学校からの帰り道の、突然、琴吹さんが「レモンパイを持ってきたから食べて欲しい」と言ってきた。  
 
付き合い始めてまだ日は浅いが、琴吹さんは何度がレモンパイを作ってきてくれた。  
今日は朝からタイミングを逃し続け、下校の時にようやく言えたらしい。  
道端で食べる訳にも行かず、そこで急遽、僕の家へ二人で寄ることになった。  
突然の事だったけれど、たまたま昨日、部屋を掃除していたのはラッキーだった。  
父親は夜まで帰ってこないし、母親と舞花もまだ家にはいないだろう。  
ここまでは何の問題もなかった。  
 
ところが、事もあろうか遠子先輩のスク水写真が、机上のブックスタンドに差し込んだままだった。  
それに気づいた時には、琴吹さんは既に目を剥いていた。  
「井上ッ、あんたこんなもの机に置いて何するつもりだったのよ!」  
「こ、これは写真部の奴が僕に押し付けてきて、僕は仕方なく…」  
「仕方なく、何よ!?」  
「違うんだ、第一、こんな舞花みたいな遠子先輩の体なんか見たって…」  
「ちょっと井上、あんた舞花ちゃんまでそんな目で見てたの??」  
「そんなんjy」  
「芥川とデキてるって噂立ったときも、ロリ×ンだって言われてたときも、私だけは井上のこと信じてたのに!」  
あぁ、もう次から次へと。  
なんでこんな話がこじれてしまったんだろう。  
 
「ちょ、ちょっと!  
 落ち着いて琴吹さん、そんなんじゃないんだよッ」  
「分かったわよ、落ち着いてるわよもう!」  
腕を組んだ琴吹さんは正面から僕をじっと睨み付けている。  
「さぁ井上、話して貰おうじゃないの」  
ようやく話を聞いて貰えそうな状況になった。  
 
そして僕はどこまで納得してもらえるかは分からないけれど、  
写真部の不貞の輩から遠子先輩の水着写真を購入せざるを得なかったという旨をポツリポツリと話しだした。  
 
気が付くと僕は夢中で弁明をしていた。  
 
「だから僕はあの写真が欲しかった訳じゃなくてッ…」  
しかし、琴吹さんは何故か顔を赤らめ、目を泳がせている。  
先ほどまで不機嫌そうだったのに、どうしたんだろうか。  
そして僕はハッとした。  
(ち、近い…!)  
気が付けば立ち尽くす琴吹さんを壁際に追い込み、両手て押さえ込むような格好になっていた。  
 
前髪がもう少しで触れ合いそうな距離で視線が交錯する。  
その途端、機先を制して琴吹さんが僕に詰め寄る。  
「な、なによ。私にまで変なことするつもりねっ!?」  
「だから違うんだ  
 大体、僕は琴吹さんになんて何もしないよ!」  
一瞬、琴吹さんは驚いた様に目を大きく丸め、そして寂しそうにゆっくりと俯く。  
「──…しないんだ」  
「えっ?」  
「遠子先輩の写真には手を出すのに、私には何もしないんだ」  
「へっ??  
 だから僕は何もしてないって……え?」  
何がなんだか分からない。  
 
「えっと琴吹さん、ひとつ聞いてもいいかな?」  
「な、なによ」  
「と言うことはつまり…手を出してもいいのかな?」  
琴吹さんの目が、また大きく見開いた。  
(しまった!)  
言った先から後悔する。  
「じょ…冗談だよ琴吹さん」  
まだキスだってしたことがないのに、いくら何でも調子に乗りすぎた。  
教室のドア越しに「大嫌い」と言われた高2の春を思い出す。  
 
「…いいよ」  
「え!?」  
「だから、いいって言ってんでしょ」  
予想外の琴吹さんの反応に、頭がクラッとなる。  
「えっと、あの、いいって…?  
 本気なのかな」  
「いいってば!」  
「でも…」  
「ほらっ、さっさとしなさいよ」  
そう言って琴吹さんは、目をギュっと瞑り、腰の前で指を組んでしまった。。  
(なんで、こんなことになっちゃんだ)  
頭を抱えたくなった。  
 
気が付くといつも僕は、琴吹さんをムキにさせてしまう。  
 
冬の凍てつくようなあの日、琴吹さんは僕のことを好きだと言ってくれた。  
しかし、付き合いだしてから、琴吹さんと僕との距離が近づいたのかどうかはよく分からない。  
僕は本当に琴吹さんのことを好きなんだろうか。  
「は、早くしなさいよ」  
急かすように琴吹さんが言う。  
「そんなこと言ったって…」  
 
思案しながら琴吹さんの顔から視線を落としたとき、  
琴吹さんの胸元の大きなターコイズブルーのリボンが目に留まった。  
どんな願いも叶うという誘惑の色だ。  
落ち着いた紺色の襟は、喉元の白い肌をいっそう艶やかに見せた。  
まっすぐに伸びるスラリとした脚と、制服の上からでもはっきり分かるほどツンと張った釣鐘型の胸を眺め、  
生唾を飲み込む。  
 
(遠子先輩とは、全然違うな…)  
 
しんと静まりかえる僕の部屋にいるのは、たった二人のみ。  
静寂が僕の心を掻き立てる。  
そおっと、琴吹さんの肩を掴む。琴吹さんは動かない。  
僕の心は決まった。  
 
「あとから怒るのはナシだよ…」  
 
恐る恐る琴吹さんの胸の膨らみに手を伸ばし、鷲づかみにする。  
ふにゅ〜っとした触覚が両手から伝わる。  
 
「あうっ んッ」  
小さく声を漏らし、琴吹さんの肩がピクッと震えるの分かった。  
ゆっくり、ゆっくりと胸を撫でまわす。  
薄いナイロン生地のすべすべした制服は、  
琴吹さんの豊かな膨らみと体温を、しっかりと僕に伝えてくれる。  
 
「ちょっとまっ、んうっ ンっ」  
手を不規則に動かすたびに、琴吹さんが押し殺したような声を発してくる。  
少し力を入れると、福よかな胸は、僕の指を優しく押し返す感覚がある。  
琴吹さんの頬に薄く朱が差しているのは、窓からのぞく夕日のせいだけではないだろう。  
「あ…ッ んっ…く」  
「くふ…んうッ!」  
うっすらと目を開け、静かな喘ぎ声を漏らす琴吹さんの困った様な、  
それでいてどうすればいいか分からない様な表情は、僕の情動を煽った。  
 
琴吹さんが僕の目を見て呼びかける。  
「い…井上ぇ」  
その、とろんとした眼差しに、僕の情はほだされた。  
 
腕をスッっと腰に回し体と体を密着させ、すばやく唇を重ねる。  
一瞬、琴吹さんの体が棒立ちになり硬くなったのが分かった。  
「ふ…ぇっ?」  
琴吹さんの声が漏れ、僕の息遣いが荒くなる。  
それにつられたのか、キツく結ばれていた琴吹さんの唇は序々にそのガードをゆるくし、  
僕のを突然の行為を受け入れた。  
琴吹さんの「あっ あっ」という息が切れるような優しい嗚咽が、僕の鼻に吹きかかる。  
弾力のある琴吹さんの下唇をそぉっとなぞると、レモンパイの味がした気がした。  
 
 ───「いつもレモンパイを作ってくれてありがとう。おいしかったよ」  
 ───僕がそう言うと、つっけんどんな態度で  
 ───「また作ってくる」  
 ───とボソっ言う琴吹さんはいつも可愛らしかった。  
 
けれど、今日ほど彼女を愛おしいと思ったことはない。  
 
唇をまさぐりながら、舌を入れてもいいのかなと逡巡していると、突然琴吹さんの膝がガクっと折れた。  
驚いた僕も、慌てて膝を曲げる。  
「琴吹さん、大丈夫?」  
「あっ あ も…おっ、立ってられない」  
 
ベッドへと移動した琴吹さんが無防備な仰向けの格好で僕を見返す。  
その上で四つんばいになった僕は、琴吹さんの体をゆっくりと眺めた。  
(きれいだ…)  
 
か弱く開かれた腕、制服の上からでも分かる胸の膨らみ、腕を回したくなるような腰つき、  
そして艶かしく投げ出された、肉付きのいい脚のラインに視線を奪われる。  
だらしなく捲れ上がった紺色のスカートの下から、薄いベージュ色の下着がのぞいた。  
いつもは吊り上がった印象的な目尻も、いまは弛緩し、愛らしく垂れさがっている。  
 
頬を真っ赤に染めた琴吹さんがつぶやく。  
「いのうえ…これって…ひょっとして…」  
問いかけには答えず、僕は琴吹さんの制服の下端を強く掴み、一気に胸の上までたくし上げる。  
琴吹さんがビクッとする。  
「あッ やだっ…だめ 胸は…ッ」  
琴吹さんは緩慢な抵抗をみせたが、すぐにベージュ色のブラジャーが見えた。  
真ん中の止め具のあたりに親指を引っ掛け、制服と一緒に強引に持ち上げる。  
僕の目の前には、2つの大きな胸の膨らみがあった。  
 
(舞花とは、全然違うな…)  
 
琴吹さんの胸は、洋梨を思わせるような形で、ほんのりと乳白色がかっている。  
仰向けなので、若干押し広げられたようになってはいるが、  
それでも前に張り出して見えるのはボリュームがある証拠だろう。  
透き通るような胸元に、うっすらと青い静脈が浮いて見える。  
 
よほど恥ずかしかったのだっろう。琴吹さんは頬を染め、僕から視線を外し目を泳がす。  
「あ…ぅ 胸は、全然じ…自信ないから…」  
僕は言葉を紡ぐ。  
「…いい…んじゃない…かな?」  
「えっ…?」  
「えっと、僕はいいと思う…けど…な」  
「…あ…うそっ」  
琴吹さんの顔がきゅんとなる。  
まだそれほど長く付き合っているわけじゃないけど、この表情は知っている。  
琴吹さんが嬉しがっているときの顔だ。  
 
下から両手を添えて、そっと胸を揉んでみると、マシュマロのような柔らかさだった。  
手に力を入れ、そっと離すと、ぷるん、と踊った。  
乳房を口に含む。  
「…んッ」  
琴吹さんは可愛く声を漏らすと、スグに乳首にも反応があった。  
あいた手で、反対側の乳房を愛撫する。  
琴吹さんはもう、されるがままになっていた。  
「んッ んんッ  
 …んうっ く あんッ」  
静かな部屋に琴吹さんの嬌声が響く。  
 
「…ッ!!  
 あっ あッ ま…まって…!」  
琴吹さんの制止を振り切り、ベージュの下着を一気に足首まで引き下ろした。  
その勢いで両膝を掴み、覆うものの無くなった琴吹さんの下半身を左右に広げた。  
「琴吹さん、すごい、ぬるぬるになってるよ」  
「えっ あ…う、なっなに言って」  
琴吹さんのしっとりと湿った茂み、そしてその奥には暖かそうなピンク色の盛り上がりが見える。  
たまらず、僕の中の熱く昂ぶったモノを琴吹さんのそれへ押し当てる。  
琴吹さんは目をまん丸にし、口をぱくぱくさせ、ただその様子をを見つめる。  
 
僕と琴吹さんが触れ合う。  
そしてゆっくりと挿入していく。  
「んッ んっ…くっ ああ」  
琴吹さんが顔をしかめる。  
「あァッ はいって…く」  
呼吸が切迫してくる。  
「ハァッ あ…う ハァッ」  
僕は琴吹さんの中で、破裂しそうなくらい大きくなったものを奥まで差し入れた。  
「わ…っ 私のなか…っはいってる…うっ」  
「琴吹さん、…動くよ?」  
言葉なんて、もう届いていなそうだけれど、一応確認する。  
 
後で怒られたって、知るもんか。  
 
僕が体を動かす度に、琴吹さんの体の上を豊満な胸が波打つ。  
喘ぎ声が続く。  
「あっ あっ」  
やがて琴吹さんが迎えた小さな絶頂は、本来、得られるであろう本物のクライマックスの  
予告編のようなものに過ぎなかった。  
僕もその気配によって、危うく果ててしまいそうになった。  
 
「ぃ井上、もうちょっと、顔近づけて…くれない?」  
そう言った琴吹さんが、僕の首筋に、濃厚に舌を這わせてきた。  
これには僕もビックリした。  
いつもの琴吹さんらしくない。  
「琴吹さんの意外な積極性に驚いているんだけど…」  
「しっ知らないっ!」  
「琴吹さん…気持ちいいの…かな?」  
そして、琴吹さんがキッっと僕を睨む。  
次の瞬間、ガラにもなく僕は変な声を上げてしまった。  
「ふぇッ!?」  
僕の頭を琴吹さんが抱え込み、唇を重ねてくる。  
琴吹さんの舌が僕の口内に侵入し、僕と絡まりあった。  
僕が息をするところで、琴吹さんは執拗に僕を求めてくる。  
それはただ快楽を求める為だけの行為に違いなかった。  
「んんッ」  
どちらとなく嗚咽がこぼれる度、柔らかなキャラメルを頬張るような、  
甘い感覚が口の中に伝わる。  
 
ゆっくりと顔と顔とを離すと、二人の間に糸が引いた。  
恍惚とした琴吹さんの顔が目の前にある。  
気を取り直して、僕はニコリを微笑む、  
「それで誤魔化したつもりなのかな?」  
「う…うるさいわねっ」  
「そう? 僕は、スゴくいいけど…な…」  
そう言って、琴吹さんのたわわな胸を揉む。  
仄かに香る汗の匂いが、また僕の快感を呼び起こす。  
「あっ…いのうぇっ  
 よく…そんな恥ずかしいこと言えるわね…っ」  
「だって琴吹さんのなか、すごく…ぬるぬるして、あったかいし…さ」  
「…そう、なんだ…」  
僕は琴吹さんに覆いかぶさり、ひたすら体を重ねた。  
二人が擦れ合う淫靡な音と、琴吹さんの声が僕を支配する。  
「わっ…私の、なかっ…はいってる、ぅ  
 んふぅ ンンッ」  
 
琴吹さんは僕を信頼し、全て委ねてくれる。  
そう思うと、今更のように、琴吹さんに対する愛情が沸きあがってきた。  
「琴吹さんっ、僕…」  
「いのうえ、私もッ、もおっ…ぁ」  
背筋をつんざく様な快感と共に、僕は絶頂を迎えた。  
自分の中のものを全て吐き出すような、そんな愉悦の瞬間だ。  
琴吹さんの熱く火照った体は、そんな僕を優しく包んでくれた。  
琴吹さんにも確かな満足感が生まれていたようだ。  
 
高ぶった二人の呼吸音だけが、部屋に響き続けた。  
 
先ほどまで僕と琴吹さんが絡まり合っていたベッドの上で、お互い反対方向を向き、制服を着直す。  
夕日は既に隠れ、夜のとばりが落ち始めていた。  
横目でチラリと琴吹さんと見る。  
シワのよったターコイズブルーのリボンを、するすると巻くその横顔は、  
行為が終わって少し経つというのに、まだ耳の裏まで真っ赤だ。  
 
一線を越えた後の、気まずい沈黙。  
 
いつまでも続くと思われたその静まりを、琴吹さんが破る。  
「あーもーっ、いくらなんでもガッつきすぎでしょ、井上ッ」  
「ご…ごめん、つい」  
「もうちょっと、落ち着いてやってよね」  
声はなんだか裏返っているようだけど、良かった、いつもの琴吹さんに戻ったみたいだ。  
「…琴吹さん、そんなに怒ってばっかじゃ、僕としかできないじゃないか」  
「…っ、い…いいじゃない、それで」  
「えっ?」  
「っ…だって、どうせこんな事、井上としかしないんだから…」  
 
 
──おしまい  
 

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