ぼくは人生で二度の恋をした。  
 
最初の恋は、小学三年生のとき転校してきた、ポニーテールの女の子。  
あざやかに物語を語る大きな目のその子に、ぼくは夢中で恋をし、きらきらした言葉にうっとりと耳を傾けた。  
 
二度目の恋は、高校二年生の終わり。  
弱かったぼくを励まし、ぼくの心を抱きしめて救ってくれた、すみれの花のような三つ編みの上級生。  
夕暮れの金色の光の中で、いつも幸せそうに本のページをめくっていたその人のために、ぼくは一冊の本を書いた。  
 
彼女たちと出会って、ぼくは作家になった。  
 
そして――。  
   
「井上ミウはみんなの作家だけど……井上心葉は、あなただけの作家です」  
甘く微笑んで、ゆっくりつぶやくと、遠子先輩は目をむいたまま真っ赤になってしまった。  
「こ……心葉くん」  
白い手を優しくつかんで、今返してよこした三題噺の原稿を握らせて、その上から包むように手を重ねる。  
六年間、いつもぼくの手を優しく握りしめてくれたその人の手を、今度はぼくが握り返す。  
遠子先輩の手は、六年前と少しも変わらず、やわらかですべすべしていて――あたたかだった。  
文学少女の証の三つ編みは、社会人になった今ではさすがにほどかれ、まっすぐな黒髪が肩からさらさらこぼれて  
いるけれど、花のような唇も、長い睫毛も澄んだ瞳も、ほっそりした体つきも、あの頃と変わらない。  
いいや、想像していたよりもっと綺麗になっていて、まぶしいほどだった。  
「食べてください、遠子先輩。ぼくの六年分の気持ちがつまっているから、きっとものすごく甘いはずですよ。  
食べないと、後悔しますよ」  
「で、でも、わたし、心葉くんの新しい担当さんで、今日は仕事で――そんなおなかが鳴るようなこと、言わないで……っ」  
ぼくに手を握られて、赤い顔でわたわたしている遠子先輩のほうへ顔を寄せ、すみれの花のような唇に、ぼくの唇を重ねる。  
「……!」  
すぐに顔を離して微笑むと、さらに赤くなり絶句した。  
「食べてくれるまで、仕事の話なんかできません」  
「脅迫するの? わたしのほうが新人で、人気作家の井上ミウ先生より立場が弱いのを知ってて、これってセ、セクハラよ」  
「六年間、遠子先輩との約束を守って頑張った、ご褒美だと思ってください」  
「……意地悪」  
遠子先輩は頬をちょっとふくらませて、すねたようにぼくを見上げたあと、泣きそうな顔になり、慌ててうつむいて、  
「……いただきます」  
ぼくの三題噺を食べはじめた。  
タイトスカートからのびる細い足をきちんとそろえてソファーに腰かけ、三枚の原稿用紙を読みながら、また目を  
うるませて泣きそうな顔をし、端から千切って口へ入れる。  
「……あまぁい」  
小さな声で、つぶやいた。  
お題は、“約束”“再会”“永遠”。  
三枚の原稿用紙に、ぼくの気持ちをいっぱい込めた。  
遠子先輩と離れていた長い時間、ぼくがなにを支えに過ごしていのたか。誰のことを想っていたのか。   
遠子先輩がぼくの首に巻いた白いマフラーは、今ぼくの首に巻いてある。  
遠子先輩がくれた熊のマスコットは、玄関のポーチで、ぼくが描いた鮭をくわえている。  
それを見たとき、遠子先輩の瞳が揺れて、泣き笑いの表情になったこと。  
そんな遠子先輩を見て、ぼくの胸もいっぱいになって、六年間ずっと閉じこめていた気持ちが、あふれそうになったこと。  
ぼくの書いた三題噺を、かさこそとひそやかな音を立てて食べている遠子先輩を見ているだけで、抱きしめたくてたまらないこと。  
「こんなに甘いのに……こんなに切なくて……でも、幸せで……あたたかくて……」  
千切った紙を、ほっそりした指で口へ運ぶ遠子先輩の瞳から、ぽろりと涙がこぼれ落ちる。  
 
ぽろり、  
 
ぽろりと。  
 
千切った紙に涙が落ち、しめったそれを口へ入れ、ぽろぽろ泣き続ける。  
「やだ……っ、心葉くん、どうして泣いているの?」  
最後の一欠片を飲み込んだ遠子先輩が、涙で濡れた顔を上げ、驚いて尋ねる。  
 
「っく……遠子先輩だって、泣いているじゃありませんか」  
同じくらい涙を頬で濡らしながら、震える喉で言い返す。  
遠子先輩がソファーから立ち上がり、ぼくの目元を指でそっと拭く。  
「泣いたらダメって、約束だったでしょう。心葉くんは、すぐに泣くんだから」  
切ないほどに優しい声。  
涙をぬぐう、甘い指先。  
「泣いてません。今日まで一回も泣きませんでした。泣きたいときも、遠子先輩のことを思い出して、我慢しました。  
遠子先輩に手を引かれて歩くだけじゃなくて、遠子先輩と一緒に進んでいきたかったからっ。  
それができる大人になって、遠子先輩とずっと一緒にいたかったから――もう二度と、あんな風に遠子先輩の後ろ姿を見送るのは、  
嫌だったから――っく――もう二度とっっ、二人が離ればなれに、ならないように……っ!」  
感情のセキが決壊し、ぼくは遠子先輩を引き寄せ、抱きしめた。  
「この先だって、あなたの前でしか、泣きませんっ」  
さっきより深く、唇を重ねる。  
遠子先輩もぼくの頭をぎゅっと抱きかかえ、唇を押しつけ、舌をからめてくる。  
ずっとずっと、こうしたかった。  
遠子先輩を抱きしめて、何度何度何度もキスをして、ひとつに溶けあいたかった。  
遠子先輩の、やわらかな唇。  
やわらかな舌。  
何度も何度も何度も何度も、離れては引き寄せ、唇で唇をなぞり、舌をからめあい、キスをする。  
遠子先輩の頬についた涙を、ぼくは唇でぬぐった。  
そのまま同意を求めるように、耳たぶをそっと噛むと、遠子先輩はぴくっと震えたけど、無言のままぼくを抱きしめる手に、  
ぎゅっと力を込めた。  
胸の奥が熱くなり、ぼくは夢中で遠子先輩の頬や喉や、清楚な白いブラウスからのぞく鎖骨に、キスを落としていった。  
遠子先輩の肌はどこまでもなめらかで、すみれの花の香りがした。  
ぼくが、ちゅっと吸うたびに、赤紫の花びらが浮き上がり、ぴくん、ぴくんと身じろぎし、小さな声を上げる。  
「ぁ……んっ……」  
ぼくは遠子先輩をソファーに座らせ、ブラウスのボタンをはずしながら、胸元に顔をさまよわせ、花びらを増やしていった。  
髪が移動するのがくすぐったいのか、眉根をぎゅっと寄せて、唇を噛みしめて耐えていた遠子先輩が、「あっ、ダメ……っ」  
と、つぶやいた。  
ぼくは三つ目のボタンを、はずそうとしているところだった。  
「それ以上は、ダメ」  
「どうしてですか」  
顔をあげると、小さい女の子がべそをかいているみたいな顔で、  
「だって、わたし……わたし……予定よりも、全然……なんですもの」  
「予定って、なんですか」  
まさか生理? 遠子先輩、生理あったのか?  
けれど、ぼくの予想はすぐにくつがえされた。  
「夏みかんは無理でも、普通のみかんくらいには……なるはずだったのよ。いくらなんでも、そのくらいには育つはず  
だって思うでしょう? 六年も経ってるんですもの。なのに、高校生のときと、全然変わってなくて……。  
ぅぅ、大きくなる体操も、毎日してたのに……」  
胸のことか!  
確かに、そこだけは別れたときとまったく変化がなく、まったいらだ。  
ぼくにとっては、そんなのまったく問題ではないし、むしろ遠子先輩の胸がいきなりみかんサイズになっていたら、  
豊胸手術でもしたのかと疑ってしまい、そこへばかり目がいって、集中できないだろう。  
けど、遠子先輩にとっては大問題のようで、  
「やっぱりダメっ。せめてすももくらいになるまで、心葉くんには見せられないわ」  
ブラウスのボタンを留め直そうとする手を、ぼくは慌ててつかんで、キスをした。  
「――んっ」  
口の中を舌で甘く探り、ぼーっとする遠子先輩に、顔を離して優しく言う。  
「いいんです。ぼくが好きなのは、そのままの遠子先輩ですから」  
好きですと言葉にしたのは、たぶんこれがはじめてだ。  
こんなときに、そんなことに対して言うのもどうかと思う、効果はあったようで、遠子先輩が、  
「心葉くん……」  
と涙ぐむ。  
「がっかり、しないでね」  
「するわけありません」  
ぺったんこなのなんか服の上からも丸わかりだし、という軽口は寸前で飲み込んだ。  
 
また途中で止められると困るので、舌をからめあう音が聞こえるほどキスをしながら、三つ目のボタンをはずす。  
遠子先輩が、ぴくっとし、体をこわばらせる。  
四つ、五つと、ひとつはずすごとに、細い体がひきつり、硬くなる。  
ブラウスの下は、白いレースのスリップと、淡いすみれ色のブラジャーだった。ブラウスをするりと袖から抜いて、  
上半身が下着だけになると、肌の白さがいっそう際だった。  
スリップの裾に手をかけ、両脇から体のラインをなぞるように、じりじりと持ち上げてゆく。  
びくんっとする遠子先輩に、その間もずっとキスを続ける。  
細いウエストが見えて、可愛らしいおへそが現れ、淡いすみれ色のブラが現れる。  
「遠子先輩、手、あげてください」  
唇の上でささやくと、遠子先輩は恥ずかしそうに目を伏せ、ばんざいした。  
天女の羽衣のようなスリップが、持ち主の体から離れ、床に落ちる。  
背中に手をまわし、ブラのホックもはずす。  
「こ、心葉くん……っ、どうしてそんなに慣れてるの。は、はじめてじゃないの?」  
落ちそうなブラを両手でぎゅっと押さえ込み、遠子先輩が非難するように尋ねる。顔が真っ赤だ。  
「ホックくらい、誰でもはずせるでしょ。それに、ぼくもこんなことするのはじめてで、すごく緊張して、どきどきしてます」  
実際、心臓が高鳴りすぎて、どうにかなりそうだった。  
「意地悪だから、モテなかったの?」  
「違います。遠子先輩としか、したくなかったんです」  
ブラを腕の間から引き抜くと、遠子先輩が「きゃっ」と叫んだ。  
「遠子先輩と、したくてたまらないんです。もう我慢できないんです。いろんなことを、遠子先輩としたいんです。  
もっと言わせたいですか?」  
「い、いいわっ。やめて」  
遠子先輩が、ぷるぷると首を横に振る。  
ぼくは遠子先輩の腕に両手をかけた。  
「遠子先輩は……」怯えているようにぼくを見上げる遠子先輩に、急に不安になって、おずおずと尋ねる。  
「ぼくが相手でも、いいですか?」  
遠子先輩の目に、優しい光がにじむ。  
胸を隠していた手をほどいて両脇におろし、あたたかな声で答えた。  
 
「心葉くんじゃなきゃ、イヤ」  
 
目に染みるような真っ白な――純潔な、肌。  
降り積もったばかりの雪のように清らかで、なだらかな胸で、桜色の小さな実が初々しく、ぼくを誘っている。  
それは、ぼくが知っているなによりも、美しくて神聖な光景だった。  
ぼくを見上げて微笑む遠子先輩も、汚れのない聖女のようだった。  
「とっても、綺麗だ」  
溜息をつき、全身を包む幸福感と、胸を震わす歓喜とともに、桜色の実に口づける。  
「あ」  
遠子先輩が、甘い声を上げる。  
恥ずかしそうに震える乳首を唇に優しく含んだまま、反対側の乳首も指でそっとつまむと、また「ぁ」と声を漏らし、  
目をぎゅっと閉じて、ぼくの頭に手を回し、引き寄せる。  
そんな仕草にときめいて、ぼくは口の中の乳首を、舌でやわらかく転がし、反対側の乳首も、指の間でくりくりとこすった。  
遠子先輩は、とても感じやすいようだった。  
ソファーに背中をあずけ、首を横に傾けて、体をぴくぴく震わせながら、愛らしい声を何度も上げる。  
 
「んっ……ふぁっ、あ……ぁっ、くぅん」  
   
「やぁ」  
 
「んんっ」  
 
「ぁ」  
   
ぼくが乳首に軽く歯を立てると「ぁ……っ」と、体をこわばらせ、ちゅくちゅくと吸い上げると、  
「あっあっ……ふぁぁ……んんっ」  
切なそうに首を振り、乳首を押し込むように、ぐりぐりと撫で回すと、  
「やっ、んんっ……ぁぁっ、んっ、ぁ、ぁ」  
と、切なげな吐息をこぼし続けた。  
 
鼻の頭をこすりつけるようにしながら、たいらな胸をあますところなく、ちろちろとなめ、いくつもいくつもキスをし、  
ぴちゃぴちゃ音を立てて、乳首をはじく。  
何度もつまんでは、指の間で転がし、優しく引っ張り、また口に含んで吸う。  
乳首の先端と、付け根の部分は特に感じるようで、そこを爪や歯で軽くひっかいただけで、  
「あぁん……っ!」  
と、ひときわ甘い声を上げて、腰をびくんと揺らした。  
そうするとぼくは幸せな気持ちになって、ますますそこばかり、なめたり吸ったりして、遠子先輩を乱れさせた。  
「やぁ……っ、心葉くんの、意地悪……っ、あぁ! ふあ!」  
ずいぶんたっぷりと時間をかけて、遠子先輩の胸を攻め、そのうっとりするようになめらかな感触や、汗と一緒に  
たちのぼるすみれ色の香りを、味わったように思う。  
遠子先輩の胸も、首も、ぼくのつけたキスマークだらけだった。  
「こ、心葉くんばっかり……ズルいわ」  
ハァハァと息を吐きながら、遠子先輩が恨めしそうに、ぼくの首のマフラーの端をつかんで引き寄せ、ぼくのシャツを脱がせはじめる。  
「わたしだって、ちょっとは慣れてるんだから」  
「な、慣れてるって――」  
「西鶴の好色シリーズだって、千夜一夜だって、O嬢の告白だって、鬼六先生だって、読破してるんだから……っ」  
ホッ、そういうことか。でも、鬼六先生って――。  
一体、なにをされるかとひやひやしてたら、遠子先輩はぼくのシャツのボタンをすっかりはずして前をはだけただけで、  
顔をこわばせて躊躇してしまい、おそるおそる乳首をなめはじめた。  
ミルクを飲む子猫のように、ピンク色の舌を出して、こわごわと、おずおずと、なめはじめる。  
その、くすぐったいようなぎこちない舌使いに感じてしまって、遠子先輩が口をすぼめて、ちゅっと乳首を吸うと、  
火がついたみたいに腰が熱くなった。  
ぼくは、遠子先輩に好きなようにさせたまま、両手を伸ばして遠子先輩の背中からお尻へのラインを撫でおろした。  
「ひゃ!」  
遠子先輩が、びくっと腰を揺らす。  
「やんっ、邪魔しないで、心葉くん。あぁっ!」  
ぼくにお尻をつかまれて、やわやわともまれて、またぴくぴく震える。腰のあたりを指でくすぐるのにも、耐えられない  
らしく、ぼくの胸や乳首に必死に吸い付きながら、何度もびくっ腰を浮かし、甘い声を上げる。  
「あぁんっ! ふあ! んんんっ、ちゅっ……んくっ……はぁんっ! ダメぇ、心葉くん」  
遠子先輩が、こんなに感じやすいなんて知らなかった。  
喘ぐ遠子先輩に、何度もうっかり歯を立てられて、囓られて、ぼくも「ん……っ」と呻きながら、  
タイトスカートをたくしあげ、ストッキングの上からお尻や太ももを、撫でまわす。  
「や……っ、いやぁ。スカート、しわになっちゃう」  
抗議されて、腰のホックをはずし、お尻を浮かすように抱きかかえ、足元に落とした。  
「や……やだ」  
上半身裸で、あとはストッキングとショーツだけという姿にされ、遠子先輩が身をくねらせる。  
ぼくは、ブラと同色の淡いすみれ色のショーツも、ストッキングと一緒に引き下ろした。  
「ストッキング、夏だからなくてもいいでしょけど、一応伝線しないように協力してください」  
お願いすると、遠子先輩は恥ずかしそうに、  
「ぅぅ」  
と唸って、自分から腰を上げた。  
太ももや膝に、ねっとりとキスをしながら、ショーツとストッキングを脱がせてゆく。  
遠子先輩が唇を噛み、ふるふると震える。  
「んんっ……んっ……んんんっ……」  
床に這いつくばるようにして、華奢な膝下や、足首にも、口づける。  
小さな足をうやうやしく手にとり、足の上から指先にまで、唇を押しつける。  
「や……心葉くん、もう、いい」  
「まだですよ」  
もう片方の足にもキスしたあと、ぼくは遠子先輩の足を広げ、太ももの間に顔を埋めた。  
「心葉くんっ!」  
 
遠子先輩が、驚いて叫ぶ。  
やわらかな泉のあるその場所にもキスをし、舌を突き出して、中へ潜り込むように、ぴちゃぴちゃとなめはじめる。  
遠子先輩の反応は、激しかった。体に電流が走っているように、何度もびくびく腰を浮かせ、声を放った。  
「やぁっ! そこはっ! ああぁっ! ふあ! きゃあぁっ! あっ、あっ、あっ! ダメぇぇぇっ!」  
ばたつく足をしっかりつかみ、甘いヒダを舌で押し分けてゆく。  
やっぱり感じていたのだろう、そこはすでにしっとりと潤い、すみれの花のような甘い香りを放っていて、ぼくを夢心地にさせた。  
あぁ、こんなところまで、すみれの香りがするんだ。  
鼻をこすりつけて、匂いを吸い込む。  
鼻先が、小さな赤い芽にあたり、それをぐりぐり押し潰しながら、さらに顔をくっつけ、湧き出るすみれの香りの液を、すする。  
「あああっっ! ひゃぅ! んんっ、んんっ……やぁぁんっ! らめぇ、心葉くん。おかしくなっちゃう!」  
遠子先輩の声が、切羽詰まってゆく。  
赤い芽をちろっとなめると、  
「ああんっ!」  
腰が跳ねた。  
ぼくはそれを口に含み、舌先で激しく転がした。  
「ああああああっ! ああっ! ぁぁぁんっ! きゃふ! んんっ! あぁんっ!」  
遠子先輩の反応がさらに激しくなり、硬く尖ったそれを歯の間に挟んで、軽く囓ったとたん、  
「ああぁぁぁぁんん!」  
と叫び、体をぶるぶる震わせて、達した。  
きらきら光る液が、どっとこぼれてきて、指を入れるとヒダがぴくぴく震えて、からみついてきた。  
「遠子先輩、大丈夫ですか?」  
「……意地悪」  
遠子先輩がソファーにぐったりと仰向けになり、涙目でぼくを見る。  
「もう……舌で気持ちよくなるのはイヤ……。心葉くんのをちょうだい」  
その表情はとても色っぽくて扇情的で、実際ぼくだってもう、遠子先輩が欲しくて我慢できなかった。  
「はい」  
と微笑んで、ぼくは遠子先輩の上におおいかぶさり、キスをしながら、遠子先輩の中に入っていった。  
首に巻いたマフラーの両端が、遠子先輩の顔の横に垂れている。  
遠子先輩が、舌をからめてくる。  
さっき一度イッて、遠子先輩のそこはぐちゃぐちゃに濡れていた。硬くなったぼくのそれも、途中まではすんなり  
入っていった。優しく包み込まれてゆく感触に、めまいがする。  
けれど、そこから急に狭くなり、遠子先輩も辛そうに顔をしかめた。  
「んんっ」  
「痛いですか、遠子先輩」  
「へ、平気よっ。続けて、心葉くん」  
 
「すみません」  
ぼくの背中にしがみついて、目を閉じて耐えている様子に、愛おしさと申し訳なさを感じながら、ぼくは腰を進めた。  
「んんっ……んんっ……んっ」  
「……っく」  
二人して汗だくになりながら、すっかり挿入する。  
入りましたよと伝えたら、涙がにじむ目を細く開けて、微笑んだ。  
「心葉くん……大好きよ。心葉くんは、ずっとわたしの一番大切な人だったわ」  
その言葉に胸がいっぱいになって、また泣きそうになる。  
ぼくも、ずっと想っていた。  
遠子先輩が好きだと気づいたのは、別れの日だったけれど、きっともっと前から、ぼくは遠子先輩に恋をしていた。  
すぐにくじけるぼくの手を優しく握って立たせ、ぼくの行く先に希望の光をともしてくれた人。  
そうして、ここからは一人で行きなさいと、優しい目で告げた人。  
本当は、遠子先輩も傷ついて苦しんでいたのに、そんなこと少しも見せず、哀しいときほど、誰より綺麗に笑っていた。  
遠子先輩が一度だけ、ぼくに感情をぶちまけて、ぼくにすがって「きみは書かなきゃいけないわ!」と叫んだとき、  
誰より心をあずけていた人だったから、裏切られたような気がした。  
けど、違った。  
遠子先輩は、ぼくのためにあの言葉を言ったのだ。  
遠子先輩が残した手紙には、ぼくへの気持ちが綴られていた。  
 
『はじめは、お母さんの書くはずだった小説を、心葉くんに書いてほしいと想っていました。  
けど、気づいてしまったの』  
 
『心葉くんの書く小説は、お母さんの書く小説にはない、特別ななにかがあるということに』  
 
『いつか心葉くんが書いたものを、食べられない日がくる』  
 
『それは、わたしだけのものにしちゃいけないお話だから』  
      
心葉くんは、書くべき人だから――。  
 
その言葉は、正しかった。書くことをあれほど拒んでも、ぼくは結局書くことに帰ってきた。  
それを教えてくれたのは、遠子先輩だった。  
あの木蓮の下で出会ったときからずっと、遠子先輩はぼくに深く関わり、ぼくを見つめていてくれた。  
遠子先輩の強さが、優しさが、愛情が、ぼくをここまで支えてくれたのだ。  
 
別れの日、遠子先輩もぼくと同じくらい辛くてたまらなくて、それでもぼくのために、一人で門をくぐっていったのだと、  
今、ぼくを見上げる遠子先輩の、愛情のこもった瞳を見て、わかった。  
「ぼくも――遠子先輩を思い出さない日なんかありませんでした。ずっとあなたに恋していました」  
遠子先輩が幸せそうに微笑み、ぼくをぎゅっと抱き寄せる。  
「心葉くんを、もっと感じさせて」  
その言葉だけで、達してしまいそうになる。  
ぼくは必死に我慢し、遠子先輩の奥をうがちはじめた。  
「んんっ、ふあ……っ、ああっ、んくっ」  
きっとまだ痛いはずだ。  
なのに、ぼくを抱きしめながら、  
「心葉くん、好きよ」  
「嬉しい」  
「大好き」  
と、甘い声でささやく。  
ざわざわとうごめくヒダが、ぼく自身を包み、奥へ奥へといざなってゆく。  
その甘さと悦楽に、ぼくはのみこまれそうだった。  
「あっ! あんっ! ふああ! んんっ! あっ! あっ!」  
「んんっ、遠子先輩っ、遠子先輩っ」  
何度も、遠子先輩を呼ぶ。  
「こ、心葉くん、嬉しい……ああっ! あぁ! んんっ! あんっ、あんっ!」  
ほっそりした足をぼくの腰にからめ、遠子先輩が叫ぶ。  
「ああっ! あぁんっ! んくっ……。ふわっ、んんっ、あぁ!」  
遠子先輩の胸が、ぼくの胸に、ぴったりくっついている。  
遠子先輩の心臓の音が聞こえる。  
どくどくと、すごい早さで鼓動している。  
「心葉くん……! 心葉くん……!」  
「っっ、遠子先輩……!」  
ぼくらは舌をからめあい、同時に達した。  
遠子先輩の中がきゅーっと狭くなり、ぼくのそこから吐き出された白い液を、飲み込んでゆく。    
ぼくのものも、遠子先輩の中も、まだびくびく震えている。  
ぼくらは、そのまましばらく抱き合っていた。  
 
幸福の余韻が覚めないまま、遠子先輩の髪をなでたり、キスをしたりしながら、うとうとしてくる。  
「眠っちゃダメよ、心葉くん。まだ打ち合わせが終わってないんだから」  
「ぁぁ……そういえば……舞花が、お茶を淹れてて」  
ぼくはハッとして体を起こした。  
遠子先輩も跳ね起きる。  
「舞花!」  
「舞花ちゃん!」  
そうだ! キッチンに舞花がいたんだ。すっかり忘れていた。  
半裸に近い姿のまま慌ててドアを開けて、さらに青ざめる。  
床に、銀のトレイに載った紅茶と、切り分けたレモンパイが、置き去りにされている。  
紅茶はすっかり冷え切っている。  
そしてトレイの前に、紙が挟んであった。  
 
『実家に帰ります。舞花。PS お兄ちゃんのバカ』  
 
おろおろするぼくら。  
「ど、どうしましょう、心葉くん……!」  
「あぁ、舞花が、お母さんたちに話したら!」  
けど、きっとどうにかなるはずだ。  
だって、ほら、ぼくの隣には、文学少女がいるのだから。  
END  
 

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