「たけだくん、せかいはあやまりりみちているのだよ」  
「なあ、今噛んだよな?」  
「なにをいってるんだい、ぼくはセリフをとちったことがないというのを  
ささやかなほこりにしているんだよ。このていどのセリフでかむなんて  
ことがおこりるはずがないじゃないか」  
「……うん」  
「なんだいそのめは」  
「いや、別に」  
 
 
 
「こうないを見はりにきたけど、ぼくのせたけじゃまだすこしたりないようなんだ」  
とかいってじぃーーっと竹田くんを見上げるだろ?  
竹田くん、ちょっとためいきついてからかがんで  
「ほら、乗れよ」っつって肩車してあげるんじゃないかな。  
「どうだ? 見えるか?」  
「うん、わるくない。ああ、あっちのほうにいってくれないか」  
「へいへい」……で、結局日がとっぷり暮れるまでブギーちゃんを肩車したまま  
屋上をぐるぐる歩き回り続けるハメになると思うよ。  
 
 
竹田くんの首に細い脚を絡め、ブギーちゃんが未成熟なその部分を  
押しつけるわけだ。竹田くん、さすがに不審に思って  
「お前、まさか何も穿いてないんじゃないだろうな」  
「たけだくん、めったなことをいうものじゃないよ。ぼくがはいてないとしたら  
みやしたとうかも一日ぱんつなしですごしたことになるんだぜ。  
きみは日ごろ、かのじょにたいしてそうしたようきゅうをしているのかい?  
だとしたら、それはさすがにかんしんしないな」  
しれっと下顔で、噛みもせずにそれだけ言ってのけながら、呆れて首を振る  
……様な動作でさらに幼いそこをうなじにすりつけるブギーちゃん。  
ああ、竹田くん、ツッコミどころはいくらでもあるぞ!  
宮下がぱんつを穿いていてもブギーちゃんに変身する時に  
脱げばいいだけの話じゃないか。まあ、そこに気が回らないのが  
彼氏の悲しい所でさ、言葉につまってしまうわけだよ。  
「ば、馬鹿言うな、そんなこと考えたこともないよ」  
「は! どうかな? げんにいまもぼくがこうしていることに、  
ひそかにこうふんしているんじゃないのかい。ぼくのことをぬきにしても  
きみはみやしたとうかとつきあっているてんで、すでにせけんてきには  
じゅうぶんへんたいとわれ、うしろゆびをさされるたちばなんだからね」  
ああブギーちゃん、それは言いすぎというモノだ。いくら竹田くんでも痛い所を  
つかれたら怒る。ぐいっと体をひねってブギーちゃんに向き直ろうとするだろう。  
肩車してる人間がされてる人間に向き直れるわけがないんだけど。  
結果、ブギーちゃんの押しつけているところに、予想外の刺激が与えられるに留まる。  
振り落とされまいとブギーちゃんは必死に首にしがみつく。  
その行為がまた、刺激を一層強いものにしてしまった。  
「くふ、ぅんっ」 と、鼻にかかった声を漏らしたとして、誰にそれを責められようか。  
むしろ別の意味で責めたい紳士がたくさんいることと思う。  
「お、おいブギーちゃん?」  
あせって声をかける竹田くん。いくら電撃鈍感大王、世界の敵級のフラグクラッシャーだとしても  
首筋に当てられた熱と、にわかにぬめり始めた感触の正体に気付かないわけがない。  
「なん、でもない、よ。さあ、かんしをつづけようじゃないか」  
「いや、もうおりろ」  
「む、きょうりょくしてくれないのかい。それじゃしかたない」  
みたいな会話をしながら、竹田くんは給水塔に上がるはしごの方に進んでいく。  
ブギーちゃん、彼氏の意図がよくわからないまま運ばれていく。  
「たけだくん、なにをするきだい?」  
「ん、ちょっと。あ、はしご、掴まってくれるか」  
言葉を濁して、ブギーちゃんをはしごに掴まらせる。  
次の瞬間、素早く、頭を抜いて、ブギーちゃんの脚をつかみ、  
足首を自分の肩に引っかけるようなかたちにして一歩後ずさる。  
「な、にをっ……」  
さて諸兄、想像してくれたまえ。手ははしごをつかみ、足首は彼氏の肩にある。  
ブギーちゃんの身体はいまやつり橋のように不安定な形で宙にある。  
 
……彼氏の視点に立ったら、何が見えるだろうか?  
 
屋上を渡る夕方の風にマントがはためいていく。制服のスカートも、  
押さえるものがなければ同様にはためくだろう。  
オレンジの光に照らされる、青々しくもなまめかしい曲線と  
内からにじみ出た熱情でつややかに濡れ光る部分。  
 
「やっぱり穿いてないじゃないか」  
 

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