1日目  
 
 今日わたしは売られた。  
さいごのお別れのとき、わたしを見てくれなかったパパとママ。  
やっぱりさみしいし、つらい。  
でも、これでふたりとも元気にくらしていける…よね?  
 
 わたしをかいにきたひとは、兵隊さんみたいなかっこうをしている。  
つれていかれたところは、すごい山奥のおおきな建物だった。  
建物につくとローブをわたされてきがえる。そしていろんな検査をうけた。  
 身長、体重、体にへんな機械をつけたり、注射でちをぬかれたり、とにかくたくさん。  
ぜんぶおわるとごはんがでた。おうちで食べてたのとは、ぜんぜんちがう。  
おなかいっぱい食べると最後に3つぶのくすりをもらった。  
ごはんのあとかならずのみなさい、だって。  
 
 それからおふろにはいって、きめられた部屋にはいる。  
おなじ部屋のこはユーリ。赤毛のとってもキュートなこで、すぐにともだちになった。  
どきどきして眠れないかも、と思ったけど、ひさしぶりのあったかいおふとんで  
気づいたらぐっすりだった。  
 
 
 
 
 17日目  
 
 07:00 起床 最初の診察 そのあと 朝食と投薬  
 09:00 講義 1コマ90分を2時限 授業内容はおもに語学  
 13:00 昼食 投薬  
 14:00 講義 2.5+0.5時限 0.5は運動  
 19:00 風呂 そのあと 夕食と投薬  
 21:00 診察   
 23:00 消灯  
 
 こんなよていで1日がおわる。講義の部屋ではいろんな国の  
本がずらりとならんでいて、すごい。早くよめるようになりたいな。  
運動ではユーリが、すっごく足がはやくておどろいた。ちょっとうらやましい。  
 
 あと、気になること。  
どうしてなんども点滴や薬をのんだり、診察をうけさせられるんだろう。  
わたしはべつに病気でもないのに。なんとなく、いやだ。  
 
 
 
 
 38日目  
 
朝の診察のあと、急にさわがしくなった。  
 
 検査でBマイナスがでた、とかでわたしは奥の研究室へつれていかれる。  
また青いローブをきせられて、からだじゅう機械のコードではさまれた。  
いつものとはちがう、銀のラインがはいった点滴がうでにささる。  
先生たちがなにかすごくうれしそうに笑ってるのを見て――わたしは意識をなくした。  
 
 気がつくと消灯時間もすぎた夜だった。  
ずっとねてたせいか、背中とうでが痛い。それにおなかすいたな…。  
先生をよぶと朝まではだめ、といわれた。  
 
 痛いし、さみしいし、おなかへった。  
となりにユーリがいないだけで、泣きたくなった。  
 
 
 
 
 143日目  
 
 最近よくわからない診察や治療をうけることが多い。  
その場合朝の診察からずっと研究室に入ったままで、翌日になっても続くことがある。  
腕は針と治療のあとでひふが固くなってるし、大きなアザがいくつかついてる。  
 
 お風呂のとき気にしてたら、ユーリがなぐさめてくれた。  
「キト、あんたはお人形みたいな肌につやっつやの髪なんだから、それくらいどってことないわ。 
私なんかくせっ毛に、これ見て。ホントすり傷だらけでこまっちゃう」ですって!  
ユーリのふわふわな髪は元気いっぱいですてきなのに。  
 
 寝るまえの自由時間のとき、ユーリから金色のヘアバンドをかりた。  
「すごい、お姫様みたい!」  
なんていわれたけど、この明るい色はユーリにこそにあうものだと思う。  
 
 でも、ありがとう。おかげでちょっと元気がでたよ。  
 
 
 
 
 371日目  
 
 講義で習う物語がとっても面白い。  
中でも英語のテキスト「シャーロック=ホームズ」と、中国語の「三国志」がとびっきり。  
「ワトソン君、君ならどう思うね?」なんてユーリとよく言い合ってる。  
 
 そんなワトソン君と運動の授業の時、建物の囲いにハトがぶつかって焦げた。  
今までも鳥とかよく落ちてたけど、瞬間を見たのは初めてだった。  
バチッと青い火花が散り、墜ちていくハト。  
ハトは真っ黒な消炭になって、辺りにものすごい臭いを発していた。  
 
 建物を囲む高圧バリア、兵士の護衛、繰り返される投薬と治療。何かがおかしい。  
どうしてこんなに内外を警戒してるの。一体、何をしてるの。  
 
 ねぇワトソン君、君ならどう思う……?  
 
 
 
 
 597日目  
 
 ユーリが、死んだ。  
昨日まであんなに元気だったのに。夜に話した彼女の言葉を思い出す。  
 
「ねぇキト、ここは変な所で私達は売られて来たんだけど……  
 それでもラッキーだと思うわ。だってあんたと友達になれたんだもの」  
 
 照れたように横を向く彼女に、私は力一杯抱き付いた。  
私も、あなたのことが大好きだよ。  
あなたがいたから、辛い診察も何とか耐えられた。  
 
 明け方近く、いきなり苦しみ出したユーリ。  
痙攣する身体は抑えても治まらなくて、私は半狂乱で先生を呼んだ。慌ただしく運ばれるユーリ。  
 そして朝の診察で、簡単に告げられた言葉は。  
 
 私はそのまま精密検査に入り、意識を戻した頃には全て終わっていた。  
私の部屋は別の所になり、ユーリの持ち物は消毒処分された。  
 遺されたのは、想い出とヘアバンドだけ。  
 
 どうして、ユーリ。  
切った指先を舐めてくれたことが、頭を過ぎる。まさか。気のせい、だよ…ね。  
 
 
 
 
 711日目  
 
 もう、嫌だ。  
死にたい。  
誰か、助けて。  
 
 
 
 
 713日目  
 
 少しだけ落ち着いた。  
意識を放棄して、狂ってしまえれば良かったのに。  
 
 あの日、消灯時間も大分過ぎた頃、先生に連れられて倉庫棟に行った。  
扉を開け乱暴に放られると、直ぐさま鍵がかけられる。  
そこは何もない、頑丈な造りだけがやけに目を引く部屋だった。  
 
 薄赤い照明の下、照らされる人影がふたつ。2人共ゲートを守衛する兵士だった。  
 
「本当にヤっちゃっていいのかよ」  
「いいから連れてきたんだろが。ただなぁ…俺の趣味はもっと育ってる方がなぁ」  
「嫌なら引っ込んでろや。俺がありがたーく頂くから」  
「誰も嫌とは言ってないだろ。時間はあるんだ、焦んなよ」  
そんな軽口を叩きながらじり、とにじり寄る彼ら。  
 
 嫌、怖い。  
私は扉にしがみついてがたがたさせるも、全然びくともしない。  
後ろに気配を感じて必死に横へ逃げる。  
反対側の壁につくと、彼らが二手に別れてこちらへ来るのが見えた。  
「堪んねぇなこりゃ。ウサギちゃーん、どこ逃げるのー?」  
「おい、真面目に捕まえろよ」  
 
2人は嫌な笑いを顔に張り付かせて迫って来る。  
怖い、怖い、助けて!  
逃げる足を引っ掛けられて、私は派手に転んだ。  
 
「は〜い、捕まえた♪」  
 私は、彼らに、両手両足を拘束された。  
 
 
 視界に映る、無機質な赤い照明。  
その影になって彼らの顔は見えない。ただ、血走る眼と歯だけが光っていた。  
私は声の限りに叫んで、身体を捩らせた。  
 
「あー、いい声でさえずってんな」  
「でもちょっとうるさくね?黙らそうか」  
 
 私の寝間着の襟に手が伸びる。大した力もなく引き裂かれ、上半身が露わになった。  
いや と叫ぼうとした瞬間、私の顔に覆い被さる顔。  
口にぬめぬめした感触と、うるさい鼻息。  
 苦しい、臭い!  
息を求めて首を振ると、臭い舌が口の中に入って暴れまわった。  
 
 舌を絡め取られてむせると、胸に這う感触。ぴちゃぴちゃ音がして舐めまわされた。  
気持ち悪くて、身体の震えが止まらない。  
口を蹂躙する舌が去ると、すぐに千切れた寝間着を突っ込まれた。  
 
「よし、これで静かになった。舌も噛めないしな」  
「俺はまだ味わってないぞ」  
「何言ってんだよ。散々胸ヨダレまみれにしといて」  
「まぁいいじゃねえか」  
 
 彼らはそう言うと、私のズボンと下着を抜き取った。  
晒される下半身に生暖かい風が通る。  
ズボンはびりびりに千切られ、その即席の紐で両手首、太腿と足首を片足ずつの3か所を縛られた。  
 
 もがけばなお、食い込む紐。  
叫ぶ声は寝間着に吸い込まれ、その様に男達は眼をぎらつかせる。  
私は瞬きもせず、ただ涙を流し続けた。  
 
 手首を抑えられ、喰われる私。  
 
胸を舐めては先を摘んで噛み付くケモノ。  
足を広げてお尻を食べ、指を抜き差しするケモノ。  
聞こえるのは鼻息と水音。感じるのは痛みと恐怖。  
 
 身体中彼らの唾液と噛み跡だらけになった後、2人はベルトの金具を鳴らしズボンを降ろしだした。   
 
「俺が先ね」  
「何言ってんだ、口はお前だったんだから最初は俺だ」  
「えー、じゃあ俺ただ見てんの?」  
「口にすりゃいいだろ、ほら」  
   
 私は抱き起こされ、1人の膝の上に座らされる。  
後ろから掴まれる胸が痛い。目の前にはもう1人の、大きな棒が。  
 
 詰め込んだ寝間着を抜き取られ、代わりに侵入するそれ。  
お尻の方で無理やり引き裂き、貫くそれ。同時に訪れた痛みに、意識が遠くなる。  
 何が、どうなっているか判らない。ただ喉を突かれ込み上げる吐き気と、  
身体に走る苦痛で涙が溢れたのだけは、確か。  
 
 彼らは狂ったように身体を揺すり、喰らい尽くす。  
頭を押さえつけられて、何度も棒を押し込まれる口。棒の根元の毛が口に入り、更にむせて苦しい。  
首筋を舐めまわされ、強くつねり上げられる胸。  
お尻は揺すられるたび深く内を穿ち、ぐちゃ と嫌な音を響かせる。  
 
 長く続く苦痛の時間。突然お尻の方で、おしっこみたいな物が噴き出された。  
驚いて下を向いた瞬間、口にも飛び出すそれ。  
苦くて臭いそれは口中に充満し、堪え切れず胃の中の物と一緒に吐き出した。  
 
「あ〜あ、きったねぇな」  
「とりあえずこれで拭いとけ。おら、交代交代」  
千切れた寝間着で乱暴に拭われると、私は床に転がされた。  
そして口の方にお尻の方に、棒をあてがい顔を見合わせる彼ら。  
また同時に貫かれ、上下違う振動に身体が引き裂かれそうになる。  
 
 お尻の穴に指を入れて掻きまわされる。髪を掴み棒に巻きつけられる。何度も、何時までも続く拷問。  
彼らの交代が3回目を数えた時、私は意識を手放した。  
 
 
 
 
 716日目  
 
 身体に残る傷が癒えて、研究室から部屋へ戻る。  
そして、またも全てが終わっていた。  
 
 私を連れ出した先生は退職に。  
 私を蹂躙した兵士たちは追放に。  
 私を閉じ込めた倉庫棟は焼却に。  
 
全て、なかった事にされてしまった。それでも私は知ってるし、憶えてる。  
 
 先生はおそらく素行不良の為、利用されて殺された事。  
 兵士たちは被験者として、捨て駒にされて殺された事。  
 倉庫棟は消毒処置として、燃やされまた新しく建設してる事。  
 
 おぼろな意識の中で聞いた、先生達の会話が耳を離れない。  
「血液じゃ要領が悪いから、もっと改善しないと駄目ですね。次はもっと効率よく、 
 飛散するような物を目指してみましょうか」  
 
 何が、したいの。私に、何をしたの……!?  
 
 
 
 
 1001日目  
 
 私は、人間でなくなってしまった。  
 
 たくさんのネズミ達の死骸を前に、途方に暮れる。  
死ぬことすら、許されない。生きることは、もっと罪深い。  
 
 誰でもいい、助けて。誰か私を、壊して消滅させて――。  
 
 流れない涙を悲鳴に変えて、私はゆっくりと壊れていった。 

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