ノア 2. 子供に手を差し伸べる  
 
 
 
「あっ…………」  
 
 彼女の口から小さく声が漏れる。繋いだ指を解いてふらりと席を立った。  
風船はぐんぐん高度を上げ、瞬く間にビル群の彼方へと消えていく。  
その事実に気付いた女の子は、更にけたたましく泣き出した。   
 
「うわああああ――――ん!!」  
「……あの」  
 
 彼女が女の子へ近付き肩に触れると、渾身の力でしがみ付かれた。  
土塗れの顔が彼女の胸に……ってみるみるワンピースが汚れていく。  
困惑した彼女が助けを求めてるのを見て、僕はポップコーン片手に駆け寄った。  
 
「大丈夫? 痛い?」  
「ひっ、わああああんっ……ふうせーん……ひぃっく」  
「…………正樹……」  
「ん……立てる?」  
 
 女の子を引き剥がそうと試みるも、余計に泣かれて手が出せなくなる。  
仕方なしにハンカチを差し出すと、彼女は苦笑しながら女の子の顔を拭いた。  
根気よく涙と泥を落としていくと、どうにか嗚咽も下火になってきたようで。  
ばつの悪そうな顔で彼女と僕を交互に見比べた。  
 
「きれいになったわ」  
「……ん――……おねえちゃん、ありがとう……」  
「ええ。……正樹、これ……」  
「あ、また洗ってくるよ。……風船、残念だったね。代わりに、はい、お口あーん」  
「あ――?」  
 
 織機からハンカチを受け取り、ぱかっと開いた口にポップコーンを放る。  
女の子はびっくりした後、涙が残る目で微笑んだ。僕もつられて笑い、女の子の頭を撫でる。  
 彼女が立ち上がろうとすると、女の子が慌てて服を掴んだ。  
 
「ねえ……パパとママが、いないの。……どこ?」  
 
 また膨れ上がる涙の粒に、僕らは顔を強張らせた。  
 
 女の子の名前は、ひかりちゃんと言った。  
両親と公園に停泊している船を見に来たそうだ。  
そこで風船を買ってもらい、喜び勇んで散策……結果はこの通り。  
 小さな迷子を捨て置くことは出来ず、女の子も必死でへばり付く。  
仕方なしに両親を探して公園内を歩いたが、それらしい人影は見えなかった。  
 
「いないね……もう一度船に戻ってみようか」  
 
 僕の提案に彼女達は揃って頷く。  
それを確認して海へと向かえば、風が一層吹き付けた。  
 正直に言って、寒い。寒いがしかし――横目でこっそり彼女を窺う。  
僕のジャケットを羽織った彼女は、だぶつく袖から指先だけをのぞかせ女の子と手を繋いでいた。  
胸元の合わせからは春色の服と、大胆な土模様が見える。  
女の子が付けた柄を隠すためジャケットを差し出した訳だが、僕は少し後悔していた。  
 
 ジャケットの中で泳ぐ彼女の身体に、くらくらする。  
背の高さはあまり変わらない。でも僕とは違う、その華奢さを声高に訴えた。  
変に意識すればする程、歩きにくい事態へと陥っていく。  
 さて、どうしたものか。なるべく視界に入れないようにして船着場へ歩を進めた。  
 
「ひかりっ!?」  
「あっ、ママ! パパもー!!」  
 
 突如かかった声に女の子は歓声をあげ駆け出した。  
猛烈なタックルも何のその、女の子を抱き上げる父親と、その横で小言を落とす母親。  
 そんな光景に、安堵と僅かな憧憬が胸に宿った。  
 
「おねえちゃんおにいちゃんありがとー!」  
 
 女の子の元気な声と一緒に、両親が揃って僕らに頭を下げた。  
僕も慌てて頭を下げると、3人はゆっくりと船の中へ去っていく。  
後に残るのは、微かな疲れと手のぬくもり、そして大分傾いた春の日差し。  
 
「良かったね……見つかって」  
「そうね……」  
 
 悠然と響く汽笛を背に、僕らは手を繋ぎ木陰のベンチへと戻っていった。  
 
 どの位時間が過ぎたのか。彼女の問いたげな視線に気付いた。  
 
「さっきの……『言わなきゃって思うこと』って、何?」  
「――――! それは……っ」  
 
 不意打ちの攻撃に、あからさまに狼狽する。  
どうしてこのタイミングで、選りによってそれを聞くかな織機!  
僕はうー、だとかあー、なんて締りのない声を漏らして冷汗を流すだけ。  
逃げ場がない。助けもない。彼女の表情がどんどん怪訝に曇っていく。  
 そして僕は、折れた決意をかき集め彼女を抱き寄せた。  
 
「…………正樹?」  
「……僕は……織機が、好きだ」  
「――――っ」  
「織機のこともっと知りたいし、ずっと一緒にいたいと思ってる」  
「…………うん」  
「だから、この間のことは謝らない。それに正直に言えば、今も触れたいと思ってる」  
「………………」  
「……軽蔑、する?」  
 
 彼女は目を見開いた後、俯いた。腕を掴む手に、力が入る。  
 
「……本当に、いいの……?」  
 
 震える声が首筋にかかる。  
その熱に、染まっていく頬に、僕の理性は退去の準備を始めた。  
拒絶されるかもしれない。でももう、耐えられそうに、ない。  
 
「あのさ、織機……ふたりきりになれる場所へ行きたいんだけど……いいかな?」  
 
 彼女の髪が微かに揺れる。その面に拒絶はなく、浮かぶのは羞恥、そして期待……?  
僕は彼女を剥がして手を繋ぎ、足早に公園を後にする。  
街路樹の見事な通りを抜けると、建物が大きな格調高いものから徐々に秘密めいたものへと変わった。  
年季を感じる佇まいや瀟洒な店が並ぶ、昼よりも夜、子供より大人が相応しい通り。  
足を踏み入れる程に、自分達の場違いさが際立った。  
 それでも、関係ない。誰に憚ることなく彼女と触れ合えるのならば。  
 
――2H 5,800円 4H 8,900円 フリータイム AM11:00〜PM6:00まで 6,400円  
 
 入口の控えめな看板を確認して、僕は彼女の手を引きその建物へと入っていった。  
 
 セピアで統一された部屋の内装に、拍子が抜けた。  
もっとギラギラしたのを想像してたら実際は普通のホテルと大差ない。  
強いて違いを上げるなら、窓がないことだろうか。  
スリッパに履き替えぼんやりしている彼女を眺めつつ、そんな感想を抱いて施錠した。  
 
 ベッドの前には、俯きがちに佇む彼女。  
視線が絡むと一瞬動きを止め、僕の方へと倒れてきた。  
ジャケット越しから伝わる彼女の熱。首元をくすぐる髪が、抗う意識を削っていく。  
背中にまわされた腕がぎゅっと服を掴み、僕に何かを催促した。  
 どうにか、なってしまいそうだ。  
肩に置いた手を僅かにずらし、ジャケットを落としていく。彼女が顔を上げ素早くキスを奪っていった。  
あの時のように深く引き込み、混ざり合うキス。  
一通りお互いの口腔を辿った後、離れた唇に残るのは名残の糸。  
――でも、この後どうすればいい?  
 
「えっと……織機。あのさ、……僕」  
「……ごめんなさい。先にお風呂、使わせて」  
「あっ、ああ、うん、どうぞっ」  
 
 するりと身体が通り過ぎ彼女が浴室へと消えていく。  
微かな水音を確認して、僕はやたらとでかいベッドにへたり込んだ。  
 スプリングが妙に効いてて、心地よく身体が沈むのが実に居心地悪い。  
うろたえてるよ。自分から誘っといて、思いっきりうろたえてるよ僕……。  
大の字に寝転ぶと、天井に映るのは間抜け顔の男。  
 
「――っ、んなっ……!」  
 
 前言撤回、やっぱり普通のホテルと違う!何でこんな所に鏡なんかあるんだよ!?  
ベッドを隈なく映す鏡の下で、僕はまた妄想を逞しく働かせた。  
具体的には、この鏡の存在理由とか。恐らくこれから映るであろう織機や僕のそれ、とか。  
それを眺めてる彼女の姿を思うだけで、下半身に血が集まってくのを感じた。  
 僕って奴は……いや、男はみんなバカなのか?  
節操なく硬くなるそれを持て余しながら、僕は右に左にとベッドの上で悶えていた。  
 
 知らず水音が消えている。  
程なくして、僅かな水滴のみを纏った織機が姿を見せた。  
 
「うわああああああああっ!?」  
「? まさ」  
 
 彼女の言葉を待たずに慌てて浴室のドアを閉める。  
固くドアノブを握り締め、ぜーぜーと荒い息を吐いた。  
 何の気負いもなく現れた彼女の姿が、ばっちり脳裏に刷り込まれて離れない。  
抜けるように白い肌、思ったよりふくよかな胸……ってあああ――っ!  
 追い討ちをかけるように、彼女の声が降りかかる。  
 
「正樹? 開けて」  
「だああ――っ、織機っ! 何か着て!」  
「……どうして?」  
「いいからっ! お願いします!!」  
 
 涙目で懇願する僕に気圧されてか、向こうでごそごそと衣擦れの音がする。  
暫くの悶着の後、現れたのはバスローブ姿の彼女。浮かぶ表情は、心なしか不機嫌だ。  
でもこれだけは僕に同情の余地あるだろ!いきなり全部って、いや今だって!  
ローブは病院着のように薄い布地で、色も白で、それを無造作に腰の紐で結んでるだけでっ……!  
 透けて形状を余さず浮き立たせてるそれは、却って扇情的だった。  
うううっ、前が痛い。視姦してしまう目を必死で引き剥がすと、更に彼女の眉根が寄った。  
 
「………………」  
「そのっ…………」  
「……正樹も、お風呂に入ってくる?」  
「う、うん。そうするっ」  
 
 逃げるように浴室へ駆け込んでがちがちに鍵をかける。これで、暫しの猶予は出来た。  
だけど目の前に鎮座するのは、優に大人2人は入れそうな広い浴槽と泡の山。  
……ここで、織機が身体を……っていうか泡風呂なんてどうすりゃいいんだ。入ったことないぞ!  
 僕は現金にも隆起してるそれを見下ろして、心底脱力しきった溜息を吐いた。  
 
 さて、よい子は見ちゃ駄目大人の時間です。  
……無理におどけても事態が変わる筈もなく。途方に暮れた表情が鏡に容赦なく映っていた。  
彼女に倣って備え付けのバスローブを纏った姿は、一言で言うと "レントゲン撮影待ちの患者"。  
色香なんて端から求めてないが、せめてそれらしい男っぽさとか何で欠片もないかね?  
まるで毛を刈られた羊さながらの頼りなさに、気分が底まで落ち込んだ。  
 まぁ、ないものを望んでも今更仕方のないことで。  
 
 このドアを開けたら、彼女が待っている。  
勢いでここまで来たから、やり方とかマナーとか難しいことは解らない。  
僕にあるのはただひとつ。彼女が好きで、触れたいということ。  
だからぎこちなくて無様でも、彼女が嫌がることだけはしない。  
 そんな当たり前の想いを再確認して、ドアノブに手を伸ばす。  
意を決してドアを開けると、彼女はベッドに腰掛けて僕を真っ直ぐに射抜いた。  
 
 沈黙が、重い。  
1歩2歩と彼女へ歩み寄り、ベッドの隅で足を止めた。  
見上げる眼差しが、不安で揺らいでる。当たり前だ。僕だって情けない程怖気付いてるんだ。  
女の子なら、尚更だろう? 馬鹿野郎、彼女に何時までもこんな顔をさせるな!  
 
「……僕は鈍感だから、気がまわらないことがあると思うんだ」  
「そんな……」  
「だから、織機も言って欲しいんだ。これは違う、とかそれは嫌だ、とか」  
「………………」  
「織機が嫌がることだけは、絶対にしないから」  
 
 彼女が目を見開いた後、衝撃と共に視界がまわる。  
抱き締められてベッドに倒れたのか、と胸に感じる彼女の重みで僕はやっと理解した。  
 胸元を掴む手が、性急にローブを剥いでいく。  
露になった胸に口付けをひとつ落として、彼女は小さく呟いた。  
 
「……そんなの、ない……」  
 彼女の頭に触れると、柔らかく唇を塞がれる。  
 
「……正樹の好きにして」  
 指からこぼれる髪の香に、彼女の言葉に、眩暈がした。  
 
 ゆっくりと舌が絡む。ただ唾液を混ぜ合わせてるだけなのに、今までで一番甘い。  
僕は彼女をベッドに落とし、潰さないよう気をつけながら覆いかぶさった。  
肩に、膝に力が入る。そんな何気ない発見でさえ、妙に恥ずかしくて嬉しい。  
 
 ぎこちなく屈んで、もう一度溶かしあう深いキスを。  
微かに漏れる吐息が、何処か甘えるような響きを持っている。  
唇を離し見つめれば、はにかんだ笑顔を返された。  
 胸が、苦しい。彼女に許されているのが、とてつもなく幸せで。  
そしてもっと強く、もっと貪欲に彼女を蹂躙したいと、どうしようもなく煽られてる――。  
 
 手を伸ばし、彼女のローブに触れる。  
肩から腕を辿りお腹へと。柔らかくて、細くて、綺麗な身体。綺麗な、織機。  
指に力を入れ紐を引っ張ると、簡単に解けて全てが露になる。  
その肌の白さに僕は見惚れ、あまりに露骨だったのか彼女は恥ずかしそうに身を捩じらせた。  
 
「…………正樹」  
「う、ああごめんっ」  
 
 慌てて視線を逸らすと細い指が僕の手に絡みついた。  
導かれる先は、彼女の胸。吸い付くような柔らかさと芯の頑なさ、相反する感触が手のひらに収まった。  
触れる手に思わず力が入る。  
 
「ん…………」  
「ぅあっ、ごめん痛い?」  
「……大丈夫。謝らないで」  
「う、うん、ああごめん」  
「正樹…………」  
 
 言った側から頭を下げる僕に、彼女はぷっと吹き出した。  
手のひらの下で膨らみが微かに揺れる。それだけで自分の血液が頭と下半身、二分化してくのを感じた。  
 彼女の指が、また僕を誘う。  
促されるまま手をずらし、胸の外縁から掬い上げる。膨らみは従順に寄せられ形を変えた。  
痛くしないように、と頭の遠くで叫ぶ声を聞きながら、おっかなびっくり揉みしだく。  
白い肌の中で、唯一色づく頂きが艶かしい。震えるそれを唇で捕らえれば、彼女の身体がびくりと跳ねた。  
 
 舌で、彼女の鼓動を感じる。僕と同じ位の速さ、そのリズムに突き動かされて舐めた。  
すぐに頂きは柔らかいそれから硬い突起になり、ころんとした感触を伝えてくる。  
その変化を確かめるように付根をなぞったり舐め潰したり、そのうち我慢できなくなって軽く歯を立てた。  
 
 彼女の息が荒くなる。もう片方の手も取られ、まだ触れてない方の胸へとあてがわれた。  
支えを失い重みが遠慮なく彼女にかかる。  
それでも離さないとばかりに、彼女は背中に腕をまわし頭を押さえ付けた。  
驚く僕の声は彼女の胸に吸い込まれ、その振動で中の突起が揺れる。  
 目の前に迫る汗ばんだ肌。胸に満ちてく彼女の香りに、溺れそうになった。  
 
「ゃああっ、……んぅ――――っ」  
 
 唾液が溢れ、はしたなく胸を濡らしていく。  
彼女の喘ぎが高く切なげに響き、熱気のこもる部屋に溶けていった。  
ぬらりと光る胸を包みこみ、起立するそれを優しく摘む。弾くように、潰すように、右へ左へ。  
夢中で貪り、新雪の肌に僕のしるしを刻み付けた。  
 止まらない、止まりたくない。自分の手で彼女が乱れてる。その陶酔感が、身体を猛烈に蝕んでく。  
 
 自分のそれが、信じられないくらい大きく張り詰める。  
薄くて柔らかな彼女の腹にめり込んで、今にも暴発しそうに訴えた。  
 まだまだ足りない、もっと彼女の中へ――それでも躊躇う僕の指を、彼女が優しく導いていく。  
身体を少し浮かし指を脇腹から微かに茂る場所へ。  
ほとんど癖のない産毛に指を絡ませて、更にはその奥の襞へと滑らせる。  
 指に感じるのは、粘りつく水気。  
 
「……はあぁっ……――ひぅっ」  
 
 彼女の唇から妖しい吐息が漏れ、細い身体が弓なりに強張る。  
思わず手を引きかけた僕に、彼女の制止の指が絡んだ。  
潤んだ眼差しで見上げる彼女が、何かを囁く。紡がれる言葉は僕には届かない。  
だが、期待を込めたおねだりのように、見えた。  
 意を決して指を動かし、薄い襞を辿って小さな突起に触れる。  
彼女の指が僕の腕に食い込み、衝動を余すことなく伝えてきた。  
 
 痛みで僅かに顔をしかめつつ視線を彼女のそこへと移す。  
白く糸引く粘液を纏わせた指が、どうしようもなく淫らだ。突起を弄ってぬかるみの元へと伸ばす。  
くちゅ、と耳に残る水音を何度も上げさせた後、僕は自分の指を口に含んだ。   
 
 指を食み、纏わり付く粘液を丁寧に舐め取る。  
口に広がるのは微かなしょっぱさと甘さ。石鹸の香りがする不思議な味を堪能した。  
 
「……これが、織機の……」  
「――――――っ!」  
 
 彼女はまつげを伏せ、薄闇でも判る程に全身を染めた。  
可愛いと思う。愛しいとさえ思う。唇を指から離し、僕は大切なものを扱うよう慎重に触れた。  
胸の谷間からおへそへ、柔らかく脚を開かせじっとりと汗で光る茂みから、そして突起へ。  
繰り返す羽根のようなキスに彼女がじれったく身悶える。  
襞を舐めれば、ひくついた。粘液をすすり上げれば、更に溢れた。  
唇の端を濡らすのは唾液か、彼女のそれか。健気に反応を返す彼女に、狂わされる。  
 
 舌で突起を擦りながら指を内へと差し入れる。途端に熱くきつく絡みつかれた。  
押し開くように内壁をなぞり、天井の僅かな窪みを引っかく。  
彼女の身体が一際跳ねる。そして、か細い声が僕の脳裏をぶん殴った。  
 
「まさき……欲しい」  
 
 身を起こしよろめけば、彼女に優しく抱き締められる。  
密着する胸からふたりの鼓動が喧しく響く。彼女にしがみ付き髪を梳けば、呼吸が徐々に凪いでいった。  
 震える腕で身体を剥がし、いきり立つそれと彼女を見比べる。  
彼女が微かに頷く。膝立てた脚に手をかけ、尖端を潤むそこへとあてがう。  
ふう、と一呼吸取った後、僕は勢いよく突き入れた。  
 
 全てを彼女に飲み込まれ、あり得ない快感が全身を駆ける。うごめく内は複雑な動きで僕を苛んだ。  
彼女の腰を掴み何とか打ち付ける。奥に突き刺す度に彼女の胸が揺れ、その面に浮かぶのは、きっと恍惚。  
彼女は甘い喘ぎを吐いて腰を浮かし、擦るように何度も僕を引き寄せた。  
激しく絡む彼女の動きに、僕はただ翻弄されるだけ。そして呆気なく果てまで押し上げられる。  
 
「ぅあっ、おりはた、だめだ!」  
「いや……」  
「ほんとにまずいよ! このままだと……っ」  
「いいの! まさきなら――」  
 
 逃げようとする僕を掴み、更に強烈な刺激で締め付ける。  
我慢は簡単に決壊し、僕は迸りを彼女の胎内へと吐き出して果てた。  
 
 頭が真っ白で、心臓の音がうるさい。  
気だるく身体を持ち上げると、繋がってた所から白濁がだらりとこぼれる。  
慌てて拭くものをとヘッドボードへ視線を走らせると、彼女が冷静にティッシュを取り拭った。  
 その行動に、何か得体の知れない不安が過ぎる。  
何も言えず、何も言わず、されるがままに身をゆだね彼女を見つめる。  
すっかり拭い去った後、僕は自分の犯した過ちを謝った。  
 
「……今更だけど、ごめん織機……」  
「どうして?」  
「自分のことで一杯で、何もしてないのに中に……」  
「……私、出来ないから」  
 
 告げられた言葉に驚いて見上げると、淋しそうに歪む視線とぶつかった。  
馬鹿なことを言った、と悔やんでも遅い。堪らず彼女を抱き締めると躊躇いがちに腕をまわされた。  
 
「……正樹、ありがとう」  
 
 柔らかな拒絶を残し、彼女は浴室へと消えていく。  
後から響く水音が、僕を責めるように叫んでいる、気がした。  
 
 
 
   
 何処か気まずいまま建物を出ると、辺りは既に宵闇に包まれていた。  
さっきは手を繋いで距離が近づけたと思えたのに、今では悲しい位遠い。  
それでも離すことは出来なくて、縋るように指を絡める。  
風が、身を切るように冷たい。歩く度にふたりの影が街灯に照らされ、短くなっては長くなり――  
今日が終わろうとしてることに、何故だかとても泣きたくなった。  
 もう目の前には静まり返った公園がある。バス停に辿り着くと、彼女が足を止めた。  
 
「……じゃ、ここで」  
「……送っていくよ」  
「いいの。……正樹、今日はありがとう……私、凄く嬉しかった」  
「…………うん」  
「それじゃ、……またね」  
「――――っ、……うん、また、今度」  
 
 指が解かれぬくもりが遠くなる。  
離したくなくて、追いかけたくて、でもそれはしてはいけないこと。  
 僕は馬鹿みたいに手を握り締めて、彼女の後姿を何時までも見つめていた。  
 
 

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