「やあ、竹田君久しぶりだね。宮下藤花とお楽しみだったようで」
「……まあな」
何とも間抜けな再会の仕方である。
自分の恋人である宮下藤花の中に『彼』がいることは知っていた。むしろ、友人関係である。
藤花は時々、あのスポルディングのでかいバッグを持っている。
そのことから、まだ『彼』はいるんだなと確認していた。
またいつかは会う機会もあるだろう。彼、竹田啓司はそう思っていた。
しかし、彼女と事をしている最中になるとは……。
「すまないねえ。世界の敵が現れたものだから」
「ま、まあそういうなよ……。お前にはお前の義務があるんだからさ」
「そうかい」
竹田は(いろいろな意味で)残念そうな顔をしながら、彼の体から身を起こす。
ブギーも身を起こすが、そこから動こうとしない。
ちらり、と部屋の隅を見るがすぐに視線をもとへ戻す。
「どうした?着替えはそこだし、バッグも同じ所に……」
「10分だ」
「え?」
「10分で君を何とかしよう」
「はあ?そりゃ、どういうい……」
彼が皆まで言い終わる前に、ブギーはキスをし、そのまま押し倒した。
「人は何故、このように交わるんだろうね」
「さあな。子孫を残すため、じゃないのか?」
「じゃあ、今の君たちはどうだい?」
ブギーは彼にまたがる。
「快楽を求めるためだろう?」
彼のいきり立つものを、自らのそこへとあてがい一気に腰を落とす。
「くっ、これは……」
竹田は心地よい熱と、締め付けの感触に快楽を覚える。
しかし、ブギーの方は少し苦しそうに顔を引きつらせている。
「……竹田君、気持ちよさそうで何よりだ」
「おい、大丈夫か?」
「平気さ。それより、早くしないと、逃げられてしまうからね……」
あまり準備の出来ていなかった藤花の体は予想外だったようだが、彼は少し荒れた呼吸を整えるとゆっくりと動き出す。
「まあ僕もこういった行為に関しては、初めてだ。技術も何もないが、許してくれよ」
最初はゆっくりだった動きも、だんだんとなれてきたのか大きく腰を振るようになってくる。
「うぅ……、くぁぁっ」
快楽と焦燥の混じった表情で、必死に腰を振り続ける。
「ふぅっ、た、竹田君、悪いが、君も手伝ってくれないかい?」
「あ、ああ」
竹田は下から彼を突き上げる。
彼もそれに敏感な反応を見せる。
しばらくの間、彼らの喘ぎ声と湿った音が部屋に響いていた。
「そろそろ、だね」
「そうだな。くぅっ」
最後のスパートをかけ、彼は達した。
彼の深いところで、竹田もまた同様に。
絶頂の余韻からか、まだふらふらとする全身を動かしてブギーは着替えを始める。
未だベッドの上で横たわったままの竹田は、ぽつりと言った。
「そんなに焦らなくてもさ、世界はそう簡単に壊れたりしないよ」
彼は応えない。
それでもかまわずに、言葉を続ける。
「お前が生まれてくる前から、そういうのっていたと思うんだ。だから……」
「だけどな、竹田君」
支度を終え、お決まりの格好になったブギーポップは彼に振り向いて左右非対称な顔をしてみせる。
「僕が出てきた以上は、その義務を果たさなければならないんだ。違うかい?」
「じゃあ、僕のことなんかほっといてさっさと行くべきじゃないのか?」
「いや、それは君と宮下藤花があまりにもたの……」
「なんだって?」
竹田はベッドから身を起こしてブギーを見つめる。彼も表情を変えないまま見つめている。
しばし沈黙。
ブギーはちらり、と時計を見ると。
「丁度時間だ。じゃあな、竹田君」
「おい!」
ブギーは自分のマントを踏んづけて転びそうになるも、素早く部屋から去っていった。
彼に関する謎をまた一つ見つけつつ、竹田はシャワーを浴びるために着替えを持って部屋を出た。
あいつ、あの調子だとまた出てくるんじゃなかろうか。
まあそれもいいか、とかすかな期待を抱きながら。