アナザーホワイトデーのおまけ  
 
3月20日、ぼくはななせの部屋に3度目の来訪をした。  
「というわけで、のばしのばしになっていたホワイトデーのお返しを持ってきました」  
「あ、ありがとう。…嬉しい」  
 照れながらも、その表情に若干の困惑があるのをぼくは見逃さなかった。  
「ああ、勿論今日までのびたのは、忘れていたからじゃなくて、昨日森さんから電話で、説明を求められたことと、  
ホワイトデー3倍返しの儀礼の正当性の講釈を聞かされたこと、は関係なく、ちゃんと今日渡せるように用意してたよ」  
「あ、あたしは心葉が忘れてるだなんて思ってなかったんだけど、  
そ、それに森ちゃん、はずっとあたしが最近まで元気がなかったこと心配してくれてたし…  
それで、昨日電話で話してて、ちょっとそういう話してたら…ご、ごめんね!あたしが悪いの!  
余計なことまで言っちゃったから…」  
 赤くなりながらも、必死に親友を庇っている様子が本当にかわいい。  
「うん、森さんはいい人だね。ななせのことを本当に大切に思っていたのが凄く伝わってきたよ」  
 以前、ななせの携帯を使ってぼくを呼び出したときも、ななせがいなくなったときぼくに連絡してくれたときも。  
思えば、ぼくとななせがこうしてつきあえるようなったのは彼女の力も大きい。   
「…うん、いっつも森ちゃんには助けられてる」  
 嬉しそうにななせも頷いた。  
 だから、ぼくのホワイトデーの用意を聞き出して安心した後は、  
なぜか自分の彼氏への愚痴とノロケ話に転換して辟易したことは黙っておくことにしよう。  
 みんな気付いてないみたいだけど、森さんの相手って反町くんだよなあ、絶対。  
 なんであんなにバレバレなのにみんな気付かないんだろう。  
「で、3倍返しになってるのかはわからないけど、実は渡したいものは3つあるんだ」  
「え、そ、そんな気を遣ってくれなくてもよかったのに、あ、あたしは心葉から貰えるだけで嬉しい…」  
思わず衝動的に抱きしめたくなる。とりあえず渡すまでは自重しておこう。  
 
「ええと、これはクッキー?」  
「うん。いつもななせに作ってもらってたから、一度自分でも作ってみようと思ってね」  
「へえ、チョコクッキーかぁ、あ、結構上手に焼けてる」  
「ななせが作ってくれるみたいに凝ったものは出来なかったけどね」  
一度失敗して、結局舞花に手伝ってもらったことは伏せておこう。  
 
「もう1つは、これ…オルゴール?」  
「うん、開けてみて」  
流れ出てくるのは、ぼくらの思い出の曲。  
「『美女と野獣』のテーマ…」  
「うん、CDは持ってたけど、オルゴールは持ってなかったな、と思って。  
デザインが気に入ってたんだけど、曲は結局それしか浮かばなくて…」  
 悩んだのは夏の時も同じ。だけど、あの時には感じなかったことを感じた。  
 プレゼントを選ぶということがこんなに楽しいだなんて。  
「嬉しい…な、なんか心葉からは貰ってばっかりな気がしてきた、マフラーとか、ストラップとか…」  
 校章とか本代とかね。とは心の中でだけ付け加えておいた。言ったらまた真っ赤になって怒り出すだろうし。  
 それに本当に貰ってばっかりなのはぼくの方だしね。  
 
「で、ええと3つめのものを渡す前に、ちょっと話しておきたいことがあってね」  
 卒業式の日、遠子先輩に渡した原稿は、読了後、佐々木さんを通じて薫風社の元へ届けられたこと。  
 次の日には佐々木さんから出版の依頼が来たこと。  
 そして作家になることを決めたこと。  
「そっか。やっぱり心葉は作家になるんだ…」  
 ななせはぼくが作家になることを望んでいない。  
 ぼくが苦しんだ経緯を知っているから。  
 それと、遠子先輩や美羽とのことも、まだ心に残ってるのかもしれない。  
「うん、自分で決めたことだから。もう逃げないって」  
 遠子先輩との約束でもある、あれ以来一度も会えてないけど。  
「…そっか。あ、あのさあたしに出来ることってあるかな?  
あたしは…遠子先輩みたいにいっぱい本読んでるわけじゃないし  
朝倉さんみたいに自分で話作ったり出来ないけど、なにか…」  
 それはぼくのため、あるいはななせ自身のためか、消え入りそうな声になりながら、  
相変わらずいつもどおり必死に訴えてきた。  
「そのことなんだけど、3つめのプレゼント…というのかな?これを貰って欲しいんだ」  
 ぼくはポケットから鍵を取り出した。  
 
「え、ええと、なにこの鍵?」  
 ななせが不思議そうに聞いてきた。  
「佐々木さんや家族とは相談したんだけど、これから家とは別に仕事場として、駅前のマンションを借りることにしたんだ。  
それで、その部屋の鍵なんだけど…ななせに貰ってほしいんだ」  
そう言って鍵を手渡すと、ななせは真っ赤になって  
「え、ええええと、あ、あの、そ、そそそそれって、ど、どどど同棲ってこと?  
あ、あ、あああたしたち、まだ高校生だよ!?そ、そそういうことは、ま、まだその」  
今度はぼくが真っ赤になる番だった。  
「あ、ああいいや、違うんだ。し、仕事場って言っても、寝泊りとかはちゃんと家に帰るし  
す、住むための場所って訳じゃなくてさ」  
ぼくは必死に弁明した。確かに説明不足だったけれど、同棲とかはまだするつもりはない。  
ぼくらは健全な高校生だ。  
「そ、そ、そそそうだよね。ご、ご、ごめんね、あたしとんでもない勘違いしちゃって」  
やっぱりわたわたしているななせはかわいいが、すこし咳払いして落ち着くことにした。  
「いや、ぼくの方こそごめん。ぼくがこの仕事場に行くのは基本的に休みの日と、  
たまに学校帰りに行くことがあるかもしれない、って位だと思う。」  
学業優先は、家族との取り決めでもあったし、佐々木さんも納得してくれた。  
「だけど、ぼくは出来るだけ多く、ななせと一緒にいたい。作家としてのぼくでいるときも」  
それが、ぼくの偽らざる本音だった。  
 付き合うようになってまだ3ヶ月  
 向き合うようになったのは1週間ほど前  
 まだまだぼくはななせのことを知らないし、ななせもぼくのことを知らない。  
 もっともっとななせのことを知りたいし、もっともっとぼくのことを知ってほしい。  
 出来るだけ多くの時間を使って、ずっと一緒にいたい、それがぼくの願いだ。  
 
「あ、あたし、も、作家としての心葉のことも知りたい!どんな風に想って、どんな風に書くのか  
な、何が出来るかはわからないけど、心葉の力になりたい!」  
感極まったのかうっすらと涙を浮かべながらも、ななせは満面の笑みで力強く宣言してくれた。  
「何が出来るかは、これから一緒に考えよう。とにかくそばにいてくれるだけで嬉しい。  
だから、貰ってくれるよね?」  
この質問もハイかイエスしか求めてない。  
「うんっ!!」  
多少の誤差は認めるけど。  
 そのままななせを抱き寄せて、唇を合わせた。  
 
 
−蛇足−  
 
「まあ、こういうことも、この先のことも色々、やりやすくなるわけで」  
「色々って、え、ちょ、ちょっと!」  
「ぼくの家だと、舞花がうっかり入ってきかねないし、  
ここだとこの前みたいにお兄さんがひょっこり帰ってくるかもしれないし」  
「あ、あ、あれは、もう滅多には、ってそうじゃなくて!まさか、そのために仕事場借りたんじゃないでしょうね!」  
「ははは。そうそう仕事場で寝泊りするつもりはないけど、ベッドはちゃんとあるから」  
「ば、ば、ば、ばか!なにするつもりなのよ!」  
「そりゃ仮眠とかだけど、ななせはなんのことだと思ったの?」  
「な、なんのことって、あんたがさっきからえろいことばっか…」  
「別にえろいことなんて一言も言ってないよ。で、なんのことだと思ったの?」  
「ば、ばか!心葉のスケベ!変態!」  
「やだなあ、根拠のない言いがかりは。全部ななせが勝手に想像しただけじゃないか、えろいなあ」  
「(声にならない呻き)バカ〜〜〜〜〜!!心葉のバカ〜〜〜!!出てけ〜〜〜!!!」  
 
 余りに大きな声だったので、しっかり下の階のななせのおばあちゃんにも聞かれてて、  
ぼくらは説教及び、琴吹家一同からのからかい混じりの尋問を受ける羽目になりました。  
 

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