永遠とも、一瞬とも思える時間が過ぎる――。  
 琴吹さんはそっと唇を離すと、親指で右頬を伝うぼくの涙を拭った。それから、左も。  
「井上の泣き顔、なんか可愛い」  
「……琴吹さんの泣き顔の方が、可愛いよ」  
 そう返したぼくは、琴吹さんの涙に軽くくちづけた。  
「でも、もう泣かせたりしないから。ぼくが、守るから」  
「えー、井上、ちょっと頼りないし、無理」  
 あ、ひどい。  
「で、でも、頑張るからっ!」  
「うん、ありがと」  
 そう言って琴吹さんは、ぼくの背中にそっと手を廻して、顔を胸に預けてくる。  
「でも……う、嬉し涙は、流させてよね」  
 ぼくは、彼女の頭をそっと抱きしめた。  
「うん」  
「……やだ、井上の胸、すごくドキドキしてる……。ねえ、あたしもすごくドキドキしてるの……わかる?」  
 ぼくはそっと、琴吹さんの胸の谷間に、手のひらを押し当てる。  
「うん、わかるよ……琴吹さんも、すごくドキドキしてる」  
 そのまま、形の良い大きな胸を、手のひらですくい上げるように愛撫する。  
「それに大きくて、やわらかい……」  
「や、んぅ……」  
「気持ちいい?」  
「バカ……そんなこと……き、聞かないでよ……。もう、井上がこんなにえろいなんて、思わなかった……。  
ねえ、あたしの写真で、どんな想像をしたの?この分だと、あたし、なんか相当すごいことされてそう……」  
「うん、ごめん。頭の中で、いっぱいいっぱい、すごくやらしいこと、しちゃった」  
「やだ、もう……。は、恥ずかしいから、あたしの写真でそういうことするの、禁止っ!」  
 それから、こう、続けた。  
「そ、そういうことは……あ、あたしに直接すれば、いいじゃない……!」  
 
 ……ごくっ。  
 ぼくの喉が、はしたない音を出してしまう。  
「い、いいの?こ、琴吹さんが想像してるよりも、もっとず――――っとえっちなこと……しちゃうよ?」  
「うん、いいよ……あたしに、いっぱいいっぱい、すごくやらしいこと、して……。  
そ、それに、女の子だって……井上が思っているより、ずっと、ずっと、その………………えっちなんだから」  
 ああ、もうっ!そんなこと言われたら、歯止めが利かなくなっちゃうよ……!  
 ぼくは、琴吹さんの頭をかき抱くと、再び唇を奪った。今度は、さっきより激しく、貪るように……。  
 琴吹さんも、さらに強く抱きついてくる。彼女の大きな胸が、ぼくに押し付けられる。  
 お互いを啜り合うはしたない音が、唇からこぼれる。  
 夢中で伸ばしたぼくの舌を、琴吹さんも受け入れる。  
 初めは、おずおずと、先端をつつき合わせて。  
 でも、すぐに舌を絡め、唾液を潤滑剤に、ざらざらとした粘膜同士をこすり合わせる。  
 本来は味覚のための場所が、淫らな器官となって快楽を提供する。  
 ……すごい。舌って、こんなに感じるんだ……。それに、口の中って、とっても……熱い。  
 口の奥を通して、背筋から腰にかけて、甘い疼痛が連続して走る。  
 琴吹さんの舌が、誘うようにくねる。  
 ぼくもそれに応える。  
 唾液はさらに粘性を増し、部屋にねっとりとした水音を響かせる。  
 琴吹さんが、口にたまった唾液を流し込んできた。  
 ぼくは必死で吸い、喉を鳴らして飲み込む。  
 それに合わせて、きゅぅっと、ぼくにしがみつく琴吹さんの腕に力が入る。  
 飲干せなかった分が口の端からあふれ出し、とろーっと垂れていくのがわかる。  
 顔にかかる琴吹さんの鼻息がくすぐったくて、ゾクゾクする。  
 ぼくはすでに、痛いくらいに勃起していた。  
 
「はぁ―――、はぁ―――…………」  
 息苦しさに耐えられなくなってやっと、ぼくたちは口唇愛撫を中断する。  
 充分過ぎるほど攪拌され、あんかけのようになった唾液が、離れた唇同士をしばらく繋ぎ、そして切れる。  
 とろんと潤みきった、琴吹さんの目。  
 半開きの口も、その周りも、ぬらぬらと濡れ光っている。  
 可愛いなぁ、と思っていたら  
「やだ、井上の顔、とろけちゃってる」  
 と言われた。おそらく、ぼくも同じような顔をしているのだろう。顔に力が入らない。  
「うん。琴吹さんにとろけさせられちゃった」  
「あたしも……。お願い、もっと、とろとろにして」  
「そんなお願いされたら、ぼく、もう止められないからね……おねだり琴吹さん」  
「ばか…………んぅっ」  
 琴吹さんの首筋にキス。  
 最初は軽く。はむっ、はむっ……と、小鳥がついばむように。  
 それから唇を強く押し付け、這わす。  
「んぁ……くすぐったい……」   
 唇とともに舌を駆使し、あごのラインをなぞり、うなじ、そして髪の生え際を愛撫する。  
 耳の後ろをこじるように舐め、耳たぶを優しく甘噛む。   
「うっ……あっ……か、体に唾のにおいが、ついちゃう……ふぁ……」  
「……嫌?」  
「い、嫌じゃ、ないよ……もっと体中に井上のにおいをつけて……あたしを、井上のにおいのする女にして」  
 ぼくはうなずくと、セーターの裾に手を掛けて持ち上げる。琴吹さんにバンザイをさせて、そのまま裏返しに腕を抜く。  
 その下は、淡いクリーム色のブラウス。震える指をボタンに伸ばして、胸元から一つ、一つと外していく。  
 四つほど外した時点で、露わになった胸の谷間に、キスマークを付けていく。  
「これで、ここももう、ぼくのものだよ」  
 キス。キス。キス。リフレイン。  
「ゃ、ぁ……じ、じらさないで……」  
「いや、そんなつもりじゃ、ないんだけど」  
 でも……。  
「じゃあ、琴吹さんはどうして欲しいの?ねえ、どこをお口でして欲しいの?」  
 琴吹さんの困った顔が可愛すぎて、ぼくは意地悪く尋ねてしまう。  
「ばっ、バカバカっ!し、知らないっ」  
 
「言わないなら、ぼくの好きなようにキスしていくからね」  
 ブラウスのボタンを一番下まで外すと、はだけることなく、おへその周囲を舐める。  
 おへその中には舌を入れずに、そのまま横方向に、ナメクジのように舌を這わせていく。  
「ひゃ、あ……んふ……や、だ……」  
「嫌?嫌なの?」  
「い、嫌じゃないけど、その……」  
「なあに?なんでもおねだりしてよ」  
 舌を這わせた跡を、人差し指の先でつつっと撫でる。  
「ふぁ……だ、だから、そこじゃなくって……」  
「ここじゃなくて?」  
「そ、その…………む、胸にも、してよ……」  
「ここ?ここなら、さっきキスしてあげたじゃない」  
 指を、胸の谷間に持っていき、肌に付着したぼくの唾液を、塗りこめるように延ばす。  
「やぁ……そうじゃなくって……わ、わかるでしょ……」  
「はっきり言ってくれないと、わからないよ」  
「だ、だから……その…………お……」  
「お?」  
「お…………おっぱいも、いじって……」  
 うわぁ。なんだか妙な達成感。  
 琴吹さんは目を吊り上げてぼくをにらんでるけど、その顔も可愛すぎる。  
「うぅー……い、井上って、思ってたより、ずっと変態……」  
「琴吹さんだって、こんなおねだりしちゃって、思ってたより、ずっとえっちだね」  
「バカ……い、井上相手じゃなきゃ、え、えっちになんか、ならないんだからっ!」  
「ぼくだって」  
 ゆっくりとブラウスの前を開きながら答える。  
「琴吹さん相手じゃなきゃ、こんな意地悪にはならないよ」  
 フリルと刺繍の付いた、ミントグリーンのブラが現れる。  
「おしゃれな下着だね。似合ってる」  
「あ、ありがと……」  
「でも、脱いで。琴吹さんのおっぱい、ぼくに見せて」  
「ん……」  
 琴吹さんはちょっとうつむくと、腕を背中に廻し、ブラのホックを外す。  
 左腕でカップを押さえ、右手の指をストラップに掛け、肩から下ろす。  
 そして、琴吹さんの大きくて形の良い、やわらかそうなバストが、ついに露わになった。  
 
 こ、これが琴吹さんのおっぱい……!  
 大きいのに型崩れしてなくて、つきたてのお餅みたいで、とてもやわらかそう。  
 それに、綺麗な桜色の乳首が痛そうなくらい強く勃ちあがっていて、ぼくの劣情をさらに煽る。  
 初めて見る、好きな女の子のおっぱいに圧倒されて、ぼくは鼻息も荒く見入ってしまった。  
「や、やだ……恥ずかしいから、あんまり見つめないで」  
「へぇ、そ、そうなんだ……恥ずかしいんだ。じゃあ琴吹さんは、恥ずかしいとこんなに乳首が勃っちゃうんだね。やっぱり変態さんだ」  
「ち、違っ!ば、バカ!もうっ……い、井上のほうが、変態じゃないっ!」  
「そうだよ。ぼくは琴吹さんの前だと、バカで変態になっちゃうんだ」  
 そう言って、ぼくは琴吹さんの、その可愛く自己主張する突起にむしゃぶりついた。  
「ひゃうっ!」  
 そこは、首の周りとはまた違った、甘い味がした。  
 べちょべちょと音を立てながら味わい、吸い、両の唇で挟み、しごきたてる。  
 突起の周囲のぶつぶつを、筆を刷くように舐める。  
 舌先を突くように押し付け、弾く。  
 その間、手で胸を下から持ち上げ、指を立てて優しく掻く。  
 反対の手も、もう一つの乳房に押し当て、触るように、なぞるように愛撫する。人差し指で、乳首をはじくように刺激する。  
「あっ、うっ、うはぁっ……はうんっ……!」  
 強く吸いながら口で乳房を引っ張ると、ちゅぽんと言う音とともに外れ、大きく揺れる。  
「あっ、あっ、やっ……ふああっ!」  
 あえぎながら身をよじる琴吹さんを押さえつけ、今度は乳房全体に舌を這わせる。  
 乳首から脇にかけて、脇から鎖骨の下にかけて丹念に。  
 谷間を、顔を挟まれながら通り、そして、胸を押し上げるようにして、下乳とお腹で作られた隙間を舐める。  
 そこは、汗を掻きやすいのか、ちょっぴり塩の味がした。  
「ひゃああっ、あうっ……」  
「あ、もしかして、ここ、気持ちいい?」  
「しっ、知らないっ!んんっ……!」  
 そっか、やっぱりここ、気持ちいいんだね……。  
 ぼくはそこを、執拗なまでに味わうことにする。  
 舌の腹で擦り、舌の先で刷き、唇を這わせ、音を立てて吸い付く。  
「や……そ、そこばっかり……ん……だめぇ……」  
 たぷりと味わった後、反対側にも、同じようにぼくのにおいを付けていく。  
 唾液で妖しくぬらついた胸は、なまめかしさを増し、さらにぼくを興奮させる。  
 その唾液を染み込ませるように、両手で揉みしだく。  
「ん、ああっ……お願い、井上、そのままキスして」  
 その声に応え、胸への愛撫を続けながら、再び唇を重ねる。  
 今度は、そっと触れ、擦り合わせる、優しいキスをした。  
 唇を離すと、ぼくは体を沈めて、おなかにキスをしながら、琴吹さんの足に手を伸ばし、太ももを愛撫する。  
 そして、次第に手を下げていき、グレーのハイソックスに指を掛ける。  
 すると琴吹さんは  
「あ、ちょ、ちょっと待って!」  
 と言って立ち上がると、ベッドにちょこんと腰掛ける。  
 それから、しばらく思いつめた表情をしていたけど、決心したような顔をして、ぼくの鼻先に右足を差し出した。  
 そして、こう、言った。  
「きっ、キスしてっ…………ここここ、コノハっ!」  
 
 ええっ!?  
 これって、いつかの病院で美羽がやったことの再現!?  
 でも、「コノハは、あたしの犬だもの」と言った美羽のような、抗い難い雰囲気は、全く出せていない。ソックス履いたまんまだし。  
 むしろ、オドオドとこちらの反応をうかがう琴吹さんの方が、よっぽど犬っぽい。  
 ぼくは思わず、「ぷーっ!」と噴出してしまった。  
 そして気付く。ああ、ぼくは本当に美羽のこと、吹っ切れているんだな……。  
「な、何がおかしいのよっ!ひ、人が必死で、こんな……っ!」  
「あはは、ごめん。でも、琴吹さんに、美羽の真似は似合わないよ」  
 それに、と少し真顔になってぼくは続ける。  
「ぼくは、琴吹さんが琴吹さんだから好きなんだよ。だから、美羽の真似なんて、しないで。琴吹さんでいて」  
「井上……。で、でも、あたし、朝倉さんに負けたくないっ!井上が朝倉さんにしたこと、全部、あたしにもしてよっ!」  
「ぼくが美羽にしたこと以上のことを、もう琴吹さんにはしちゃったよ」  
「う、嘘。だ、だって、井上、こんなに、その……こういうこと、手慣れてるみたいだし。  
やっぱり、あ、朝倉さんとも…………し、したんでしょ。本当のこと、教えてっ!」  
 琴吹さん、そんな風に思っていたんだ。  
 でも、それは誤解だよ。  
「してないよ。美羽とは、キスより先に進まなかった。ぼくが手慣れてるように見えるのは」  
 指を立て、爪で太ももを上下になぞる。  
「ひゃぅっ……」  
「頭の中で、いつもいつも、こうやって琴吹さんをいじめてたからだよ。頭の中で、何度も何度もイメージトレーニングして」  
 お尻のすぐ下を、指先でくすぐる。  
「ふあっ!」  
「それを、今、実践してるんだ。でも、ぼくが想い描いていた以上に、琴吹さんはとっても感じやすい、えっちな体だったんだね」  
「そそそそんなに感じてなんか、ないっ!え、えっちな体って言うなっ!!」  
「ふぅーん。これだけ甘い声を出しておいて、そんなこと言うんだ。じゃあ、琴吹さんは、演技してるの?」  
「そ、それは……そ、そうよっ、演技よっ!」  
「そっか……演技して、足舐めさせようとして……琴吹さんは悪い子だね」  
 ぼくは、ちょっと拗ねたような顔をして琴吹さんの瞳を見つめる。  
「琴吹さんも、美羽みたいに、ぼくを犬にしたいの……?」  
 すると琴吹さんは、びくっと体を震わせ、おびえたようにこちらを見る。  
「あ……ご、ごめんなさい……。その、あ、あたし、そ、そんなつもりじゃ……」  
「ぼくは、琴吹さんの犬じゃなくて、琴吹さんの、その……こ、恋人が、いいんだけどな」  
「井上……あの、ほ、本当に、ごめんなさいっ!あ、あたし、ちょっと考え無しだった……。こんなことするべきじゃなかった。  
犬になんかしたいわけじゃないよ。あ、あたしも、い、井上の、恋人がいいっ!」  
「ありがとう。琴吹さん、好きだよ……とっても好き」  
「あ、あたしもっ!あたしも、井上のこと、好き、大好きっ!超大好きなのっ!」  
 ぼくは、琴吹さんの両手をつかみ、指を絡めると、もう一度キスをした。  
 そして、ベッドに優しく押し倒す。  
「でも」  
 ぼくは琴吹さんに覆いかぶさり、太ももをやわやわと触りながら、続けた。  
「そうは言っても、ぼくはもう、琴吹さん専属のバター犬になっちゃってるけどね」  
 
「ば、バター犬……?」  
 それ何?という表情できょとんとする琴吹さん。  
 ……あれ、知らないんだ。  
 そっかー。  
 ぼくは、くふっと笑みを浮かべると、琴吹さんの唇を舐めた。  
「バター犬っていうのはね、琴吹さん」  
「ん……」  
「この舌でね、琴吹さんの……」  
 太ももをを愛撫していた手を、少しずつ付け根の方にずらしていく。  
 そして、探り当てたソコに中指を押し当て、下着越しに撫ぜる。  
「ここを、舐めるんだよ」  
「んぅっ!や、う、嘘っ……だ、だめだめだめっ!そんなとこ、き、汚いよっ!」  
「琴吹さんの体で汚いところなんか、どこにもないよ」  
 布地を突付くと、ふにゅっという、すあまのような触感とともに、指先が沈む。  
 琴吹さんの体はどこも柔らかくて触り心地抜群だけど、ここは別格だ。  
 しかも、ひくっひくっという震えが伝わってくる。  
 こ、これが、琴吹さんの、女の子の部分……。なんていやらしく動くんだろう……!  
 それに……。  
「すごいよ、琴吹さん……ショーツがこんなに湿ってる……。まるでお漏らししたみたい。指に吸い付いてくるし。  
ここは、舐めて欲しいっておねだりしているみたいだね。あえいでるのは演技のはずなのに、おかしいね」  
「うぅ、バカ、バカ、井上の、意地悪っ……」  
「ねえ……琴吹さんの、びしょ濡れのやらしいおまんこ、舐めさせてね」  
 わざと卑猥な言葉を使う。  
「やぁ、だめぇ……」  
 琴吹さんの弱々しい静止には耳を貸さず、ぼくはおもむろに、スカートの中に顔を潜らせる。  
 そこはすでに、むせかえるほどの女の子独特の匂いで満たされていた。  
 ぼくは、鼻をねじ込むように中心に押しつける。  
「やっ……あっ、だっ、だめぇ……あんっ!」  
 クロッチは、二重の布を通り越して染み出した琴吹さんの愛しい体液で濡れそぼっていた。  
 むにゅっ……と鼻先がめり込み、湿ってひんやりとした下着越しに、柔肉が優しく包んでくる。  
 ぼくは顔を押し付け、ぐりぐりと責めながら、鼻全体を震わせるように息を吸い、琴吹さんのにおいを嗅ぐ。  
「ああ……これが琴吹さんのにおい……いいにおい……」  
「や、やめ、あんっ!やめてっ……ひぁっ!に、におい嗅いじゃ、あっあああっ!やっ……ふあぁっ!……やだぁっ!」  
 残念ながら琴吹さん、やめてと言われて止まる段階は、もうとっくに越えてるんだよ。  
 ぼくは、自分の肺腑の全てを琴吹さんのかぐわしいにおいで満たそうと、なんどもなんども深呼吸を繰り返す。  
「す――――っ、はぁ――――、す――――っ、はぁ――――、す――――す―――ぷはぁっ、はぁっ、はぁっ、んす――――……」  
 そのたびに琴吹さんのあえぎ声は逼迫したようにオクターブを上げ、それがさらにぼくを駆り立てる。  
「うあっ、い、いのう、えぇっ!だめぇっ!はっ鼻で、うあっ、こっ、こすらないでぇっ!うひぃっ……!においっ、いやぁっ……!!」  
 腰を引いて逃げようとする琴吹さん。  
 でもぼくは、腰骨の下辺りを両手でしっかりと押さえつけ、逃がさない。  
「ひっひあぁっ!!だ、だめぇっ!ほ、本当に、もうっ、だめなのぉっ!あ、あ、だめぇ、だめぇっ!うあ、あああああっっ!!」  
 ぼくはそこで顔を離した。  
 下着と顔との間に、納豆のような幾筋もの細糸がきらめく。  
「ああああっ……あ?え?……い、井上、な、なんでっ!?も、もう少しで……」  
 もう少しで?  
 その先を言わせたい気もするけど、ぼくも興奮のあまり、そんな余裕はなかった。  
 さあ、においは嗅いだ……。次は、味だ……。  
 

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