「じゃ、じゃあ今日は一日これを着て過ごしてもらうからね!」  
などと高らかにメイド服とウィッグを片手に僕の彼女はのたまった。  
 
 ことは昨日、書き下ろし文の仕事も脱稿し、一息つくと同時にちょっとしたゲームをして  
"負けた方が勝った方の言うことを一日中何でも聞く"というルールを決め、ななせが勝ち、ぼくは今日ななせに逆らえないのだけれど  
 
「メイド服はいいとしてそのウィッグはどこから?」  
あんなものを買った覚えはないし、ななせが自分で買いに行ったのだろうか。  
「ど、どこからでもいいでしょう!も、貰いものよ!」  
こんなものをどこの誰がくれるというのだろうか。  
「う…いいじゃない、別に着てくれても。遠…セーラー服は良くてもメイド服はダメって言うの?」  
上目遣いになりながら若干涙目で唇を尖らしている。それは反則だよ。  
それにしても不吉な単語が聞こえたような…詳しい話は明日聞こう。  
「わかったよ。じゃあ今日は忠実なメイドとして、ななせお嬢様に仕えさせてもらいます」  
普段ななせが着てる服ということを考えると、あの時のセーラー服よりは役得があるし。  
じゃあ、着替えは…  
「こ、こ、こここで着替えていきなさい!コノハちゃん!」  
うわあ。  
 
 着替え終わると、ななせはしばらくぼくの顔を見て呆けていたけど、徐にデジカメを取り出した。  
「こ、こここれは証…記念写真よ!大人しく撮られなさい!」  
仰せのままに、お嬢様。  
ただし明日になったら詳しいご説明をお願いします。  
 
 午前中はメイドとして朝食や昼食におやつのリクエストに応えて作り、  
マッサージ、ゲームの相手等恙無くメイドとしてななせお嬢様にお仕えした。  
ある程度時間がたってくると、メイド姿も気にならなくなってくるし、  
最近なかなかかまってあげられなくて、寂しそうだったななせが喜んでくれることはぼくも嬉しい。  
 しかし夕食のリクエストに応え作ろうとしたところ、どうも材料が足りない。  
「いかが致しましょうか、お嬢様」  
…なんか少し楽しくなってきた。  
「そ、そうね。だ、だったら」  
 ななせは急に何かを思いついたように悪戯っぽい表情をして  
「今から買い物に行ってきてもらおうかしら!」  
まあ当然だよね。  
「かしこまりました、お嬢様。では行ってまいります」  
ちょうど他にも買いたい物もあったし、せっかくだから一緒に済ませてしまおう。  
「え、あ、あの、ちょっと…」  
なぜかななせが少し慌てたように、何かいいたそうにしている。  
「なにか、他にご入用のものがございましたか?」  
「い、いやそういう訳じゃないんだけど…」  
「そうですか?それでは行ってまいります。まるべく早く戻ってきます」  
少しななせの態度が腑に落ちなかったがとりあえず買い物に出かけることにした。  
 
 夕食及びそれ以外の買い物をしているのだが、おかしい。  
妙に視線を感じるし、店の人も怪訝な顔をしたり、なぜかオマケしてくれたりする。  
今もすれ違うたびに振り返られたり、遠巻きに見られたりしている。  
 なんなんだろうと思っていたら、遠巻きに見る人の中に知った顔を見かけた。  
 
「あれ、こんにちは森さん」  
「…え!?え、えと」  
声をかけるとなぜか驚いたようにして後退った。  
「…あの、どうしたの?」  
ぼくが誰か分かってないかのようなしぐさにむしろこっちが驚く。  
「え、あの…え?・・・・井上くん?」  
なんで疑問系…、あっ!  
 
ようやく気付いた。今自分がメイド服で往来を闊歩していたことを。  
どうりでやたら見られるわけだ…  
「ええと、井上くん、もしかしてそういう趣味が…」  
マズい!趣味でやってるなんて誤解受けたら、また学校に行けなくなる!  
謎の美少女作家より恥ずかしい!  
「いや、これは今日だけで、趣味でやってるんじゃなくて…」  
ぼくの趣味は着る方ではなく着せる方だ。  
ただ果たしてこの状況をなんと言おうか。下手に誤魔化すより正直に言った方が傷は少なくて済むかもしれない。  
「今日一日お嬢様のご命令に逆らえないんです(にっこり)」  
さて、これで乗り切れるか。  
「お、お嬢様…も、もしかしてななせのこと?」  
結局これまでの経緯を包み隠さず話した。  
「そうなんだ、罰ゲームで…」  
「うん、趣味でやってるわけじゃないから、本当に」  
若干引き気味ではあったものの、女装好きの変態のレッテルを貼られることは避けられそうだ。  
「でも、メイド服か…井上くんのというよりななせの趣味…?着るのはともかく、着せるのは…それにしても似合ってるなぁ…」  
なにかぶつぶつつぶやき始めた。  
「まあ、折を見て、ななせにはもっと恥ずかしい格好をしてもらうことになるから」  
「いや、さらっととんでもないこと言わないでよ、こんなところで…まあうまくいってるようで何よりだけど。…程ほどにね」  
「そうだね、まあ流石に裸エプロンとかは自重しておくよ」  
なぜだか急に森さんの視線が異様に泳ぎ始めた。  
「じゃあ、ここで長時間立ち話してても、お互い恥ずかしいし」  
「そうだね、あ、その前に!」  
ぴろりん☆  
 
森さんにも撮られちゃった。  
 
「ただいま、戻りましたお嬢様」  
帰宅すると、ななせは顔を真っ赤にして  
「だ、大丈夫だった?なにも問題はなかった?」  
今なら分かる。まさかぼくが何の抵抗もなくすんなり買い物に行くとは思ってなかったんだ。  
「はい、問題ありません。途中で気付いてちょっと恥ずかしかったですけど」  
せいぜい森さんに会ったくらいで、問題ということはない。  
「ふ、ふ〜ん。恥ずかしかったんだ、あんまりそうは見えないけど」  
まあ色々と自分でも最近麻痺してきてるなあ、とは思うよ。  
 
 夕飯を作り、少し時間つぶしはしたものの、どうやらネタが切れてきたらしい。  
 ななせはなんとなく落ち着かない様子になり、若干イライラし始めたようだったが意を決したように、寝室に来るようぼくに命じた。  
 
 寝室に着くなり、ななせの手によってメイド服が半脱ぎ状態になる。  
 全部脱がすのではなく、中途半端に脱いだ状態で羞恥心を沸き立たせる、というのは普段のぼくの趣味だが、  
いざやられる側に回ると、恥ずかしいよりも先に、こんなときでも一生懸命なななせの姿にただただ頬が緩むのを我慢するばかりだ。  
 
 スカートと下着が脱がされ、露出したぼくのモノを咥えようとしてやめ、代わりに白く冷たい手でしごき始めた。  
「ふふっ、こ、こんなになってる…こ。こんな格好で感じてるんだ…い、嫌らしいんだね、コノハちゃんは…」  
顔を真っ赤にして、呼吸も荒くしたお嬢様による言葉責めが始まった。  
これもすることはあってもされるのは初めてだ。  
慣れてないからたどたどしいことこの上なく、恥ずかしがってぼくと目があわせられないヘタレ攻めだけど新鮮でいい!  
 否が応でも興奮は増し、一日メイド服を着た甲斐が果たされ精を放とうとした刹那、ななせの手がピタリと止まった。  
 
「き、気持ちいいんだぁ…コ、コノハちゃん、イ、イキそうなの?イカせてほしいの?」  
 どこで覚えてきたのさ、そんなセリフ…  
 ぼくの見つかるように隠している秘蔵書物にその手のはなかったはずだけど…  
 しかし、寸前で止められ収まりもつかないし、今日は一日メイドを演じきると決めた以上、ここは乗るしかない。  
「お、お願いします。イ、イカせてくださいっ!」  
言うと、ななせは顔を更に真っ赤にしながら、不安と決意を織り交ぜた表情で、  
「だ、だだだったら、こ、ここにキ、キスしなさいっ!!コノハ!」  
と、ぼくの鼻先に右足を突きつけてきた。  
 
あれ、なんかデジャブ。  
似たような状況におかれたことが過去にあったような気がするんだけど…  
ななせのほうを見ると、顔を真っ赤にして眼をかたく瞑っている。  
しかし足舐めはしたこともさせたこともないけど、普段ついつい胸やお尻にばかり意識が行きがちだが、  
ななせの脚は白く、すらっとしていて見事な脚線美を現していて、中々に奉仕のし甲斐がありそうだ…  
新鮮な興奮と共に、お嬢様の命に従うべく、ぼくは跪き、お嬢様の脚に舌を這わそうとしたところ、ななせと眼が合い  
 
「きゃあっ!!」  
 
蹴飛ばされた。  
 
いてて、鼻血出ちゃった。  
「ご、ごめん!心葉大丈夫!?」  
すっかり素に戻ったななせが心配そうに駆け寄ってきた。  
今のぼくの姿を客観的に見てみると、上半身は着乱れたメイド服、下半身は丸出し。  
そして女装をしながら鼻血を垂らしている、なんとも締まらない姿だなあ…  
「ごめん、ごめんね。あ、あたし調子に乗りすぎた…こんな真似するつもりなかったのに…」  
涙を滲ませながら謝る姿には、全てのことを許してしまいそうになるが、蹴られたことはともかく、  
なんでぼくが女装をする羽目になったのかは聞いておきたい。  
「ええと、聞きたいことがいくつかあるけど…最近遠子先輩に会った?」  
びくっという音が聞こえそうなほど、ななせは体を振るわせた。どうやら図星らしい。  
やはり過去の女装話を遠子先輩がななせにバラしたらしい。  
まあ以前はぼくのスリーサイズをバラした(どうやって調べたんだろう)こともあるから大して驚くことではないのかもしれないけれど…  
帰郷してるなら、会いたい気もするけど…  
 
「あ、あの実は、遠子先輩にも会ったけど、遠子先輩だけじゃなくて…」  
あれ?遠子先輩以外にあの話を知っている人と言えば…  
 
ななせの話を要約するとこうだった。  
たまたま街を歩いていたら、帰郷していた遠子先輩と、一緒にいた麻貴先輩と再会し、3人で一緒に喫茶店に入った。  
近況を互いに話しているうちに、ぼくとの話に及んだときに、麻貴先輩がななせに、  
男に良いように遊ばれてる都合のいい女になってるだけじゃないか、とか挑発してきたらしい。  
しばらくは遠子先輩が窘めたりしていたらしいが、麻貴先輩が、以前ぼくが女装してきたときの写真を持ち出して  
井上くんは遠子のためならここまでやったけど、おたくのためにここまでやってくれるかしら、などとさらに挑発を重ね、  
期限内にぼくに女装させることが出来るかどうか、の勝負、という流れになったらしい。  
 
「…あのさ、ななせは今まで余り接点なかったから知らないかもしれないけど、  
麻貴先輩は他人を不安にさせることをライフワークにしてる人だから、  
あまりあの人の言うことを真に受けたらダメだからね」  
今までは遠子先輩が主な被害者だったけど。  
「え、えっと…確かに姫倉先輩の言うことも気になったんだけど…そ、そのなんていうか…あの…」  
なんか妙に煮え切らない様子だ、まだなにかあるのかな。  
「しゃ、写真のセーラー服姿が凄く可愛かったから、メイド服姿も見てみたかったのっ!」  
ななせまで何を言うんだ。  
 
「いや、別に可愛くないから、本当に」  
「な、なんでよ!今だって物凄く可愛いじゃない!あ、あたしよりよっぽど似合ってるじゃないっ!」  
「ななせこそ何言ってるのさ!メイド服もナース服もななせが着て初めて輝くものじゃないか!自分で着る為に買ったんじゃない!」  
「う、ううううるさいっ!何言ってるのよ!バカ!大体セーラー服なんか着て遠子先輩たちとなにしてたのよ!」  
「思い出したくもないよっ!そもそもあれはななせのせいでもあるんだからねっ!」  
「どういう意味よっ!」  
 
こうしてツンデレお嬢様と喧嘩をしながら、ぼくの人生で二回目に女装をした日が終わりを告げようとしていた。  
 

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