくるくる回すと何もない空間から三つの鋭い刃がついた凶悪な武器、“リングカッター”を取り出した!驚嘆すべき異星のテクノロジーである。  
 シュルルルルル  
 フリスビーの様に回転させてリングカッターを投げるヒドラー兵!  
「きゃっ!?」  
 横っ飛びでかわすさやか。  
 
 シュルルルルルルル パシッ  
 ブーメランの様に軌道を変化させ、ヒドラー兵の手元に戻るリングカッター。  
 シュルルルルルル シュルルルルルルル  
 今度は二体同時にカッターを投げつけてきたっ!  
「ヤァッ」  
 跳び込み前転でなんとかかわすさやか!しかしこのまま遠巻きにしてリングカッターを投げられ続ければ、いつかは喰らってしまう。  
「ギゲゲゲゲゲ」  
「ギゲゲゲゲゲゲゲゲ」  
 再びカッターを投げるべく構えるヒドラー兵。しかしさやかもいつまでもいいようにやられてはいない。反撃に出た!  
「ブレス・レーザー!」  
 ピピッ ピ――ッ  
 左手首のチェンジ・ブレスを操作して、レーザービームを発射するさやか。リングカッターを手にしたヒドラー兵だけを次々と狙い撃つ!  
「ギゲゲ!?」  
「ギゲ!」  
 たじろいでリングカッターを取り落とすヒドラー兵達。ブレス・レーザーは殺傷力は低いが使い方によってはけっこう役に立つ。  
「トォッ」  
 ジャンプ!空中一回転、踵落とし!  
 ベキッ  
 武器を失ったヒドラー兵の脳天に、さやかの白ブーツの踵がめり込んだ!頭蓋骨陥没、金髪のあいだから白い豆腐の様な物がはみ出している。もちろんヒドラー兵は即死だろう。  
「ギゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲ」  
 やけくそになった様に殴りかかるヒドラー兵。  
「ヤァッ」  
 バク転でかわすさやか。さらに跳び込み前転、攻撃をかいくぐってハイキック!  
「エイッ」  
 グシャッ  
 さやかの美脚の一撃で、あごを砕かれながら宙をすっ飛んでいくヒドラー兵!生死は不明だが戦闘不能なのは間違いない。  
 
 ハイキックを決めたさやかのミニスカートからのぞく白い下着がまぶしい。光沢のある白いショーツは朝日にきらめき、魅惑的だった。もし、ここに人間の男がいれば、身を乗り出して覗き込んだだろう。  
 しかし、戦いに集中しているさやかは、下着が露出することに全くかまっていなかった。羞恥心が欠如しているわけではない。どちらかといえば、恥ずかしがり屋な方だろう。その証拠に、足が高く上がるたびに頬に赤みが差している。  
 だが戦いの最中、羞恥心に気を取られて動きが止まれば、そこが隙となって命取りになりかねない事をさやかは良く知っていた。それに、異星生物相手に羞恥心を持つ事自体がナンセンスだと理性では割り切っているつもりだった。  
 しかし色っぽく上気した頬や、わずかに潤んだ瞳が、理性を裏切っていることは明らかだった……。  
「ギゲゲゲゲ、ギゲゲゲゲゲゲ」  
 つかみかかるヒドラー兵の攻撃をしゃがんでかわすさやか。  
 ビシッ  
「ギゲ!?」  
 ドサッ  
 大地に背中からもんどりうって倒れこむヒドラー兵。一瞬、何が起こったのかわかっていない様だ。さやかはしゃがみながらクルッとからだを回し、低い体勢から後ろ回し蹴りを放ってヒドラー兵の脚を薙ぎ払ったのだ!  
「ヤァッ」  
 そこから全体重をかけたエルボードロップ!  
 メキッ  
「ギゲゲゲゲ!ゲゲゲゲ?ゲゲゲゲ!ゲゲゲゲ?」  
 さやかのヒジを胸の真ん中にまともに喰らってもがき苦しむヒドラー兵!すると、奇妙なことが起こった。胸の機械が破損したヒドラー兵の姿がまるで空気にでも溶け込む様に、みるみるうちに消えていったのだ!  
 
「ギゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲ」  
 跳びかかってきたヒドラー兵から身をかわし、すれちがいざま肩のパイプを引きちぎるさやか!  
「エーイッ」  
 ブチップシュ―――ッ  
「ギゲ?ゲゲゲゲ!ギゲゲゲゲゲゲ!?」  
 パイプから謎の白いガスを吹き出し悶えるヒドラー兵!すると先ほどと同じ様にヒドラー兵の姿は消滅していく。さやかは別段驚いた様子もない。ヒドラー兵と何度も戦った経験のあるさやかにとっては常識だからだ。  
 
 
 
 
 何体のヒドラー兵をさやかは倒したのだろう?五十体?六十体?それとも八十体?百体?限りなく続いた戦いも、ようやく終わりの時が来た。  
「ギゲゲゲゲゲ」  
 リングカッターを振り下ろすヒドラー兵!  
 ビシッ  
 カッターを持った右手を受け止めそのまま引きずり倒すさやか!倒れたヒドラー兵の胸板に、ナックルパンチを叩き込む!  
 ドゴォッ  
「ギゲ!?」  
 一撃で胸郭を破壊され、絶命するヒドラー兵!  
「ギゲゲ、ギゲゲゲ、ギゲゲゲゲゲ」  
「ギゲゲゲゲゲゲゲ」  
 残った二体のヒドラー兵が、同時にさやかに跳びかかってきた!  
「エイッ、ヤァッ」  
 ビシッ ドゴッ  
 回し蹴りとパンチで弾き飛ばすさやか!  
 ドサドサッ  
 吹っ飛んで大地に転がる二体のヒドラー兵。  
 
(これで……終わったの?)  
 さやかにとっては永遠に続くかとも思えた戦いだった。しかし、実際に流れた時間は三十分足らずに過ぎない。それだけの時間で採石場いっぱいに溢れていたヒドラー兵を全滅させたのだから、凄まじいさやかの戦闘力だ。  
 大地に倒れ伏す無数のおぞましく不気味なヒドラー兵のむくろは、飛び散った青い体液の痕を残して次々と消滅していく。さきほど胸の機械を破損したときと同じ様に……。  
 死んだヒドラー兵が、どういう仕組みで消滅するのか詳しいことはまだわかっていない。胸に埋め込まれた謎の機械が関わっていることは確かだが……。ヒドラー兵消滅に関し、地球守備隊の中でもいくつもの説が唱えられている。  
 微粒子分解説。生命活動が停止したヒドラー兵のからだは、一定時間が経過すると微粒子に分解される様、あらかじめ調整してある、という説だ。  
 ワープ説。ヒドラー兵の死骸はワープしてゴズマの母艦などに回収されている、という説だ。宇宙の彼方から超光速航行で地球までやって来たゴズマの科学力なら十分考えられる。  
 亜空間説。通常空間と平行して存在すると考えられる亜空間に、ヒドラー兵の死体は送られている、という説。現在最も有力視されている説だ。そのほかにも色々な説が唱えられていて、未だ定説はない。  
 死体消滅のトリックは判明していないが、その目的は明らかだ。ヒドラー兵の死骸を地上に残さないことで、地球人に異星のテクノロジーを研究されることを防ぐためだろう。  
「ハァ、ハァ」  
 さやかの息が荒い。無理もない、三十分近くも戦い続けたのだ。しかしさやかは未だファイティングポーズのまま、周囲を警戒しつづけている。  
(宇宙獣士は?宇宙獣士はドコ?ヒドラー兵を操っている宇宙獣士が必ずいるはずだわ!)  
“宇宙獣士”とは、大星団ゴズマの主力兵器とも言うべき改造生物群である。ゴズマの支配下にある様々な惑星の生物――多くは知的生物――を戦闘用に改造し、侵略兵器としたのだ。  
 
 これまでのゴズマの侵略作戦に、必ず宇宙獣士は関わっていた。だから今度もどこかで採石場の様子を窺っているに違いない、とさやかは冷静に判断し、警戒を緩めないのだ。今のうちに仲間に連絡を、とも思わないではなかったが、その隙を衝かれるのは避けたかった。  
 結局連絡は後回しにしたのだが、のちにさやかはこの判断を後悔することになる。  
 ビ――ッ シュウ―――ン  
 さやか目がけてどこからかビームが放射された!  
「イヤァッ」  
 警戒していたさやかは前転してこれをかわす!  
(やっぱりきたわね、宇宙獣士!)  
 すばやく立ち上がりビームが放たれた方向に目をやるさやか。そちらには切り立った崖がそびえている。  
(上ね!)  
 崖の上を見上げるさやか。確かに人影が見える。すると……  
「オホホホホホホホホホホ」  
 にわかに哄笑を上げる謎の人物。  
「よくかわしたわね、渚さやか?」  
 その嘲りを含んだ女の声に、さやかは覚えがあった。崖の上には抜群のプロポーションをピッタリした銀色のボディアーマーで包み、妖艶な笑みを浮かべる銀髪の美女が立っていた。額には銀のティアラが光っている。  
 手にした指揮棒は、真っ直ぐにさやかの方を向いていた。さきほどのビームはこのスティックから放射されたのだろう。  
「アハメス!!」  
 さやかは叫んだ。銀のコスチュームをまとい、気品と威厳に満ちたその女こそさやかの宿敵、大星団ゴズマ、地球方面遠征軍司令官にしてアマゾ星の女王、アハメスその人であった。  
 <つづく>  
 
 
 
 
 次回予告  
 アハメスが呼び寄せた新たな敵の魔の手が迫る。さやか、危うし!  
 レッツ・チェンジ! 電撃戦隊チェンジマン!  
 エピソード3 「甦った宇宙獣士」  
 

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