あの日引き裂かれるような痛みを残して、遠子先輩は行ってしまった。  
これからぼくは、狭き門をくぐりぬけるように、一人で強く生きていかなければならない。  
もし、ぼくが彼女を守りきれるくらい強かったならば、運命は違っていたのだろうか。  
そんな小さな後悔を覚えながら、春は訪れた。  
 
始業式を終えると、当日の授業はもうない。  
ぼくは当然の習慣であるかのように、文芸部の部室へ向かった。  
たとえ、そこにもうあの人がいなくても――。  
 
「こんにちは、心葉くん」  
 
ノブを回して扉を開いた瞬間、透き通るような優しい声が、耳を、身体を満たしていった。  
どこからどう見ても申し分のない"文学少女"といった風貌の少女が、お行儀悪くパイプ椅子に膝を立てて座っている。  
ぼくは目をごしごしと擦った。こんな幻を見てしまうなんて、悪い冗談だ。どこまでぼくは心を痛めているのだろう。  
 
「こーのーはーくん。尊敬する先輩にご挨拶はないのかしら?」  
 
幻はまだそこに鎮座している。それどころかいっそう生々しく、可憐な声で、ぼくを魅了してくる。  
それがあまりにリアルだったので、ぼくは声をかけずにはいられなかった。  
 
「……遠子、先輩?」  
「疑問符をつけていただかなくても、わたしは正真正銘、天野遠子よ」  
 
ない胸を精一杯そらす姿がとても懐かしく感じられた。  
とたん、身体の奥深くから色々なものが沸きあがって、溢れそうになる。  
 
「遠子先輩!? なんでいるんですか!?」  
 
ぼくはその全てを叫び声に割り当てた。  
そうだ。彼女がいるはずがない。だって彼女は、北海道の国立大学に合格し、旅立って行ったのだから。  
 
遠子先輩はとてもばつの悪いような表情を浮かべた。  
何か叱られることをしてしまった子供のように、こちらを上目遣いでうかがっている。  
 
「……実は、大学落ちちゃってたの」  
 
ぼくは目の前の視界が硝子のように砕けて、ばらばら落ちていくような感覚を味わった。  
 
「……合格したと思ってたんだけど、受験番号が一つずれちゃってたみたいで」  
 
てへ、なんて舌をぺろんと出して、頭を自分で小突いている。ぼくはわなわなと震えだした。  
 
「なにやってんですか!! あなたは!!」  
 
おもわず怒鳴りつけずにはいられなかった。でも、その怒りは彼女に向けられたものではなかった。  
 
「わ、わたしのせいじゃないわ! 大学の人が間違えたんだもん! むしろぬか喜びさせられて泣いちゃいそうなんだから!」  
 
自分のせいだと思った。自分が彼女を大事な受験の期間中、引っ張りまわしてしまったから。  
激しい怒りの後に、どうしようもない後悔の念が胸を満たしていった。  
ぼくはうつむいたまま、血が出そうなほど拳を握りしめた。  
 
「……ごめんなさい。怒ってる?」  
 
そんなぼくを責めたてることもせず、遠子先輩は近くに寄って、顔を覗きこんできた。  
その姿がたまらなく愛おしくて、どうしようもない醜い気持ちが溢れてきて、自己嫌悪した。  
愛おしい人に不幸が訪れたというのに、ぼくはまた出会えたことが嬉しくて仕方がなかった。  
 
「……怒ってません」  
「うそ。怒っているでしょう?」  
「呆れているんです」  
 
うっ……と彼女が顔をしかめる。  
本当に、しっかりしているように見えて、何もかも台無しにする人だ。  
あの卒業式の日の劇的な別れは何だったのだろう。  
あんな手紙を残していったのに。あんな切ない気持ちを抱いたのに。  
 
「どうしてまた、ぼくに会いに来たんですか?」  
 
そうだ。たとえ大学に落ちてしまったって会わずにいることだってできたはずだ。むしろその方が普通だ。  
だってぼくが遠子先輩の立場だったら凄い恥ずかしい。彼女は一体どんな気持ちでここに来たのだろう。  
 
「だって、どうしても心葉くんのおやつが食べたかったんだもの。耐えようと思ったのよ!? お腹がきゅるきゅる鳴ってもハンカチの端をくわえて耐えていたのよ!?」  
 
なにしてんですか。普通に他の本を食べてください。  
 
「でも、でも……北海道ならいざ知らず、家の近くにこんないい香りのする食材の宝庫があるのを知っていたら、我慢することなんてできないじゃない!」  
 
この人は結局食い気か……。がっくしと肩をおとしたぼくの耳に、少しだけ神妙な声が届いた。  
 
「……それに、神様がくれたロスタイムだと思ったの。もう少しだけ、一緒にいてもいいよって、言われた気がしたの」  
 
遠子先輩は真面目な顔でぼくを見つめていた。ぼくも視線をそらさずに見つめ返した。  
 
「……迷惑?」  
「そんなわけないです」  
「……これから毎日、ううん、三日に一度……ええと、一週間に一度くらいは来てもいいかしら?」  
「遠慮しないで毎日来てください。おやつ、書きますから」  
 
不安そうだった遠子先輩の顔がぱっと晴れ渡った。  
 
「その代わり、待っている間はちゃんと数学の問題集を解いてください」  
 
今度はどんより曇ってしまう。  
 
「な、何を言っているの? 心葉くん。次の受験はまだ来年の話よ。今からそんなことしなくたって――」  
「今からそんな悠長なこといっている浪人生はまた落ちます」  
 
しゅんとしてしまう。今にもしくしくと泣き出しそうだ。  
でも、これだけは譲れない。この人を今度こそちゃんと卒業させないと、本当に一生ここに住み着いて、妖怪か座敷わらしになってしまう。  
 
「あ、今、失礼なことを考えているでしょう?」  
「別に。ちょっと待っててください」  
 
ぼくはテーブルの椅子を引いて腰かけ、原稿用紙にシャーペンを走らせはじめた。  
再会の記念にとびきり甘いやつを書いてやろう。  
遠子先輩は文庫本をひらりひらりとめくっている。まぁ、今日くらいは許してあげようか。  
 
文字を書き続けるうちに、なぜかとてつもない飢餓感がじわじわと襲ってきた。  
昼食はしっかり食べたというのにどうしてだろう。  
視線がゆらゆらと遠子先輩に向かって縫い付けられる。  
 
……これは遠子先輩をバカにすることなんてできないな。  
 
「……できました」  
「わーい、見せて見せて」  
 
完成した原稿に、遠子先輩がぴょこぴょこと子供のように駆け寄ってくる。  
ゆらゆらとたなびく綺麗な三つ編は、一体どんな味がするのだろう。  
滑らかな黒髪は、舌先でほどけてつるつると喉をくすぐり、滑り落ちていきそうだ。  
 
遠子先輩が原稿用紙を取ろうとした瞬間、原稿用紙を引っ張る。  
彼女の手が宙をつかみ、恨みがましくこちらを睨んでくる。  
 
「どうしてぇ?」  
「……遠子先輩はいつもおやつをいただいてるのに、ぼくは何も食べられないなんて不公平じゃありません?」  
 
それは嘘だ。ぼくはその代わりにいつも優しさや温もりをもらってきた。でも、今もっと欲しているものがある。  
 
「それもそうね。それじゃお茶とお菓子を用意するからちょっと待ってて」  
 
本気にして部室を出て行こうとした遠子先輩を背中からそっと抱きよせる。  
 
「ぼくにも、おやつをください。遠子先輩を食べさせてください」  
 
彼女が"物語"を食べちゃいたいくらい愛しているように、  
ぼくも、"天野遠子"を食べちゃいたいくらい愛している。  
 
遠子先輩は頭に『はてな』を三秒間くらい浮かべたあと、ぼっと火をつけたように顔を赤くした。  
 
「……! わ、わたしなんか、おいしくないわよ! 賞味期限の切れた本の味がするわよ!」  
「どんな味ですかそれ。たとえまずくても全部平らげてみせます。それに、遠子先輩がまずいはずなんてありえませんから」  
 
そう言ってのけると、遠子先輩はゆで上がったように真っ赤になった。  
 
「だ、だめ!……だめよ!」  
 
ぼくの腕を振りはらい、壁を背にして、目をつむり、わたわたと手を交差させたり戻したりしている。  
 
「ここは学校よ! 心葉くん! ふ、フケツよ! そんな悪い後輩に育てた覚えはないわ!」  
 
育てられた覚えもない。  
 
「学校じゃなかったらいいんですか?」  
「そ、そういう問題じゃないわ」  
 
ツンと顔をそむけふくれている。  
かたくなな態度をほぐして行くのにもたまらない魅力があったけれど、我慢している余裕はなかった。  
ぼくはテーブルから原稿用紙を取ってくると、遠子先輩に差し出した。  
 
「食べてください」  
「い、いや。何かお酒とか良くないものを混ぜてるでしょう、心葉くん! 先輩を騙そうとしたってそうはいかないんだから!」  
「そんなもの混ぜていませんよ」  
 
そういっても遠子先輩はかたくなに食べようとしない。端をちぎって差し出してもだ。仕方がないな。  
 
「……んっ!?」  
 
ぼくは紙片をくわえると遠子先輩に口付けた。穏やかな水面のように柔らかな感触に酔いしれる。  
遠子先輩は紙片をしゃくしゃくと音を立てて咀嚼する。  
その顔が酒に酔ったかのように、これ以上ないくらい真っ赤に染まっていく。  
目は信じられないとでもいうかのように、まん丸になってぼくを見つめていた。  
 
「今日のお題は"遠子先輩"、"永遠"、"愛"です」  
 
普段なら、ぼくの方が真っ赤になってしまいそうな台詞もさらりと言えてしまった。  
もうためらいたくない。この時間を、一秒たりとも、無駄に使いたくない。  
 
「もう、らめ……」  
 
遠子先輩はぐるぐる目を回していた。  
 
「トロトロして、暖かくて、透明で、とても甘い。蜂蜜にたっぷり砂糖を加えて煮詰めたような、安心する味。こんな甘いもの食べさせられたら……一生舌に甘味が残って、他のもの食べられなくなる。味がわからなくなってしまうもの」  
「じゃあ、一生これだけ食べてください。いくらでもありますから」  
「……心葉くんの、いじわる」  
 
すっかり抵抗がなくなって、ぼくの支えがなければ立っていられないようになってしまった遠子先輩にもう一度口付ける。  
可愛い唇がもう二度と文句を言えないように塞いでしまおう。今度は舌を突き入れて口内を味わった。  
遠子先輩の唾液は高級な葡萄酒のような味がした。きっと光に透かしてみれば美しいすみれ色をしているに違いない。  
彼女には世界一甘い蜂蜜のようなラブレターをあげよう。ぼくは紙片をちぎるとくわえて、何度も遠子先輩とキスをかわした。  
 
飽くほどそうしたあと、ぼくはゆっくりと離れた。遠子先輩がうるんだ目でまだキスをねだろうとする。  
だけど、遠子先輩のもっと知らない表情を見たかったから、名残惜しくてもぼくは遠ざかった。  
そして、ワンピースごしに胸部へと手の平を置いた。  
 
「! やっ……心葉くん……そこはいや」  
「どうしてですか?」  
「……だって、絶対バカにするもの。小学生の方がもっとマシな胸しているって言うもの!」  
 
本当にそうに違いないと信じている恨みがましい目だった。本気で気にしてたんだなと少しだけ反省する。  
 
「ごめんなさい。もうバカにしませんから」  
「……本当に?」  
「だって、ぼくは遠子先輩の全部が好きですから。この胸も大好きですよ」  
「〜〜〜!」  
 
薄いすみれ色のワンピースのボタンをはずし、遠子先輩をむき出す。  
白いブラの上からでも残念なことがまる分かりな胸だったが、手を差し入れると、なだらかなふくらみが存在していた。  
手の湾曲をかたどったようにすっぽりと収まる胸は、包み込んでくれるような印象で、遠子先輩にぴったりだった。  
恥ずかしそうな遠子先輩の頬と鎖骨にキスの雨を降らせながら、手全体を動かすようにしてやさしく揉む。  
ぴくりぴくりと身体を揺らす遠子先輩が可愛い。手の平から伝わる鼓動と、海のような柔らかさが気持ちよくて仕方がなかった。  
 
「遠子先輩、遠子先輩……」  
「心葉、くん……心葉くぅん」  
 
うわごとのように彼女の名前を繰り返しつぶやきながら、一心不乱にその行為を繰り返す。  
ぼくらは、オーブンで蒸しあげられているように、体温を高めあっていった。  
しばらくして、ストンと遠子先輩が腰を抜かしてしまったようにしりもちをついた。  
 
「もう、立っていられない……」  
 
ぼくが彼女を寝かせられそうな手ごろな場所を探そうとした時、ごそと股間がくすぐられた。  
 
「わたしばかり食べられていて、ずるいわ……」  
 
下を見ると、遠子先輩がズボンの上からでも分かるくらいに張り詰めたぼくの剛直をにぎりしめていた。  
しっぽをつかまれた動物のように一瞬で力が抜けていく。  
 
「心葉くんのも、食べさせて」  
「と、遠子先輩……」  
 
快感というよりもむしろ冷や汗が流れた。この人にそんなデリケートな部分を扱わせていいものだろうか。  
だけど、止めさせようとするまえに、遠子先輩は手際よくジッパーを降ろすと、それをくわえてしまった。  
何の技巧もない、つたないおしゃぶりなのに、その行為が遠子先輩によって行われているという事実だけで、  
脳髄がしびれるほどの量の快感が身体を駆け巡っていった。思わず膝が抜けそうになるのをぐっとこらえた。  
 
「はむ、はふ、ぴちゃ……ろうかひら、ころはふん?」  
「くわえたまま喋っちゃだめです!」  
 
ねっとりとした舌が敏感な部分を這い回る感触に、頭のてっぺんからつま先まで骨抜きにされてしまった。  
遠子先輩はそれが面白いのかしばらくその行為を続け、ぼくを手玉にとっていた。  
やがて、べとべとになるまで舐め終えると、当然のごとく批評をはじめた。  
 
「……たっぷりお塩をまぶしてこんがり焼いた肉汁あふれるソーセージのようなものかしら。でも、ちょっとシーフード風味? ケチャップがないのが残念だわ」  
 
なんか本当に食べられてしまいそうで、背筋がぞくっとし、萎えそうになった。  
 
「もう、つまみ食いはそこまでにしてください」  
「きゃっ」  
 
ぼくは遠子先輩の身体をお姫様だっこでかつぎ上げると、表面がでこぼこのテーブルの端に座らせた。  
シャツを脱ぎ捨てると、テーブルの中央に広げ、遠子先輩を寝かせた。  
 
「遠子先輩のこと、全部、食べますから」  
「……うん」  
 
遠子先輩は口元に握りこぶしを当てながら、恥ずかしそうに何度もこちらをうかがったあと、ぽつりと言った。  
 
「残しちゃ……いやよ」  
 
ぼくは遠子先輩のスレンダーな腰に両手をそえると、パンツをおろした。  
立ち入ることを許されない神聖な泉のような秘所があらわれ、ごくりと生唾を飲みこんだ。  
そこに自身を宛がい、ゆっくりと挿入していく。  
 
「……っ」  
 
遠子先輩が苦痛に顔をゆがめて、ぼくの肩に爪を立てた。  
あまりに痛そうなので思わず歩みを止めてしまいそうになるが、  
彼女がさっき言っていた言葉を思いだし、思い直す。  
ぼくは、ずいぶん長い時間をかけて、自身を彼女の中にうずめた。  
 
「うれしい……うれしいよ、心葉くん」  
 
すんすんと泣いている遠子先輩は痛みで泣いているのか、  
嬉しくて泣いているのかわからないほど顔をくしゃくしゃにしていた。  
ぼくは、彼女の前髪をはらい、おでこを撫でた。しばらく、そうしていた。  
 
「……動くよ」  
 
やがて押し寄せる射精感にあらがいがたくなり、ぼくは言った。  
遠子先輩がこくりと頷くのを確認すると、ゆっくりと抽送を開始した。  
やさしく、ていねいに、打ち寄せる波のように、しずかに、何度も。  
そのたびに遠子先輩は顔をしかめていたが、やがて、青ざめていた顔が朱色になり、  
苦痛とはとれぬ、恍惚とした表情が垣間見え、うれしくてたまらなくなった。  
感じて欲しい、遠子先輩にも。ぼくが、遠子先輩を感じているように。もっと。  
 
「はぁ……はぁ! 遠子先輩……遠子先輩! 遠子!」  
「あっ……んっ、ひゃう、心葉、くん……心葉くん!」  
 
奥の方から噴水のように何かがこみあげてくる。  
ぼくが遠子先輩に抱いてきた複雑な感情が混じりあっていく。  
ぎゅっと遠子先輩の背中を抱きしめて、彼女に向かってはきだす。  
言葉だけでは伝わらない、文字だけでは伝えられない気持ちの全てを。  
ぼくは大量に射精して、遠子先輩と結ばれた。  
 
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  
 
闇と昼の境目、全ての存在がぼやけてかすみ、幻になってしまうような時間。  
窓際のパイプ椅子に座っていたのは、遠子先輩ではなく、ぼくだった。  
 
遠子先輩はテーブルの上ですーすー寝息をたてて眠っている。  
あのあと、ぼくは自分のやってしまった行為の恥ずかしさとか恐ろしさとか  
色々なことに気づいてしまい結構頭を抱えていた。  
 
けれど、ようやく落ち着いて、こんなふうに夕日に照らしだされた遠子先輩をしずかに眺めている。  
その寝顔を見ながら、ぼくは心の中で問いかけた。  
 
『本当は、合格していたんじゃないんですか?』  
 
それは単なる"想像"に過ぎなかったけれど、もしそうだったら、嬉しいような、悲しいような。  
胸がきしりと音をたてた。  
遠子先輩が目覚めて、こちらを寝ぼけ眼で見つめた。  
 
「……何してるのぉ? 心葉くん?」  
「考えごとです」  
「何を考えているのぉ? 心葉くぅん?」  
 
だめだこりゃ。まだ夢の世界にいるようだ。眠気覚ましにコーヒーをあげよう。  
 
「部室にそなえる"ベッド"はどんなのがいいかなと思っていたんです。それから、"まくら"に"シーツ"に……」  
 
とたん、遠子先輩が目をむいて覚醒した。  
 
「な、何を言っているの、心葉くん! そんなもの文芸部に必要ないでしょう!」  
「"おやつ"を作るのに必要な調理器具ですよ。もちろん作ってくれるのは遠子先輩ですけど」  
「〜〜〜〜〜〜〜〜!」  
 
遠子先輩は恥ずかしいのか、嬉しいのか、よく分からない顔でそっぽを向いてしまった。  
少しやりすぎてしまったかもしれない。  
 
けれど、別れは未だ、愛より遠く。  
決して神様ではない、誰かが与えてくれたこのかけがえのない奇跡のような時間を、  
本に書きつづられた文字を一文字ずつ読み解いていくように、大事に、大事に、過ごして行こう。  
 
終わり  
 
 

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