「キスして。コノハ」
床に膝をついたまま驚いて見上げると、美羽はすっかり笑みを消し、凄艶な目でぼくを見おろしていた。
「できるでしょう?」
冷たく、甘い声。
その声と、ぼくを見つめる視線の熱さに心が蕩けて、縛りつけられ、ぼくは美羽の望むまま、小さな足に顔を近づけていった。
美羽の言葉は、絶対なのだから――。
震える唇が、白い足に触れようとする。
こんなことしちゃいけない、とは思いながら、実のところあまり抵抗は無かった。
ふわりと、石鹸の香りがする。
触れる。
唇が、美羽の足の甲に触れた。こんな場所だけど、美羽の肌には違いなくて、美羽の白い肌に確かに口付けているわけで。
意識した途端、頬どころか耳まで熱くなる。きっと、真っ赤だ。
「舐めて……」
その声が耳から流れ込んで、頭の中を満たしていく。ついっ、と足先を持ち上げて突きつけられ、珠の並んだみたいな足指が目の前に来る。
流石に少しためらい、だけどスローにはなっても止まりはせず、再び唇を寄せる。石鹸に混じって、微かに人の肌と汗のにおいがするけど、不快には思わなかった。
「ふふ……」
かぷ、と口に美羽の爪先を受け入れた。
ゆっくり舌を動かす。足の指の間を下から上に通り抜けた。
「んっ……」
くすぐったそうな声に目線を上げたら、美羽も頬を朱に染めている。
「もっとこっちに来て」
言われるままに、冷たい病院の床を這い、美羽の足元にひざまづく。促されて、また足指を吸う。ぬるん、ぬるんと舌を這わせる。また美羽が足を上げていくのに従い、爪先から足裏に口付ける場所を移していく。
頭をアルコールで満たされたみたいに、まともにものが考えられない。柔らかく滑らかな美羽の足の裏が舌に甘く、痺れていく。
「じっとしてるのよ、コノハ
言われるまでも無く、とっくに躰は動かない。
美羽のもう一方の足が動いて、ぼくの臍の下の方を突付いた。
「はぅっ……」
ぞくっ、と変な感触が背筋を走った。同時に気がつく。ズボンの中が、痛いぐらい張り詰めている。
「嬉しいのね、コノハ。あたしの足を舐められて」
布地越しに、美羽の足がぼくのものを撫で回す。いや、痛いほど強くはないけど、むしろ踏んでいる。嬉しいかなんて自分でもわからないけど、足の裏に押し付けた唇からは涎が零れていた。
「コノハ、ベルト緩めてズボン下ろして」
「そんな……」
いくらなんでも、と思うが早いか、ぐっと踏み込まれて痛みに呻く。
「ふふふ……コノハ、この中、見たいでしょ?」
ワンピースのナイトウェアを腿の上まで捲って、美羽が尋ねてくる。
いや、尋ねていない。教え込むような、逆らえない響きで断言していた。
「いいわよ。犬にはご褒美もあげないとね」
変わらず片方の足はぼくに舐めさせ、もう片方の足でぼくの脚の間を押さえたまま、美羽は白い布地を引き上げた。
見るちゃいけない、そう思っているのに、目を逸らそうとも閉じようともせず、ナイトウェアに劣らず白い太腿が露わになっていくのを追っている。その奥に、やがて淡いピンク色が覗く。
こくん、と喉が鳴っているのを聞く。
「ほら……コノハも、見せてくれるでしょう?」
やっぱり、尋ねてはいなかった。
「……うん……」
ぼくの顔を踏みつける格好の美羽の足を舐め続けながら、マリオネットの糸を繰られるみたいに、両手が動く。
震える指先がベルトを緩めようとしたそのとき、部屋のドアが大きく開いているのに気付いた。
すぐ隣に、腕をリングで固定した杖をぎゅっと握りしめた、パジャマでニットの琴吹さんが、真っ赤な顔で立っていた。
「さよならっっっ!」