「ぁあ・・・!ん・・・はぁ!」  
 台所も、寝室も、居間も、玄関も、全て一緒くたの寂れた家に、  
 娘の切なげな嬌声が絶え間なく響く。  
「ロ、ロン、あんちゃん、もぅ、おら・・・!」  
 荒々しい出し入れの最中にもっともか弱い部分を擦り上げられ、  
 マミは細い喉を仰け反らせた。  
「やっ・・・!」  
 フォウルをくわえ込んだマミの小さな入り口は、強い快感に収縮を繰り返す。  
「もぉいやぁ・・・あぁ、これ以上は・・・!」  
「声が高いぞ、マミ」  
「だって・・・っ?ぁあ!」  
 巧みな律動に再びマミは跳ねた。  
 
 白い布団の上に黒髪を波打たせ、細い身体の何もかもをフォウルにさらけ出す。  
 フォウルから与えられる快感に戸惑いながらも悦びに震え、  
 幾分幼さの残る面を羞恥に染まらせる様は愛らしいことこの上ない。  
 日に日に快感に従順になっていくマミを、フォウルは艶やかな華が  
 徐々に咲き誇る様を見ているかのような、喜ばしい気持ちで見守っていた。  
 
 だが、そんな事を言っている余裕は今のフォウルにはない。  
 しっとり絡み捕らえて離さないマミの中は、熱に弱いフォウルには心地好すぎる。  
 無意識に腰の動きが早くなる。  
 マミの声はもはや泣き声に近い。  
 殊更強く打ち付けると、高まった思いと欲望をマミの内に解き放った。  
「っく・・・!!」  
「は・・・・・・・・・・っ!!」  
 腹の中に広がるフォウルの熱に、マミは声にならない悲鳴を上げる。  
 瞬間、二人の頭の中は、何もかもが真白になった。  
 
「マミ、マミ?」  
 繋がったまま気を失ったマミをフォウルは慌てて抱き起こす。  
 身体はグッタリと重く熱い。  
 どうしたものかと柄にもなく慌て、癒しの魔法を唱えようとした時、  
マミはゆっくり瞳を開けた。  
「・・・・」  
「あぁ、マミ、気が付いた・・・」  
 しばらくフォウルを凝視していたかと思うと、マミは愛らしい顔を苦しげに歪ませ、  
フォウルの頭を己の胸に引き寄せた。  
 これ以上ない情事をしたあとだというのに、胸の柔らかさにフォウルは顔に朱を走らせる。  
「ど、どうした!?」  
 ひどく狼狽えたフォウルの声にも気付かず、マミは声を殺して泣きだした。  
「・・・ロン!」  
 涙が頬を伝い、フォウルの銀の髪や、薄っぺらい布団の上に零れ落ちる。  
「・・・何を、泣く・・・」  
「痛い・・・」  
「・・・・・・」  
 掠れた訴えに、フォウルは押し黙る。  
 マミはついこの間まで男を知らなかった。  
 確かにまだ男女の営みを受け入れるには、マミの体は慣れてはいないかも知れないが、  
こんな風にさも辛そうに泣くなど初夜でも無かった。  
 何か無理な事でもしたかと先の行為を思い返すが、とんと思い当たらない。  
 
「私は、何かお前に無体を強いたか・・・?」  
 男と女。  
 人と竜。  
 全てに置いて自分達は作りが違う。  
 自分でも気付かぬ内に厳しく責め立ててしまったのだろう。  
 ・・・いや、違う!  
 マミは「もういや」だと言っていたではないか!  
 それをよがりと思い、フォウルは強引に続けてしまった。  
「すまない・・・」  
 後悔が胸を突き刺す。情けなさに声が揺れる。  
「もうマミが厭がることはしない。・・・今日は終いにしよう」  
 愚かにもまだ猛っている己を引き抜こうと体を動かした時、マミの手が動いた。  
「・・・馬鹿!」  
 二人繋がって初めて完成された身体のように、  
引き離されまいとフォウルの傷だらけの身体を強く強く抱き締める。   
「どうしてそんなに優しいんだ、あんたは?」  
「・・・優しい?」  
「ヒトなんて、あんたが少し手を振り下ろすだけで、簡単に消せるじゃねぇか!  
おらの身体だって、あんた自分の好き勝手に出来るだろ?なんでそれをしねぇ?」  
「・・・マミ?何を言っている?」   
 
 二人が真白になったその時に、何の不思議の力が働いたのか、  
フォウルの記憶がマミの内へと流れ込んできた。  
 そしてその記憶に付随する、数多の感情・・・  
 
   
 イタイ アツイ コワイ ツライ カナシイ セツナイ ニクイ   
 
   
 
 あんな思いをしておきながら、この人は、最期の最期、  
最も深い所で、寂しげに優しげに囁くのだ。  
 
 ・・・イトオシイ  
 
 と。  
 
 それでもヒトが愛おしい、と。  
 
 それがとてもマミには痛い。  
 
 この優しい人を悲しませるヒトである自分が、痛い。  
 
 
 堪らずマミはフォウルの体を抱き締める。  
 これ以上彼に痛みがないように、  
 これ以上彼に辛いことがないように・・・  
「・・・痛い・・・お前さまの傷が痛いんだ・・・」  
 
「マミ・・・」   
 フォウルも、マミのが何を言いたいのかようやく気付いたようだ。  
 子供をあやすように、黒髪を上から下へと何度も何度も撫でる。   
「私は痛くなどない。・・・もう」  
 柔らかな胸から顔を上げ、常に悲痛な光の浮かぶ翡翠の瞳を、  
ごく小さくだが和らげた。唇も少し微笑んでいたのではないのだろうか?  
 幸せに微笑むなどした事がなかったから、自分でもどんな顔になっているかは分からないが。  
「お前が私の傷を癒してくれたから、もう痛みはない」  
 全身にうっすら残る引きつれた火傷の痕を、マミは見つめる。  
「身体の傷の事ではないよ、マミ」  
 もちろん身体の傷を癒してくれた事にも言い尽くせない程の感謝しているが、  
今フォウルがマミに伝えねばならぬのは、もっと大事な事。  
「心の傷は、全てマミが癒してくれた」  
 激しい痛みも、永い孤独も、引き裂かれるような憎しみの何もかもを、  
 マミがその心で癒してくれた。  
「・・・だから、ヒトを愛していられる」  
 ヒトに付けられた痛みなどとうに忘れた、と瞳は語る。  
 それはヒトに、マミによって癒されたのだから、今は痛みよりもむしろ愛しいのだと。  
 
「愛している」  
「フォウ・・・」  
「マミを、愛している」   
 穏やかな笑顔を顔一杯に浮かばせ、フォウルはマミの唇を静かに啄んだ。  
 閉じたマミの目の端から、先とは全く違う涙が次々滑り落ちていく。  
 
 フォウルの口付けを受けながら、マミはぼんやりとした思考の中で誓う。  
 
 この人を愛し抜こうと。  
 
 愛することには慣れていても、愛されることに慣れていない、  
 この優しくて傷付きやすくて不器用なこの人を、生きている限り愛し抜こうと。  
 
 全ての痛みから守り抜こうと。  
 
   
 
 
 
 
 
 
「・・・ところでもう動いても良いか・・・」  
「ばか」  

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