風と約束 …BOF1  
 
さわりと風が草原の草を、髪を、翼をなでて通りすぎて行く。  
風は私の種族と近いものであり、今まで何度もこんな風にめぐり合ってきたが、  
ここまで心地よく感じたのは初めてかもしれない。  
長い間共に旅をし、生死を共にしてきたかけがえのない友人達も、一人を除いて今ここにはいない。  
皆、自分の居場所へと帰って行った。  
とはいえどこに行ったのかわからない人もいるが…。  
まあ彼女はまた、私たちが見つけたその場所で再び長い眠りについたのだろう。  
世界が危機におちいるその時まで。  
もう会えないかもしれないが、私は忘れない。絶対に――。  
 
 
「ねえ、リュウ。これからどうするの?」  
私は最後までいた同行者に声をかける。  
彼の故郷であるドラグニールは、私の住むウィンディアからそれほど遠くないところにある。  
そしてそのウィンディアも、後数時間も歩けば見えてくると言う距離になっていた。  
私の種族、飛翼族は成長すると大鳥に変身することができる。  
時の流れに巻き込まれ、過去に飛ばされてしまった経験のある私は、  
旅に出た当時にはなかったこの能力を身につけていた。  
最後に別れたギリアムさんのところまでは大鳥になって仲間達を運んでいたのだが、  
リュウが歩いて行きたいというから、ここまで数日をかけて歩いてきたのだ。  
まあ彼が言い出さなくても、私が自分から歩きたいと言ったと思うが…。もう少し一緒にいたいし。  
「んー、そうだな。俺はやっぱりドラグニールに戻って、町を復興させるよ。  
 町の中心部はこの間までに何とかなっていたし、これからは町の外側かな。  
 カンタベル王に助力を頼んでみようかと思ってるんだ。」  
「そうよね。やっぱりそう言うと思った。私も、というか、  
さすがにしばらく国を離れるわけには行かないだろうから、私自身は行けないと思うけど、協力するよ。」  
思っていた通りの彼の答えに、私はにこっと笑って答える。  
リュウはいたずらっぽい笑みを浮かべて手を伸ばすと、私の頭をくしゃくしゃとなでた。  
 
うれしくて、そして照れくさい時の彼の癖だった。  
はじめは子供扱いされているようでちょっと嫌だったが、最近はそんなこと気にならなくなっている。  
旅のはじめから終わりまで、彼は良い意味で変わっていない。  
旅の始まりは自分の住んでいた町の壊滅、そして終わりには実の姉の死、  
という悲しい出来事を乗り越えてきたと言うのに、だ。  
「ありがと、ニーナ。おまえもさ、国に帰ったらいっぱいやることあるだろう。  
 次期王位継承者だって言うのに、国を放って俺の旅についてきちゃったんだから。」  
「あら、失礼ね。ちゃ−んとお父様達の許しを得てきたんだから、別に良いのよ。  
 もちろん帰ってきた後のことは覚悟の上だしね。だいたいさ、リュウもその場所にいたでしょ。  
 お父様自ら手を取って、私のことを頼んでいたはずだけど?」  
そもそも、私とリュウの出会いは、捕らえられた私を彼が救ってくれたと言うものだった。  
塔に住む魔術師にのろいで病気をかけられたお父様を救おうと、私は二人の兵士と供にカーマの塔に向かったのだ。  
そこで私はとらえられてしまった。  
 
傷つきながらも何とか城に戻った兵士のジークとライフェルが、ウィンディアで監理している  
つり橋の通行許可をえるために、城に滞在していたリュウに助力を頼んだのだ。  
で、まあ私は助けられて、魔術師も倒して、お父様の病気も持ちかえった薬で治した。  
自分の病気を治し、娘の私も救ってくれたリュウに、お父様はある意味ほれ込んじゃったみたいなのよね。  
その歓迎振りって言ったら並じゃなかった。彼はその時の場面を思い出したのか、苦笑いをする。  
「ああ、あれね。あれにはちょっとドキッとしたなあ。いきなり俺の手をがしっと握るんだもんな。  
 それにしても気さくなかただね、ウィンディア王って。まあ、ニーナもだけど。」  
私もそれに答えるように苦笑する。  
「ふふ、それはお父様の方針よ。国を治めるものは民衆を知らねばならないって言うね。  
 私も結構町に出るのよ。まあ、それが国民にどう受け止められているかは、私達には正確に伝わっては来ないけどね。」  
王家のこの方針が客観的に評価されるのは、もっともっと後のことだろう。  
恐らく私たちが死んでしまってからが本番だ。けど、私もお父様に習ってこの方針を変えるつもりはまったくない。  
旅に出て、いろいろな人々と触れ合ったり対立したりした経験は、私の中で大きく確かな糧となっているのがわかるからだ。  
 
 
地面に大きな影が映って、私とリュウは空を見上げた。そこには数匹の大鳥が空を優雅に舞っている。  
多分警備の兵士達であろう。  
その鳥たちは私達の姿を見つけたのか二度、三度大きく旋回すると城の方向に向かって飛んで行った。  
鳥の目はとても鋭い。余り高い高度ではなかったから、私達の姿ははっきりと見ることができたと思う。  
「…お父様に連絡しに行ったのねえ。これは帰ったらえらいことになってるわよ……。」  
「あう…。まあ仕方ない、か。ならはやくいこう。そうしたほうがいい気がする。」  
「うん。あ、そうそう。リュウ、目をつぶって。」  
「え、こ、こう?ニーナ。」  
私はリュウが目をつぶったのを確認すると、背伸びをして彼のほっぺたに軽いキスをする。  
はじめてあった時には私より少し高い程度だった彼の身長は、この旅の間にずいぶんと高くなっていた。  
彼は驚いて目を見開く。私はそんな彼に向かっていたずらっぽく微笑んだ。  
過去に飛ばされて、リュウ達が記憶を取り戻してくれるまでの二年間、私も大人になったみたいだ。  
以前ならこんな、少し大胆なことはできなかったと思う。  
「リュウ、別れてそれぞれの生活に戻っていっても、手紙をくれるって約束してくれない?  
 もちろん私も手紙を出すけどね。ちなみに今のキスは、私の感謝の気持ちと、想い。」  
あっけに取られていたリュウは頭をかくと、笑ってうなずいた。  
そして私に手を伸ばし、一気に抱き寄せると、額に、頬に、そして唇にキスをした。  
さすがに驚いてしまって、目の前のリュウの顔をまじまじと見つめかえしてしまう。  
照れくさいのか、私の頭を肩に軽く押し付けると、私の翼に触れる。  
「…今のが俺の感謝と想い。で、いいかな? もちろん、手紙は出すよ。  
それに時間があったらウィンディアにニーナの顔を見に行く。」  
「ありがとう、リュウ…。」  
私は少しリュウの身体を離すと、もう一度彼の顔を見つめた。自然とお互いの顔が近づいて、重なる。  
彼が翼をなでると、それがすごく心地よくて私は思わずうっとりとしてしまった。  
 
 
 しばらく私たちは緩やかに流れている風の中で抱きあっていた。  
ふとお父様のことを思い出す。  
「大変、見つかったからには早めに帰らなきゃ!!」  
そう言うと私はリュウから少し離れて大鳥に変身する。  
変身するときに巻き起こった風が、自然の風と絡みあい、するりと解けてゆく。  
駆けよってきたリュウをその背中に乗せると翼を空気に打ち付け、大空へと舞いあがった。  
 
ウィンディアの城に向かって、背中のリュウの負担にならない程度に一気に加速する。  
風は私達を運ぶかのようにウィンディアに向かって優しく吹いていた。  
 
 
To be continued BOF2  

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