「やだあ、井上って超下手……」  
 僕のすぐそばで、琴吹さんが失望の色と共にそう呟く。  
「そ、そんなこと言われてもなあ」  
 弁明の言葉を口にしようとするが、ブーブーと不満コールが置き続ける。  
 琴吹さんの身体は左右に揺れて続けている。ソレに合わせる様に右に、左に。  
 普通こういう人は下手糞なはずなのに。ひょいひょいとポイントを抑えて攻撃していく。  
「うわっ!?」  
「ホント、井上弱い」  
 また攻撃を食らう。僕のほうは後一回でもうダメなところまで来てしまった。  
 弱い弱いといって非難しているくせに、こっちを向くときの顔はにんまり顔だ。  
 ……どうにか、反撃してやる。  
「これで、最後!」  
 例によって身体を右に左に揺らしながら、琴吹さんが攻撃してくる。  
「させないよっ」  
 それをどうにかくねらせて回避。  
「へっ?」  
 今まで完璧に攻めていた琴吹さんは、僕の回避に瞬間身を固める。  
 ……それが、致命的な隙だった。  
「いくよ!」  
 決死の反撃である僕の分身が、琴吹さん目掛けて突き進み、そして……その中心に吸い込まれた。  
「いやあああ!」  
 
 
 
 琴吹さんのカートについていた風船が1つ、割れた。  
「でももう井上の方は1個なんだから、すぐ割っちゃうよ」  
「そ、そんな怖い目でこっち見なくたって……」  
 
 そんな、二人のマリオカート。  
 終われ。  
 

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