いよいよ今日はホワイトデー。緊張していたら、僕は眠れなかった。
「行ってきます」
お母さんに声をかけ、ぼくは家を出る。
何故だろう。徹夜明けで疲れているはずなのに、全然眠たくない。
いつもの通学路を進んで行くと、かつてぼくたちが待ち合わせていた場所に、琴吹さんが俯いたまま佇んでいた。
「琴吹さん」
ぼくは声をかける。
「あ……」
琴吹さんは少し不意をつかれた様子だったが、すぐに弱々しく微笑んだ。
「おはよう、琴吹さん」
「おはよう、井上。……今日は何の日か覚えてるよね」
「その事なんだけどさ……」
言いかけて僕はふと、琴吹さんがやつれている事に気が付いた。
遅すぎた如月の木枯らしがぼくたちを包み込み、二人の間に沈黙が流れる。
「……わかってたから」
「へ?」
突然琴吹さんが呟いた。
「あたし……わかってたんだ。井上は、あたしよりも、遠子先輩の方が好きなんだよね。あたしの事、ななせって呼べないんだよね……」
琴吹さんの瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれる。
「違うんだ」
「違わないよ。何よりの証拠に井上は小説を書いたじゃない」
「違う」
「違わないっ!」
否定していたぼくに、琴吹さんは叫ぶ。
「井上はあたしと同情で付き合ったんだよ! 夕歌の事で傷ついたあたしが可哀相なだけだった!
本当は井上は、ずっとずっと、遠子先輩のことが――」
「ななせっ」
耐え切れなくなって思わずぼくは叫び、ななせの口唇にぼくの口唇を重ね合わせた。
僕にとって生涯初めてのキスは、柔らかいいちごの味がした。
数秒ほどだっただろうか。
口唇を離すと、ななせの顔を見た。彼女の頬は林檎の様に朱色に染まっている。
「最初は……」
ぼくは少し言い澱む。でも、本当の気持ちを、ぼくのななせに対する本当の気持ちを、伝えなきゃ。
「最初は、ぼくはななせに、嫌われてると思ってた。いつもむすっとしててぼくを睨んでたし。
昔のぼくを知ってると聞いた時は、正直驚いたけどね。
それから、水戸さんの事や、美羽の事で、ぼくはななせに惹かれていった。
そしてこの間ぼくに『書かなくていい』って言ってくれた時、ぼくはすごく救われたんだ。
でも、いつまでもななせに頼っているわけにはいかない。自分に勝たなきゃ。
そう思って、この小説を書いたんだ。
だってななせは――ぼくが守らなきゃいけないんだから。
だから、今はっきりと言わせて下さい。
井上心葉は、琴吹ななせのことを、愛しています。ずっと……これからもずっと……死ぬまで……」
いつの間にか、ななせの涙が大粒のものに変わっていた。
「ななせ……」
ぼくは呟く。
「バカ……バカバカバカ!」
ななせは涙声で叫んだ。
「井上って本当にバカだよ……流されやすくて、好きな人のことをずっと引きずって。
あたし本当になんでこんな人好きになっちゃったんだろうって本気で思った。
何度も、何度も。けどね……それでもあたしも、井上が……」
ななせは微笑みを浮かべる。
「井上の事が、大好きだから」
ぼくたちは、体を重ね合わせた。
「勢いでここまで来ちゃったんだけど……」
そう言いながらななせは、頬を赤く染めてうつむく。
再び沈黙が流れる。
このままじゃいけない!
そう思ったぼくは、無理矢理話題を作る。
「あのさ、ななせ」
「な、何?」
「……ラブホテル入ったことある?」
「なっ、なぁっ! あ、有るわけないでしょっ!」
顔を真っ赤にしてななせは怒る。
そんな一つ一つの仕草も、今のぼくにはとても可愛らしく見えた。
「あのさ……」
ななせが僕に呟く。
「優しく……してね」
そう言いながら服を脱いで行く。
もつれあうかの様に、ぼくは華奢なななせの体に覆いかぶさった。
そしてそのままぼくは、ななせの秘裂をまさぐる。
「痛っ」
口唇を噛むななせ。
「ご、ごめん、大丈夫?」
「う、うん、平気だよ……くうっ」
ななせは痛みに堪えるため、目を背ける。
「ごめんね、下手くそで」
手を止めて、ぼくは謝った。
「ううん、そんな事無いよ。あ、自信が無いなら……」
と、言いかけてななせは言い澱む。
「無いなら?」
「あ、その……おっぱいの方が……いいかも」
恥ずかしげにななせは言った。
「あ、そうなんだ。よく知ってるね」
「ち、違うのっ! ただ雑誌によく書いてあるだけで……ひゃっ」
言い終わる前にななせの乳首を舐める。
「あっ……ふん……なぁっ」
ぴょこんと飛び出した乳首を舌で転がすと、ななせはかわいらしい声を上げた。
さらにぼくは唾液にまみれた本体を揉む。
「ななせのおっぱい……大きくて綺麗だね」
「そ、そんな事はっきり言わないでよバカっ……あぁん」
ななせは耳まで真っ赤になっている。
実際、ななせの乳は、柔らかいのもあるけど、弾むような手応えがした。
「あのさ、井上……今度は井上が気持ち良くなる番だよ」
ななせはしゃがみ込み、ぼくのペニスをぺろぺろと舐める。
ちゅぷっ、ちゅぷっと淫らな音が奏でられている。
「むぅっ、あむぅっ、ひ、ひもひいい?」
「うん、気持ちいいよ」
ぼくは答えた。
実際、無茶苦茶気持ちいい。必死でこらえてるけど、出てしまうかもしれない。
「ななせ……ぼくもう……」
するとななせは舌の動きを止めた。
「じゃあ、あ、あたしのヴァージンを、貰ってください……」
そう呟いて。
「いくよ」
ぼくは告げる。
「うん……」
ななせはそれに答えて頷く。
互いの距離はほんの数センチ。
ぼくはななせの脚を肩にかつぎ、その間にビンビンになった肉棒を突き立てる。
ところが、どうやらななせの中はまだ潤ってなかったみたいだった。
でもその状態でぼくは一気に腰を突き進める。
「ぐうぅっ」
ななせの身体を業火が貫き、ななせは呻き声をあげ背骨をしならせる。
「ごめん、大丈夫?」
ぼくは抜こうとする。
「ぬ、抜かないで! 続けて! あたしは大丈夫だから……うぐっ!」
しかしななせは涙ながらにそう懇願した。
ぼくは彼女の願いを聞くかのように、根元まで埋没させ、腰を動かす。
「あぐぅっ、はあぁっ、ひゃん、あ、あたし、井上と繋がってるのぉっ!」
ななせは歯を食いしばって、必死に破瓜の痛みに耐えている。
ぼくはそんなななせが心から愛しく思えた。
「ぐぅっ、はぁっ、ああん」
やがて、二人にも限界がやってきた。
「な、ななせ、もうダメ、ぼく、出そう」
「いいよ! 出して! あたしの中に出してぇっ! 井上を愛してるからぁっ!」
その言葉は、ぼくの中の何かを弾けさせた。そして、
「い、行くよ……出るっ!ああっ出るっ!」
「ああああああん!いくうううう!」
ぼくはななせの中に熱いたぎりを弾けさせた。
「学校……サボっちゃったね……」
ラブホテルから出た直後、ぼくたちは公園のベンチに腰掛けていた。
「あのさ、ななせ」
僕は唐突に切り出す。
ちゃんと言わなければいけない。
「……何?」
「終業式の日、遠子先輩に、小説を渡してくるよ」
「……」
ななせは黙ってしまうが、少し怒った表情を見せる。
「あ、勘違いしないで。ぼくはななせが好きだから」
「わかってる」
唇を尖らせて、ぼくを睨みながら言う。
「えっと、じゃあなんで怒ってるの」
「前にも言ったよね、あたし嫉妬深いって」
「うっ」
芥川くんの家での出来事がフラッシュバックする。
僕は殴られることを覚悟した。
「でも……」
ななせは続ける。
「ずっと一緒にいてくれるなら、水に流してあげるから」
頬を朱色に染めながら、ぼくに告げる。
ぼくは何故かどうしようもなくなってしまって、
「好きだっ!ななせ」
と叫びながらななせを抱きしめた。
「い、井上、そんな、人前で……」
とななせは言う。
もちろんこの時間だから、その場には誰も居ない。
ただ春の暖かい風が、そっとぼくたちを祝福してくれていたのかもしれない。