<妄想のななせエンド>
(またやられた……)
塩入りシュークリームのしょっぱい味が口いっぱいに広がる。
送ってきたのはもちろん遠子先輩だ。
あの日、ぼくはななせとの幸せな未来を選んだ。
ただし、小説は破らずななせに預かってもらった。
ぼくが死んだ後に出版社に渡してもらうことになっている。
遠子先輩もそれで納得してくれた……はずだったんだけど。
どういうわけか、身の危険を感じることが異常に多くなった。
「先輩はぼくに早くに死んでほしいんですか?」
問い詰めても、先輩は笑っているだけで否定も肯定もしなかった。
しかたがないので、ぼくはいま新しい小説を少しずつ書き溜めている。
それ以来、露骨に危険なことは起きていない。
かわりに、この手の「警告」がときどき来るようになった。
ドアの向こうから、レモンパイの甘い香りがただよってくる。
ななせが口直しに美味しいレモンパイを焼いてくれているのだろう。
ぼくは急いで異様な味の物体を呑み込み、再びキーボードに向かった。
(……遠子先輩、そんなことしなくても小説を書き続ける約束は)
忘れません。