日曜日。
休日だというのに自然病院に足が向いているのは、我ながら少し憂鬱だ。
「彼女の、お見舞いに」
受付に一度顔を出して、そのまま直接病室に向かう。
相変わらず彼女の病室のあるフロアは静まりかえっていて、元々静かな病院の中でもなんというか、更に無機質を感じさせる様に思った。
病室に着いてノックをする。
「――どうぞ?」
ドアを開けると、彼女がいつもと同じ顔で微笑んでいた。
「いらっしゃい、よーちゃん」
「こんにちは、しずるさん」
私が見舞いに来ると何時もしずるさんは笑みを持って迎えてくれる。
入院患者は退屈だから……分かってはいても、少しは私に依存してくれているのかなんて馬鹿な考えが頭に浮かぶ。
私はベッドの横に椅子を引っ張り出して来て腰を落ち着けた。フと彼女の膝の上に目がいく。
「あれ、珍しい。しずるさん雑誌なんか読んでるの?」
「あぁ、これね」
しずるさんは指摘された週刊誌に目を落とし、
「あまり退屈だからロビーから拝借してきたのだけれど……よーちゃんが来てくれたのならもういらないわね」
摘み上げて屑籠に放り込んでしまった。
ロビーから借りてきたものを勝手に捨てていいのだろうか。まぁ受付待ちなんてほとんど見ない病院だから問題無いのかもしれないが。
「…………?」
思考が飛躍して、ゴミ箱行きの哀れな週刊誌の元の費用は病院の経費から逐一落ちるのだろうか? 等ということを思索している内にしずるさんの視線がじっと私を向いていることに気付いて顔を上げる。
「ごめんなさい。見舞いにきて一人でボーっとしてたら意味無いわね」
苦笑する私にしずるさんは静かに首を横に振った。
「大丈夫、少し見惚れていただけだから」
「からかわないでよ」
「割合本気」
ふふ、と笑う。そういう態度をからかっていると言うのではないか?
「もう……。それにしても、しずるさん。退屈なんだったら、駅前で本でも買って来ようか? セレクトには自身がないけれど」
「露骨に話を変えにきたのね。でも、お願いしようかしら」
椅子から立ち上がると、しずるさんにカードを手渡された。いらない、と断るが押し付けられる。
そもそも本屋ではカードを使えない気もする。しずるさんはナニゲにお嬢様なのかも知れない。
「好みのジャンルを教えてくれる? 少しは選び易くなるし」
ドアの前で思い出した様に聞いてみた。私自身少々興味深い質問。
「よーちゃんの好みで。あまり読み物は手にしないのだけど、よーちゃんの好きな本なら読んでみようと思うわ」
何やら顔が赤らんできた。私も中々しずるさんのストレートな物言いには慣れない。
ともかくしずるさんは読書自体あまりしない人らしい。少々意外だが、それなら尚のこと私の選択など空振りしそうだ。
「あんまり期待しないで」
それだけ言って一旦病室を出た。
15分後、私は棚の前で行ったり来たりを繰り返していた。
(私の好みなら推理か恋愛ものだけれど、しずるさんには少し……)
彼女は物語にのめりこむタイプではないと思う。むしろその裏側、書き手の心理なんかを読み取っていくイメージ。
ならばこの場合吟味されるのは私の心理なのだろうか? 気恥ずかしい、が不快ではない。
しかし、あまり待たせるわけにもいかない。さっさと決めてしまわなくては
ノア1、仕方無い、私好みで選んでしまう
2、少し……からかってみようか
「有り難うございました」
3分後、私は少し重たい紙袋を胸に抱えて店を出た。
店員の好奇の目を思い出すと、少し顔が火照る。
「あら、遅かったのねぇ」
病院に帰ると、しずるさんが欠伸混じりに私を迎えた。
出て行ってから約30分。少し待たせ過ぎただろうか。
「少しでもヒマが潰れればいいけど」
文庫本数冊を袋から取り出し、ベッド横のテーブルに積む。ついでに使うことの無かったカードも返す。
眠そうに眼を擦ったしずるさんが早速上から一冊を取りパラパラと捲り始める。
「本当に読書は久しぶり。ジャンルは一体何なのかしら?」
「恋愛モノ……かな?」
ふぅん、と返事。ブックカバーの御蔭でいきなりバレることは無い様だ。
幸いしずるさんは字面を追うのに集中を要するタイプの様で、帰りを切り出すのも楽だった。
「しずるさん、私はそろそろ帰ろうと思うのだけど」
「もうそんな時間? 次は何時来てくれるのかしら」
少し空くかな……。曖昧に答えて病室を出た。同時に笑いがこみ上げて来る。
――後で気付いてどんな顔をするのかしら。
それとも気付かず平然と読み通すのかも。それもまた彼女らしいと帰りの電車でボンヤリ考えていた。
「おはよう、しずるさん」
結局学校の課題で手一杯で日曜日になってしまった。
少しの罪悪感と共に、病室のドアを開ける。
「あ、おはよう、よーちゃん。来てくれたのね」
しずるさんは私の姿を確認すると、途端顔を輝かせた。
ああ、良かった。怒っていない。
当たり前といえば当たり前だが、普段二日と空けずに通っている身としては何か責任の様なモノを感じてしまう。
私はドアを閉め、水は一杯頂いた後ベッド横の定席に着いた。
「ごめんなさい、少し学校の方が忙しくて」
「私の所為で勉強を遅らせるより余程いいわ。責任を押し付けられても困るし、ね」
言って、二人で顔を見合わせて笑う。
その後は至って和やかな空気で会話が弾んだ。人が死ぬ話も、あのハリネズミの話も、無しに。
しかし、やはり気になってはいたのだろうか、しずるさんは談笑の途切れ目にオズオズと切り出してきた。
「それで……あの、この間の小説なのだけれど」
「あぁ、捨てちゃった? 仕方無いわよ」
ナニセ中身はR指定物だ。ジョークで置いていったが流石にアレはなかっただろう。
しかし、しずるさんは首を振った。
「いえ、ちゃんと読んだわ。けれど、それからどうも変な気分で」
「変な気分……って」
長期入院患者には確かに酷なのかもしれない。潜在下でも性欲はあるのだろうし。
「しずるさん、一人でしたことないの? いくら病院だって不可能じゃないと思うけど」
「良くわからないのよそういうの。それに……一人の時はそんなに……」
言い澱む。私は言葉の意図を掴めずに首を傾げた。
しずるさんは普段見せないような表情で言葉を続ける。
「さっきよーちゃんが来てからね、私おかしいのよ。多分……きっと……濡れちゃってる」
「え?」
妙だ。何故しずるさんがカミングアウトをしている。
私が目の前の人間のキャラが壊れていくのに対応しきれず呆けていると、焦れたようにしずるさんが私を引き倒した。
「よーちゃんの所為なんだから……」
そのまま唇を奪われる。こう唐突だと息が出来ない。
「……ん!? んむ……ちょ、しずるさん」
慌てて顔を離す。しずるさんは悪びれた調子も無く、
「多分私はよーちゃんのことが好きなのね。よーちゃんはどうかしら?」
「しずるさん……その言い方はずるいわ」
嫌いなどとは、言わせない聞き方だ。
私は自分も真っ赤になっているのを自覚しながら、しずるさんの額にキスを落とした。
「ふふっ、嬉しい……。けれどよーちゃん、そっちは違うでしょう?」
言われ、今度は唇へ。軽く舌を突っつき合わせ、次第に深く互いの口腔内に進入する。
「ん……んむぅ……ちゅ……ふぁ」
どちらのモノか分からない淫靡な音に、理性が溶けていく気がする。
が、アテられる前に最低確認すべき事がある。
「しずるさん。先生の回診なんかは……?」
「朝はもう来たからしばらくは大丈夫。大声さえ上げなければ、ね?」
言葉を待たずしずるさんが入院着を上から脱ぎ捨てていく。私は思わず息を呑んだ。
病人でありながら私なんかよりずっと白く瑞々しい肌。所々残る点滴の痕だけが痛々しい。
「おいで、よーちゃん」
靴を脱いで、誘われるがままにしずるさんのベッドに入った。
「それじゃ……するよ」
勝手が良くわからないので、とりあえず胸に手を置いてみた。
しずるさんは初めは受けに徹してくれるようで大人しくしている。
「ん……私、よーちゃんに触れられてる……?」
見れば分かるでしょう。苦笑しながら徐々に手に力を込めてみる。
「……痛い?」
「えぇ……でも、気持ち良いわ」
言葉通り先端部の突起が尖ってきたのが分かった。
左胸を掌で愛撫しながら、右の突起を口に含む。
「あ…よ……ちゃん……そこは…」
どうやら弱点らしい。完全に硬くなったそれを、今度は前歯で軽く擦ってやる。
「やあっ…そこ………だめ…へんになる……」
無視して胸への愛撫を続ける。同時にすることのない右手をお腹を通って下の方に滑らせた。
(わ、もうグシャグシャじゃない……)
下着の上から人差し指を押し込んで見る。力を入れると、軽い抵抗と共に指先が下着ごと沈みこんだ。
「んあっ………直接……触れて」
しずるさんが自分で下着に手をかける。気が早いな、と思う。
「見て……よーちゃんにされて……こんなにっ」
ちゅく、としずるさんは自分の秘所を指で押し広げる。
「綺麗よ。でも、しずるさんはえっちね。なんか別人みたい……」
言うが、こんな台詞が軽く出てくる辺り私も充分アテられてるだろう。
でも、不快じゃない。
しずるさんの手を押しのけて、秘所に直接口付けた。
「あっ………く……よーちゃん……んぅ」
うわ言みたいに私の名を呼ぶしずるさん。私も呆けた頭で必死に行為を続ける。
淫核を指で弄る、割れ目を押し割って舌を挿し込む。
直接的な部位への愛撫にしずるさんの喘ぎ声のテンションが見る間に上がり、最後にはカラダを仰け反らせてイってしまう。
「…も…だめぇ…………あぁ…あっ」
ぴちゃ。唾液だか愛液だかでぐしゃぐしゃの顔を上げると、しずるさんは涙目でただボゥ、としていた。
「…………りふじん…だわ。納得が、いかない」
「当初の予定では、私がよーちゃんの上に行くハズだったのよね」
先に起き上がったしずるさんが、タオルで私の顔をぬぐってくれながら言う。
「それが、良くわからない選択肢の所為でgdgdな展開のまま結局よーちゃんには触れられず。ふざけたらいけないわよねぇ」
「何……怒ってるの?」
聞き返す間にしずるさんはテキパキと片付けを終えて行く。
体を拭き、髪を整え、服を着なおす。下着は流石に変えていたが。
「リセットよリセット。全くやってられないわ」
それだけ終えてもう一度ベッドに戻ってくる。良くわからない威圧感に私は自分の体を掻き抱いた。
しずるさんは……笑顔だ。
「そうよね、よーちゃん。よーちゃんはやっぱりそういうポーズでないと」
そのまま押し倒される。
「しずるさん、あの……もうそろそろ私……」
「あぁ、帰さないわよ。好き勝手やってくれた分舞台裏で10回はイカせてあげるから!」
『あら大変。なんと、しずるさんは、にじゅうじんかくなのでした。』
しずるさんが声色でこの話のオチをつけようとしている。
『裏人格(むしろこっちが表?)であるブラックしずるさんは可愛いよーちゃんを食べてしまおうとします』
一体何処にしゃべっているのか。
『残念。既定カップリングに逆らうには作者の力が足りなかったようですね。いただきます』
嗚呼、そうか。
荒々しい口付けに朦朧とする意識の中で悟った。
私は……どう頑張っても……受けキャラなんだ。
○
О
o
(゚Д゚) と、いう夢を見たんだ!!