都心からは少し離れたアパートの一室、その中から時折響く絶叫。  
「――ぅ、ああああああっっっ、……はぁ、ふはぁ、――く、《黒河可憐》んんん〜〜〜〜っ!」  
 面積の少ない黒いボンテージ姿の錐霞が《黒河可憐》によって両腕を拘束され、腹を捻られ、折れた左足からは大腿骨が腿の肉を突き破って飛び出している。そこからは真紅の血が骨を伝うように流れている。  
 ベッドの上で同じく《黒河可憐》によって拘束されている春亮は、今すぐにでも顔を背けてしまいそうな表情をしながら、それでも強固な意思で凶行を直視し続けていた。  
 虚ろな目で春亮を見た錐霞は、春亮が未だ目を逸らしていないことに安心と背徳感を覚え、慌てて俯き叫ぶ。  
「はっ、はあっ、はっ、……さあ、最後の仕上げだ、――《黒河可憐》……っ!」  
 声に反応して《黒河可憐》が錐霞の白く細い首に巻き付き――そして、  
 
 ――ぺきりっ。――  
 
 錐霞の首が垂直に右へ曲がり、口元には赤い線がつー……、と流れる。普通なら有り得ないその角度に、思わず春亮は口を開き、  
「――っ、いんちょーさ……ん…………」  
 春亮が言い切るより早く、錐霞の体がビクリと痙攣を起こし、首がぐぎぐぎと歪な音を出しながら元の正常な位置へと戻っていく。気が付くと、腿の肉も無事に骨を収容して傷口が塞がり始めている。  
 数分としないうちに、錐霞は何事もなかったかのように自分を拘束する《黒河可憐》を解いた。  
「――……夜知、すまない……こんな、醜悪で、悪辣で、狂気じみた行為を見せて。――だが、なぜかは分からないが、……」  
 錐霞は恥ずかしそうに紅潮して顔を俯かせながら、未だ春亮が拘束されているベッドの上にギシリと膝を乗せた。  
「いんちょーさん……?」  
 怪訝そうな目つきで見てくる春亮に、錐霞は本当に申し訳なさそうな表情で瞳を潤ませながら見つめ返した。  
「……足りないんだ」  
 
「……え?」  
 不思議そうに聞き返した春亮に錐霞が詰め寄った。春亮が反射的に退がろうとするが、《黒河可憐》がそれを許さない。  
「私は見ていてくれと頼んでお前をここに呼んだ。なのにそれに応じてくれたお前の親切を私は裏切ろうとしている……。ああ、本当に馬鹿げている、こんなっ、こんな……最低な……こと……」  
 最後は消え入りそうな小さい声で呟き、錐霞は拘束されていて身動きの取れない春亮の、ジーパンのチャックに手をかけた。  
「――!? ちょ、いんちょーさんっ!? いきなりなに――もぐぅっ!?」  
「すまない夜知……。だが、疼くんだ。自分をくびり殺しても尚、体が熱もって……頭がふわふわして……お前のこと、しか、――っ!?」  
 言いながらチャックを下ろすと、突然飛び出してきた春亮の陰茎に錐霞は驚いた。  
 錐霞は戸惑い顔を真っ赤にしながら、「むぐーんぐー!?」と赤面しながら唸っている春亮を一度見上げると、意を決したように直立するそれを右手で握った。  
「……凄いぞ、夜知。こんな、硬くて、大きい……」  
 ぼーっと春亮の陰茎に見惚れながら夢中で扱いていたが、やがて先っぽに恐る恐る舌を近付けて――ちろっと舐めた。  
「んんんんん〜〜っ!」  
「――夜知、気持ち、いいのか……?」  
 春亮は必死に目を瞑って息を荒げている。そのことに錐霞はほんのりと満足感を得て、しかしまだ足りない。  
 今度は思い切って口に咥える。口の中には収まり切らず、まだ根元までには少しある。  
(……ああ、本当に……馬鹿げている! 夜知を無理矢理なんて……)  
 胸がばくばくと高鳴り、一旦鼻で深呼吸した。そして根元の方をしっかりと支えると、一気に喉の奥まで飲み込んだ。  
「んぐむぐぅ〜〜っ」  
 気道が圧迫され、胃カメラが五本も束になって入ってきたような息苦しさを覚えるが、それでも懸命に喉に出し入れする。  
「むー! むー!」と春亮が呻くのを見ながら、錐霞は倒錯した思いに駆られる。  
 自分が春亮を無理矢理犯しているはずなのに、同時に呼吸困難で苦しんでいる自分が無理矢理犯されているかのようで。  
 それによって罪悪感が薄らぎ、逆に快感すら覚える。  
 
「――んっ!? んんうぅうううっ!!」  
 春亮の絶叫と共に錐霞の喉に粘着質のネバネバとした熱い液体が流れ込んできた。思わず錐霞は少量を口から零す。  
「――――げぼ!! んうっ、(ゴクン!)……げほっ、げほっ、……だ、出し過ぎだ! そ、そんなに溜まっていたのかっ!?」  
 ベッドに崩れた春亮を怒鳴りながら、しかし……、と呟いた錐霞がボンテージの下半身部分にあるファスナーをじじじ……、とゆっくり限界まで下ろす。  
「……まだまだ元気だな、夜知。委員長として、私にはクラスメイトの悩みを助ける義務がある。それに、このはくんやフィアくんと一つ屋根の下で生活してるんだ、何か間違いがあってからでは遅い――だから、……」  
 ベッドに力なく寝転がった春亮の陰茎を握りながら、錐霞は焦らすようにゆっくりと腰を下ろし、そして――陰茎の先端が膣に宛がわれた。  
「……私が、しっかりと、面倒を見て……んぐぐ〜、あっ、ああああああっ!?」  
 挿入した瞬間、錐霞は鋭利なナイフが皮膚を破るような痺れる痛みに悲鳴を上げた。  
 思わず仰け反るが、奥深くまで侵入したものが腹の内側に当たり、錐霞の内壁を抉る。  
「くううぅ、これで、初めては……夜知、だ……」  
 拍明め、ざまーみろ。心の中でそう呟いて何とか体を起こした錐霞は、春亮の横に腕立て伏せをするように腕を伸ばして、少しずつ腰を浮かせる。  
「んっ、んぅ」と呻く春亮の顔を見ながら、陰茎が抜ける手前でズチュ、と腰を落とした。途端に、電気のような快感が錐霞の全身をピリピリと駆け抜ける。  
「〜〜んはあっ! 夜知、気持ち、いいか……?」  
 春亮は困惑しながらも、その問いに観念したように頷いた。  
 それにほっとした錐霞は、次第に早く腰を動かし始めた。  
 グチュ、ヌチュ、プヌ、ズプ、……  
「んっ、ふっ、はっ、やっ、ちっ、好きっ、好きっ、だっ、ずっとっ、前、からあぁ、すひ、らった、あ、あああぁぁ〜〜〜〜……!」  
 ビクビクッと痙攣を起こして、錐霞は涎を垂らしながら果てた。  
 錐霞が春亮にもたれかかると同時に、春亮を拘束していた《黒河可憐》がシュルシュルと錐霞の手元に戻っていく。  
 
「ん、はあ……いんちょーさん、ごめん、その、収まりが……」  
 春亮の困ったような声に、錐霞は微笑みながら頷いた。  
「まったく、お前の精力は馬鹿げているな……」  
 錐霞の中で未だ大きいそれを抜くと、今度は錐霞が下に寝転がった。  
「来てくれ、夜知」  
「うん、入るよ……」  
 春亮が徐々に挿入すると、グチュチュ、と水音が鳴る。  
「――ふっ、くっ、いんちょーさん、きつ……」  
「んんぅ、おそらく、膜が元に戻ったから……だろう……ふあぁっ!」  
 赤面しながら説明する錐霞をおかしく感じ、春亮は自然と笑ってしまった。  
「――!! な、何を笑っている、夜知! わた――ひやっ!?」  
 一気に貫かれ錐霞が舌を噛むと、春亮は腰を振りながら唇を重ねた。  
「んむ、――――はぁっ! んっ、夜知、――うんんっ!?」  
 息継ぎする間もなく再び舌を絡ませる。  
 下半身はヌプッ、ヌプッ、と淫らな水音を立て、更に赤みと激しさを増す。  
「――夜知っ、やめっ、はやっ、んうっ、あっ、イくっ、イくっ、やちぃ、イくうううぅっ!」  
 ビクンと大きく痙攣し、きゅんっと膣が締まる。  
「うあっ!? いんちょーっ、さんっ……! で、出る――!」  
「ふあ!? あ、ああああああぁぁぁ――中に、中にいいいぃ!」  
「ん、くぅ…………」  
 射精し尽くすと、春亮はゆっくりと陰茎を引き抜いた。余韻で錐霞はヒクヒクと軽く痙攣している。  
 春亮はベッドの横の棚にあるティッシュを一枚取って、錐霞と自分を繋ぐ白い糸を拭き取った。  
 
「――夜知、その、すまない……」  
 服を着て正座している錐霞が謝った。  
「いや、だからいいよ。俺は全然気にしてないから」  
「だが――! ……そうだな、お前は本当にお人好しだからな……」  
 半分呆れたように言うと、春亮は笑いながら頷いた。  
「――でも、その、流石に驚いたけど……まさかいんちょーさんが俺のこと好きだったなん……」  
「ぬあっ!? わ、私はそんなことを言っていない! 夜知、それは空耳だ。だから今すぐ記憶から消去するんだ、今ここであったこと、全て!」  
 耳まで真っ赤にした錐霞が焦りながら喚く姿に、  
「あのときのいんちょーさん可愛かったけどな」  
 春亮が何気なく言うと、錐霞は直立不動で固まった。そして不意に、  
「かわ、かわい、かっ…………」  
 赤面しながら動揺する錐霞はぷしゅー……と水蒸気を放出すると、咄嗟に春亮から顔を背けた。  
「いんちょーさん……?」  
 春亮が心配して窺うと、錐霞はニヤけてしまいそうな表情筋を歯が割れそうなほど力を入れることによって引き締めながら、こほんっと一つ咳払いをした。  
「ま、まあ、今回は夜知に助けられたこともある。だ、だから友人として好き、という、意味だ」  
「そっか。でもいんちょーさんの悩みを解消するのに協力できたんなら、俺はそれで十分嬉しいよ」  
 打算なく笑った春亮を錐霞は横目で覗きながら、  
(どこまでもお人好しな奴め――だが、だからこそ……)  
 ふっ、と鼻で息を抜きながら頬を綻ばせた。  
 

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