「やめて……っ、声、出ちゃう……っ」  
せり上がってくる快感を、喉の奥で必死に押しとどめ、あたしは懇願した。  
むき出しの胸を、ぴちゃぴちゃなめていた櫻井が、乳首を唇ではさみながら、からかう口調で言う。  
「出しても、いっすよ。琴吹さんの可愛い声、もっと聞かせてください」  
「あっ、やっ……!」  
乳首の先に、かりっと歯を立てられて、反対の乳首も指の間で転がされ、思わず高い声をあげてしまう。  
図書室のカウンター奥の司書室で、あたしはもう十分近く櫻井になぶられている。  
壁に背をもたれるようにして、しゃがみ込んでいるあたしのすぐ前に、ブレザーの制服を着た櫻井がいる。  
あたしが逃げられないよう、体をぐっと押しつけ、あたしの胸に顔を埋めている。  
あたしの制服の上着は、前のボタンを全部櫻井にはずされて広げられ、ピンクのブラも首まで押し上げられ、  
むき出しになった二つの胸が、櫻井の指や舌の動きにあわせていやらしく揺れている。  
「いや……っ、声……声がっ」  
尖りきった乳首をちゅくちゅくと音を立てて吸われ、反対の胸を手のひら全体で乱暴にもみしだかれる。  
逆の乳首にも吸いつき、歯でしごいて硬く尖らせてゆく。  
「あ……ふぁ……! んんっ……くぅ…んっ」  
「琴吹さんの胸、やらしっすよね」  
「んんっ、くぅ……」   
「大きくて、やわらかくて」  
あたしに見せつけるように、両方の胸を下からすくいあげて揺らし、唾をたっぷりこすりつけるようになめ回す。      
「あふ……! んんんっ……やっ……あぁんっ」  
「乳首を、こんなに尖らせてさ」  
指で左右にはじいて、刺激する。  
「んんんっ、んっ! はぅ……っ」  
あたしの胸は、櫻井のつけた赤いキスマークだらけで、櫻井のすりつけた唾でびしょ濡れだった。  
櫻井の手が、今度はスカートの下にもぐりこんでくる。  
薄い下着を太ももまで引きずりおろし、指で割れ目をなぞると、びちゃびちゃと音がした。  
「濡れ濡れっ。琴吹さん、オレに胸吸われて、こんな感じてたんだ。なのに、必死に声押し殺しちゃって、  
我慢は体によくないっすよ。気持ちいいって、認めちゃえばいいのに」  
きっと数え切れないほどの女と、こういうことをしているのだろう。巧みな指先が濡れたヒダの間にもぐり込む。  
そうしながら、マメのような突起を、別の指で押し込むように刺激されて、あたしはみっともなく体を揺らした。  
 
「あんっ……ふあ! あんっ、あぁ……んっ」  
いくら我慢しようとしても、そこをぐりぐり押されると、スイッチが入ったみたいに甘い声が出てしまう。  
「やだ……っ、やだっ! もうやめて、お願いっ」  
「処女みたいなこと言うの、しらけるからやめましょうよ。琴吹さん、オレに何回抱かれたと思ってんです」  
あたしを傷つけるためにささやかれたその言葉に、胸をつらぬかれる。  
そうだ、あたしはもう、井上に処女をあげられないんだ。  
一週間前、心葉さんのことで大事な話があると、櫻井に呼び出された。  
櫻井の知り合いのマンションに連れて行かれて、そこであたしは櫻井に犯された。  
 
『ねぇ、心葉さんと別れてくれません? 心葉さんは、遠子姉の作家なんですよ』  
『どうして、あんたにそんなこと言われなきゃいけないのっ? あたしは井上が好き。絶対別れない』  
『琴吹さんのために言ってんすけどね。琴吹さんも気づいてますよね? 今、心葉さんの心の中にいるのが誰なのか。  
あの二人の間に割り込もうなんて、無理なんですよ』  
『そ、そんなの、知らない。井上の彼女は、あたしだものっ』  
『そうっすか。じゃあ、無理矢理でも別れてもらしかないすね』  
 
櫻井はあたしをフローリングに押し倒し、そこでまずあたしの唇を奪い、服を破り裸にし、全身をなめまわし、  
キスマークだらけにしたあと、あたし中に押し入り、処女を奪った。  
あたしは泣きながら抵抗したけれど、重い体は、いくら押しても引っ掻いてもびくともしない。  
一回では解放してもらえず、四回もやられた。  
あそこから血が流れ、床に染みができ、あたしは汗と櫻井がかけた精液で、ぐちゃぐちゃに汚れた。  
櫻井は、ぐったりしているあたしを抱き上げてお風呂場に連れて行き、そこであたしの体に石鹸を塗りたくって  
泡立てながら、もう一回あたしを抱いた。  
最初のときはすごく痛かったのに、このときは気持ちよくて声が押さえられなくて、お風呂場の壁にあたって  
響く自分の声を、絶望的な気持ちで聞いた。  
櫻井は、あたしに口止めをしなかったし、心葉さんと別れなければバラすとも言わなかった。  
ただ、翌日から放課後になるとあたしの前に現れ、司書室や地下の書庫や、開店前の知り合いの店や、あの  
マンションで、あたしを抱いた。  
たいてい一回ではすまなくて、二回も、三回も。  
きっと櫻井は、あたしがのほうから井上と別れるよう、仕向けているに違いない。  
けど、あたしはどうしても井上と別れたくなかった。  
 
「ひゃん! ああっ! あんっ! あん、あんっ、あぁん……! んんっ!」  
あたしを向かい合わせに膝の上に乗せ、櫻井があたしの中に自分のものを埋める。  
ぐちゅぐちゅと音を立てて出し入れする。  
出入り口を太く硬いものがこする感覚、内側の壁や、体の一番深いところを穿つ快感に、頭の芯がとろけそうになる。  
嫌なのに!  
こんなに、嫌で嫌でたまらないのにっ!  
背筋を、ぞくぞくした甘い刺激が駆け抜けてゆく。  
「琴吹さん、腰、動いてるぜ」  
指摘されて、首筋から頬がカァッと熱くなる。  
「ち、違ッ! そんなことない……! あんっ! ふあ! んぅ! 違う……っ、  
違う……だから!」  
嫌なのにっ! 井上以外の人となんて、嫌で嫌でたまらないのにっ!  
「はぁんっ、ふあっ……!」  
声が止まらないっっっ。  
櫻井がにやりとし、あたしの腰をつかんで突く速度をあげる。胸をなめ、乳首を舌で器用にはじく。  
「あ、やだっ! ああっ! んんんんっ! 助けて、井上! 助けて! やだ、やだぁぁっ!」  
乳首を強く吸われた瞬間、あたしは背中をのけぞらし、達した。  
それでも櫻井は、あたしを突くのをやめない。達した直後で敏感になっているあたしを、がくがく揺さぶり、最後は引き抜いて、  
あたしの胸に、なまあたたかい白い液をかけた。  
「……いいんすかね、心葉さんの名前なんか呼んで。心葉さんが今この部屋に入ってきたら、困るのは琴吹さんでしょ」  
出したばかりで濡れているものを、あたしの口へねじ込む。  
「ほら、しっかりなめてください。琴吹さんのこぼしたエッチな汁で、汚れたんすから」  
「んぐぐぐ」  
口の中いっぱいに生臭いものを詰め込まれて、目に涙がにじんだ。  
早く終わらせたくて、床に四つん這いになって、櫻井のそれに舌をからめる。  
「んぐっ、んんっ、んく……っ、れろっ……くちゅ……んんんんっ、んくっ、ちゅっ。  
んぐぐぐっ、んんんんっ、れろっ……くちゅ、ちゅっ、んっ、んっ、んんんっ」  
ふるんと垂れた胸の乳首から、櫻井がかけた精液が、汗と一緒にぽたぽたしたたり落ち、むき出しのお尻が揺れている。  
櫻井の股間に顔を埋め、櫻井のものに吸いつき舌を這わせ、犬みたいにぺちゃぺちゃなめている。  
櫻井の言うとおりだ。  
こんないやらしい姿、井上に見せられない。あたしが櫻井に何度も犯されたってわかったら、きっと井上はあたしから離れてゆく。  
夕歌――夕歌も、こんな絶望的な気持ちで、好きでもない男の人たちに抱かれていたの?  
愛する人に殺された親友のことを思うと、目の前がますます真っ暗になり、胸が抉られるように痛んだ。  
「んんんんっ、んっ……んくっんくっ……くちゅ、れろっ……んんんっ」  
「ッッ、出るから全部飲んで」  
硬く張りつめきった櫻井のそれが爆発し、喉に苦い液がどっと押し寄せる。  
「んんんんんっ!」  
あたしはむせそうになりながら、飲み下した。気持ちが悪い。吐きそうだ。  
「けほっ、んくっ……あんたなんか、大嫌い……っ」  
床に四つん這いのまま、荒い息を吐きながら唸ると、顎をぐいっとつかまれて、いきなりキスをされた。  
熱い舌が、あたしの舌に蛇みたいにからみつき、息ができないほど吸い上げられる。  
そのまま好き勝手に口の中をなぶられて、体の芯がほてってくる。  
櫻井が唇をはなし、あたしの顔をにやにやと、のぞき込む。  
「その大っ嫌いな男は、あんたのファーストキスの相手ですよ」  
あたしの下唇に指をあてなぞり、いたぶるように続ける。  
「この生意気な口が、ハジメテくわえたのもオレのものだし、ここを――」  
と、さっきまで自分のものを出し入れしていた場所に、指を差し込む。  
「んっ」  
びくんとし、声を噛み殺すあたしを見て、おかしそうに目を細める。  
そのまま、ゆっくりと指を動かしながら、  
「ここを、ハジメテ使ったのも、オレ。こっちも――」  
あたしの体を、ぐるりと反対向きにし、おしりの穴を指でくすぐる。  
「オレがハジメテを、いただいたんすよね?」  
やわらかな髪がおしりにかかり、ぴちゃりと音がして、濡れた舌が、そこをなめはじめる。  
「やだっ、やめて……っっ、気持ち悪い、汚いっ」  
 
「どうして、女って、みんな同じコト言うんすかね」  
櫻井は、あたしのあそこを指でぐちゅぐちゅいじくりながら、濃厚な舌使いで、おしりのすぼみや割れ目をなめ上げた。  
「やぁん! やだっ、やだってば――変態!」  
おしりを揺すって払いのけようとすればするほど、あそこに突っ込まれた指が、内側の壁をひっかいて、体がぞくぞくと震えた。  
「いいすね。罵られると、燃えます」  
櫻井が立ち上がり、自分のものを、あたしのあそこにすりつけはじめる。  
さっきの挿入で濡れていたそこは、よくすべって、ぽちっとした突起の上を幾度も行き来するその刺激に、あたしはたまらず声を上げた。  
「あ……! あぁん……っ」  
敏感な突起が充血したみたいに張りつめ、櫻井のものも硬くなる。  
それを櫻井は、あたしのおしりの穴にあてた。  
「やぁぁ……っ、そこはダメぇ」  
「こっちだって、とっくに処女じゃないじゃないすか」  
みしみしとおしりの穴が押し広げられる感覚がし、櫻井があたしの胸をもみしだきながら、  
そこを使いはじめる。  
「ああんっ! やだっ! やだってば! ふあ! んんっ、んっ! やめてぇっ!」  
「琴吹さんの処女は、前も後ろも上も、ぜーんぶオレがハジメテだってこと、忘れないでくださいよ。  
心葉さんに、前の処女はあげられないから後ろの処女をあげるとか、しおらしく言い出されても困るんすよ。  
琴吹さんにはもう、心葉さんに捧げられるものなんか、ひとつも残ってないってこと、自覚してください。  
それにほら、こっちも前のときより、気持ちいいはずっすよ」  
「やぁっ、気持ちよくなんか――ひゃうっ! あぁっ! ぁ! あぁん!」  
肉と肉がぶつかる、ぱんぱんという音が、部屋の中に響く。  
櫻井はあたしを突き上げるように攻めながら、あたしの乳首を強くねじったり、優しくなでたり、指先で転がしたり、また強く引っ張って  
はじいたりして、あたしにさんざん甘い声を上げさせた。  
そのあと、腰からおしりへのラインをくすぐるようになでられて、背筋がぞくぞく震えた。  
おしりの穴を使われているという違和感が薄れ、櫻井に突かれるごとに、快感がエスカレートする。  
ぷっくりふくらんだ前の突起を指で押し潰すようにつままれ、足が浮いてつま先立ちになるほど、強く突き上げられて、  
「あぁっ!」  
高く叫んで、腰を揺らめかせた。  
早くカウンターに戻らないと、一緒に当番をしている子が様子を見に来る。  
ううん、櫻井に「邪魔しないでね」とにっこりされて、ぼーっとしてたから、それはないかも。  
でも、もし井上が図書室へ来たら――。そのドアを開けたら――。  
井上のこわばった顔が目の裏に浮かんだとたん、恐怖が心臓を貫いた。  
「やだ! やだやだっ! やめてっっ! やめてぇ! いやああああ!」  
櫻井が、あたしの口を大きな手でふさぐ。  
「っっ――さすがにそこまで声張り上げたら、やべっすよ。感じてくれてんのは、嬉しいけど」  
後ろから顔を寄せて、耳たぶを噛みながらささやき、  
「まだ、オレ、イッてないすから。早く終わらせたかったら、もっと腰振って、おしりの穴、しめてください」  
さらに激しく、突き上げた。  
「んんんんっ、んんんっ――んぁっ――んんっ、んっ! んっ!」  
口をふさがれているので、うめき声しか出ない。  
いや! もういやぁ! 助けて!  
片手で前の穴をとけそうなほどかきまわされて、後ろの穴は、熱い肉で好き放題に突かれている。  
足ががくがく震え、頭の中で光がはじけるほどの快感に、何度も気が遠くなる。  
もうこれ以上、感じたくない。感じたくないよぉっ!  
井上っ! 井上っ! 井上っ!  
今、あたしを後ろから貫いているのは井上だと想像しながら、あたしは何度目かの絶頂を迎えた。  
櫻井もイッたようだった。  
おしりの穴に注ぎ込まれた白い液があふれ出し、あたしの太ももをだらだらと伝う。  
床に倒れたまま痙攣しているあたしに、櫻井が刃物みたいな笑みを浮かべて言った。  
「良かったすよ。明日は道具とか使ってみます? 期待しててください」  
櫻井が出いったあと、あたしは胸と下半身をむき出しにしたまま、床にしゃがみ込み、  
一人で泣いた。  
 
 
閉館の札を下げたあと、Pコートを着て、マフラーを巻いた。  
鞄を抱えて、うつむいたままぼんやりしていると、ドアが開いて井上が入ってきた。  
ああ、井上が来てくれた。  
大好きな井上の顔を見たら気持ちがゆるんで、微笑みがこぼれた。  
「お待たせ、帰ろうか」  
「うん」  
小さくうなずいて、辛いことなんてひとつもないって顔で、立ち上がった。  
 
井上に、バレンタインには手作りのチョコをあげる約束した。  
その日は、井上と過ごすのだ。  
日曜日には、井上の家に遊びに行ってもいいと、言ってくれた。  
きっと井上の家族にも、紹介してもらえる。  
お土産に、レモンパイを焼こう。  
井上が喜んでくれるといいな。  
 
けど、当日そこには櫻井がやってきた。  
井上のために焼いたレモンパイを、手づかみでむしゃむしゃほおばって、口元に薄い笑みを浮かべ、意味ありげにあたしをじろじろ眺めた。  
まるで、あんたがどんな声で鳴くのか、どんな顔でイクのか全部知ってるんだぞ、と言ってるみたいな、なめるような目で。   
櫻井がなにを言い出すのか、あたしは心臓が破れそうなほど怖くて怖くて、不安で不安で、高まる緊張に耐えらきれず、  
櫻井を怒鳴りつけて部屋を飛び出した。  
追いかけてきた井上の顔も、まともに見れず、  
「ご、ゴメン……今日は帰る、ゴメンね、ゴメンね」  
と謝って、階段を駆け下りた。  
 
どうしよう、櫻井が井上に、あたしが処女じゃないってバラしたら。  
あたしにはもう、井上にあげられるものは、なにも残ってない。  
全部、櫻井に奪われた。  
ううん、そんなことない!  
もつれて転びそうな足で走りながら、必死に首を横に振る。  
心は、井上のものだ。  
それだけは、櫻井にも奪えない。  
大丈夫、櫻井はきっと井上には言わない。これまでもそうだったもの。  
櫻井の狙いは、あたしをいたぶって、井上から離れるようにすることだ。  
だったら絶対に、櫻井の企みになんか負けないっ。  
 
バレンタインの朝、あたしは、引き出しに大切にしまっておいた井上の校章を、ペンギンのぬいぐるみの首の中央の、赤いリボンの上にとめた。  
そのぬいぐるみだけ後ろ向きにして、他のぬいぐるみと一緒に並べておく。井上が気になって、手にとるように。  
それから、井上がくれた五百十円を挟んだプレートも、本棚の後ろに、少しだけ見えるように置いておく。  
あとは、ずっと渡せなかった暑中見舞いの葉書を井上に渡して、それから夕歌の話もしよう。  
井上は優しいから、あたしがまだ夕歌のことで哀しんでるってわかったら、放っておけないはずだ。  
もともと井上があたしとつきあってくれたのも、夕歌が死んで落ち込んでいるあたしへの、同情からだったし……。  
井上を引き止めるために、あたしはなんでもしよう。  
だって、こんなことでもしなきゃ、あたしは遠子先輩に勝てない。  
井上が好きなのは、遠子先輩だってことくらい、わかってる。  
井上がぼんやりしているときは、たいてい遠子先輩のことを考えているんだって。  
井上はまだ、自分の気持ちに気づいていない。  
遠子先輩も、何故だかわからないけれど、井上から離れていこうとしている。  
だから井上が遠子先輩への気持ちに気づく前に、あたしはどんなズルい手を使っても、井上の心をつかむんだ。  
 
井上は、校章や五百十円を見つけて、照れくさそうだった。  
「やっぱり、嬉しい、かな」  
赤い顔で、そう言ってくれた。  
半年遅れの暑中見舞いも、嬉しそうに受けとり、  
「ぼくも、琴吹さんに渡しそびれていたものがあるんだ」  
と言い、翌日一緒に登校する約束までしてしまった。  
 
待ち合わせの場所に到着したら、遠子先輩と井上が話していた。  
遠子先輩は井上にサヨナラを言いにきたみたいだった。  
去ってゆく遠子先輩を切ない目で見送る井上を、塀のかげからこっそり見ているのは、胸が裂けそうに辛かったけれど、  
これでもう遠子先輩と井上が会わずにすむのなら、いいと思った。  
井上が、遠子先輩から返してもらったマフラーを首に巻こうとするのを見て、遠子先輩が触れたものに触れてほしくなくて、  
「そのマフラー、あたしがもらっちゃ……ダメかな」  
と井上の手を押さえて、言ってしまった。  
「井上の、マフラーが、欲しいの」  
あたしが哀しそうな顔をしていたからだろう。井上は迷うような表情を浮かべながら、あたしの首に白いマフラーを巻いてくれた。  
あたしは泣いてしまいそうなほど、嬉しかった。  
これで井上は、あたしのものだ!  
そうだよね、井上!  
   
そのあと、井上は遠子先輩の家まで、会いにいったらしい。  
遠子先輩に小説を書いてほしいと言われ、泣きながら帰ってきた。  
井上の家の前で待っていたあたしは、井上を抱きしめて、  
「書かなくていいよ、井上が小説を書かなくても、あたしは井上が好き、ずっと側にいる」  
と言ってあげた。  
そう、井上は小説なんて、書かなくていい。  
作家になんて、ならなくていい。  
遠子先輩や朝倉美羽と繋がるものになんか、関わってほしくない。  
井上ミウなんて、知らない。  
そんな人、あたしたちには全然関係ないっっ。  
井上は、あたしにすがりついて、いつまでも泣いていた。  
あたしは井上の心を、完全に手に入れたつもりでいた。  
 
けれど――。  
 
「セコイ手、使いますね、琴吹さん」  
授業中。  
地下の書庫で、櫻井は制服の上からあたしの胸とおしりを、なぶりながら言った。  
「はなして。授業、はじまってる」  
もがいても、腰に巻きついた手はびくともしない。服の上から乳首をつままれて、甘い声を上げる。  
「あっ」  
「日々、感度が上がってんじゃないすか。心葉さんにはさも純真そうに、『書かなくてもいいよ、井上の側にいるよ』なんて言って、  
腹の中じゃ『作家』の心葉さんは必要ないって思ってるくせに」  
何度も乳首をつまみ、ひねったり、はじいたりしながら、耳や喉に舌を這わせる。  
そのたび、甘い電気が背筋を走る。  
「あ、あたしは、井上のためを思って――」  
櫻井が、あたしの胸をぐっとつかむ。  
「ふぅん、でも琴吹さんは、心葉さんが作家に戻るって言ったら、作家になんかならないでって、泣いて反対するね。賭けてもいい」  
「そ、そんなこと――あっ、やんっ」  
櫻井の手が上着の中にもぐりこみ、ブラカップに手を差し入れる。  
もう片方の手も、スカートをまくりあげ、太ももをからおしりのあたりを、なでまわしている。  
「やだっ、授業が――あっ、あっ、ふあっ」  
ねっとりと耳を這っていた舌が、鎖骨のあたりをなめ、歯を立てる。  
「ダメっ、痕がついちゃう! んんっ!」  
下着の上から、股の間を指でノックされ、びくんと首をのけぞらせた。  
どうして、こんなに感じちゃうの……っ。  
「ねぇ、琴吹さん、オレと賭をしませんか?」  
 
櫻井が、布にできた割れ目を、指で何度もすーっとなぞりながら、真顔でささやく。  
あたしはふるふる震えながら、喘いでいる。  
「あ……ふぁ……か、賭け……?」  
「そう。琴吹さんは、『小説なんて書かなくてもいい』って言葉で、心葉さんの心をつかんだつもりでいるでしょ?  
だからさ、それ証明しません?」  
「んんっ……くぅん、あっ、あっ」  
櫻井が指を縦に動かしている場所が、どんどんしめってゆく。  
「ホワイトデーまでに、心葉さんが琴吹さんのことを『ななせ』って呼ぶようになったら、琴吹さんの勝ち。  
オレは二度と琴吹さんにこんなコトしません。けど――」  
櫻井が、下着の布ごと、指を割れ目に押し込む。  
「ひゃっ」  
「ホワイトデーが来ても、心葉さんにとって、あんたが『琴吹さん』のままだったら、負け。  
そしたら、心葉さんと別れてください」  
言いながら、えぐるように、ぐいぐい指を動かす。  
「あっ! ひゃぅ! そ、そんなのって――あっ! ダメっ! んんんっ」  
「やっぱ、自信ないっすか」  
「あんっ、そんなこと……っ」  
首を横に振りながら、不安が胸を鋭く刺す。  
井上は、「ななせ」って呼んでくれるだろうか……。  
「じゃあ、決まりっすね」  
濡れて透けた布の上から、一番敏感な突起を無造作に引っ張ったあと、ゆっくりと床に押し倒し、喉や鎖骨をなめながら、  
足をからめ、スカートや上着をまくって、全身に手を這わせはじめる。  
そうしながら、張りつめた股間をあたしのそこに、ぐいぐい押しつけてくる。  
「あぁっ、いやぁ……っ、喉、噛まないでぇ、痕をつけないでぇ。  
い、井上に見られたら……! あぁん!」  
「ホントに、いつまで処女のつもりなんだか。それとも抵抗するほうが、感じます?」  
「っっ、この世で一番、あんたが嫌いっ! んんんんんんっ」  
叫んだとたん、強引に唇をふさがれた。  
舌をからめとられ、唇で唇をなぞるように、こするように、はさみ込むように愛撫されて、息ができない。  
必死に逃げようとする舌を、向こうの舌が引き込み、舌と舌を重ね、先端を噛み、またからみあう。  
途中から、頭がとろけそうになり、あたしのほうから、舌をからめていたような気がする。  
唇をはなれると、よだれが、つーっと糸を引いた。  
すぐ上からあたしを見おろし、おかしそうに笑う。  
キスで感じてしまったのが悔しくて情けなくて、あたしは涙目で睨み返した。  
「……死んじゃえ」  
櫻井が甘い目になる。  
「なら、オレのこともっともっと憎んで、殺せばいい。  
そしたら……あんたのこと、世界で一番好きになるかもしれないよ、ななせ」  
あんたなんかに名前を呼ばれたくないっ。その名前は井上だけのものだ。  
そう言おうとしたとき、また唇をふさがれた。  
むさぼるようなディープキスに、頭の中が白くなりかけたとき――。  
地下書庫の重いドアが、荒々しい音を立てて開いた。  
 
「よせっ! やめろっ!」  
 
それが井上の声だと気づき、いっきに現実に引き戻され、ぞっとした。  
 
櫻井の胸を両手で押しやり、足をばたつかせる。  
櫻井が身を起こして振り返る。  
井上はすごい勢いで走ってきて、櫻井を突き飛ばした。  
あたしに、「ゴメンね、ゴメンね、琴吹さん」と何度も謝り、あたしは井上に泣きながらしがみつき、がたがた震えた。  
大丈夫、バレてない。  
服は乱れているけど、口の中に櫻井の舌の味が残っていることも、股間が濡れていることも、井上は気づいていない。  
あたしが、もう何度も櫻井に抱かれたなんて、思わない。きっと間に合ったと信じてる。  
だからあたしも、危ういところを恋人に救われた、処女のふりをする。  
井上の腕にしがみつき、櫻井に向かって叫ぶ。  
「あんたになんか、怯えたりしないっ! あたしは、この先もずっと井上と一緒にいるんだから!」  
そうして、井上に向かって健気に見えるよう、小さく笑いかけた。  
 
「井上が好き……。あたしは、井上の側にいる」  
 
大丈夫。  
きっとあたしの願いは叶う。  
そうだよね、夕歌。  
井上はホワイトデーまでに、あたしのことを「ななせ」って呼んでくれるよね。  
そのあとは、ずっとずっと井上は小説なんか書かず、作家にもならず、朝倉を思い出に変えたように、遠子先輩のことも忘れて、  
あたしだけの井上心葉になってくれるんだよね。  
そのことを確信しながら、あたしは井上の腕に自分の腕を強くからめ、地下室の階段をのぼっていった。  
 
END     
 

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