「心葉くーん、まだ〜?」
「はいはい、今すぐ保守します」
最近ようやくインターネットで検索することを覚えた遠子先輩は、真っ先に小説を探し
た。
そして辿り付いたのが、大型掲示板サイトのエロパロ及び文章創作板だった。
「稚拙で、まるで中学生が書いたような文章もあるけど、だからこそ職人の神SSに巡り
合えたときの嬉しさはひとしおね。もういくらGJしても足りないわ!」
だからって、お気に入りのスレの保守用SSをぼくに書かせることはない。第一、ここ
は十八禁だから、ぼくが回覧するのは違反じゃないのかな。
まず原作のライトノベル既刊四冊を読まされ、それから出版社公式サイトの月一小説ま
で目を通させられた。もうすぐ新刊が出るから、きっとそれも読まないといけないのだろ
う。
「とびっきりエッチなのを書いてね。もはや文学である必要はないわ。抜ければいいのよ、
抜ければ。エロパロの価値は、萌えられるか抜けるかの二つに一つよ。感動や笑いなんて
オマケに過ぎないわ」
遠子先輩は、プリントアウトした小説をちぎり、かさりと音を立てて口に運ぶ。むしゃ
むしゃと咀嚼したあと、こくりと飲む込む。
「ああ〜、こんなところにも美味しいお話が転がってるなんて、私はなんて損なことをし
ていたのかしら。決めたわ、心葉くん! 機械にもっと強くなるの。そうしたら、近くの
本屋さんに売っていないような本だってお取り寄せできるじゃない?」
「じゃあ、もうぼくはお役御免ですね」
「だめよ、やっぱり一番美味しいのは肉筆のお話だわ。卒業するまで、私のおやつを書き
続けてもらいます!」
ぼくは溜め息を吐きながら、どこかほっとしていた。
パソコンに遠子先輩を奪われるなんて、哀し過ぎるじゃないか。