オレはなんて幸せな初恋をしているのだろうと、ぼんやりとしている意識のはじっこで、
そんなことを考える。
「あ……んっ、んっ、んっ……快斗くん……きもちいいよぉ……」
日坂さんがぎゅうぎゅう、締めつけるせいだ。
ふだんは、柔らかでふわふわしている髪が、胸の上に流れて貼り付いている。
「日坂さん……!」
ぐちゅぐちゅといやらしい音をさせながら、日坂さんがオレの上で揺れる。明度を落と
したホテルの一室のベッドの上で、ひとつになっている。
彼女が身体を浮かして落とすたび、ベッドがきしきしと音を立てる。
薄暗いので体の細部まではわからない。けれど、やわらかな茶色の髪が身体と一緒に踊
っているのはわかったし、その顔が甘く、淫猥にとろけているのはわかった。
オレのものが飲み込まれて、また出てきて……その様子が間近に見えるし、もちろん
「感じる」。
ほんの一月前までは、女の人がこんなに柔らかくて、行為がこんなにも気持ちの良いも
のなんてしらなかった。
「ひ、日坂さん……気持ちよすぎっ……やばいっ!」
「うんっ……快斗君のっ、きもちいいっ! きもちいいよぉ……!」
日坂さんが腰を動かす度に、先端から根本までをなめ回されているかのような刺激があ
る。何かを責め立ててくるような快楽に頭がしびれる。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ! 快斗くっ、んっ!」
「日坂さんっ!」
耐えきれずに日坂さんを抱きよせる。小柄な日坂さんはオレの腕にすっぽりとおさまっ
た……!
耳元できこえる嬌声を聞きながら、オレは日坂さんのそこへ思い切り突きこんだ。
「んっ、ひっ!」
日坂さんが上になっている分、うごきやすい。下から突き上げる動きのまま、欲望のま
ま、日坂さんに性欲をたたきつけ続ける。先端を日坂さんにこすりつけ、彼女の中を蹂躙
する……。
可能な限り大きな動きのまま、速度だけを上げていく。日坂さんの中にオレの形を覚え
こませるように、深く刻み込んでいく。
日坂さんはそれを――まったく、拒まなかった。
「ひぁ……っ、こ、腰うごいちゃうぅ……んぅっ!」
おもわず顔を上げた日坂さんのくちびるを奪う。
「んっ、んくっ……んっ!」
舌と舌を絡ませ、腰を動かし続ける。脳髄を蕩かすように互いと互いに官能を高めてい
く。じゅく、じゅくとみだらな音がするたびに、快感が頭を満たしていった。
「日坂さんっ……出るよ……!」
「んっ、んっ、んんんっ! わ、わたしも……いっちゃう……っ!」
日坂さんがそう言った瞬間、ムスコがいままでにないくらい、締めつけられた。
それがトドメだった。
「うぁ……っ!」
オレの意志とは無関係にムスコ自体が大きくふるえた。先端がびくびくとうごめいて、
ポンプの要領で精液をぶちまけた。
亀頭を精液が通過する感覚が心地よくて、気を失うかとおもったほどだ。
「ひ、やああああっ!」
日坂さんが悲鳴をあげながら、オレの精液を奥底でうけとめてくれる。
中だしの刺激で絶頂の一線を越えたのか、体中をびくびくと細かく揺らし、悲鳴を続け
る彼女をオレは抱きしめる。
「んっ、んっ……んっ! ま、ま
だでてるよぉ……!あ、あばれないで……っ! やぁ……!ま、またっ……」
日坂さんが身をすくませる。ひくひくと膣道が痙攣し、それが刺激になって、さらにム
スコが精液を吐きした……。
お互いに息がおさまるのを待って、オレと日坂さんから体をはなした。堅さをうしなっ
たオレのものを抜き出すとき、日坂さんが「んっ」、とかわいらしい声をあげた。
「は、ふぅ……」
そのまま日坂さんはシーツの上に座り直し、ぼーっとしていた。
ふにふにとやわらかいほっぺたは、リンゴみたいに真っ赤だし、胸元あたりまで落ちた
髪が汗にはりついて色っぽい。
息をする度に上下するおなかとか、扁平だけど形のいい胸とか。本当に色っぽい。
それにいままでの情事の証というか、オレの吐き出した精液が、トロトロと彼女のソコ
からながれ出ていた。
ああ、日坂さんのあられもない姿をみれるのってオレだけなんだなぁ、などとおもうう
とすこし感慨深い。
オレの気持ちを知ってか知らずか、日坂さんはふぅ、と長い息をはいて、オレの胸のあ
たりに額をよせた。
鎖骨のあたりにこつん、と頭があたる。
そしてすこしだけ拗ねたような声で言う。
「快斗くん激しすぎ……」
「うん……」
オレは返事をしながら、日坂さんの明るい栗色の髪をそっと撫でた。
お互い風邪をひかないように、二人でベットに潜り込む。自宅のベッドとはやっぱり肌
触りが違うシーツに二人で身をつつんで、向かい合う。
「うう……中だしがクセになったらどうしよう……そうなったら快斗くんのせいだよ…
…」
「あ、いや、その。あんまりに気持ちよくて」
「む、うう……」
快斗くんが喜んでくれるのはいいんだけど……と、つぶやきながら、日坂さんはシーツ
の裾を顔まで引き上げる。
「快斗くんのばか……。心葉先輩の結婚式のときのこと、みんなにはなしちゃうよ? 掲
示板に書き込んじゃうよ……?」
「そ、それは勘弁してください……。そんなことされれば、オレの作家人生おわっちゃい
ますよ」
「大混乱だったもんね、快斗くん」
日坂さんがいたずらっぽく笑う。
なぜか結婚会場にいた日坂さんの初恋の相手が、遠子さんの旦那になる人で、旦那は井
上ミウで、佐々木さんの言うような人当たりのいい、いわゆる格好いい大人だった。
混乱に追い打ちをかけるように、その新郎の横にたつ純白のウェディングドレス姿の遠
子さんに見とれて、手にもっていたグラスの中身をこぼしたあげく、隣のテーブルにすわ
っていた美女に大笑いされるという醜態をさらしてしまった。
ちなみにその大笑いしていた美人というのが、会場に入った瞬間に俺を捕まえて、日坂
さんと井上ミウの関係を暴露した人だったりするからタチが悪い。
「日坂さんは・・・井上さんのこと好きだったんですよね」
「うん。いまでもだぁぁぁい好きだよ」
北風がはだしで逃げ出すような笑みを浮かべる日坂さん
。
オレはそれを複雑な思い出見つめた。
オレとしてはほかの男を「だぁぁい好き」と言われれておもしろくない――でも、その
「だぁぁぁぁい好き」の裏にかくされた感情をオレは知っている。
オレも日坂さんも、きっとものすごく幸せな失恋をしたもの同士だから。だから、大切
っていうのがどういう気持ちで、大好きっていうのが、どれだけ暖かくて、どれだけ切な
いのか、よく知ってる。
「あ、でもね」
そんな感情が顔にでてしまったのか、日坂さんは困ったような、照れたような表情で、
オレの耳元にくちびるを寄せながら言った。
「でも……愛してるのは快斗くんだよ」
「……お、オレも」
顔に血が上るのを感じて、気恥ずかしくなって顔を背けようとしたら、日坂さんの手の
ひらがオレの頬をしっとりと包みこんだ。柔らかい指先が心地いい。
「オレも日坂さんを愛してます。だから、ほかの男のこと言うの、やめてください」
「快斗くんはやきもち焼きだもんね」
「……そうっすよ。やきもちやきなんだから、やきもちなんて、やかせないでください…
…」
「よしよし」
頬を撫でていた手をはなして、今度はオレの頭を撫でる。おもわずうっとりとしてしま
うほど、心地よい安心感。彼女が図書館でアルバイトをしていた時からかわらない、優し
い手のひらが行ったりきたり、頭を撫でる。あまりの心地よさに眠ってしまいそうだった。
ぼんやりとしてきた頭で思い出す。
――遠子さんの結婚式の後から、日坂さんとオレの距離はぐっと近づいた。
それまではたまに、メールや手紙のやりとりをしていたけど、二人でどこかにいこうと
か、どこかで会おうとかはなかった。ガキのときの印象が強くて、どうしても日坂さんを
「年上の、きれいなお姉さん」としか思えなくて、彼氏と彼女になろうなんて、考え付か
なかった。
でも――あの、遠子さんの結婚式で。
泣き出しそうな顔をしながら、幸せそうに微笑む彼女を見て、胸がせつなくなった。ふ
だんの明るい彼女からは想像がつかない、複雑で弱々しい表情の横顔に胸が締めつけられ
た。
結婚式から一週間くらいたって、オレから日坂さんを食事にさそって、日坂さんはそれ
をことわらなかった。何回かのデートのあと、自然とこういうつきあいになった。
初めて腕を組んで歩いた時には、幸せでどうにかなりそうだった。
求めるオレに、目に涙をためながら、なにかを決心した顔でうなずく彼女を心底いとお
しいと思った。
初めてつながったとき、泣き出した彼女を一晩中抱きしめて、頭を撫で続けた。
日坂さんの手が優しくオレの髪を撫でてくれる。それはものすごく心地よくて、胸の中
が幸福で満たされていくのを感じた。
ふ、と。髪をなでてくれている腕の先、シーツの間にみえかくれする乳房に目がいった。
日坂さんの手が動くたびに、形のいい乳房の、その先端が甘く揺れる。
「あ」
オレの視線を感じたのか、日坂さんは片方の手で胸を隠してしまった。
でもそのときはもう遅かった。下半身に血が集まっていくのがわかる。
日坂さんも同じなのか、上目使いでちらちらとオレをのぞきこむ……。
か、かわいい……。
その表情をずうっと見ていたいと思うのと、相反して、股間が持ち上がってしまう。
「あの、日坂さん……もう一回、いいかな」
「え……もう大丈夫なの? い、いいけどっ! でもね」
いったん、そこで口をつぐむ。
そして、もう一度、オレの頭をなでながら、そしてえへっと、恥ずかしそうにこう言っ
た。
「こ、こんどはゆっくり、甘えても……いいかな」
――――
ベット上に日坂さんを仰向けに寝かせた。すこし足を開いてもらう。
赤ん坊が足を投げ出しているような格好になり、日坂さんは顔を真っ赤にしながらうつ
むいた。
白地のシーツの上でも生える、血色のいい脚と脚の間に、そこが、男のオレからすれば
薄い、恥毛の奥に、さっきまでオレを飲み込んでいた、その、そこがある。
「ぅぅ……恥ずかしい……」
うちむいたまま、涙目を浮かべながら、日坂さんがつぶやく。
しかし、男のオレからしていれば、それは息苦しくなるほど愛しくて、獣欲を刺激する
表情だった。
「か、かわいいっすよ……」
「快斗くん、さっきからそればっかりだよ……」
「でも本当にかわいいんで……照れてる日坂さんの顔、もっとみたいです」
「わたしの方がお姉さんだよ……」
「知ってます。オレに本のおもしろさを教えてくれた上に、心配して中学校まで来てくれ
て生き別れのお姉さんになってくれた、文学少女のお姉さんです。でもかわいいのは本当
なんですから、しかたないじゃないですか」
「……」
オレはゆっくりと日坂さんに覆い被さる。片手を頬によせて、それから手触りのいい髪
の毛を撫でた。
日坂さんは瞼を閉じてオレのするがままに、ゆだねてくれている。
日坂さんの健康的なピンク色のくちびるに口をつけ、その中に舌をはわせる。おずおず
と差し出される舌に舌を絡めて、深いキスを交わした。
「んっ……んちゅちゅ……んっ……」
お互いの舌が舌をたたいて、卑猥な水音をたてた。その音によっぱらう。いつの間にか
オレは日坂さんの頭を両手で抱いて、キスに夢中になっていた。
「あ、んっ……んぁ……ん……」
すこし息苦しくなったのか、日坂さんがくちびるをはなして、キスは終わった。
「すごいエッチなキス……だね……」
「そうっすね……」
「もう、いっかい……いいかな」
今度は日坂さんからキスが始まる。何度かくちびるをつけたり、はなしたりしてお互い
気が済むまでむさぼった。
「あ、う……」
すこし惚けた日坂さんの首筋にくちびるを落としながら、徐々にそこへ向かっていく。
先端が強調された、控えめな乳房にくちびるでふれる。
「んんんっ!?」
とたんに日坂さんがふるえる。
「ふぁ……!? や、やら、快斗くんっ! くすぐったい……」
「くすぐったいだけですか……?」
「んっ……舐めながらちゃだめぇ……」
「気持ちよくは?」
「うう……気持ちいい」
ぷっくりと立ち上がった乳首を指とくちびるで刺激し続ける。くちびるが届かないもう
一方の胸は、片手で、包み込む。指と指の間に乳首を挟みながら、円を描くように刺激を
くわえる。
汗でしっとりと塗れているせいか、手のひらにぴったりと乳房がおさまる。柔らかくて、
崩れないのが不思議なくらいの不思議な弾力だった。
「快斗君……んっ、さわり方が……やらしい……く、くすぐったい……」
「やさしくって言ったのは日坂さんですよ」
「そうだけど……。やさしいとやらしいは違うよぉ……」
「一文字違うだけっす。それに日坂さんの顔のほうが――やらしいっすよ」
「ううう……」
改めて身体を動かす。乳房を撫で続けた。最初こそ恥ずかしそうに身体を揺らしていた
日坂さんだったけれど、
「んっ……あっ……やぁ……」
と、艶やかな吐息を漏らすようになっていた。
その吐息がまた、オレを興奮させる。顔から首筋、首筋から胸へ往復しながら、日坂さ
んを味わっていく。
「か、いと……くん……」
日坂さんに切なそうにいわれて、オレは顔を上げた。
「う……」
頬を紅潮させ、目を潤ませた日坂さんがいた。
オレは日坂さんにうなずいた後、身体をずらして、日坂さんの両脚を両手で抱えあげる。
赤ん坊のおむつを換える時のような格好に、日坂さん首を背ける。
そんな仕草でさえ、オレをかき立てる。首筋にかみついて、おもいきり日坂さんを犯し
尽くしたくなる。
さすがにそれは我慢して――。
目線を下に落とした。指先を日坂さんのソコにさしむける。
「ま、まって……あうっ……」
日坂さんの静止とは反対に、指は抵抗なく、彼女の中にのみこまれた。身体がびくりと
ふるえる。
「あ、やあ……」
ちゅる。ちゅる、ちゅる。
なかはもう十分に潤っていた。たぶんさっきぶちまけたオレの精子も、ぬめりに一役買
っているに違いない。
大丈夫……だよな。
オレの人差し指を日坂さんが……締め付けてくる。
一度顔を上げて日坂さんを見つめた。どこか不安げな表情のほかに、何かを期待するか
のようなみだらな目で、オレを見つめている。
「じゃあ……いただきます」
「……はい」
脚と脚の間の、艶っぽく塗れたそこにムスコの先端をあてがう。
ちゅくぅ
日坂さんの愛液と、オレの先走りの液体が音を立てる。
そのまま、日坂さんを抱きしめるようにして、ムスコをつき入れる。
「んんんんんっ――!」
何の抵抗もなく、ムスコは日坂さんを貫いた。つきだした腰の勢いそのまま、先端がは
日坂さんの中にわけ入って、一番奥をつついて止まった。
ムスコを優しく包み込みつつ、内側のヒダがムスコを舐めまわすように刺激する。
「あ、うう……」
日坂さんは、甘い吐息をはきながらも、オレを受け止めてくれている。目尻にたまった
涙が色っぽい。
「動きますよ」
一応許可をとってから、腰を動かしはじめる。やさしく、のオーダー通りにゆっくりと
抜いて、ゆっくりと挿入する。
「ふ、ああ……」
日坂さんから甘い吐息が漏れる。
「ん……気持ちいいっすか?」
「うん……やさしい……。快斗君が行ったりきたりしてる……。快斗君は?」
「めちゃめちゃ気持ちいいっす」
「じゃあ……しばらくこのまま……」
日坂さんの指がオレの指をからめる。
至近距離で、本当に恋人くらいにしか許されないような間近で見つめあいながら、ゆっ
くりと腰を動かした。
「んっ……んっ……んっ……」
吐息がふれる距離で、じれったくなるくらいの注挿を繰り返す。たまに、キスをしなが
ら、うっすらと汗をかいた首筋に唇をはわせながら、日坂さんを味わっていく。
なにをしても反応してくれる日坂さんがかわいくて、もっともっといじめてしまいたく
なる。
走行しているうちに、いままでされるがままにになっていた日坂さんが、身じろぎしは
じめる。
「ひ、日坂さん?」
「んっ……んっ、んっ、んっ……」
オレの抜き差しのタイミングに会わせるように、日坂さんが腰を動かす。
「ゆっくりって言ったのは日坂さんですよ……」
「だ、だって……き、きもいい、んっ、んっ……」
そういいながらも、腰の動きは止まらない。
でも、その動きはあまりにもいじらしかった。
体勢が体勢で、日坂さんは満足に動けない。
そして、そろろそろ、オレの方も限界だった。
「じゃ……そろそろ、動きますね」
「……うん。おもいっきり……しても、いいよ? んんっ?」
「はい……」
「日坂さんっ!」
息絶え絶えに彼女の名前を叫ぶ。叫びながら、彼女が壊れてしまうのではないかと心配
になるほど――奥まで入れて、抜いて、入れて、抜いてを繰り返す。
「やぁぁぁ! 快斗くんっ! 快斗くんっ! 快斗くんっ!」
愛しい人に名前を呼ばれ、求められる快感に身をゆだねながら、彼女を思い切り抱きし
める。
オレは射精感に身をゆだねた。
頭がソレをする事以外、考えられなくなっていく。柔らかな身体を抱きしめ、身体と身
体をすりつけるように、皮膚の上の、汗のぬめりを交換するかのように。
「い、いくっ! いっちゃうよぉ……」
ただそれだけを繰り返す。
普段運動していないせいで息苦しい。でも身体は日坂さんを求めて動き続ける。
「日坂さん! いくよっ!?」
「うんっ! いいよっ……きて、快斗くんっ!」
ぎゅうっと、日坂さんがオレの後ろに回していた腕に力を込める。
そのまま、オレは彼女のもっとも深いところで……性を吐き出した。