巡る因果に、反吐が出る。  
男を見る目がないんじゃなくて、運命に呪われてるとしか思えなかった。  
 
 
 
 
 
 狭い1Kアパートの中で、濱田聖子は膝を抱えてうずくまっていた。  
周りは地震の後のような惨状だが、そんな事は一切気にならない。  
 
 綺麗に片付けても、どうせ滅茶苦茶になるのだから―――。  
辛うじてテーブルは片されており、上に店屋物の親子丼が2つ。  
夕飯のつもりで買ったそれも既に23時をまわった今、蝋のように冷え切っていた。  
 
 あたし、何やってるんだろうな・・・とぼんやり思う。  
好きになって、彼氏になって、傍にいたくて一緒に住む。  
そこまではいつもご機嫌絶頂!なのに、気づくと何かが壊れていく。  
 大切なものがどうでもよくなる毎に、自分もくだらないものに成り下がる気がして辛かった。  
 
 特に、今は。心だけじゃなく、身体も限界だった。  
 
 ふいに、玄関の鍵がまわる。  
 
「ったくまだ帰ってきてねーのかよ・・・っていんじゃねーか。何電気つけないでボーっとしてんだよ」  
 騒がしい物音と共に、アパートの家主が帰宅した。  
 
 
 
 急に明るくなる室内。白々と照らし出され、慌てて立ち上がった。  
 
「あ、お帰りなさい・・・。ご飯は?」  
「んあ?まだに決まってんだろ。――もしかしてメシ、これか」  
「うん、そう。今温めるね」  
「もっとまともなモン用意しろよなぁ」  
 
 テーブルに八つ当たりの蹴りを1発入れて、どかっと座り込む。  
その所作ひとつひとつに、心が冷えていく。  
とにかく機嫌を損ねないように、と急いで親子丼を電子レンジに放り込み、あいつのための酒と 
お味噌汁を用意した。  
 
 ぶいーんと響く電子レンジの音。  
あいつはこちらに目もくれず、TVをつけて買ってきた漫画雑誌を読んでいる。  
そんな中、怯えたように給仕するあたし。  
 絶対、違う。こんなの恋人同士の夜じゃない。  
 
 親子丼が暖め終わり、いただきます、と箸をつける。  
ちょっと味が濃くて、確かにあんまり美味しくはない。でもご飯を食べるときぐらい、 
ちゃんと前を向けばいいのに。  
 相変わらず漫画片手に食べるあいつが、妙に腹立たしくなった。  
 
 あいつがお味噌汁をがしゃ、と引っ掛ける。  
小さなテーブルにみるみる広がるそれに、ああまたやった、と心の中で溜息をついた。  
 
「あっちぃなぁ!――んだよ、その目はよっ!」  
 
 物言わぬあたしにイラだったのか、テーブルを蹴飛ばしその勢いのまま、顔を殴りつけた。  
 
 
 
 簡単に吹っ飛ばされて、背中を強く打った。  
痛みで視界がちかちかする。そこにとどめの蹴りがお腹に入った。  
 
「ムカつくんだよその顔。・・・わかんねーヤツにはお仕置きが必要だよな?」  
 
 息が出来ずにうずくまっている所を、無理やりベッドに引きずられる。  
またやられる、嫌だ!と必死の抵抗も、3発の拳で封じられた。  
 
 がしゃん、と冷たい金属音が響く。両手は、ベッドの両端にある手錠に、固定されてしまった。 
お腹に圧し掛かられて、とにかく苦しい。  
 
「さぁて、どうしてやろうか。どうして欲しい?」  
 
 何が可笑しいのか、嫌な笑みを浮かべる男。  
じゃらじゃら腰に吊ったチェーンから十徳アーミーナイフを取り出す。 
ナイフと鋏を出しては、勝手に吟味をしていた。  
 
「ナイフはザックリいって気持ちいーんだけど、調整は鋏の方がしやすいしなー、と」  
 
 あたしのカットソーを引っ張り、胸の辺りをナイフが一閃する。  
服は横に大きく切り裂かれ、控えめな胸が露出された。   
 
「ここは、両方いっとくか。なぁ?」  
 
 ナイフをきらめかせながら、あいつはそう宣告をした。  
 
 
 
 外は春も半ばで、暑いくらいなのに。さっきから冷や汗が流れて、鳥肌と震えが治まらない。  
 
 あいつはナイフをあたしの頬から首筋へ、舐めるようにじっくりと辿らせる。 
冷質な愛撫に身体が勝手に反応した。ナイフは更に胸の方へと侵食し、峰で何度も往復する。  
ブラの上からでもわかるようになった感触に、あいつは鼻で笑った。  
 
「おいおい、もう感じてんのかよ。節操ねぇなおまえは。まぁ、それじゃ確認させてもらうかな、と」  
 
 峰で攻めるのを止めて鋏に持ち替えると、軽くブラをつまみ上げた。左胸のカップに、鋏が入る。  
ワイヤーを乱雑になぞるように切り取られ、ブラは持ち上げ機能をそのままに、 
左の乳首と胸を開放させた。  
 震えながらも硬く主張するそれを、あいつは指で弾く。 思わず仰け反る背中。 
そこを嬲るように耳を噛まれた。  
 
「感じちゃって気持ちいいのーって、それじゃあお仕置きになんねぇよな?」  
 
 あいつは身体を起こし、ばさりと服を脱ぎ捨てていく。上着も、Tシャツも、デニムも、パンツも。  
全て脱ぎぎった後そそり立つ、もう一つの拷問道具。  
 
 あたしの目に恐怖が映るのを確認して、あいつは右胸のカップも同様に切り刻んだ。  
 
 
 
 着衣したまま、晒される胸。震えているのは恐怖と快感、おそらく両方のせい。  
 
 あいつは舌で優しく胸を舐め、周りを濡らしていく。  
乳首を見えるように舐めては、柔らかく吸い付いて噛み指で掬い上げる。  
こらえても漏れ出る喘ぎ。胸の刺激は身体中を駆け巡り、あそこが脈打つのを感じるくらい熱くなった。  
 
 執拗に繰り返される攻めに軽く達すると、あいつは身体をずらしあたしのデニムに手をかける。  
反対の手に、きらめくナイフ。左のベルトの位置から、鈍い音をたてて切り裂かれていった。  
 
「おっと動くなよ。それにしてもジーンズはかってぇなぁ。ナイフの方が折れそうだなこりゃ」  
 
 あいつはぼやきながら太腿の辺りまで切り下ろすと、右のベルトからも同じようにナイフを入れた。  
刻まれたデニムをぺろんとひっくり返すと、露わになるショーツ。  
それが濡れてるのを見て、また持ち替えられる鋏。  
上の方から、外縁を切らないようにと慎重に入る鋏が、恐怖を煽る。  
クロッチ部分をすっかり切り取ってしまうと、赤く充血するそこがさらけ出された。  
 
「こんなに濡らしやがって、あ〜あ、鋏が汚れたじゃねぇか。綺麗にしろよほら」  
 あいつは鋏を、あたしの口の前に突き出した。  
 
 
 突き出された鋭利なそれに逡巡すると、有無を言わさず殴られた。  
口の中が切れて、鉄の味が充満する。  
 
 無理やり口をこじ開けられ、逃げ場がなくて仕方なく鋏を舐めた。  
いつその刃が閉じて舌を切断するか、と怖くて震えが止まらない。  
それでも何とか綺麗に舐め取ると、満足したようにあいつは鋏を抜き取った。  
 
「んじゃー、こっちもしてもらおうかな」  
 
 膝立ちの状態からどさ、と首にまたがるように圧し掛かり、硬く張り詰めたそれを口の中に突っ込む。  
首への圧力と喉を突くそれに、息が出来ず吐き気が込み上げた。  
涙は飛び散り、むせて咳き込むと、また頬を打つ手のひら。  
 
「いってぇな。歯ぁ立てんじゃねーよ!」  
 
 座ったままだと満足出来ないと悟ったのか、少し腰を浮かせあいつは叩きつけるように抽迭を繰り返す。  
首への重みがなくなった分、辛うじて息を吸えるようになったが苦しさは変わらず、 
あたしは壊れたように体液を垂れ流した。  
 
 涙と、鼻水と、涎にまみれる酷い顔。  
それでも良心が痛まない、いや、更に興奮するあいつは狂ったように跳ねてそれを大きく、硬くしていく。  
 
 限界が来たのか一旦動きを止めると、いきなり引き抜かれあたしの中心を串刺しした。  
 
 
 無理に押し入られる感覚に、痛みが走る。思わず悲鳴をあげると、容赦なく口を押さえられた。  
 
「うっ、キツイな・・・まぁ、頑張ったからごほーびに気持ちよくしてやんよ」  
 
 そうあいつはうそぶくと、先端まで引き抜いてから思いっきり奥まで貫いた。  
ゆっくりと、強引なそれにじわじわと快感が戻ってくる。  
一度乾いたそこもだんだんと潤いを帯びて、攻める侵略者に絡みついた。  
 
 卑猥にあがる水音。  
滑らかになってくる感触に、あいつは見下したような笑みを浮かべる。  
そして手を伸ばし、露出した乳首を摘み上げた。  
びくん、と身体が反応する。それを合図に、ゆっくりだった攻めを激しいものへと変化させた。  
 
 打ち付ける振動はベッドを揺らし、がちゃんと手錠を鳴らす。  
手は胸を握って、指の間に乳首を挟み揉みしだいた。全身を貫く刺激に、呼吸と鼓動が速くなる。  
 もう、何が、どうなっているのか判らない。  
機械のように穿つあいつに、ただがくがくとあたしは揺れていた。  
 
 急に強く胸を掴まれる。激痛に目を見開くと、そこには恍惚の表情で欲望を吐き出すあいつがいた。  
 
 
 
 
 
 
 身体中がべたべたして気持ち悪い。  
そして何より、痛みと疲労で今にも落ちてしまいそうだった。  
 あいつは自分だけティッシュで始末をつけると、そのまま横になり人の顔を撫でまわした。  
 
「あぁすっげー気持ちよかったなぁ・・・おまえも感じてたしな」  
 
 両手の拘束はそのままに、あいつはうっとりと手を滑らせ切り刻んだブラのラインをなぞる。  
自分の作品がえらく気に入ったのか、満足げに何度も頷いた。  
 
「このカッコもすげーエロいし、いいな。おまえいつもこーゆーカッコしてろよ。前のとかもあんだろ?」  
 
 戯言をほざきながらしきりに乳首をいじるあいつ。  
その指もだんだんと鈍くなり、やがて呑気ないびきが聞こえてきた。  
本格的に寝入ったのを確認すると、やっと安心して脱力する。  
ふと手首を見上げると、手錠が擦れた所から血が出ていた。  
 
 こんなことを、何時まで繰り返せばいいのか。気に入らないと殴り、拘束して陵辱するあいつ。  
ほとんどの服は切り刻まれ、クローゼットの中は空に近い。  
 このままでは全ての服を刻まれて逃げ場を失い、きっとあいつに、殺される。  
   
 とにかく逃げなきゃ。でも、どこに―――。  
 
 溢れた涙は目の横を流れ、静かに髪へ染み込んでいった。 

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