1月4日・霧間家・夕食後
年末年始、正樹に何もしてあげられなかったな。
そう思うと自然とため息が漏れた。
「なーに綺、沈んじゃって」
隣で食器洗いを手伝ってくれている凪が私の顔をのぞいていた。
「い、いえ……別に……」
「当ててやるよ。正樹が寮に帰って寂しいんだろ」
「…………」
図星の私は黙り込むしかない。
そんなに判り易かっただろうか。
事実、正樹は今日の午後、学校の寮に帰っていってしまっていた。
何でも新年早々の試験のためには今日中に戻っていなければ
いけないらしいのだ。
まったくこんな時期に試験を組んだ学校がうらめしい。
『ごめんね、綺。ゆっくりできなくて』
私に謝る必要のない正樹が謝って、冬休みを過ごした
霧間家を出て行ってしまった。
凪はニヤニヤしながら私の反応を見ている。
明らかに楽しんでいる。
私はそうと知っていながら、頬が熱くなるのを
どうしようもできないでいるのだった。
会話が止めば、静寂が訪れる。
さっきまでは、正樹と入れ違いにやってきた羽原さんがいてにぎやかだったのに。
『ここの住所忘れたから、年賀状直接持ってきたわ』
そんなことを言って、声を上げて笑う羽原さんのおかげで、
正樹のいない憂鬱も少しは紛れていたことに気付く。
『いやあ、今日のロールキャベツは絶品だったなぁ。綺ちゃん、
また腕をあげたねぇ』
結局、年賀状と晩御飯のためだけの来訪だった。
あとはどうせ凪の顔を見に来たのだろう。
とにかく今は私と凪と二人きり。
「まあ、大掃除にこきつかってやったから、あいつと綺を二人で
ゆっくりさせてあげれなかったのは申し訳なかったと思ってるさ」
凪はそう言って笑うと私の腰に腕を回す。
そして、ぐっとその腕に力が入り、
「え?」
私は凪に抱き寄せられる形になってしまった。
凪の力は強いし、抵抗するような暇はなかった。
何が起こったのかろくに認識できないまま、私は凪を見上げた。
そこには何か悪戯を思いついた魔女のような顔。
「だからさ……お姉さんとイイコトしようか」
凪が笑みを深くするのが見えた。
身体がふわりと浮くような感覚を残して、いつの間にか
私は凪に組み敷かれていた。
暖房が入ってるとはいえ、季節は冬だ。
ひんやりとした床に一回からだが震えた。
気付くと、私の両手は万歳をする格好で頭の上に。
それを凪の左手が抑えていて。
「え、えっと……凪? これは……」
「綺……、あんたは何もしなくていいからね」
凪が私の耳元で囁いた。
息がかかり、くすぐったくて身体をひねろうとした。
だが、凪に力を入れている様子はないのに、私は少しも動けない。
「可愛いね。正樹から寝取っちゃおうか」
彼がいたら、蒼くなりそうなことを言って、凪は私の胸をもみ始めた。
ゆっくりと、優しい凪の右手。
細い指が私の、お世辞にも大きいとはいえない胸の形を変えていく。
「ふぁ……あ」
もまれ始めてたいした時間もたっていないのに、胸が熱を帯びてくる。
「凪、ちょっと……ん、巧すぎ、あ」
言葉をさえぎるように凪が私の首筋をなめ上げる。
満足そうに一言。
「いい感度してるね。気持ち良い?」
私は唇をかんでいて答えられない。
そうでもしていないと、変な声が出てしまいそうだったから。
「じゃあ、もういいかな?」
ああ、ブラウスのボタンが外されていく。
熱気にあてられたみたいなぼんやりとした視界の中でそれを見ていた。
間隔をあけないで、ジーンズも下げられてしまう。
「や……凪ぃ」
「無駄な抵抗は止めて、おとなしく感じなさい」
今度はブラの下に直接手を入れられた。
冷たくは、なかった。
指が私の肌を這い出す。
そこで自分が汗をかいていることに気付く。
ぬるぬるとさっきより強い力で与えられる刺激が、
私の思考を奪っていく。
「も……あ、やぁ」
その時、ずり下げられた私のジーンズの中で携帯が鳴った。
間違いようもない。
この派手なクラシック音楽は……
「正樹か……ふーん」
こんな時に、どうしよう。
私の頭の中が一気に混乱をはじめた。
どうしよう、こんなところを正樹に知られたりしたら。
私の動揺を余所に、凪は私の両手を押さえたまま、
携帯を取り出す。
怖いくらいに楽しそうな顔をして、凪は電話を受けた。
ご丁寧にもスピーカーフォンにして、私の顔の横に置く。
『お、織機?』
正樹の声が聞こえるのと、胸の上の指がまた動き出すのは同じタイミングだった。
「ま、正樹? ……あ、やん!」
急に乳首をつままれて、堪えきれずに声を上げてしまった。
凪の指は、私の乳首を捕まえ、くりくりと転がし続けている。
我慢……できない……
「くぅ、ん、あ……」
正樹にも聞こえてしまっただろう。
凪をにらむと、表情を変えないで携帯電話のほうを
あごでしゃくっていた。
この状態で話せ、というのか。
『織機、どうしたの?』
「なんで、も……ぁん、ないわ……いゃん」
凪はますます楽しそうに、今度は私の秘唇を擦り始めた。
身体中が疼いてとまらない。
熱い。
凪の指を私の蜜が濡らしているのがわかる。
そこは……駄目。
『凪? 凪だね?』
こういうときの正樹は怖いくらいに鋭い。
「よくわかったね。わが弟」
『よくわかったねって……、織機に何してるのさ!』
「何って、イイコトだよ。なぁ、綺?」
凪は手を休めないで、飄々と答えた。
『ちょっと、待てよ。いったい何を……?』
「んっ、はぁ……ああ、ま、さきぃ」
「ほら、綺もいいってさ」
『凪!』
電話口で正樹が声を荒げている。
その声もどこか遠くのものに聞こえている私がいた。
凪の瞳の中には、快楽に冒された私が映っていることだろう。
「正樹も怒らないで、もうすぐだから、ちょっと待ってな」
その一言は、私にとっては最後通告だった。
凪の手が私のショーツを下ろし、その指が私の中へ入ってくる。
私が落ち着く間もなく、その侵入者は激しい出入りを始める。
「もう十分濡れてるよ、綺、いいね」
「はぁあ! あ、やん うぅん……!」
指が2本になった。
私の視界の中で、白い光が散り始めた。
『……』
つながったまま、言葉を発しなくなった携帯電話に
わたしは申し訳ない気持ちになる。
正樹、私を嫌いにならないでね。
ごめんなさい、正樹。
もう気持ち良いのが止められな……
「イっていいよ、綺」
凪はそういい残し、私の胸にかぶりついた。
右手は私の一番敏感なところに辿り着く。
「ふぁああん、あっ、ダメ、な、のぉ!」
最初の愛撫でもう熱を持っていた胸と、クリトリスを
同時に責められて私の限界はあっという間に訪れた。
「まさきぃ! ごめん、あん、なさぃい! も、あっ、
いい、のぉ、ぁぁああああっ!!」
はしたなく声を上げて、私は果ててしまった。
理性が真っ白に消えてなくなる……
「はぁ……はぁ……」
もう動くこともできない。
ぼんやりとした視界の中、
「じゃな、正樹」
凪が電話を切るのが見えた。
―余談―
『ツーッ、ツーッ、ツー……』
一方的に切られた携帯を手に正樹は立ち尽くしていた。
暫くそのままであったが、やがてのろのろとベッドに入る。
その動きに生気はない。
試験勉強が手につかないのは目に見えている。
それどころか、まともな心理状態で試験に臨めるものか。
泣きたくなるのを少しだけこらえ、がばっと毛布を被ると
悶々とした夜を耐えるのであった。
―了―