「…どうにも寝付けないな」  
 暗闇の中、アースラはつぶやいた。どうにも目が冴えてしまっている。ここのところずっとこうだ。  
やはり、疲れている。帝都を長く離れての、しかも『アルカイの竜』を連行するという  
重要な任務に、生え抜きの軍人であるアースラといえど些か精神を苛まれていた。  
それに、最近は『あれ』をしていない。敵対勢力である連合側の連中と行動を共にしている以上、  
油断は出来ない。『あれ』の現場をみられるのは好ましくないのだ。  
…が、やはり我慢は体に毒のようだ。仕方ない。久々に、やるか。  
そう思い立ち、愛用の道具を片手に寝床を後にした。  
 
「どこか、いい場所はないか…?」  
『あれ』をやるのは、人気のない、それでいて見晴らしの良い場所が好ましい。  
そんな場所を探し辺りを散策しながら涼しげな夜風にふかれていると、  
段々と気分も良くなってきた。これなら、『あれ』をせずとも済むかもしれない。  
そう思っていたところに、行く少し先の茂みから微かに人の声が聞こえてきた。  
「…?誰だ、このような夜更けに…」  
 少し気になったので、声のする茂みへと近づいてみた。  
 
「…あっ…いや…です、リュウ、そんな…こんな、ところで…」  
「…どうして?ニーナ…」  
「だって…恥ずかし…いっ………です、誰か、に、見られ…ぁ…ん」  
 リュウと、ニーナが、乳繰り合っていた。  
 
 奴ら、どうやら見られていることに気付いてないようだ。  
「でも…ニーナ…、君の『お宝』はそう言ってないよ…ほら、こんなに…」  
「…やっ…です、リュウ…そんなに、したら…」  
「…駄目だよ、ニーナ…さあ、もっとよく見せて、君の『お宝』を…僕に鑑定させてよ…」  
「…もう…わかりました…は…はい…、ど、どうぞ…見て…  
…鑑定、して下さい…わたしの…大事な……とこ」  
 アホか。つい頭の中でそう突っ込んでしまった。なんとアホな会話か。  
が、当然ながらその突っ込みは馬鹿二人には届かなかった。  
「…どう、ですか…?リュウ…」  
「ああ、綺麗だよ…とても…綺麗な『生え抜きのお宝』だよ、ニーナ…」  
「…は…『生え抜きのお宝』…ですか?」  
「ああ、そうだよ…一本も生えてない、素敵な…『さいこうのお宝』だ」  
「…ら…ラ、ランクアップしました…よ?リュウ…」  
 生えてないほうが奴としては高得点らしい。  
ルーン将軍…『アルカイの竜』はどうやら、変態です。  
「暗いから、間違えちゃったよ……ね、もっと、よく見せて…」  
「…ゃ…うそばっかり…。……あ……やだっ…!リュウ、そんな、拡げないで…」  
「ほら…奥にもっと素敵な…『お宝の中のお宝』が…隠れてたよ?ニーナ…」  
「…………ぃゃぁ………」  
「どんな味がするんだろうね、ニーナの『お宝の中のお宝』…は…んむっ」  
「…っ!あっ!ぁ…はあ…っん!!や、だめ、ですっ…リュウ、そんな、舐めたり、したら…っ!」  
「ああ、もっと綺麗になったよ…ニーナの…」  
「…は、はあ、はふう…」  
「もう、ランクなんてつけられないよ…世界に、ただ一つの、僕だけの『お宝』だ…」  
「…は、はい…私、は…リュウだけの、ものです…」  
 馬鹿二人は止まらない。  
 
 …まあ、会話の内容はさておき、これ以上ここにいてもただの覗きだ。(元々そうです)  
さっさと立ち去ろう。そう思ったところに。  
「見て、ニーナ…ニーナの『お宝』があんまり綺麗だから…僕の『さお』も、ほら、こんなに」  
「……リュウの…『さお』…?…きゃっ…やだ、リュウ…」  
「恥ずかしがらないで、よく見てよ、僕の『さおDX』…ねえ、こいつをどう思う?」  
「…と、とっても…デラックス…です…リュウの、『さお』から、銀色の糸が、垂れて…」  
 さ、『さおDX』だとぉ!?おい、随分と言うじゃないかアルカイの竜…!  
聞き捨てならない発言に、アースラは思わずその場に踏み留まってしまった。  
「…ん…ふ…さっきの、お返し…して、あげますね、リュウ…」  
「ああ…僕の『うまにく』が…ニーナに食べられて…」  
「…あ…、もっと、おおきく、なっちゃいました…ね…」  
「うん…『マンモにく』にされちゃったよ」  
 今度は『マンモにく』ときたか…!このまま放っておいたら、  
「僕の『方天ガゲキ』が…」  
…とか言い出しかねんぞ、こいつ。  
 もう我慢ならん。いくら『アルカイの竜』とはいえ、  
思い上がった馬鹿を見過ごすわけにはいかん。  
帝国の規律をあずかる近衛兵団中隊長として!  
アースラは更にエスカレートしていく二人の睦み合いの現場にずん!と踏み込んだ。  
「え!?ア、アースラさんっ!?」  
 驚きのあまりニーナがリュウの側から飛びのいたので、アースラはリュウの『マンモにく』とやらを  
モロに拝む形になったが、構わずリュウの前まで歩を進める。  
「ア、アースラ?」  
「ほう…それが…そんなものが、『マンモにく』か…?」  
 ふ、と目を細め、『あれ』に使うために携えていた道具を取り出す。  
「え…め、『メガホン』?」  
 
『メガホン』…罵声を投げつけ敵を激昂させることで、  
 攻撃力を40%UPさせるかわりに防御力を40%DOWNさせるスキル。  
だが、帝国軍人たるアースラに使わせれば、より恐るべき効果をもたらす武器となるのである!  
「貴様のご自慢の『お宝』、私が鑑定してやる」  
 メガホンを構え息を吸い込み、視線に侮蔑と嘲笑をたっぷりこめて、  
リュウの股間に向けて言い放つ。  
 
『 や す に く (価格:20G) 』  
 
 ずでーん!と音を立てて突っ伏すリュウ。  
「ああっ!?リュウ!?リュウのアレが…まるでグミフロートみたいにフニャフニャにッ!?」  
 なんと、アースラの『メガホン』は一撃でリュウを(ある意味)戦闘不能にしてしまったのだ!  
そして、二人を尻目に今度こそその場を立ち去ると、アースラは再び散策を開始した。  
少しは溜飲が下がったものの、トータルで言えば気分は激しくマイナスだった。  
やはり、安眠の為にも『あれ』をせねば。  
 …そして、かなり歩いてしまったが、ようやくおあつらえの場所を見つけた。  
人気のない、見晴らしの良い高台。その端に立ち、帝都の方角に向けてメガホンを構える。  
寂しいとき、悲しいとき、ストレスが溜まったとき。アースラはいつもそうしてきた。  
もはや本人の前では使うことのなくなった、  
そう呼ぶことが許されなくなったあの言葉を、心の限り叫ぶのだ!  
 
『おじいさまあああああああああああぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜ッ!!」  
 
 …ふう、スッキリ。  
これできっと今夜は安らかに眠れる。さあ、明日もがんばろう!  
おじいさま、いえ、ルーン将軍!アースラは、きっと任務をやり遂げてみせます!  
(アースラの明日への気力大幅UP・ホームシック度ちょっぴりUP)  
 がんばれアースラ、ルーン将軍は君の帰りを待っているぞ!  
 死にかけだけど。  
 
おしまひ  
 

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