ブギーポップ  

「…紙木城さん」  
「な〜あ〜に〜?」  
「あの…僕達…お付き合い…してるんですよね?」  
「そ〜よ?ど〜したの?シロ君?」  
「いいえ…でも…ここって…」  
田中志郎、高校1年生。今まで女の子と付き合ったことは…一応ある。でもキスま  
でもいかない、ピュアなものだった。  
つい1ヶ月ほど前、上級生の紙木城直子さんの3度目のアタックを断り切れず、僕  
達は言わば「恋人」同士となった。何故彼女のような美人が、僕のような男に好意  
を寄せてくれたのか、未だに分からない。最初は罰ゲームか、もしくは…カツアゲ  
か何かだと思った。  
でも紙木城さんはそんな人じゃなかった。何度かデートに誘ってくれた。その時の  
彼女は、とても楽しそうな笑顔をしていた。時折見せる寂しそうな顔も…こんなこ  
と言うのはいけないかもしれないけど…とても「魅力的」だった。  
そして…おそらく4度目のデートだった。その日は、午前中に流行の映画を見て、  
少し街を見て回った後、紙木城さんのオススメというエスニック風の居酒屋で食事  
をした。僕は遠慮してあまり飲まなかったけど…紙木城さんはチューハイや、テキ  
ーラ何とかという酒類を(少し頂いたら、ものすごい味だった)かなり飲んでいた  
ようだ。  
夜風に当たりたい、と彼女が言うので街をさまよっていた。その後ちょっと休みた  
い…と言って1件の店の前で立ち止まった。  
「ここって…ラブホテルじゃあ…?」  
「い〜から〜お金は〜あたしが〜はらうから〜♪」  
相当足にきているようだし、それに…ほうって置くわけにもいかないので、仕方な  
くお金を払って(紙木城さんはふらふらしていたので僕が)、安ホテルにチェック  
インすることにした。  

紙木城さん…大丈夫ですか?」  
「だ〜いじょ〜ぶ♪酔〜ってませんよう〜♪」  
どう見ても全然大丈夫じゃなさそうだ。やっぱりチェックインしてよかった、と思う。  
…別に変な意味じゃないけど。  
部屋に入ると、値段相応に質素な内装が見てとれた。…ダブルベッドは大きかったけど。  
紙木城さんは部屋に入ると、「あ゛〜」とか言ってベッドにばふっ、っと突っ込んでい  
った。フカフカした布団の感触を楽しんでいるようだった。  
僕もベッドに腰を下ろす。抵抗を受けて布団が少し沈んだようだ。思ったより悪くない。  
しばらく沈黙が続いた。と、紙木城さんはいきなりがばっ、と身を起こした。  
「シロ君〜わたしィ〜シャワー浴びてくるわ〜♪」  
「え…ええ」  
すたすたと彼女は僕の横を通り過ぎていった。…お酒の後にお風呂って大丈夫なのかな?  
僕も歩き疲れていたので、どっとベッドに倒れこんだ。目を閉じてみる。そしてこの後  
のことについて考えてみる。  
彼女はシャワーを浴びていた。それ事態は大したことではないかもしれないが…でもこ  
の場所では…え…まさか……そんなわけないか。  
がちゃ、とバスルームの方で音がした。上がったようだ。彼女が戻ってきて――  
「え…?」  
紙木城さんはバスローブ姿だった。バスルームにあったらしい。金髪の彼女には  
よく合っている、と自然に思わせる。そんな感じだった。  
「シロ君も浴びてきたら?さっぱりするよ〜?」  

酔いが引いたのだろうか?口調はだいぶしっかりしている。そしてその目は――  
まるで僕の目の奥を見据えているようだ。  
「え、あっ、はいっ!」  
上官命令にでも答えるようにぴん、と立ち上がって答え、そのまま回れ右をして  
バスルームへ向かう。  
シャワーを浴びる。心音が高鳴っている。これは…マズイのでは?変なことを期  
待している。ぶんぶん、と頭を振ってその考えを否定する。まだ1月しか経って  
ないじゃないか。心配しすぎか……  
バスルームを出る。脱衣かごにはもう1着バスローブがあったが…僕はあえてさ  
っきまで着ていた服を着ることにした。  
部屋に戻ると、振り向いた彼女と目があった。ニコニコしている。僕も笑顔で  
(苦笑になってしまったが)それに答える。  
「座って」  
「……はい」  
ベッドの上の彼女が言う。仕方なく僕もベッドに上がり、促された場所に座る  
(正座してしまった)。  
彼女は僕と向き合う形に座り直した。相変わらずニコニコしている。僕の方は  
というと――さっきから背筋の冷や汗が止まらない。  
「シロ君」  
「……はい」  
「じゃ、しよっか」  
「え?」  
僕は固まってしまった。時間が止まったような――そんな気が、した。  

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