「ねえ,リュウちゃん」
久し振りに共同体に戻ってきた日,リュウはディースに呼び止められた。
「何ですか?」
「あんた今,ききみみずきん持ってるかい?」
「はい,持ってますけど…」
何故そんなことを聞かれるのかと首をかしげるリュウに,ディースはいつもの調子で言った。
「あのでっかい鳥なんだけどさ,何か言いたがってるよ。ホラ」
顎で示す方向を見ると,つい先日に大鳥となったミイナがこちらの方をじっと見つめている。
「…聞いてあげな」
微笑んでそれだけ言うと,彼女は建物の中へ消えていった。
(ミイナが?一体,何を…?)
その足元へ歩いて行きながら,リュウは思い出していた。
あの日。
自ら儀式の間の扉を閉ざし,翼のあかしを手にとったミイナを,リュウたちは止めることが出来なかった。
それは,翼持つウィンディアの兵士たちも,王や王妃も,姉であるニーナさえも例外では無かった。
「ミイナ!!ここを開けて!!ミイナ!!!」
扉にすがり,懸命に叫ぶニーナの声も虚しく,彼女は空に身を置くことを選んだ。
何もかもを捨てて,姉の代わりに―。
ニーナにとってミイナは,最愛の妹だった筈だ。その悲しみは計り知れないものであっただろうに,仲間たちの前で気丈に振舞うニーナが,リュウには痛々しく思えてならなかった。
「…リュウさん」
ききみみずきんを被って鳥の前に立ったリュウの耳に聞こえてきたのは,紛れも無いあの少女の声。
「あの,お願いが…あるんです」
「…お願い…?」
「はい。ねえさまに,伝えて頂きたいのです。ミイナは,ねえさまの代わりに翼のあかしを使ったのでは無いのだと。…自分自身で,選んだ道なのだと」
「…!!」
(でも…じゃあ,彼女は望んで全てを捨てたというのか…!?)
リュウのその疑問に答えるかのように,美しい鳥はかすかに頷いた。
「ねえさまはきっと,私がこうなったのを,全部ご自分のせいだと思ってる…きっと気に病んでいらっしゃると思うのです。でも違うの。ねえさまは何も悪くないんです」
「ミイナ…」
「私,初めてだったんです,自分の力で考えて自分の力で決断したことが。だから私,自分が決めたことに誇りを持っています。
もしも誰かがあの瞬間に戻してやるって言ったって,きっとまた同じ道を選ぶわ。だから…
ミイナは,けして不幸では無いと…伝えて欲しいのです…」
「…解った」
リュウは,ミイナに笑いかけながら,力強く答えた。
「必ず,伝えるよ」
リュウはニーナの部屋の前に立った。
「ニーナ?」
遠慮がちに扉を叩くが,返事は無い。だが,鍵は掛かっていない様だった。
(あれ…?)
不思議に思ってそっと中を覗くと,ベッドに座っている人影が見えた。顔を両手で覆い,深く俯いている。
そして,微かに聞こえてくる,紛れも無い―嗚咽。
彼女は泣いていた。
今まで決して弱音など吐いたことの無い彼女が。
いつも凛として,常に真っ直ぐ前を見つめている,あのニーナが。
(…ずっと独りで泣いていたのか…?)
そう思うと堪らなくなった。
そっと扉を閉め,ニーナの隣に座ると,リュウはその震える肩を優しく抱く。
「…!」
自分の他に人がいることなど全然気付いていなかったニーナは,びくんとして顔を上げた。
その美しい瞳に溢れる,透明な涙。
「…リュウ…」
「ごめん,ノックはしたんだけど,返事が無かったから…」
「…ごめんなさい,気付かなくて…それに,変なとこ見せちゃって…
ありがとう,もう大丈夫」
いつもの,あの笑顔。
涙を湛えたままの。
―不意に,自分も泣き出したいような激情に駆られて,リュウは一瞬自分の唇と彼女のそれとを重ね,そのままニーナを抱き締めた。
「…無理するな…」
「…リュウ…」
腕の中のニーナが掠れた声で囁くのには答えず,リュウはその腕に優しく力を込めた…。
人に抱き締められるなんて,一体何年振りだろう。
ふとそんなことを思ったニーナの眼から,再び涙が零れ始めた。
リュウの胸に顔を埋め,声を殺して泣く。
自分を抱き締めてくれている,その暖かさに安堵を覚えながら…
「…私…ミイナにだけは笑っていて欲しかったのに…!
何であの時止められなかったんだろう…あの子…
私の代わりに全てを捨ててしまった…!」
途切れ途切れに,黒翼の王女は自分の心中を吐露し始めた。
おそらく未だ誰にも語ったことのない,その胸の内を。
「リュウ…私やっぱり呪われた存在なのかもしれない…
ミイナからは未来を奪って…ウインディアからはミイナを奪って…
もしこのまま此処にいて,リュウや皆が不幸になるようなことがあったら…っ!」
みなまで言い終わらぬうちに,リュウの唇がニーナの唇を塞いだ。先程とは違って,もっと強く―。
熱いものがニーナの口内にゆっくりと侵入し,彼女の舌を絡め取る。
「…ん…っ!」
微かに声が上がる。
その声を聞いたリュウは,さらに激しくニーナの口内を蹂躙していった。
ちゅっ…くちゅっ…
淫らな音が混じり始める。
「…んっ…ん…っ」
たっぷりとその感触を味わってから,ようやくリュウは唇を離した。
「…―自分が選んだことだ,その選択に誇りを持ってる,って。
だからニーナが心苦しく思う必要は無いって。
そう伝えてくれって,さっきミイナに頼まれた」
腕の中にニーナを閉じ込めたまま,リュウは静かに言った。
「―!!どうして…」
「ききみみずきんだよ」
後で話しておいでよ,と笑い,それに―と付け加える。
「もしニーナがいなくなったら,俺…困るよ」
どくん。
面白いくらい鼓動が高くなったのが,自分でも解った。
「…どうして…?」
「いや…あの…さ」
流石に照れ臭くなったのか,リュウはもにょもにょと口ごもった。
しかし,自分を見つめているニーナの視線に気付くと,低い声で,しかし,はっきりと囁いた。
「俺は,ニーナがいなくなるのなんて,絶対に嫌だよ」
先程とは違う涙が溢れてくるのをこらえることが出来ずに,ニーナはリュウの胸に顔を埋めた。
涙が止まらなかった。
リュウが――他の誰でもなく,リュウが。
他でもない,自分を必要としてくれたことが。
それが,ただ嬉しかった。
「…ありがとう…リュウ…」
「ニーナ…」
涙がリュウの胸を濡らしていく。
肩を震わせるニーナを抱き締めているうちに,リュウは自分の感情を抑えることができなくなっていた。
無言で,でもそっと,彼女をベッドの上に押し倒す。
驚いたように自分を見上げてくるその瞳を真っ向から受け止めて,聞いた。
「俺が…怖い?」
短い沈黙のあと,やっとその言葉の意味するところを察したのか,ニーナは頬を朱く染め――首を振った。
パチッ…
ニーナの身体を抱き締めながら,リュウは彼女の服の止め具を外していく。ブーツも飾りも取り,最後にベルトを外すと,ニーナの身体を覆っている服が僅かに流れた。
背中に両手を回し,ファスナーを腰の辺りまで引き下げる。ふわりと空色の服が緩み,白く細い首筋が露わになる。
引き寄せられるように唇を寄せ,優しく滑らせると,
「あ…」
ニーナが微かな声を上げた。
リュウの掌が,緩んだ服の上から胸をまさぐり始める。程無く探り当てたその膨らみは,服を通してさえも柔らかい。
服越しとはいえ胸を触られて,ニーナの身体はぴくん,と動いた。リュウの唇がだんだん下に降りてくる。それにつれて服も身体の上を滑り,白い肌が見えていく。
熱い掌が,服を押し分けてきて直接膨らみに触れた。と同時に,既にその頂きに引っ掛かっているだけの状態だった服が腰の辺りまで下ろされる。
「あ…っ!」
ふるん,とばかりに豊かな乳房が露わになった。真っ白い双丘が描く優しい曲線の頂きに,淡いピンクに染まった突起が控えめに顔を出していた。
「リュ…リュウ…」
自分の腕の中で上半身をはだけ,真っ赤になって俯くニーナが堪らなく綺麗で,それ以上に愛しく思えて――。
リュウは自分の身体が熱を帯びるのを感じた。
両手でその乳房を優しく揉みしだく。
「あっ…はあっ…」
双丘が手の中で柔らかく弾み,先端の突起が更に硬さを増す。それ故に掌に生じる感覚が心地良い。
片方の手はそのままで,リュウは色付いたその乳首を口に含んだ。
舌で優しく包み,そっと転がして舐め上げる。
「んっ…あっ…あぁ…っ!」
全身に甘い痺れが走り,思わず声が洩れる。
今までに感じたことの無い感覚に戸惑い,無意識に身を捩ろうとするニーナの手首を,リュウの手がそっと掴み,ベッドに押し付けた。
自分に向かって差し出される格好になった胸の先端を,舌で舐め,唇で吸い上げ…丹念に愛撫を繰り返す。
「はあっ…あぁっ…あん…っ」
身体中を駆け巡る感覚に翻弄されながら,ニーナは喘いだ。
――全身の力が抜けていく。
その様子を見ると,リュウはニーナの手首を抑えていた手を放し,乳首に舌を絡めたまま,激しく乳房を揉み始めた。
「や…ん…っあ…あ…っ!!」
高まるニーナの声に応える様に,彼女の全身を愛撫しながら残っていた服を脱がせていく。
「っ…んっ…あぁぁ…」
ぱさっ…
美しい爪先から服が落ち,そこに残ったのは,
一糸纏わぬ姿の,黒翼の姫君ニーナであった――。
「リュウ…」
甘い痺れの余韻で,未だ動くこともできずにいるニーナの姿に,リュウはその場に立ち尽くし,思わず見とれていた。
その表情も,その白い裸身も,その黒い翼も――
全てが,怖いくらい綺麗だ,そう思った。
「…リュウ…」
掠れた声が,切なげに自分の名を紡いでいる。
「…嫌…離れないで…」
その唇は甘い吐息を繰り返し,先程までの愛撫に潤んだ瞳が無意識にリュウを求めていた。
――思わず,身体が動いた。
自らの服を脱ぎ捨てると,ニーナの膝の間に割り込み,両側に大きく開く。
「…!」
ビクッとニーナの身体が反応し,しっとりと濡れそぼった秘所が,リュウの眼前に晒された。
震えるその場所に優しく口を付ける。
ちゅっ…
その口付けに応えて,そこを濡らしている蜜が微かに淫らな音を立てる。
「あ…はん…っ…ま,待って…そんな…とこ…っ!」
「嫌だ。待てない」
言いながら,リュウの舌は秘裂の中にある淡紅色の突起を探り当て,それを優しく絡め取った。
「…っきゃぁ…っ!!」
途端にニーナの身体が跳ねた。
ほんの僅かに触れられただけの筈なのに,鋭い刺激が彼女を翻弄する。
「ニーナ…すごく,可愛い…」
そう言って,リュウは更にそこを舌全体に滑らせ,包み込んで愛撫する。
「くぅんっ…あはぁ…っ…やんっ…あぁぁ…っ!!」
悶えるニーナを舌で弄びながら,リュウは蜜の溢れてくる場所へ指を滑らせ,ゆっくりと中に差し入れた。
「ああ…!!」
既に十分に濡れていたそこは,するりとリュウの指を受け入れた。
熱い感触がリュウの指を包む。
指一本だけの筈なのに,ニーナのそこは,それさえも絡み付く様に締め付けてきた。
(ニーナのここに…俺のが…?)
いきり立った自分の分身をそこに挿れることを想像すると,いてもたってもいられなくなった。
苦しい位に,鼓動が早まる。
「ニーナ…」
リュウは,既に痛いほどに天を向いているそれを,ニーナの内腿に押し付けた。
「あ…」
その生々しい存在感に,ニーナの胸も早鐘を打ち始める。
「ごめん…もう我慢できそうにない…」
抱き締めて,耳に口を付けて囁く。
「――ニーナが欲しい…!!」
「ん…っ!」
その熱い吐息に,思わずニーナは身体を震わせた。
自分に向かって紡がれたその言葉に,自分自身もまた同じ様にリュウを欲していることを思い知る。
「うん…リュウ,来て…お願い…!」
切れ切れにその願いを口にすると,リュウは大きく頷き,猛ったそれをニーナの入り口にあてがった。
「…痛かったら言ってくれよ…?」
微かに頷くニーナを確認してから,リュウはゆっくりと侵入を開始した。
…ちゅくっ…
先端が入っていく。
「くぅっ…ああぁ…っ!」
指とは比べ物にならない程の大きさのそれが自分の中を押し開いていく感触に,思わずニーナは声を上げた。
「…辛い?」
優しく問う声に硬く閉じた眼を開くと,目の前にリュウの心配そうな顔があった。
半分入りかけた格好で,それでも自分を気遣ってくれている――。
涙がまた零れそうになる。
「ううん…大丈夫。痛くないわけじゃないけど…ひとつになれるのが嬉しい…」
そう言ってはにかむ笑顔は,もう,以前のどこか痛いようなものでは無かった。
その事が嬉しくて,そう言って笑う彼女がいとおしくて――。
「…ありがとう」
軽くキスをして,リュウは再びニーナの中を進み始めた。
「くぅ…っ!」
絡みつき締まってくるその感触に,リュウの声が洩れる。
(す,凄い…!!)
もっと奥まで進みたい,もっと。
欲望のままに,自身を前に押し出していく。
「は…っん!」
白い腕が首にしがみ付いてくる。しなやかな背中がのけぞった。その背をかき抱き,胸に頬を押し付けながら,リュウは自身を全てニーナの中に埋め込んだ――
はぁっ…はあっ…
荒い息をついて,熱い身体を抱き締め合いながら,二人は暫く黙っていた。
聞こえるのは,互いの吐息と鼓動のみ。
静寂の中で存在を確かめ合いながら,しかし…甘い疼きが込み上げてくるのを抑えることができない。
「…動いても大丈夫…?」
ついに沈黙を破り,リュウが口を開いた。
「うん…」
しがみつく手に,きゅっと力が籠もる。
――リュウは,一番深いその場所で小刻みに腰を動かし始めた。
「う…っあぁ…っ!」
痛がらせないように少しづつ動き始めたつもりだったが,たったそれだけの動きでも,ひどく狭いニーナの内部は敏感に反応を返してくる。
「くっ…う…」
熱い内壁にそれを擦り付ける感触が堪らない。無意識に腰の振れ幅が大きくなっていく。
「あん…っ…はあ…んっ!」
ニーナの声にも,徐々に苦痛とは違う喘ぎが混ざり始めた。
既に自分を抑えるのが限界に来ていたリュウは,その声を聞くと,我を忘れて激しく腰を打ちつけ始めた。
「あぁぁ…っ!!」
ニーナがひときわ高い声で鳴いた場所を捕らえ,そこを夢中で何度も突き上げる。
「あっ…ああっ…リュウ…っ!!」
「ごめんニーナ…っ!俺,もう…っ!!」
びくんっ…びゅくっ…びゅくっ…
リュウのそれがニーナの中で一瞬膨れ上がったかと思うと,微かに震えながら大量の白濁液を放った。
「あぁぁっ…!!」
その放出を感じて声を上げ,のけぞったニーナを,リュウはつよく抱き締め,己のそれが硬度を失う時まで放そうとしなかった――。
「あのさ,ニーナ。もし,全部終わったら…」
裸のまま二人でベッドに横たわりながら,リュウは腕の中のニーナに言う。
「…ミイナを元に戻す方法を一緒に探しに行こう」
まぁ,言わなくても独りで探しにいくつもりだったんだろうけど,と笑いながら付け加える。
「ほ,本当…?一緒に来てくれるの…?」
「もちろん。世界は広いんだから,絶対何か方法があると思う」
リュウがその言葉を言い終わらないうちに,ニーナは静かに泣き出した。
何か方法がある。
それは今までに何度も自分で自分に言い聞かせてきた筈の,しかしどこか諦めていた筈の言葉だったから。
それをリュウが今口にしてくれた。
目の前が明るくなった様な気がした。
「――ありがとう…すごく,嬉しい…!!」
リュウの手が,彼女をそっと抱き寄せる。
そしてそのままいつしか,二人は夢に落ちていった――