終礼のベルが鳴る。  
 ややあって、校舎から生徒達が吐き出されてゆく。その様子はまるでアリの巣だ。  
 みんな、何も考えていない様子だ。友達と笑いさざめき、受験の準備で単語帳を開き、帰路につく。  
 何の変哲もない当たり前の日常。  
 そんな中で、わたし、末真和子はいつもより少しだけ違っていた。  
 わたしは凪の姿を探している。あの、「炎の魔女」と綽名される悪名高い問題少女を。  
 なぜそんなことを、と人は言うかも知れない。ごく平凡な文学少女ふうのわたしと学園一の問題児との接点がどうしても見いだせないだろうからだ。  
 けれど、私は霧間凪に会う。会わなくてはいけない。  
 会って、何とかしてお礼をさせてもらわなくてはならない。  
 かつてわたしの命を救い、わたしの友達を破局から救った彼女に・・・。  
 
「―――まだそんな事言ってんのかよ」  
 通学路から少し外れた路地で、凪はそう言った。わたしは彼女のことだからあまり人の多い方角にはいないだろうと踏んだのだが、まさに大当たりだったわけだ。  
「私はただ、命の恩人にお礼がしたいだけよ。あなたにとっては何でもなくても、わたしはあなたのおかげで生きてるのよ。そのお礼がしたいと思うのは、当たり前じゃない」  
 凪ははっきり嫌そうに眉をしかめた。が、わたしは怯まなかった。  
「だからさあ、オレにあまりかかわり合いにならない方がいいんだよ。でないとまた狙われるぜ」  
 そう言って凪は、歩き去る素振りを見せたのでわたしはあわてて引き止めた。  
 
「別にあなたのやっていることを手伝うとか、そういうんじゃないのよ。そうね・・・何でもいいから、とにかくあなたの為に何かあげられたら、って・・・」  
 上手く言葉が見つからず、わたしは焦りともどかしさに突き上げられた。実際、何をしようとかそういうことは全く考えていなかった。困った、と思った。早く何とかしないと、また凪が去っていってしまう・・・。  
 その凪はしばらくの間黙ってわたしを見ていたが、ややあって口を開いた。  
「・・・ふーん、何でもいいのね?」  
「ええ・・・」  
「・・・そーだな、そこまで言うんならまー、折角だから頂戴するか」  
 凪がそう呟いた。実のところその意味をわたしはまったく掴んでいなかったため、単純に願いが聞き入れられたことを喜んで、自然と唇が笑いの形に開いたのだが―――  
 その開いた唇に、いきなり凪の舌が滑り込んできたのである。  
「んぅ・・・!?んっ・・・んん!」  
 驚いて声を上げようとしたけれど、口が塞がれていて呻きにしかならない。  
 わたしが何事が起こったのか把握できないでいる隙に凪の舌はわたしの口腔内をぬらぬらと這い回り、わたしの舌と絡み合う。凪の口からわたしの口の中に唾液が流れ込んできた頃になって、ようやく私は正気に返った。  
「んんんっ!うんっ・・・ぷはぁっ」  
 わたしが呼吸困難に陥りかけて身悶えしだした頃にやっと凪は顔を離した。しかし、わたしはすでに凪の唾液を飲み込まされていたのだ。  
「ききききき・・・・・・」  
「ん?何だよ、サルの物真似か?」  
「―――霧間さんっ!!」  
 真っ赤に紅潮したわたしの顔を無遠慮に眺めていた凪は、喉の奥から絞り出したようなわたしの絶叫に圧され、数歩後ずさった。  
「バカ、大声出すな。下校中の奴らに見られたらどうすんだよ」  
 
 と凪は、まるでわたしが悪いかのように注意するのだ。混乱やら憤慨やらで、また口ごもりかけたが、どうにか抗議の言葉を出した。  
「い・・・いきなり何てことするのよ!?」  
「なんだよ、何でもするって言ったの和子じゃねーかよ」  
「そ、それはそうなんだけどっ・・・どうして、こんな・・・っ!」  
 わたしはすっかり狼狽していたようで、言葉がどうしても続いてくれない。  
 凪の方はといえば、相も変わらず落ち着き払っている。ただ、さっきとは違い、幾分嬉しそうな表情になっていたりはしたが・・・。あまり素直に喜べる状況でもない。  
「和子に危ないことさせるわけにゃいかないだろ?けど、他に特に何か困ってることがあるわけでもなし、どうするかオレなりに考えてみたのさ。で、結論としてまあ、何でもっていうからちょっとイイ思いでもさしてもらおっかなー、ってね」  
 涼しい顔で言う凪とは対照的に、わたしの顔はきっと茹でたタコのようになっていたことだろう。  
「あ、危ないことって・・・これだって十分危ないじゃないの!」  
「いいじゃねーか。オレ女だから孕ませる心配だってないし、もし初めてだったにしたって、痛くはしないからさ」  
「お、女だからって、あのね・・・!」  
 それは原理として妊娠するわけはないのだが、それ以前の問題である。わたしはまだ男性とだって手を握ったこともないのに!  
 わたしが狼狽して絶句している隙に、凪の手はすぐさま私を侵蝕しにかかってきた。瞬く間に、制服の下から滑り込んできた手がブラジャーをずらし、わたしの胸を露出させる。  
「あ、や!ちょ、ちょっと・・・」  
「大丈夫大丈夫、痛くしねーからよ」  
 とても妙齢の少女の言う言葉ではない。まるで素人娘をホテルに連れ込んで悪戯しようとしているナンパ師のような台詞である、とわたしは思った。  
 制服が捲り上げられ、いきなり凪の唇が乳首をチュッと音を立てて吸った。  
「あぁ!ダメぇっ・・・」  
 
 か細い悲鳴が喉から洩れる。が、凪は、わたしの抗議にはまったく斟酌せず、空いている方の手をわたしの下半身に忍ばせてきた。そして、わたしの太股の内側を淫らな動作で撫で上げる。ゾクゾクするような快感が太股から這い登ってきた。  
 やがて、ゆっくりと太股を這い上がってきた凪の指が、パンティーに包まれているわたしの―――その、大事な部分に触れてきた。  
「そ、そこは、ダメッ」  
 柔らかな胸に頬擦りされながらも、わたしは慌てて身を引こうとしたが、わたしの体は壁に押し付けられていたので、それもままならなかった。  
 凪はそんな私を見てクスッと笑った。  
「んなこと言っても、コッチの方はもうパンティーまで濡れてきてるぜ?無理するなよ」  
 言って凪は顔を上げ、わたしの目をじっと見つめてくる。わたしが思わず目を離せなくなっている間に、凪の指の爪が、布ごしにうっすらと浮き上がった襞を優しく掻く。そのあまりの心地よさに、わたしはまたしても悲鳴を上げさせられた。  
「いあぁ・・・イヤッ」  
 でも凪の指は容赦なくわたしの恥ずかしい部分を責めてくる。最初は、羽根で撫でるような柔らかな愛撫だったのが、徐々に強く擦り付けてくる。まだパンティーは身に付けたままだったが、染みになるほど恥ずかしい液を分泌してしまっているのがわかる。  
「霧間さん・・・やめてぇ、お願い・・・」  
 弱々しい声で哀願する。しかし凪は、なぜそんなことを言うのだ、とでも言いたげに、心底意外そうにわたしを見た。  
「今やめちゃ困るだろ?」  
 そう言って、しばし私を見つめていたが、急に「ああ、そうか!」といった調子の笑顔になって、  
「そっか、こんな中途半端な快感じゃ足りないよな。和子があんまし可愛かったんでつい、イジメてみたくなっちゃってさ。ごめんごめん」  
「ええ・・・?」  
 その心底嬉しそうな様子にいささか不安になり、顔が自然と引きつるのを感じた。  
 凪はその間にわたしの前にしゃがみこんだかと思うと、わたしの下着に手をかけ、するりと下げてしまった。  
 
「・・・って、ちょっと、やぁっ・・・」  
 わたしはあまりの羞ずかしさに両手で顔を覆ってしまった。わたしの前に片膝ついている凪に、わたしの性器をまともに凝視されているかと思うと、それこそ顔から火が出そうになった。  
 凪はわたしの恥ずかしい処を隠しているスカートを捲ってしまうと、そこのところを無遠慮にまじまじと眺めた。  
「和子のって、やっぱ綺麗なんだな。でも、もうグショ濡れだぜ」  
「―――ッ・・・い・・・やあ・・・見ないで・・・」  
 羞恥のあまり全身がわななく。  
 凪はしばしの間、わたしの羞恥を味わうように静止していたが、不意に顔をそこに近付け、濡れ光るわたしの秘所に、ぬるりと舌を這わせた。  
「ッ―――!」  
 その瞬間、全身を電気のような快感が貫き、すんでのところでわたしは甲高い悲鳴を上げるところだった。幸い、とっさに制服の袖を噛んでいたので声が迸り出ることはなかったのだが。  
「ふぐッ・・・ンぅ・・・ンンンッ!」  
 凪の舌が激しく動く。むきだしの襞をなぞり、充血してふくらんだ豆を舌先でつつき、柔らかな肉の谷間に押し入ろうとする。  
もし、しっかりと袖を噛み締めていなかったら、さぞかし恥ずかしい声が辺り一面に響きわたっていて、下手をしなくても誰かに聞き付けられていたかも知れない。強く噛んでいた袖は、きっと跡がついてしまっていたことだろう。  
「声、出していいぜ」  
 その時、そこ全体をざらりと舐め上げた凪がいきなりそう言ったので、わたしは呼吸が止まりそうになった。  
「は、はぁっ、・・・だっ、・・・だって!」  
 喘ぎながらわたしは抗議の声を上げるが、凪は一向に頓着しない。  
 
「まともな下校中の連中はこんなとこまで来ないぜ。この辺りはほとんど人通りもないしな。時々いたにしたって、どーせまともな連中じゃないよ」  
「え、えぇっ・・・」  
 凪の台詞から、別の意味での危険を感じ取って思わず青ざめるわたしに凪は、安心させるように言った。わたしの性器に頬擦りしながらである。会話のしにくいことおびただしい。  
「だーいじょうぶだって。そこらのチンピラなんか追っ払ってやるよ。それに、そーいうスリルがあった方が、刺激があってイイだろ?」  
「・・・・・・」  
 わたしは絶句した。改めて、この「炎の魔女」が100%、常人ではないことを思い知らされたのである。確かに魔女である。これは。  
「なっ、だから気にしないで、可愛い声聞かせてくれよな。和子みたいな真面目子ちゃんがイイ声上げてヨがってるところって、すっげー興奮すんだよ」  
 勝手なことを言いながら凪は、また舌を動かす。猫がミルクを舐めるような、というよりは、虎かライオンが獲物の肉から滴る血を舐め取るような感じである。  
 
「あっ、ああ・・・っ、はぁっ」  
 先ほどの会話でいささか胆を冷やさせられたせいで、高まり切っていた興奮が上手い具合に冷めて、袖を噛まなくてもあまり物凄い声は出なくて済んだ。どっちみち、凪の舌遣いの巧みさは、あっという間にわたしを追い込んでいったのだが。  
「あァ!」  
 いきなり、強烈で鋭い刺激が襞のあたりで炸裂し、わたしは悲鳴を上げた。凪がそこの襞を、歯を使って軽く噛んだのだ。  
「あ、ああ、もっ・・・もう、だめ!」  
 凪がぴちゃぴちゃ舐めているうちに、足の付け根から切羽詰まった感覚が迫ってくるのを感じ、わたしは思わず凪の頭をぎゅっと押さえ付けた。そしたら凪は、その部分に溢れんばかりに堪っている汁を強く吸い、わたしに悲鳴を上げさせた。もうたまらなかった。  
「イヤッ、何か、変・・・もう・・・ああっ嫌ぁ・・・あっ、アアーッ!」  
 その瞬間、そこが沸騰するような感覚にわたしは目が眩み、自分でも何を言っているか分からない悲鳴を上げて身体を反り返らせた。わたしのそこが激しく収縮し、凪の舌をきつく締めつけていたことに気付いたのは、数秒後だった。  
 
「ごちそうさまでした―――って、言いたいトコだけどね」  
 わたしが虚脱して壁によりかかっている傍らで(服ははだけられたままである)、凪は壁に肘をつきながら言った。  
「ん・・・まだ、何かあるの?」  
 先ほどの刺激がよほど強烈だったらしく、ぼんやりとわたしはそう言った。そんな私に、凪はちょっと口をとがらせて言った。  
「和子ばっかイイ思いしてさ、オレの方はまだ何もしてないんだぜ?」  
 勝手な言い分である。ひとの身体を弄んでおいて。  
「そう言やあんたって、何で眼鏡かけてんの?」  
 凪はそう聞いてきた。わたしは思わず答えてしまった。  
「んーと・・・近眼よ」  
「それがないとさ、全然見えないの?」  
「うん」  
「・・・ふ〜ん・・・」  
 
 その言い方に何か妙に不吉なものを感じ、わたしはややひるんだ。  
 と、凪の手がスッとわたしの目の前に来たかと思うと―――わたしの眼鏡は凪の手に取り上げられていた。  
「ちょ、ちょっと!」  
 視界がぼやけ、何も見えなくなる。狼狽するわたしの顔をどうやら、凪はじっと見ているらしかった。  
「和子ってば、眼鏡外したら結構美人じゃん。さっきの顔も好きだけどさ、コンタクトにしないの?」  
「コンタクトはあまり好きじゃないのよ。それより、眼鏡返してくれない?何も見えないのよ」  
「そりゃいいや」  
 何が「そりゃいいや」なのだ!?  
 わたしが困惑していると、いきなり右手を掴まれるのを感じた。その右手がグイッと下の方に持っていかれるのを感じ、そして、何やら狭い所に押し込まれた感覚がした。妙に柔らかい感触もする。  
 ・・・どうやら、凪の下着の中に手を突っ込まれたらしい。  
「っ・・・・・・ぅん」  
 切羽詰まったような呻きも聞こえた。指に何やら濡れた感触がある。  
「・・・そのまま、そこ、探って・・・」  
 何かをこらえているような凪の声がする。  
 声に促されてわたしが指で探ると、じきにひときわ濡れた部分に触れた。柔らかい感触は、わたしの手に吸い付くかのようだ。  
「ううんッ・・・」  
 凪の切な気な声がする。不意にある衝動が突き上げてきて、指をそのあたりに感じた割れ目のような部分にズルッと滑り込ませた。  
「はぁッ!」  
 いきなり、凪が声を上げたので、わたしはびっくりして手を止めてしまった。  
「ごめんなさい、痛かった?」  
 おろおろしながら私がそう聞くと、凪のかすかに震える声がした。  
「ッ・・・違う、気持ち・・・良かったの」  
 それを聞いてわたしは思わず顔を赤らめた。  
「動かして・・・お願い」  
 哀願するような凪の声は、私をひどく興奮させた。先ほどは凪に弄ばれてばかりだったので、何かくすぐったいような気分だった。にわかに、欲望がこみ上げてくるのを感じ、思わずこう言った。  
「霧間さん、眼鏡返して」  
 
 すると、まるで女神の命令に従う下僕のようにあっさりと、彼女は眼鏡を空いている方の手に渡してきた。それをかけると、さっきまで余裕の表情で私を嬲っていた凪の、恥ずかしそうに紅潮した顔が目に入ってきた。わたしはますます興奮した。  
 凪と視線が合った。声と同じく、切羽詰まった目だった。唇はきゅっときつく閉めている。もとが美人なだけに、その顔はおどろくほど扇情的だった。  
「和子・・・ね、早く・・・」  
 その声が媚薬のようにわたしの脳幹を刺激し、わたしはたまらなくなって、指で凪の秘部を掻き回した。  
「あん!ん・・・イッ・・・イ・・・」  
 日頃常に強面で通し、男子も恐れる「炎の魔女」がこんな声を出すのが何だかとても倒錯的だった。わたしは指を二本まとめて突き入れた。凪の嬌声が上がる。濡れきっている凪のそこは、驚くほどあっさりと、わたしの指を受け入れた。  
 そのまま、くちゅくちゅと掻き回す。凪の唇が半開きになり、絶えずはぁはぁと荒い息をついている。わたしが親指と人さし指で柔らかな肉をつまむと「あんッ」と声を上げた。  
「っふ・・・んん・・・かずこぉ・・・」  
 凪の身体がわたしにぴったりと密着してくる。わたしは胸の奥がキュッと締まるような感覚を感じ、初々しい少年のように凪の唇を求めた。わたしの理性はどこへやら飛んでしまっていた。凪もわたしの唇に応え、舌と舌がぬるぬると絡み合う。  
 わたしの左手の指の動きに応えて凪が呻く。わたしは左手で凪の秘所を犯しながら、右手で凪の体を抱きすくめていた。わたしの指は粘つく淫らな感触を求め、ますます激しく蠢いた。  
 凪の呻き声がひときわ高まった。と、凪の手が不意にわたしの手を押えた。  
 
 わたしが呆然としている間に、わたしの手はするりと凪のパンティーから引き出されてしまった。凪は、ふっ、と恥ずかしそうに笑うと、自分の下着を素早く脱ぎ捨て、ついでに胸も露にした。  
 と、凪が体を寄せて来た。  
「何を・・・」  
 するの、と言おうとしたが、凪がまたわたしを見て笑ったので、なぜか言葉が引っ込んでしまった。凪の体が密着してきたかと思うと、彼女の太股がわたしの足を割ってきた。  
 次の瞬間、わたしは自分の性器にぬるり、とした感触を感じた。  
「ひぁぁぁっ!」  
 その声は、わたしだけでなく凪の声も混じっていたことに気付いたのはしばらくしてからだった。凪は自分の性器をわたしのそれとくっつけてきたのだ。  
「あああっ!いや、だめえーっ・・・」  
 先ほどの舌の感触とも違うぬめぬめした肌触りは、恐ろしいほど私を感じさせた。わたしはもう何の抑制もなく、恥ずかしい声を迸らせていた。凪もわたしと同じぐらい感じているようで、真っ赤な顔をして激しく喘いでいる。主に腰を使っているのは凪の方だったが。  
「いぃ、ああっ・・・和子、和・・・」  
 凪は激しく喘ぎながらわたしの名を呼ぶ。わたしも、いつしか彼女の名を連呼していた―――ような気がした。  
 凪の性器がわたしの性器に激しく擦り付けられ、上の方で乳首と乳首が擦れ合う。この悦楽は無限に続くかのように感じられた。  
 やがて、絶頂が訪れた。  
「ああっ、はぅ・・・ああアアアッ―――アーッ!」  
 喉の奥から迸り出るような声はわたしのものだったのか、凪のものだったのか―――はっきりとは記憶していない。  
 
 
 それからどのくらい経ったのだろうか。  
 気が付くとわたしは、すでに服をきちんとしたまま寝かされていた。凪ももう服を整えて、わたしの姿を見ていた。  
 わたしはあわてて跳ね起きた。  
「お早よ」  
 何事もなかったかのように、凪はそう言った。わたしは無論、「お早よ」どころの騒ぎではなかった。  
「きっ、霧間さん!あ、あなたって人は―――」  
 そこまで言って、わたしは絶句してしまった。顔も真っ赤に紅潮してくる。先程の経験を思い出してしまったのだ。  
 一方、凪はもうさっぱりとした表情をしていた。その顔に見える、やや淫靡な感じの疲れが情事の跡を残していた。  
「ありがとな。お陰様で欲求不満が解消できたぜ」  
 だからそういうことを男言葉で言わないで欲しいのである・・・。―――というか、問題はそんなことではない!  
「霧間さん!」  
「何だよ」  
「何だよって、あなた、どういう、その・・・何であんなことしたのよ!?」  
 ようやく口にできた。わたしが口籠ってしまったのは羞恥からだけではない。さっき、凪の手に引き込まれてとは言え凪の身体をもてあそんで興奮してしまったことの後ろめたさもあったのだ。  
 凪の方はわたしのそうした内心の葛藤とはまるで無関係に、すっきりとした顔で言った。  
「だーからさ、和子があんまりしつこく何かしたいって言ってくるからさ、そんじゃあってことで一口つまみ食いさせてもらっただけだよ。ま、これに懲りたらあんましオレに近付かないことだな」  
「うー・・・―――」  
 わたしが唸っていると、凪はにっこり笑っていったものだ。  
「―――ま、でも、折角だから時々付き合って貰うのもイイかもな・」  
「――――――ッ!」  
 羞恥と憤慨とが一気にこみ上げ、頭にかーっと血が昇ってくるのを感じた。  
「もう帰るわよッ!わたしは!」  
「お、おいおい待てって!」  
 これではまるっきり、痴話喧嘩をしている男と女のようだ―――などと、憤然としながら歩いていくわたしはそう思うぐらいの余裕があったりするのだった。  
 
 (了)  
 
 
 

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