「春亮、はるあきー。はーるーあーきー」
休日の午後、夜知家の台所からやる気のない声が響く。
「はるあきー。聞いておるのかー、はーるーあーきー」
声の主は、白いワンピースを着た小柄な少女。
間延びした声をあげつつ、長い銀髪を揺らしてがさごそと戸棚をまさぐるその少女は、名をフィアといった。
「…ふん、いつもは呼んでもおらんのに現れたりするくせに。手間のかかる奴め」
なんの反応もないことに顔をしかめてそう呟き、戸棚を漁るのをやめて立ち上がる。
「春亮ー!」
もう一度大声で叫び、それでも返事がないことを確かめる。
同居人であるこのはと黒絵は、昼食をとったあとに外出していたはずだ。出てくる気配がないなら自分で呼びにいくしかないだろう。
やれやれ、とでも言いたげなむすっとした表情で、仕方なくフィアは廊下へ出る。
「まったく。聞こえていないはずがないだろう、あほ春亮め」
ぼやきながら向かうのは春亮の部屋。台所からさして離れているわけでもないその部屋の前に着くと、フィアは遠慮なくすっと襖を開け放ち…
「春亮、おせんべのストックが切れているぞ。早急な補充を要求───」
「なっ…!?」
「ぬ?」
…部屋の中の人物と目が合い、襖を開けたそのままの体勢で硬直する。
中に居たのは、この家の主たる夜知春亮。
まあ、当たり前である。ここは春亮の部屋なのだし、フィアもそれを知った上で春亮に会いにここへ来たのだから。なんの異常も問題もない。
問題なのは、その春亮の格好だ。
しまった、と言わんばかりの慌てた表情の春亮は。
畳に敷かれた布団の上に座り込み。
ハァハァと少し息を荒くして。
下半身の一部を露出させて。
そこに手をあてがって。
上下に動かしていて。
要するに、彼は─────────
「─────なああああああああああああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!!!?!?」
…昼下がりの夜知家に、フィアの絶叫が響き渡った。
「し、し、しししし信じられん!信じられんわ!信じられんぞ!おまえは!信じられんほどの、は、ハレンチ小僧だ!春亮、おまえは…お、おまえというやつは…!」
「まて、おまえが、ノックもせずに入ってくるのが悪、」
「な、なにおう!その前に何度も呼んだであろう!それにも気づかんほど、ぼ、没頭しておったのか!?ハレンチだハレンチだハレンチだ!!」
「うぐ…」
…春亮の、まさにハレンチと呼ぶにふさわしい行為を目撃してしまったフィア。
怒り、恥じらい、その他もろもろの感情がごっちゃになり、どうにもならないわだかまりをもてあます。
ハレンチだハレンチだと連呼しているのも、半分無自覚にわめき散らしているだけであり…一言で言えば、キレていた。
対して、とんでもない場面を見られた春亮のほうも気が気でない。とりあえず慌ててズボンを履き、フィアの前に正座して罵倒と糾弾の言葉を浴び続ける。
「こ、こうも!こうまでも!まさかこれほどまでにもハレンチだったとは思っておらんかったぞ!ま、まさか、私に隠れて、あ、あんな、自分で、自分の!じっ…あ…は、ハレンチだ!ハレンチだ!」
「うぐ…は、ハレンチ以外言うことないのかよ!」
「ううううるさい!このハレンチ小僧!ハレンチの権化!ハレンチ・オブ・ハレンチめ!!」
「なっ、なんだよそれは!」
「うるさい!あほー!口ごたえするな!呪うぞ!いや、お前のようなハレンチ小僧には呪いすら生温いわ!」
果たして自分はこうもハレンチハレンチと連呼されるほどのことをしただろうか、健全な男子なのだ、ああいうことくらい…要するに自慰行為くらい、するだろう…どこか理不尽なものを感じる春亮。
しかし一方で、フィアと自分の立場の関係からすると悪いのは自分であるような気がしないでもない。
それにあんなものを見たフィアが激昂するのも無理はないとも思うため、強く言い返せないのも事実だった。
「ハレンチ小僧のハレンチっぷりも少しはなりを潜めたかと思っておったというのに!と、とんでもないわ!」
「わ、悪かったよ!」
こんな言い争いは続けるのも不毛な上に分が悪いと判断した春亮は、ひとまず素直に謝罪する。具体的に何に対しての謝罪なのかは本人にもよくわからなかったが…
「悪かった、とか!そういうことではないであろうが!あんなことをすること自体が、本当に…なんたるハレンチ小僧…!」
「すいません!ごめんなさい!」
ぶつぶつぼやきながらも一応謝罪は受け取ってくれたようで、フィアの口調の刺々しさが少し緩んだ。
とはいえまだまだ相当気が立っていることには変わりはないので、春亮は謝罪を続ける他ない。
「よくもまあ、あんな…あんな!ウシチチとクロエがいないのをいいことに!私の存在は忘れておったか、そうかそうか…!!」
「ち、違っ!ごめん!ごめんなさい!」
「ど、どうせウシチチの体の不必要に膨らんだ一部分でも妄想しておったのだろう!」
「ごめん!って、いやそれも違う!このはは関係ないだろ!」
「ふ、ふん!わかったものではない!」
「いや、だから!…いや…ごめん」
理不尽な物言いに反論したくもなるが、今下手に刺激するといつまで経ってもこの状況は終わりそうにない。
言葉を飲み込み、春亮はひたすら土下座のポーズで床とにらめっこする。ああ、このはも黒絵もちょうど外出中で本当に良かった、などと思いながら。
「だいたい!そ、そういう!ことはっ!…その…」
「すまん!ごめんなさい!」
なにやら話題が変わったようだが、言葉に満ちた怒気はまだまだ衰えていない。今はひたすらに土下座を続けるしかないだろう…
「ひ、一人でやることでは、ないのだろう」
…そう、一人で…うん?
「本来は…一人ではなく二人で、やること、なのだろう」
…あれ?
「わ、私だって、それくらい、知っているのだぞ」
…なんだ?
「一人でするより、してもらった方が…その…気持ちも…良いと……」
…なんだって?
フィアの言っていることは…なにか…根本的にズレてはいないか?
その違和感に気づいた春亮は、情けない土下座の姿勢はそのままに、恐る恐る顔だけを上げた。
「…だ、だから、その…っ!」
仁王立ちになっているフィアを見上げる形になる。一瞬見えた縞模様、ああ今日もいつもの縞ぱんを履いているのかこいつは…などと呑気なことを考えたのも束の間。
「…ぅ…」
目が合う。
先程よりもさらに真っ赤になった顔でこちらを見ているフィアと。
「…あー…おまえ…何を言ってるんだ、フィア…?」
「…っ!!だ、だから!だか、ら、その、だな…」
「…ん…?」
「つまり…あの…その…」
…どうもフィアの様子がおかしい。しどろもどろに曖昧な単語ばかりを並べ、明らかに言葉を濁している。
もじもじと指を突き合わせながらこちらを見つめる様子からは、今の今まで溢れんばかりに満ちていたはずの怒りがもう感じられない。
どちらかというと…そう、恥ずかしいのをごまかすために先程まで怒っていた勢いを借りているだけ、そんなふうに見えた。
「ふ、フィア、さん?」
「…うぅ…!」
春亮の控え目な声にも、過剰なほどにびくっと尻込みする。
「あ、あの…フィア」
「だ、だから!」
しかしそのまま続けた言葉は、フィアの大声に遮られた。
「だから!おまえは一人であんなことをしていたが、本来は男と女、二人で…やること…なのだろう…だから…だから…」
どんどんか細く縮んでいく言葉。後半は一度引っ込めたらそのまま消えてしまいそうな小さな声になっていたが、しかしフィアは確かにこう言ったのだ。
「私が…して、やろうか…?」
「……………は…?」
予想だにしなかった言葉に、春亮はしばしの間を置いて呆けたような声を漏らす。
「なん…なんだって……?」
「………ぅ………」
「あの……フィア…今…なんて?」
「だから………わ…私が…して…」
「あー…な……何を?」
「…だか……ら……」
「………だから………?」
「………その………」
「…………………」
「……………」
三点リーダが大活躍する会話を交わしながら、お互いこれ以上ないほどに顔を赤くして見つめ合う。気まずい…という表現もしっくりこないような、なんとも微妙な空気。
「………………」
「…………………」
「………………」
「………だぁぁぁぁぁーーーーーっ!!!」
その沈黙を裂いたのは、フィアの絶叫だった。
「うわっ!?お、おいフィアどうした!?」
「ああもう!あほー!あほ春亮!おまえに少しでも、ほんの少しでも『おとこぎ』というものを期待した私が馬鹿だった!ああ馬鹿だったとも!」
「な、何言ってるんだおまえ!?意味が、」
「う、うるさい!もうおまえの意見などどうでもよいわ!私が決めたのだ!私がやりたいようにする!春亮っ!さっさと…その…ええと…あー…………脱げ!!」
「…脱げ……?って、なぁぁっ!?おま、なにを、うわ、ちょっ!?」
信じられないことを口走るや否や、春亮に飛びかかるフィア。不意を突かれた春亮はそのまま押し倒され、フィアにズボンを掴まれる。
「む…これではまるで私が無理矢理おまえを襲っているかのようではないか。ハレンチな」
「いやまさにその通りだよ!っお、ぐあ、おいフィアやめろって!何考えてんだおまえは!?」
「ええいうるさい!大人しくしておれ!」
やけくそのように大声を張り上げ、フィアは春亮のズボンにかけた手を勢いよく引っ張った。
先程慌てて履き直しただけの状態のズボンはいとも簡単に引きずり下ろされる。ついでに下のものも一緒に脱げて。
「…………」
「ぬ、ぬおぉ………」
春亮のモノがあらわになる。
中断された自慰行為の余韻か、まだ勃起したままのそれを見つめながら、しばし硬直する両者。
(な、なんなんだこの状況は…)
あまりにもわけがわからない状況に、恥ずかしいと思う以前にひたすら困惑する春亮。
「こ、これは…」
先に口を開いたのはフィアだった。
「ふ、ふん…さすがはハレンチ小僧…こういうところだけは…大き…い…のか?おい、春亮、どうなのだ、これは。」
「…か、勘弁、して、くれ…マジで…」
「これを、いじっておった、のか…」
「あ、お、あの、フィア、おい」
「いつぞやのテントの正体見たり…といった感じ、だのう…」
「フィア、おい、ちょっと、その」
「………えい」
そして、春亮がしどろもどろに何か言うより早く、フィアが傍らにしゃがみこみ、その両手が剥き出しの股間にあてられる。
「………っ!?」
瞬間、春亮の体を電流のような衝撃が駆け巡る。自分で触った時とはまるで違う、他者の、フィアの柔らかな掌の感触。それが自分のモノに直に触っている。
体験したことのないくすぐったさが、耐え難いほどの性的な刺激となって襲いかかる。それと同時に、今までうやむやになっていた羞恥心も一気に蘇ってくるのを感じた。
「…っ…く…!!」
「あ、春亮…あの、気持ち、いいか…?」
「い、いや…その…!」
いつの間にかなにやらしおらしい口調になったフィアが、上目遣いにそう聞いてくる。
春亮は───本人でさえ聞かれて初めて自覚したことだったが───フィアに触られているというそのことを考えるだけで、すでに絶頂を迎えてしまいそうな状態だった。
「…ふ、フィア、本当に…これ、まずいって…」
「む、まずい……のか。これでは、気持ちよく、ないのか…?」
「ち、違っ…!そういう意味じゃなくて…」
「な、なら、こうして」
慌てたように両手に力を込めるフィア。小さな両手が、春亮のモノを優しく包むように握りしめる。
「……っ…!!」
そう、握りしめた。
それは愛撫とも呼べないような、不器用な行為。ただ握りしめたという表現がふさわしい、拙い動き。
…だが、春亮の限界を破るにはそれで十分だった。
「ぐぁ…!」
こらえきれずにうめき声が漏れる。抑え込んでいた欲望が爆発する。かつてないほどの快感を感じながら春亮は絶頂を迎えた。
「ぬわっ!?」
どくん、どくん、とフィアの掌の中でモノが脈動する。
「ひゃ…ぅ…!?」
勢いよく射精された精液は、近づいていたフィアの顔にもろにぶちまけられた。
すぐに手で遮るが、それでもかなりの量がフィアの顔にかかり、その後しばらく続いた射精を全て受け止めた手もどろどろになる。
「あ…」
ようやく春亮が射精を終えた頃、驚いたような怯えたような、小さな声を漏らすフィア。
「あ…ぅ…」
「ご、ごめん、フィア、その、これは…」
「いや…し、知っているぞ。これは、しゃせい?という、ものであろう…その…えと…」
ちらちらとこちらの様子を伺うように目線を向けつつ、フィアは言う。
「……気持ち、良かったのか、春亮?」
「………あ…その…ああ、気持ちよかったです…ごめん…」
「…そうか…」
「ご、ごめん」
「いや、そうか、気持ちよかったか…そう、か…えへへ…それなら、いいのだ…」
またハレンチ弾幕を張られると思って身構えていた春亮だったが、フィアはべとべと付着した精液を拭きながら何故か顔を綻ばせていた。
「フィア…?」
その笑顔を複雑な気持ちで見ていた春亮は。
「……っ!?」
…唐突に、たった今霧散したはずの汚い欲望が再び自分の中に芽生えるのを感じた。
(な、なん、で…?)
射精したばかりのはずの自分のモノが、また膨らみ始めている。
(なんで…?)
自分でもなぜこんな衝動が沸き上がるのかがよくわからない…しかしフィアの笑顔を見ていると、どうにも胸の動悸と欲望を抑えることが出来なかった。
駄目だ、と戒める理性よりも先に体が動く。
「フィア…!」
「…どうした、春亮…っ!?」
返事を待たずに、フィアを布団に押し倒す。
「は、春亮!?」
「ごめん、フィア!俺…俺は」
「ど、どうしたのだ!?気分でも悪いのか?だったら」
「違う…俺は…俺は、そうだ、お前の言う通りなんだ。俺はハレンチ小僧なんだ…どうしようもないくらい。ごめん…だから…その…」
と、そこで春亮は言い淀んだ。そもそもフィアは男女が行うそういう行為を知っているのだろうかという疑問が浮かんだのだ。
私がしてやろうか、という言葉…あれも、そこまで知っての上で言ったものではないかも知れない。今しがたの愛撫のまねごとで、
フィアは終わりだと思っているのかも知れない…ならば、そんな何も知らない子を汚すようなことをして良いのだろうか…
しかし、そんな春亮のもやもやした疑問を感じ取ったのか、押し倒されたフィアがぽつりと言う。
「春亮…私は、いいぞ。」
いいぞ、と。ただ一言だけを。
「………え…いいって…フィア、お前…その…知ってるのか?何をするのか。何を、されるのか」
ああ…おそらくコイツは全てわかった上で言っているのだろうな…と、雰囲気から春亮はなんとなく悟っていたが、念を押すようにそう聞き返す。
「…知ってる。知っている。…春亮が押入れの奥に隠しているハレンチな本に載っていたようことを、するのだろう」
「…あ、ああ…って、え…お、お前!押入れ勝手に覗くなって言っただろ!?」
「う、うるさい!あれで隠した気になっているのだから片腹痛いわ!だ、だいたい今そんなことを言っておる時か!空気の読めん奴め…」
「…あ…いや…ごめん…」
なんだか今日は謝ってばかりだな、と思いながら春亮は続ける。
「それで…フィア、その……ほんとに、いいのか…?」
「ん…ぅ……ええい!何度も言わせるな!良いと…言ったであろう…」
「ご、ごめん…じゃあ、その…始めるぞ…?」
「…ぅ、うん…」
首肯したフィアだったが、ふと思い出したように、そして少し不安そうに、ぽつりと呟く。
「なあ、春亮。ひとつ聞いても良いか…?」
「…なんだ?」
「あの…な。わ、私はあのハレンチな本に出ていた女ほど、胸がない…ウシチチにも…勿論負けておるし…」
「…それが?」
「だから…は、春亮は、胸が大きいほうが好きか?だったら、私は…私なんかよりも…」
「…はあ……?」
フィアの言わんとすることを理解して、春亮は吹き出しそうになる。なんだか不安そうだった理由はそんなことか、と。
そう、そんなこと。そんなことは、本当に。
「…あのなぁ…馬鹿か、おまえは」
春亮はそう一言だけ言って、強くフィアを抱き締める。それだけで、気持ちは伝わると思ったから。
フィアは一瞬驚いたような顔をしていたが、やがて、そうか、と少し嬉しそうに囁き、身を委ねるように体の力を抜いた。
嬉しさ半分、怯え半分といった表情を浮かべ、借りてきた猫のように大人しくなったフィア。
とりあえず着ていたワンピースを脱がせ、春亮も裸になってから愛撫を始めた。もちろん初めてのことなので、ぎこちなくフィアの体に指を這わせる。
「ひゃ…ぅ…」
体を撫でる度に、フィアは普段からは想像もできないような艶かしい声をあげた。
「はぁっ…あぅっ…」
本人は大きさにコンプレックスを抱いているらしい、しかし決して膨らみがないわけではない胸。柔らかなそれを春亮の手がゆっくりと撫でる。
「あ、あぅぅ…!」
先端の突起をつまむとフィアはいやいやをするように体をくねらせたが、それとは裏腹に発せられた声は快感に喘いでいた。
「フィア…」
「んふっ…!」
その唇に、春亮は優しく口づける。
「ん…ぁ…」
求めるようにフィアの舌が入り込んでくる。春亮もそれに応え、しばらく二人は舌を絡ませあった。
「…ぷはぁっ」
「ん…」
長いキスを終える頃には、フィアはすっかり顔を上気させ、官能的な雰囲気を纏っていた。
その表情にさらに欲情しつつ、フィアの胸に顔をうずめて舌で愛撫を始める春亮。
「ひっ…くひゃっ…」
乳首を吸う度にぴくんと震えるフィア。その反応を楽しみながら、秘部に手を伸ばす。
「…ひゃ…」
「フィア、いいか…?」
「…い、今更なにを。…何度目、かのう。春亮にそんなところを触られるのは」
「え!?い、いや初めてだぞ!?こんなことするのは!誓って!」
「な、何を言う。私がここへ来て早々にいじくり回したくせに。以降も何度か、ほれ、あの黒光りするモノを入れるときとか…」
「あ…?あ、ああ……なるほど…って、そうか、やっぱり…」
黒光りするモノ、というのは免罪符機構のことだろう。紛らわしい。しかしこれまで春亮ができるだけ考えないようにしていたことだが…やはり、
あの箱形態における最奥部は…このはの言うところの「人間体での一番大事なところ」というのは、つまり…この部分のことだったのか。恥ずかしがるのも無理はない…
と言っても、今まさに人間体でこんな行為をしているのに、そんなふうに思い返すのもおかしな話ではあるが。
苦笑まじりに笑いながら、春亮はフィアのそこを優しく撫でた。
「んっ…」
「…あれ?お前、なんか…濡れてないか?」
「う、うるさい。気のせいだ」そう反論するフィアの秘部は、しかしごまかしようのないほどに湿っていた。
「感じてる…のか?」
「し、知らん」
「…素直じゃねえなぁ…」
春亮は滑らかなそこに指をあてがい、割れ目に少し侵入しつつ愛撫する。
「んんっ…ふっ…」
堪えきれないように漏れるフィアのあえぎ声。指を動かすと、くちゅくちゅと淫らな水音が生まれる。
「あ、ひゃうっ…んあぁ…」
しばらく愛撫を続けると、フィアの秘部はてらてらと光を反射して見えるほどにぐっしょりと濡れてきていた。
「はっ…春亮…」
すっかり上気した艶かしい表情でフィアが言う。
「も、もう…いいぞ…私は、その…十分…」
何が、と言わなくても春亮にはすぐに伝わった。
「…そうか。じゃあ、えと…い、入れる、ぞ?」
「…ん」
ぎこちない動きで、自分のモノをフィアの秘部にあてがう。
…普段からわかっていたことだが、裸になると余計に目立つことがあった。フィアは本当に小柄な体格だということだ。
痩せすぎというのとは違い、小柄なまま完成してしまった肉体…という感じで美しくはあったが、それでも小柄なことに変わりはなく。
だからもちろん秘部の割れ目も決して大きくはなく…あてがわれた春亮のモノとは少々不釣り合いに見えた。
「フィア、その…痛いかも知れないけど…本当にいいんだな?」
そのアンバランスさに少々の背徳感を感じ、春亮は再度問いかける。
「い、いいと何度言えばわかるのだ。心配せんでいい。だから、早く…」
が、フィアの答えは変わらない。
「…じゃあ、入れるぞ…?」
「…ん、うん…ゆ、ゆっくりだぞ?」
おねだりするようにフィアが言う。ああ、と頷き、春亮はゆっくりと腰を前に動かした。
「…っ!」
「あ……」
ぬるりとした感触。自分のモノの先端に、感じたことのない温もりが伝わってくる。
「う…す、少し、痛いぞ、春亮…っ!…入ったのか…?」
「ご、ごめん…でも、まだ先っぽだけだ…」
「そ、そうか…」
微かに憂いを帯びた声。続いて、フィアは思い出したように口を開く。
「そうだ…忘れておった。」
「どうした?なにを忘れてたんだ?」
「は、初めて…こういうことをするときは…言うことがあるらしいのだ。言っておらんかった」
「…なんだそりゃ?」
「えっと…な」
そこで一呼吸おいて。
「や、優しくしてくれ、な、春亮?」
嬉しそうにそう言って、可愛らしく微笑む。
「…フィアっ…!」
その笑顔に春亮の全身が狂おしく悶える。溢れる欲望に一瞬理性がにじみ、衝動に任せるまま春亮は腰を大きく突き出した。
…何かを突き破るような感覚と、心地よい熱を感じた。
「…ぅ…ぐ…っ!!」
同時に、フィアが押し殺した声で嗚咽を漏らす。
春亮のモノが、完全に根元まで挿し込まれたのだった。
「…ぅ…うぅ…っく…!」
「ふ、フィア?」
苦しそうに脂汗をにじませながら顔を歪めるフィア、その姿に春亮ははっと我にかえった。
「お、おい大丈夫か?」
しどろもどろになりつつフィアに問い掛ける。
「…だ、大丈夫、だ…い、痛いけど…大丈夫だから…」
途切れ途切れに苦しげな言葉を紡ぐフィア。しかし目尻に涙をたたえ、不自然に表情を歪める様子は、とても大丈夫そうには見えなかった。
「ご、ごめんな。いきなり突いちまって…ごめん…。あのさ、痛いなら、やっぱり…やめとくか?」
このままフィアを汚したいという抑えがたい欲望もあったが、それ以上に自分の勝手のせいでフィアが苦しむのは耐えられなかった。だからそう言ったのだが、
「だ、駄目だ」
苦しそうな声ながらも、はっきりとした拒否。
「いやだ…いやだ。今やらなきゃ…ウシチチに…クロエにも…先を越されてしまうかも知れないではないかっ…!」
「………!?」
「春亮を…取られてしまうかもしれない…のだ…そんなのは、いやだ」
「フィア…」
…なにやらものすごく恥ずかしいことを言い返された。
しかし羞恥よりも先に、春亮は純粋に嬉しかった。フィアが自分のことをそんなふうに大切に思ってくれているということが。
「い、いいから、好きなように、動いてくれ…大丈夫、だから」
だから、もう聞き返すような野暮なことはせずに。
「…わかった。それじゃ」
「ん、春亮…」
そう囁いたフィアは、春亮の体に手を回して強く抱き締める。
「……っ!」
全身の肌と肌がひときわ強く密着する感触。柔らかな肌が、お互いの熱が、直接触れ合っている。ただそれだけのこと。
…しかし、それだけのことが、こんなにも心地よいと春亮は初めて知った。
(ああ、あったかいな、こいつ…)
フィアに抱きつかれながらそう思った。驚くほどにほわほわと温かい熱を帯びている肢体。
伝わってくる少女の熱が、今まさにその温もりを抱いているのだという事実を再認識させる。自然に、春亮もフィアの体を強く抱き返していた。
「あっ…ぅ…」
甘い声を漏らすフィア。春亮はいよいよ我慢できなくなり、
「フィア、動くからな…?」
「…春亮ぃ…!」
「…っ!」
脳髄まで溶かすようなその甘い声に、春亮はなんとなく自分の理性が薄れていくのを感じた。
「フィア…!」
そしてさらに強くフィアの小さな体を抱き締め、腰を動かし始める。
「あっ…うぁっ…!」
淫らな水音と共に、フィアが声をあげる。
「ひゃふっ…くっ…」
春亮が腰を動かす度に、喘ぎとも嗚咽ともつかない声を漏らす。
「は、はる、あき…!」
自分の名を呼びながらキスを求めてくるその唇に、春亮はそっとくちづけた。
「……んむぅ…っ!!」
瞬間、フィアの腕に力が入ったかと思うと体が大きくびくんと跳ね、
「………っ…!」
そのままがくがくと痙攣する。
「…ん…っんむぅぅ…!!」
唇に貪るように吸い付きながら、恍惚の表情を浮かべるフィア。
「ん…んふっ…!」
春亮と繋がっているその秘部からは、体の痙攣に合わせて愛液が勢いよく吹き出してきていた。
「ん…んふぅ…!!」
その後もしばらくひくひくと痙攣した後、唐突にそれはおさまり、フィアの体から糸が切れたように力が抜ける。
「…ぷはっ…はぁ…はぁ…はひゅ…」
春亮の唇から自分のものを離し、小刻みに呼吸するフィア。
「ひゅっ…ひゅっ…はぁ…」
「ふ、フィア…お、お前、その…イったのか…?キスされて?」
「はっ…、はっ…、…ふぇ…?」
息も絶え絶えに、とろんとした瞳でこちらを見るフィア。口の端から垂れる涎を拭おうともしない。
「な、なんだか、わ、わからん…ぞ…でも…頭が、真っ白になって…それで、体が、じんじんして、すごく、熱くて…」
「ああ…」
「わ、わからんが…、イった?の、かもしれん…」
忘我の表情のままそう言って笑う。春亮にはすぐにわかったが、かもしれない、ではなく確実に絶頂を迎えていた。
「ご、ごめんな、春亮。驚かせて。私は、なんだか…体が…おかしくなってしまったかと思ったぞ…」
「フィア…」
「まだ、体がじんじんする…春亮、すまん、ちょっと休み…」
フィアはぐったりして休息を申し出ようとするが、しかし春亮はそれを遮り一言だけ
「…フィア、ごめん!」
…そう告げる。
「…ふぇ?」
初めてフィアと体を重ねている、ただでさえそのことに興奮していた。なのにその上、激しい絶頂を迎える淫らな姿を見せられて。
しかも自分がキスしたことがそのきっかけ。春亮は…身も蓋もない言い方をするならば春亮の性欲は…もう、限界だった。
「俺……我慢できそうにない」
そう言うと同時に、春亮は腰を激しく振り始めた
「ふぁ…っ?…っあぅあああぁぁぁっ!?!」
不意を突かれたフィアが身をよじりながら大きな喘ぎ声をあげる。
「ひゃ、ひゃめぇ!は、はるあ、き…んあぅっ!」
「フィアっ!フィア!」
「や、やめ、い、今は駄目だ!体がっ…ひゃああぅ!」
「フィア!」
「だ、ぁめぇ!ヘン、だ、また、また…っひゃ、ぁ…ふぁああああぁぁぁっ!!!!?」
フィアの体が再びがくがくと激しく震える。先程迎えたばかりの絶頂を、また迎えたらしかった。
「あひっ…ひっ…ひゃう…ひぃっ!!?」
「フィア、ごめん…!」
「ひっ…ひっ!?や、やぁ、やめ、はるあ、き」
「…はぁ…はぁ…!」
「や、い、イって…るのだっ…今っ…ひぃ!ひゃっ!やめ、やめぇ…!」
フィアが絶頂を迎えているのも構わず、ひたすら腰を振り続ける春亮。
「うぁ!ひゃうぁぁ!やめ…ひゃ…は…る…あき…!」
絶頂を迎えた状態に更に刺激を与えられているフィアは、息も絶え絶えに声を漏らす。
「うぇっ…春亮…やぇ、いや…ひっ…ひゃうぅ…」
涙すら浮かべながら懇願するフィア。しかし春亮はほとんど我を忘れて行為に没頭しており、獣じみた動きが止まることはなかった。
「ひっ…ひぐっ…うぁぁぁ…!う、あ、ま、また…っひぃ…あぁぁぁ…!」
再びがくがくと痙攣するフィアの肢体。
「フィア…!」
それでも春亮は自分のモノをフィアの秘部に出し入れさせ続ける。
「あ、また、イ、って…あ…あぁ…うぁ、あああぁぁぁぁっ!!?!」
その激しい動きに、絶頂の痙攣が終わらないうちに更なる絶頂を迎えるフィア。
「やぁぁ…やぇ…っんむぅっ!」
さらに、突如唇をふさがれ、喘ぎ声すら漏らせなくなる。
「─────っんんぅーーっ!!!」
リズミカルに動き続ける春亮と、がくがくと震え続けるフィア。
絶頂の波は、もはやほとんど間断なくフィアの体を襲っていた。
「フィアっ…!」
そしてついに達しそうになった春亮は唇を離し、フィアの名を叫びながら思い切り大きく腰を突き出した。
「ぐぅ…!」
求めていた瞬間が訪れ、全身を快感が駆け巡る…
小さくうめき、かつてないほどの快感を感じながら春亮は絶頂を迎えた。
「─────っふゃぁぁああああぁぁぁぁーーーーっ!!!!」
そしてフィアも、その大きな動きによってかつてない絶頂に達する。体をめぐる壮絶な快感に身体を痙攣させながら絶叫する。
「あひっ…ひっ…ひぃぃぃ…!」
がくがくと震えるフィアの体をしっかりと抱き締めながら、その膣に精を放つ春亮。
「フィア…!」
「ひぁぁっ…っあぅ!…でて…奥、に…」
どくん、どくん、と下腹部に温かいものが流れ込んでくるのを感じる。
自分の体の奥に春亮が入ってきている…快感に塗り潰された思考でうっすらとそのことを認識し、フィアは更に体が火照るのを感じた。
「あっ…ふぁっ…は、春亮ぃ…!」
たまらず、春亮の体をこれ以上ないほど強く抱き締める。無意識のうちに、背中に爪まで立てて。
春亮もそれに応えて、しっかりとフィアを抱き締める。
「…フィ、あっ…!」
「は、はる、あきぃ…!」
共に絶頂を迎えた二人は、長い射精が完全に終わるまでずっと、お互いの体を強く抱き締めあっていた。
「……ハレンチ小僧め」
「…いや…その…」
「ハレンチだ。ハレンチにもほどがある…いや春亮、おまえはもうハレンチなんてもんではないぞ。言うなれば…そう、なんだ…つまり……ハレンチだ。」
「……ごめん…反省してるよ…」
ことが終わったあと。
お互い性欲が発散してクリアな思考を取り戻し、やたらと気恥ずかしい空気の中。それでも俺達は、なんとなく布団の上で寄り添ったままでいた。
会話はぽつりぽつりと途切れ途切れだが、決して気まずくはない空気。
「は、春亮、あのな?」
と、急にフィアが上半身を起こし、寝そべったままの俺を見下ろしながら照れ臭そうに言った。
「どうした?」
「…は、ハレンチなのは、べべ別にそんなに悪いことではないぞ。仕方のないことだ。そういう人間もいるのだ。気に病むことはない。」
…なにやら可哀想な人間を慰める時のような言葉をかけられた。
意図をはかりかねて無言でいると、フィアはさらに恥ずかしそうに言葉を続ける。
「だから…だからな、ハレンチな気分になったら、今度からはちゃんと…わ、私に言うのだぞ」
「…は?」
またも意味のわからない発言。今度は無言ではいられず聞き返してしまった。体を起こし、フィアと同じ視点になる。
「な、なんだその反応は!呪うぞ!?」
「え…いや、ごめん…けど何が言いたいのかわかんねえよ。もうちょっとわかりやすく頼む。」
よくわからないがそう謝罪すると、フィアは何故かますます真っ赤になる。
「あー…つまり…うう、なんで二回も言わなければならんのだ!あほー!」
「逆ギレすんなよ!?」
どうも先程のように恥ずかしいことを言おうとしているらしい、ということくらいはわかるが…言ってもらわない事には反応のしようもない。
しばらくあーうー唸った後、やっとフィアは口を開いた。
「だから…その、おまえが一人で今日のような…ハレンチな、おまけに陰湿な行為にふけっているのは…なんというか…その…」
「…なんだよ」
「うー…その…あー…そう、そうだ!哀れ!哀れなのだ!それ以外の何者でもないぞ、うむ。可哀想だ。憐憫の情を覚える。同情に値すると言ってもいい」
「…酷い言われようだな…」
「う、うるさいわ!このハレンチ小僧!えっと…だから…な、だからな?」
「…?」
急に口調が柔らかくなり、上目遣いでこちらを見つめるフィア。
「だから…春亮が、もし、嫌じゃないなら、わ、私が、今みたいに…相手をしてやろうと…そう……言っておるのだ…」
ものすごく尻すぼみながらもなんとか最後まで言い切り、言い終わるや否やみるみるうちに真っ赤になるフィア。
「………」
「…ぅ…ぇ?」フィアの潤んだ双眸に見つめられてたじろぐ俺。
言葉の意味を噛み締めていくうちに、だんだん顔が火照ってくるのがわかる…このギンギラ小娘、とんでもないことを…人のことをハレンチ呼ばわり出来た義理かよ…
「い…嫌だったか…?」
黙ったままでいたのを拒絶の意味に取ったらしく、フィアが不安そうに再度聞いてくる。
そうじゃない。そうじゃないんだ。
「えっと…フィアは、嫌じゃなかったか?」
「わ、私は…私は、嫌ではないぞ。いや、さっきみたいに…乱暴にされるのは嫌だった…が…優しくしてくれるなら、時々なら付き合うにやぶさかではないというか…してほしいというか…」
またも尻すぼみで不安そうな返事。おまけに言葉をひとつ紡ぐ度にどんどん顔が赤くなっていくものだから、見ているこっちまでいよいよ照れてくる。
「そう…か…えっと。な…」
そのせいで、言葉では上手く伝えられそうになかったから。
「……俺は、こうだ」
「…え…っ!?は、春亮!?」
不安そうにこっちを見ている銀色の頭を、ぎゅっと抱き締めてやった。…我ながら、ずいぶんキザなことしてんなあ…などと思いつつ。
「……は、はるあき」
「えっと…」
「…春、亮?」
「あのさ」
フィアの呼び掛けを遮り、なにか言おうとしたが…やめた。
うまく言葉にできないことを無理に言うより、こうやって抱き締めていれば気持ちは通じるはずだ。
そう、少なくとも、今のこの温かな気持ちくらいは───
───そう思い、春亮が微笑みながら瞼を閉じたのと同時に。
ガラガラと玄関の戸が開く音がして。
「ただいまですー」
「ハル、今帰った。お友達も来ちょる」
「夜知、私だ。忘れ物を」
「……………………………え?」
「……………ぬぁぁ…」
玄関に、同居人+αの声。
「……春亮、あとは任せた」
腕の中でフィアが短く一言。そして規則正しい寝息が………なんとも迅速な狸寝入りだった。
「…………え?」
眠っている(フリをしている)フィアと、それを抱きかかえる春亮。
「……………」
もちろん、二人とも裸のままだ。
「………」
そして春亮の部屋の出口はひとつだけ。それは玄関から真っ直ぐ伸びた見晴らしの良い廊下へ続いている。
逃げ場はない。
ついでに、言い訳が通じる状況とも思えない。
「…………あ、あるぇー?」
春亮の喉から、引っ掛かったような裏返ったような、わけのわからない悲鳴が漏れる。
ひどく喉が乾いた…冷や汗が止まらない…全身から血の気が引いていくの感じる…
どこか霞がかった意識の中、春亮は、ああなるほど今日は俺の命日なんですね、わかります、などとぼんやり考えながら、迫り来る死神の足音×3を聞いていた…