気まずい時間が過ぎ、何もないまま辺りは黄昏色に染まっている。  
誰もいない教室の中で、僕は懲りなく昨夜の事を反芻していた。  
 
――どう考えてもあれは僕が悪かった、と思う。  
 彼女に会いたかった、触りたかったのは事実。それに対しては何の疾しさもない。  
けれどあの行為は、彼女を無視し自分勝手に貪っただけだ。  
 克明に覚えている彼女の泣き顔。それに嗜虐を煽られたが、本当に欲しかったのは違う。  
求めたのは蕩けるような囁き、甘やかな笑顔だったのに。  
 去り際の彼の眼差しが、彼女の全力の拒絶のような気がして、僕を竦ませる。  
 
 謝らなくてはいけない。許してくれるかどうかは判らないが。  
でも許してくれなかったら――いや、許してくれても、これからどうすればいいんだろう。  
未だ忍ばせてある右ポケットのブツが、僕の欲望を如実に語っている。  
 彼女に触れたら、また昨夜のようになる可能性は多分にある。  
あの熱くて震える身体が、自分でも知らなかった欲望の片鱗を暴いた。  
 
 どうかしている。もう、重症すぎて末期なのかもしれない。  
席を立ち窓の外の東校舎を見上げれば、夕陽を受けて窓ガラスが鏡のようにきらめいている。  
無意識にここからでは見える筈のない姿を探している自分に気付き、小さく苦笑した。  
 今日もきっと変てこな黒マントを羽織り、彼はそこに佇んでいるだろう。  
まずは彼に会って、謝りがてら状況を聞こう。それから彼女の事を決めても、遅くはない筈。  
 僕は重い身体を引きずり、誰もいない筈の屋上へと歩いていった。  
   
 
 
 非常階段を踏む音に、自分でびくびくする。  
いて欲しいような、いて欲しくないような――もんもんとしながら登りつめた先には、予想通り、  
もしくは外れて――目当てのひとが、いた。  
 肩から羽織った黄色いカーディガン、浮かぶ表情は少し高揚し口元が拗ねている。  
 
紛う方なき、彼女だった。  
 
「あ……」  
「……先輩、遅い」  
 あ、駄目だ。考えてた事、全部吹っ飛んだ。  
かちんと固まる僕に向かって、彼女が歩いてくる。ちょっと待ってまだ心の準備ってものが、  
いや謝ればいいだけなんだけど、でもえっとこんな時に限って昨日の乱れに乱れた彼女の姿が  
鮮明に思い出しちゃったりしてあああぁ――っ!  
 
「えっと、先輩」  
「う、うん」  
「……何で、アンナコト、したんですか」  
「………………」  
「昨日、大変だったんですよ。……その、いろいろ」  
「……いろいろ?」  
「っ、いろいろはイロイロです! あ、アトとか、ばっちりついちゃって制服もぐちゃぐちゃでっ」  
 
 みるみる赤くなる彼女の顔を見て、自分の失言に気付く。  
捲し立てる彼女はついに咳き込んだ。大丈夫かな?  
 背中に腕をまわし撫でると、きっ、ときつく睨まれた。  
 
「その……ごめん。何だかわーってなって、暴走した」  
「なに、それ」  
「あんまりに、……可愛いから、つい」  
「………………」  
「もうあんな無理強いはしません。約束します」  
 
 頭を勢いよく下げると、彼女の握り締めた拳が目に映る。  
と思った瞬間、ゴスっと脳天にチョップが入った。  
 
「……ばか」  
「はい。……反省してます」  
 顔を上げれば怒ったような困ったような、複雑な表情の彼女がこちらを見てる。  
おもむろに伸ばされる腕が僕の腕を掴み、強引に給水棟の陰へと連れて行く。  
段差に無理やり僕を座らせて、それから自分も隣にどかっと腰掛けた。  
 肩に、彼女の頭が寄りかかる。彼女は前を向いたまま、盛大に溜息を吐いた。  
 
「私は、先輩のコト、もっと知りたいです。もっと話したいし、……それに、その。  
 だから――とにかくもっと一緒にいたいです」  
「うん」  
「でも、先輩いっつも私の話聞いてるだけで、大切なことは何にも話してくれない」  
「そんな事は」  
「そうなんです! バイトとか進路とか、確かに私には関係ないことだし、言ったところ  
 
 で何が変わるってワケでもないんですけど! でもっ」  
「いや、だって――」  
「――私は、ただ横で笑っていればいいだけ、ですか?」  
 
 そんな事はない、と言葉にしようとして何故か詰まる。  
彼女はまるで彼のような静かな表情で、長く伸びる影を見ている。  
 
「……正直言って、少し不安なんです」  
「……どうして、そんな事言うの」  
「だって、……告白したの、私からで。会おうとするのも話そうとするのも大体私の方  
 からだし。そのくせ私、家のこととかいろいろ面倒臭いし。……先輩、何気にモテるし」  
「いや、それはないから」  
「ウソだっ! 先輩、自分で気付いてないだけですよ! うわっ、タチわるっ」  
「………………」  
 
 そんな馬鹿なと否定しようとして、つい最近あった出来事が脳裏を過ぎる。  
昼下がりの保健室で打ち明けられた、告白。あの事は、彼女には言っていない。  
簡単に言いふらしていいものではないと頭で判っていても、それはどこか後ろめたかった。  
 
「私は、先輩の彼女でいても、いいんですか?」  
 彼女がこちらを向き、静かに問うてくる。  
 
「あたりまえだろ」  
 彼女でなくて誰が傍にいて欲しいと思うものか。  
くるくると元気よく変わる表情をいつまでも見ていたいと、伸びやかな身体に我を忘れる程に  
触れたいと、それは藤花以外にはあり得ない。  
 
 でも、だから今、気付いた事がある。  
 
「俺は、藤花が好きだよ」  
「――――っ!!」  
 
 自分で自分の事を、ここまで駄目だとは思わなかった。  
彼女と付き合ってから半年が過ぎたが、今の今まで一度も彼女に「好きだ」と伝えた事が、ない。  
 実際に言葉を告げられた彼女は、目を見開いたまま固まっている。  
やがて言葉の意味を解釈したのか、一気に顔が赤くなった。  
 
 その、改まって言うと、恥ずかしいものがある。  
頭に血が上ってく感覚に、柄でもないと逃げ出したい気持ちになる。  
 自分から目をそらす訳にも行かず、彼女も石になったかのように動かなくて、  
何ともいえない雰囲気が漂う。  
 どうすればいいんだこれ。誰か助けてくれ。この際、彼でもいいから。  
 
「……びっくりです」  
「ああ、その……言ってなかったもんね。でも、本当だよ」  
「はい……。へへへ」  
 彼女が、全開の笑顔で僕の腕に自分の腕を絡めてくる。  
いや、それはいいんだけど、肘が当たってる。  
ふにふにした感触が今の僕には酷ってもので――ああ昨日の残像がちらつく!  
 彼女はそんな事お構いなしに、ぎゅっとしがみ付いては上気させた頬ですりすりしてる。  
ダメ、すりすりしちゃダメぇぇ――っ!  
 
「……先輩?」  
「う、うんっ?」  
「私も、好きです。すっごく」  
「あ、ああ……うん。ありがと」  
「あーでも、ちょっと今更って気がしますね。何でかなー?」  
「う……ごめん」  
「まぁ、いいんですけど。ところで」  
 上目遣いでこちらを見る彼女に、悪戯を思いついたような表情が浮かぶ。  
 
「実は今、ちょっと『わーっ』って、なってたりします?」  
 なってるよ。思いっきりなってるさ! ……とはいえそんな事言える筈もなく。  
口ごもる僕を、更に面白そうに微笑む。  
 
「やーらしーなぁー、先輩ったら」  
「う、うう……」  
「昨日だって、何だか『野獣』! みたいな感じだったし」  
「いや、それは」  
「普段はそんなコト興味ないです〜みたいな、クールでちょっといけ好かない風紀委員  
 
 サマなのに」  
「……風紀委員サマって……」  
「でも」  
 
 ぐいっと腕を引かれるまま身体を傾げると、彼女の唇がちょん、と唇に触れた。  
 
「そんなえっちぃ先輩も、好きです」  
 にっかり笑う彼女を、直視できない。何だかもう、いろんなものが溢れてきそうで。  
 
「ちなみになんですけど」  
「ん……」  
「私はいま、結構『わーっ』って、なってたりします」  
 
 この、とんでもない事を言い出す、可愛くてどうしようもないイキモノを何とかして欲しい。  
ついさっき「反省してる」だの「無理強いはしない」だの言った舌の根の乾かぬうちに、  
 
全部撤回してしまいたくなる。どうして煽るかな!  
 
「先輩?」  
「〜〜〜〜っ。……藤花」  
「はい」  
「今、もしここで『触りたい』って言ったら、無理強いになる?」  
 ああ、言っちゃった。自分でも驚愕の、脆い忍耐だ。  
 
「それは、触り方によります」  
「う……」  
「っていうか」  
 彼女が、更にしなだれかかってくる。  
 
「私が、先輩に触りたいです。……昨日は触られっぱなしだったから」  
 指が、学ランのカラーに伸びてくる。  
「……ダメ、ですか?」  
 ここで断れる男なんて、いる筈ない。意を決して彼女を抱きしめる。  
脇に腕をまわし、せーので持ち上げた。  
 脚を開かせ僕の膝の上に乗せると、空気が体温を伝えてきそうなまでに、近い。  
何もしなくても、ただそれだけで滾る。  
 
「――いいよ。好きにして」  
「……知らないですよ、そんなこと言って」  
「そっちこそ」  
 
 どちらからともなくキスを交わす。  
最初は触れるだけ、二度三度と繰り返すごとに唇を開き舌を差し入れる。  
くちゅりと絡まるざらつきは、温かく、微かにミントの味がした。  
 ゆっくりと味わい口内を探る。  
綺麗に並ぶ歯列をなぞり、口蓋をつつき、そして惑う舌を引き込む。  
混ざり合った唾液が流れ込み、それを飲んだ。  
 
「んっ……なんか、その目は反則です」  
 躊躇いがちに伸ばされる指が、不器用にホックを外しボタンへと降りていく。  
くすぐったさを我慢しながらなすがままにしていると、すっかりボタンは外れ学ランの前は寛いだ。  
 夏の名残を残す温い風が、Yシャツをなぶっていく。  
学ランを腕まで引き下げられ、それが俄かな拘束となって腕が後ろにまわる。  
僕がそのまま動かないのを確認して、彼女はYシャツのボタンを外しに掛かった。  
四つ外したところで、中に着ていたTシャツを握り、彼女が俯く。  
 
「くあぁぁー……。これは、クる、かも」  
「えっとこの格好。結構恥ずかしいんだけど」  
「そんなの見てるこっちが恥ずかしいですよっ! もうっ!」  
 
 顔を真っ赤にして怒鳴る彼女。  
Tシャツの裾をぎりぎりと握り締めては深呼吸をいくつかして。そしてえいっと勢いよく捲り上げた。  
 別に男だから構わないけれど。でも貧相な身体晒して、しかもそれを見た彼女が心配になる程  
赤面してるのは、相当恥ずかしい。うん、確かにこれは、クる。  
 
 捲り上げたまま固まってしまった彼女に向けて、ちゅっとわざと音を立ててキスをする。  
そしたら何故だか睨まれた。  
 
「先輩、存在が有害です」  
「それ、酷すぎ」  
「あーもうー何でしょうねー、無意識に変なのいろいろ振りまかないで下さい。  
 ……こっちは免疫ないんですから」  
「それは……そっちこそ、だろ」  
 
 むっ、と彼女の口が拗ねる。  
捲くったTシャツをぐしぐしと首元に丸め落ちてこないようにし、そして自由になった手で  
僕の頭をがっちり掴む。  
 噛み付くように口付けが落ちる。口内をめちゃくちゃに暴れていった後、唇に残る唾液を舐め取る。  
指が耳から髪へと滑り、濡れた唇がその後を追う。  
 耳を、柔らかく甘噛みされる。ぞわりとよく判らない感覚が駆け上り、息が上がる。  
舌が耳朶をなぞり指が首筋を辿る。いっそじれったいまでの不器用な刺激が、僕を追い立てていく。  
 
「んっ……」  
 唇が舌が、微かに光る唾液の道筋を残し、首筋から胸へと降りてくる。  
鎖骨を見えるように舐め、こちらを見上げては挑発的に笑む。  
そして更に下へとずらし、左胸を強く吸われた。  
 唇が離れれば、刻まれている赤い跡。それをみて彼女は笑みを深くした。  
 
「あ、ホントについた」  
「……そりゃ、ね」  
「ふふふ、何かいいかも。……もっとつけちゃおうかな」  
「……目立つ所は止めてね」  
「自分は好き勝手つけたくせに。今日の体育、着替えの時大変だったんだから」  
「あー……ごめん。本当ごめんなさい」  
「どうしようかな」  
 
 すっと指が胸をなで上げる。もう片方の手は肩のYシャツを背中へと引き剥がし、  
腕の拘束が固くなる。無防備になった背中に、Tシャツの中へと手が滑り込んだ。  
 密着する身体。彼女は胸を食み、いくつもいくつも跡を付ける。  
時折付けた跡を確かめるように舐めて、指でなぞった。  
 
 唾液に濡れた皮膚が、敏感に空気を、彼女を感じる。  
快感とはとても言えないまでも、こそばゆい刺激と、何より淫らに耽る彼女の姿に血が集まっていく。  
 乳首にちりっ、と痛みが走る。視線を向ければ、彼女が唇に含んで舐め上げているのが見えた。  
赤く濡れる舌が、淫靡だ。  
 
「えっと、……キモチいい?」  
「んー、くすぐったい」  
「……男の人って、感じ方が違うのかな。……何だか、ずるい」  
「ずるいと言われても……」  
 
 女の子のように喘がないのが不満なのか、彼女は執拗に乳首に吸い付いては舐る。  
 
そして指が脇腹からベルトへと触れた。かちゃりと金具の鳴る音で、さすがに僕は焦った。  
 
「ちょっ、ちょっと待ってっ」  
「『好きにしていい』って、言ったじゃないですか」  
「いや、そうだけど。でも」  
「だって先輩変な有毒物質振りまくばっかりで、全然余裕だしっ!   
 ……ここならきっと、キモチいいですよね?」  
 
 僕の焦りを振り切り、彼女がベルトを解いていく。  
もうなりふり構っていられなくて、僕は制服とYシャツを無理やり腕から引き抜いた。  
自由になった手で、彼女の侵略を止める。  
 
「……どうしてとめるんですか」  
「そりゃ止めるだろ」  
「私は、まだまだ足りません。むしろこれからが本番です」  
「いや、だから……」  
「……先輩だって、触って欲しいですよね? 何か、……その、硬いし」  
「〜〜〜〜っ」  
 
 ファスナーを摘む彼女の手を、握るようにして止めている僕の手。  
だから彼女の手はズボン越しに中のそれに触れている訳で。うわあ、何の罰ゲームだ。  
でも身体は現金にもまた硬さを増した。  
 彼女が僕に口付ける。溜まらなくなって手を背にまわし抱きしめると、彼女の指がファスナーを降ろす。  
厚めの生地から解放されて、熱気が漏れる。  
パンツを押し上げるそれに細い指が触れた瞬間、身体がびくりと震えた。  
 
「っ……」  
「いま、ぴくんってなりましたね」  
「…………藤花」  
「はい。なんでしょう?」  
「俺も触りたい。っていうか触らせて。……正直、我慢できない」  
「……自分だけやられてるのって、結構ツライですよね」  
「ああ、よく判った」  
 
 焦らすように人指し指が、パンツ越しにそれをなぞる。  
ぞくぞくと快感が腰から背中へと抜けていった。  
 
「昨日のこととか、わかりました?」  
「ああ」  
「……もう、自分だけで『わーっ』ってなったり、しない?」  
「うん、しないよ」  
 彼女の眼差しに、拒否はない。彼女が怒ったのは独りよがりな僕の態度。  
ちゃんと向き合えばこうして受け入れてくれる。微笑んで、くれる。  
 
「……じゃ、いいですよ」  
 許しが出た瞬間、僕は彼女の首筋に荒々しく噛み付いた。  
思うがままに舌で弄り、ふいにさっきまでの彼女の注意を思い出す。  
慌てて唇を離すと、僅かに赤くなるだけでうっ血の跡は見られず、ほっと息を吐いた。  
 
「……せんぱーい?」  
「ああ、うん。付いてないから」  
「ホントに?」  
「うん。……これくらいなら、判らないよ」  
「っ、何バカなことのたまってるんですかこのエロ魔人がっ! 信じらんない!」  
 
 そう叫ぶなり彼女は僕のそれをぎゅっと強く握り締めた。  
痛みと快感が一緒になって襲い、腰が引ける。そこに、逆襲とばかりに喉元に噛み付かれた。  
 あ、と思ったときにはもう遅い。じゅっ、と怒りを十二分に込めた音が響き、恐らく誰の目にも「それ」と  
判る程に跡を付けられた。  
 位置からして、学ランのカラーをきっちり閉めても隠せそうにない。  
それだけではまだ怒りが静まらないのか、首を掴み耳に近いうなじへも吸い付いた。  
……付いてしまったものは仕方ないにしても。本気でどうしようか……。  
 
「……あのさ」  
「何ですかエロ魔人先輩」  
「その……俺、明日朝、門番なんだけど」  
「いいんじゃないんですか? ばっちりくっきりキスマークつけた風紀委員がゲートでお出迎え。  
 素敵ですね。素敵過ぎて職員室呼び出し食らっても知りませんけど」  
「……他人事だよなぁ」  
「どの口がいいやがりますか。こういうのは女の子の方が大変だって解ってますか?   
 
 何度も何度もつけてくれたエロ魔人先輩」  
「…………ごめんなさい」  
 
 もう、ひたすら謝るしかない。彼女の目が心なしか据わっている。  
するとパンツを握る手が離れ、いきなり僕の肩を思いっきり押した。  
 体重のかかるままに倒される上半身。受身の要領で力を入れたおかげで頭は無事だったが、  
何だかこの体勢は、ヤバイ。俗に言う「マウント取られた」ってやつだろうか。  
 
「先輩の『ごめん』は信用ならないです」  
「う、うう……」  
「だから、こうしちゃえば悪戯できないですよね」  
 にっこりと笑う彼女。両腕はぎちぎちと僕の肩を押さえ、視線を下へと向ける。  
そこにあるのは、恥ずかしいくらいに屹立している僕自身。  
 
「んー……。こう、かな?」  
 何やら彼女は考えて、そして思いついたように脚を上げる。  
くるりと身体の向きを変えて僕の膝ではなく胸に跨った。  
 
「――――っ!!」  
 目の前に突きつけられる、彼女のスカート。というかお尻。突然の出来事に、頭がパンクしそうだ。  
 つい、とパンツが引かれる感覚がある。縁にいきり立ったそれが引っかかり、それでも止めない手は  
とうとう僕のを完全に露出させた。解放された弾みで、ぶるっと大きく揺れたのが判る。  
 
「うわぁ……」  
「………………」  
 見えないけれど、まじまじと見つめられているのを感じる。頼むから、もう勘弁して下さい!  
そりゃ彼女とあんなコトやこんなコトしたいと思ってはいるけど、いるけどこんな羞恥プレイは耐えられないよ!  
 つん、と指がそれの先っぽをつつく。その刺激にぴくりと反応する。  
またつん、とつつく。また素直に反応する。  
 その動きが面白かったのか、何度もつついて、そのうちつつく指が棹に絡んできた。  
 
既に先走りを出してるそれに彼女の手がしっとりと纏わりつき、擦り上げられる。  
 
「うっ、――っ」  
「先輩、……気持ち、いい?」  
「………………」  
「答えてくださーい」  
「……そんなの、判るでしょ」  
「わかんないですよ。気持ちいい? 痛い? くすぐったい? 何も感じない?」  
「……最後のだけは、絶対無いから」  
「ふーん。……じゃ、こうしたら?」  
 胸に乗る身体が前に傾ぐ。その瞬間、ぴちゃりと生暖かいものがそれをなぞった。  
 
「ん―――っ!!」  
 舐めてる。彼女が、僕のを、舐めてる。  
自分でするのとは比べ物にならない程の快感が叩き込まれる。知らず、変な汗が背中を伝う。  
彼女の舌が棹を何度も舐め上げ、その唾液のぬめりが扱く指をよりスムーズにしている。  
 先のだらだらと漏れる入口に、舌が抉り舐る。  
腰全体に思わず力が入った瞬間、暖かい口内へと引き込まれた。  
 どこで覚えたんだとか普通こういうのって嫌がらないかとか何か立場が逆じゃないかとか  
思考がぐるぐるとまわり息が上がる。  
   
 駄目だ。このままだともうもたない。  
それくらいに彼女の口も、指も、何より目の前のこの光景が、くる。  
 腕を上げ、スカートを捲る。そこには大写しで現れる水色のレースが付いたパンツ。  
 
……本気で鼻血でも出しそうだ。  
 指をパンツの縁に滑らせれば、彼女がこちらに気付いてびくっと硬直する。  
それでも構わずに両手で撫でると、僕のを責める手が止まった。  
 
「やぁっ……せんぱい?」  
「おかえし」  
「いやっ、そんなのいいです――って、あっ!」  
 
 彼女の腰を掴み、力一杯引き寄せる。スカートが僕の頭を周囲から遮断する。  
そして目の前に持ってきたそこは、気のせいでなく確かに濡れていた。  
 これが汗でないのは、その部分だけ透けて張り付いてるから、判る。  
何ともいえない甘いような酸いような匂いが、更に僕を煽った。  
 舌を伸ばし、潤むそこに口付ける。じっとりと湿るその向こうの、つんと尖った所や入口を  
丹念になぞると匂いが一層強くなった。  
 
「あぁっ、…………やっ、あ、んーん――っ!」  
 逃げるように痙攣する腰を抑えて、パンツに手をかける。片脚を無理に引き抜いた時、  
ビッ、と小さな音が響いたがそれでも手を止めない。  
 目の前に広がる彼女のそこは、正直不思議な、でも本能的にむしゃぶりつきたくなる形をしていた。  
 襞に囲まれた入口から、白い半透明の液が溢れている。舐めると石鹸のような味がする。  
舐めれば舐める程新たに溢れ出て、とめどない。  
 
「やっ、せん ぱい、あっ、……やぁっ」  
「……すごい。いっぱい出てくるよ」  
「そんなこと、いわないでっ」  
「ここは、どう?」  
「や……、んっ、ひゃぅ――っ」  
 
 ぷっくりと主張してる突起に舌を伸ばせば、身体が跳ねる。ここが、気持ちいいのか?  
ぺろりとむき出しにしてから小刻みに舐めると、感じているのか太ももに力が入り、彼女の背がしなる。  
 もっと舐めたら、どうなる? 見てみたい――その思いが僕を動かす。  
舌は突起を啄ばんだまま指をそっと入口へ差し入れる。  
彼女のぬめりが指に絡まり、触れる肉は、信じられないくらい熱く柔らかい。  
 
 脈動に合わせるように蠢く入口は、くちゅくちゅと淫らな音で僕の指を飲み込んでいく。  
指一本でぴったりになってしまう程そこは狭い。  
少し掻きまわせば複雑な動きで内壁がぎゅっと圧迫した。  
 溢れる液が、僕の顔にかかる。さっきから僕自身への責めがなくなり、替わりに彼女の  
堪えた嬌声と吐息がそこにかかっている。  
 
 攻守交替。このまま突っ走ってしまいたい。  
しかし何度も咎められている手前、内を掻きまわす指はそのままに、彼女に問いかける。  
 
「ねえ、藤花」  
「うっく……、は、い……?」  
「もっと触って、いい?」  
「…………もっと、って、どれくらいですか」  
「許してくれるとこまで。……本音は全部最後までやっちゃいたいくらいだけど、さすがに  
 そこまでは……だし」  
「………………」  
 
 問いながらもくちゅくちゅと指を抽迭させる。  
突起程ではないものの緩やかに与える刺激が、彼女の思考を削っていくようで、答えがおぼつかない。  
 
「んっ……せんぱい」  
「なに?」  
「最後までって、その……しちゃうには、……」  
 言いよどむ彼女に、「今こそ出番だ」と脳裏で清水さんがグッと親指突き立ててブツを  
差し出す姿が浮かび上がった。  
……何だか、少し萎えた。でも頭の中にまで出張してきてくれた恩恵を受け取っておく。……嫌だけど。  
 
「あのさ……俺の右のポケット、見て」  
「ポケット……? ………………、っ!?」  
「言いたかったことって、それ?」  
「な、な、な、なっ!」  
 がばりと脚が翻り、彼女の腰がどけられる。急に視界が開け、眩しさに一瞬目がくらむ。  
目を細めぼんやりと彼女を見ると、例のブツ片手に真っ赤な顔で口をぱくぱくしてた。  
 
 
ところで。  
 彼女は赤面してちょっとアレなブツを持ってる事以外、外見上は特に変わりがない。では、僕は。  
 
「……我ながら、酷い格好だな……」  
 学ランの上とYシャツは遠くぐしゃぐしゃに投げ捨ててある。Tシャツは首まで捲くれ、  
 
ズボンとパンツは全開。身体中に付くキスマークに、滑稽なくらいおったてたそれ。  
その周辺と顔はいろんな液でべたべた。何だかもう、恥ずかしいを通り越して呆れる。  
 
「誰かに見られたら確実に、襲われた後って思われるよな……」  
「だってそんな! 先輩がっ!」  
「いや、今回は八割藤花のせいな気がする」  
「〜〜〜〜そうかもしれないですけど! でもなんか納得いかないっ」  
「納得って……まあ、いっか。ところでソレだけど……って痛っ」  
 
 身体を起こすと、むき出しになってた肘に痛みが走る。  
腕を捻って見てみると、両方とも地面のコンクリに擦って血が出ていた。  
今まで夢中だったから気付かなかったけど、垂れた血がTシャツの袖に付いている。  
 
「あっ、あっ、大丈夫ですか先輩!?」  
 彼女が慌てて自分のポケットからハンカチを出してくれる。  
でも血が付くから、と断ったら何バカな事言ってるんですか! と無理やりに傷口へ押し付けられた。  
 さっきまでの淫らな雰囲気が、綺麗さっぱり消え去ってく。彼女の表情は申し訳なさを  
目一杯浮かべ、傷口の様子を見つめていた。  
 
 さすがに、こんな状況では盛ろうなんて気になれない。  
だが冷静になった頭で改めて自分の全裸オープンな格好を見て、居たたまれなくなった。  
どさくさで床に投げ捨てられたブツが、どうしようもなく虚しい。  
 
「あのさ……今日はもう、ここまでにしようか」  
「え、あっ。……はい。先輩、ごめんなさい。痛いですか?」  
「いや、平気。さっきまで気付かなかったくらいだし。それより……しまっていい?  
 いい加減、恥ずかしいというか何というか」  
「あ、ああっ、そうですよねっ!」  
 
 くるりと後ろを向く彼女に苦笑しながら服を直す。  
いくらか落ち着いたとはいえ、まだ立ってるそれを服に収めるは苦労する。  
四苦八苦しながら整え上も全部着込むと、身体がべたついてたせいもあって少し気持ち悪かった。  
 でも、仕方ない。まさか跡をさらけ出して外を歩くわけにも行かないし。  
彼女もべしゃべしゃになったパンツを穿いたのが気になるのか、直した後も時折  
もぞもぞとしていた。  
 
 自分のハンカチで顔を拭って深呼吸をひとつ。  
さて、と情事の名残を振り切り、捨てられていたブツを拾った。  
 その僕の手に、物凄く追求したそうな彼女の視線が、突き刺さる。  
 
「……ソレ。どうしたんですか」  
「会社の先輩の作品でさ。納品物を分けてもらった」  
「……えっと、確か先輩のバイト先ってデザイン会社だったと思うんですけど。  
 何でそんなもん作ってんですか」  
「そんなもんって……。いや、だからデザインだよ。これ単品だと判んないかもしれないけど……ほら、これ」  
 
 傍らの鞄をあさり例の箱を彼女に差し出す。すると彼女は目を見張り、それを受け取った。  
胡散臭い物を見るような眼差しが消え、純粋に賞賛の色が浮かぶ。  
 
「キレイですね。チョコレートとかの箱みたい」  
「俺も最初お菓子だと思った。何でもコンセプトが『女性が使いたいと思う、特別な秘密の道具』、だってさ。  
 ……その辺はよく判らないけど、確かに女性が好きそうな意匠だと思う」  
「うん、そうですね。これだったらキレイだし、欲しいかも」  
 ちらりとこちらを上目遣いに見る。  
 
「でもまぁ、一緒に使いたいひとがいないと、意味ないですけどねっ!」  
「うっ……」  
 ぽんと箱を僕の手に返し、彼女がにっかり笑う。  
「それじゃ、帰りましょうか! もう門が閉まっちゃいますよ」  
 手を握り指を絡め、僕を引っ張っていく。  
   
 結局中途半端に踏み込んでさらけ出して、でも物凄い充実感に包まれながら僕たちは  
 
家路についていった。  
 
 

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