2、犬と猿  
 
 その日は、休日だった。  
 人と会う約束をしていたのを思い出し、早々にベッドから降りて身だしなみを整える。  
「ウム! 悪くない」  
 部屋を出ると、厭な奴の姿があった。宿舎の正面出入口方向から歩いてくるそいつは、  
癖のある髪を肩まで伸ばし揺らしながら歩き近づいてくる。  
”無視だ。さっさと通り抜けよう”  
 僕は足早になる。だのに、  
「貴様! こんな早くからめかしこんで何処へ行く?」  
 奴が、アーネストの方が話し掛けてきたのだ。  
「お前に関係ない!」  
「確かにそうだが気にはなる。さては女か?」  
 言ってからアーネストは「ふふん!」と鼻で笑った。  
”これ以上相手をしていられるか……”  
 僕は黙って1歩、足を出す。  
 その時だ。女物の香の匂いが僕の鼻を付いた。アーネストからだ。  
”人の事を言えたものかよ。自分だって女と会っていたんだろうに”  
 今度は僕が「ふん!」と鼻を鳴らして玄関方向へと歩いた。脳裏に残るアーネストの  
顔を振り払うため、早足で、だ。が、それがまずかった。  
 ドスン!  
「きゃっ!」  
 外に出た瞬間、人にぶつかった。女だった。  
 緑髪のメイド服姿。確か、リュア=ローウェルと言ったか?  
「ああ……悪い。余所見をしていたよ、御免。謝る」  
「いいえ……私の方こそ」  
 お互い、軽く頭を下げて歩き出そうとした。その時、  
”匂いが……これって”  
 リュアの付けている香。それは間違い無く、先程アーネストから発せられた物と、同  
じだった。  
 
 良く見ると、リュアの服は朝の仕事前にしてはシワが多く見える。  
”まさか、二人は出来ているのか?”  
「どうか……しましたか? カーライルさん?」  
 その声で、はっ、と意識を戻される。  
「い、いいや、何でも。とにかく、お互い気をつけて歩こう」  
 僕は歩き出す。アーネストに対する嫉妬心が湧き上がるのを感じながら。  
*  
「おおお! 中々の業物……」  
 目の前にかざした刀身が光りを受け眩しく輝いているのを見て、僕は感嘆の声をあげ  
る。  
 が、行儀悪くカウンターに腰掛ける少女は、  
「お兄ちゃん……。何言ってるんだよ。自分が持ち込んだのを、うちで研いだだけじゃ  
ない! だったら、もともといい持ち物だったって事?」  
「水を差すなよ! こういう遊びに付き合う心の広さを持ってもらいたいね、テスぐら  
いの年頃にはさ」   
「子供だって言いたいの?」  
「さあって……? どうかな」  
 ここまでのやりとりを読んでいただければお分かりと思うが、ここは城下町にある鍛  
冶屋(兼武具屋)だ。僕は、そこに預けておいた得物を引き取りに着ており、その応対  
をしているのが主人の娘であるテス=アールグレイだ。  
 代金をカウンターに放り投げて、  
「じゃあな」  
「えっ!帰っちゃうの? お代、足りてない」  
「そんな事ないだろう」  
 硬貨を指で集め数える。丁度だが……。  
「本当鈍いなぁ、お兄ちゃんは。こっちの方だよ」  
 テスはカウンターから勢い良く降りてから僕の腕に絡み付き、胸を押しつけた。  
"小さいな……" と思う。だが、それがいい。  
「ああ! わかった、しよう」  
 僕は頷きテスをお姫さま抱っこする。  
「今日、父さん帰ってくるの遅いからいっぱい楽しめるよ」  
 テスがはにかんだ。  
 
 隣にある鍛冶場に移動して、テスの服を脱がす。  
「えぇっ! ここでするの?」  
「何かまずいか?」  
 表の通りからは、ここは奥だ。見られたり声が漏れたりはしまい。ところが、  
「神様が見てるんだもん……」  
 神棚を指して言う。  
”やれやれ。変に信心深いな”  
「だったら、祝福されていると思えばいい」  
「あっ! そうか」  
 テスが納得したところで、彼女を鉄を打つのに使う台に寝かせる。  
ひんやり――。手の甲が台に触れて、熱が奪われる。  
「あ……ん。冷たいや」  
「すぐに温かくなるさ」  
 テスの全身に、キスの雨を降らせる。  
「はぁん! あぁぁん! くすぐったい、お兄ちゃん! あぁぁっ!」  
 ぽぉぉ、と、テスの体に赤みが増す。  
 ちゅぱ、ちゅぱ、ちゅぱ――。普段は、鋼が鍛えられる音が発せられる男の仕事場に  
今は、男女の愛し合う音が響いている。  
「やられっぱなしなのも、しゃくなんだよね。……お兄ちゃんの、剣、鍛えてあげる」  
 テスの指が僕の逸物に絡む。そして、しごき始めた。その手つきは、拙い。  
「ねえ……気持ちいい? 大きく、なんないね。良くないのかな?」  
「鉄は熱いうちに打つもんだろ? まず、テスの炉で、熱してくれよ!」  
「炉……? うぷっ! うぐ……!」  
 疑問顔のテス。その口の中に、僕は逸物をねじ込む。  
 突然の挿入に、初めは拒否反応を示したテスだが、目を閉じしばらくじっと耐えた後  
もごもご、と口を動かし始めた。テスの口内が与える温もりとねちっこい絡みで、僕の  
逸物は硬く、大きく、なっていく。テスは、そこで一旦、咥えるのを止め逸物から顔を  
離して僕を見上げる。逸物の先端とテスの唇が、弧を描く透明な液で繋がっている。先  
走りと唾液が交じり合った液、だ。  
「まだだ。まだ、熱が足りないよ」  
 見上げるテスは、黙って頷いた後、もう一度逸物を咥える。  
 今度は、より激しく。彼女は、その小さな体を大きく揺らして懸命に口攻を続ける。  
 
舌を巻きつけるように伸ばし、すぼめる。じゅぼ、じゅぼぼ。唾液と空気が摩れる音が  
する。それが、何度となく繰り返されて、僕の逸物はかちんかちんに固まって痺れが走  
る。  
 びくん! 一瞬、僕の腰が大きく跳ねた。テスの目が見開かれる。  
「出すよ、テス!」  
 返事を待たず、テスの頭を押さえつけて僕は腰を振る。  
「うっ! うっ! うぐぐっ!!」  
 強引な攻めでテスの目尻に涙が浮かんだ。  
 テスの喉の奥に逸物のくびれが引っかかった。ことで、僕に限界が来た。  
 口内に射精した。大量に注がれる精液で、テスの頬が膨らむ。が、彼女は堪えて、少  
しずつ飲んでいく。喉が鳴る。鼻息が陰毛に掛かり、くすぐったい。膨らんだ頬がしぼ  
んでいく。最後に、一際大きく喉を鳴らしてテスは僕の出した物を全て飲み干した。  
「んぅ……んふぅ……はぁはぁ。疲れたぁ。沢山出すんだもん」  
「少し、払いすぎたかな。代金?」  
「う〜ん? まだまだ。今度はこっち……」  
 と、お腹をなぞる。  
「それにさ、鉄を鍛えるには、熱した後叩いて引き伸ばすして水で冷やす。それを繰り  
返すんだ。だから終わってないよ……」  
 言いながら、テスは逸物を軽く握って一しごきし、そして愉快そうに笑った。  
*  
 第二回戦でのテスは凄かった。僕は、始終ベッドの上で仰向けになって彼女の鍛冶作  
業を受け続けた。全身が汗や汁まみれになった後、二人で風呂に入った。それはテス風  
に言えば『水で冷やす』ということだろう。テスの家を出る頃には、時刻はもう正午を  
過ぎていた。  
 今、僕は通りを歩いている。午後の日差しは、激しい交わりで疲れきった体には酷は  
ものだった。  
「腹が減ったな……」  
 どこかで外食をするか、それとも部屋に戻って自炊するか。外食なら銀鷹亭だろう。  
看板娘ローラのふくよかな胸を想像し、僕はにやりと笑う。懐から財布を取り出し、中  
を確認する。  
「……給料日前だったな。すっぴんだ」  
 給料の殆どは、女の子に渡すプレゼント代となって消えるのだ。『給料日前』と言う  
のは、格好付けに過ぎない。が、現金が無いという事実は変えようもない。自然、僕の  
足は城の方へと向かった。  
 
 宿舎の玄関をくぐろうとしたその時、  
「止めてください! 私はっ! ……いやぁ」  
「貴方の家が、金に困っているのは知っている。だから、それを円満に解決しようと言  
うのだ!!」  
 声がした。女と男が、言い争っている風な。方向は、宿舎の裏手、馬小屋の方か?   
僕は、気になってそちらへと小走りに駆けた。  
 見えた。木を背にした女。男の方は女の腕を掴み木に押し付け、喚いている。  
「豪商の我が家と貴族の貴方の家の縁組だ。こんないい話は無い。  
 あわよくば、国政のトップに立つ事だって出来るっ!」  
「貴方はっ!? 私を愛して、縁談を語っているわけではないのでしょう?   
 私の家の、メイクリル家の名前が欲しいだけ……」  
「名前が欲しくて何が悪いか! 金を稼ぐしか出来ない卑しい仕事と蔑まれる商人の一  
族の気持ちが、花よ蝶よと育てられる貴族に分かる物かよーっ!!」  
 激昂する男は、アーネストだ。奴め、何を熱くなってるんだか。ただただ冷静にアー  
ネストを諌めている女は、アリアナ=メイクリル。病弱な読書好き少女。  
 しかし、アーネストめ。朝にはリュアで昼はアリアナさんとは手が早い。が、どうも  
穏やかな感じではない。あれではアリアナさんが、一方的に攻撃されているようなもん  
だ。  
 
「俺が複数の女に手を出すのはいいが、俺以外が複数の女に手を出すのは許さん!」  
 僕は荒っぽい言葉で、独りごちてから二人に近づいて声を掛けた。  
 
「おーい! アーネスト、何やってるんだお前? おや、アリアナさん。ご機嫌麗しゅ  
う。おいおい、アーネスト。お前も隅に置けないね。朝はリュアに会って、今はアリア  
ナ――」  
「――だ ま れ っ!!!」  
 気分を害した、と言わんばかりにアーネストは大きく短く言ってから足早に去ってい  
く。が、途中立ち止まり、振り向き、  
「メイクリル嬢。今の話は、よく考えておいて貰いたい……」  
 
 言い終えてから、再び歩き出し消えた。  
「なんなんだか。で、アリアナさん? あいつと何を話していたんです?」  
「……カーライルさん。彼を追い払ってくれたのは嬉しいんですが、言えません」  
「なら、別にいいんですけど」  
 僕はふと、アリアナさんを”誘おう”と、思った。アーネストへの対抗心からか?  
「アリアナさん、お昼ご飯まだですか?」  
「えっ? お食事ですか? はい、朝食べたっきりで」  
「だったら、一緒にどうです? 僕の手料理を」  
 つまり、『俺の部屋に来い』と言う事だ。  
*  
 コゲ臭い質素な昼食を取った後で、僕はアリアナさんを求めた。つまり、その……  
彼女をも食べたくなったのだ。そして彼女は応えてくれた。が、これは極めて単純に事  
態を言葉にしただけである。実際は様々なやり取りがあったのだが、それはここでは省  
略させて貰う。  
 アリアナさんは、黙って服のボタンを外している。普段ならどうということも無い事  
だろうに、やけに動きがぎこちない。  
「手伝いましょうか?」  
 返事を聞かず、僕はアリアナさんの手に手を重ねる。小さくて滑らかな肌。重なった  
手を動かし、器用にボタンを外していく。上着を取り、次はスカート。アリアナさんの  
下着姿が目の前に広がる。白の下着だ。眩しい。  
「下着を、取ります!」  
 その言葉にもアリアナさんは黙ったままだ。頬を染め、上向きに視線を逸らしている。  
ホックを指で弾くと、締め付ける力を失ったブラが落ちて胸が露になった。小ぶりだが  
形が良い。乳首が、僅かに膨らんだように見えた。  
 口内にツバを溜めてから、アリアナさんの乳首に吸い付く。舌を使いこね回す。噛ん  
でみる。優しくだ。  
「ふあっ! ああぁぁっ!! 胸を……噛まないでぇ」  
 ようやく、高い叫びを上げるアリアナさん。だが、僕はそのお願いを無視しもう一方  
の乳首にも噛み付く。アリアナさんは、また「ひいぃっ」と叫んだ。  
 胸への攻めを続けながら、パンツを履いたままの股間に手を伸ばす。布地越しでもふ  
わっと生える陰毛の柔らかさが分かる。そしてそこには、僅かに湿り気があった。アリ  
アナさんは、濡らしていた。今、この時も絶える事なく彼女の汁が溢れてくる。  
 
「や、やめてください。恥ずかしいっ! 抱くのなら、早くして……!」  
「何か……自棄に、焦っているように、思えますが?」  
 僕は疑問を口にする。  
「恥ずかしいから、早く終わらせたいと、それだけです……」  
 アリアナさんの答えに納得はいかないが、僕は彼女を楽にさせる事にした。  
 最後に残ったパンツを下ろす。  
「つ、冷たい……」  
 アリアナさんがぽつり、と漏らす。濡れた股間に空気が触れたからだろう。  
 僕は、アリアナさんの溢れ出る泉にしゃぶりつく。彼女の匂いが鼻を突く。様々な体  
液が交じり合った匂いだ。嫌な感じは、しない。秘所の縁を舌でなぞり、頂にある珠を  
つん、と突く。  
「ひぃっ! あぅ……。やめて、体が、震えるっ!」  
 アリアナさんの手が僕の頭を押さえる。舌を遠ざけようとしてか、より求めてなのか  
……。どちらにしても、僕はまだ止める気はない。  
”舌で、一度逝かせる!”  
 そのために、舌を秘所の中に入れ内側をかき回す。  
「あ、ああっ! ああん、カーライルさんっ! 私、私ぃっ……!!」  
 アリアナさんの全身が大きく痙攣し、そして、  
 ぶしゃっ! ぶしゅぶしゅっ! しゃ〜  
 汐が噴出し、僕の顔から腹の辺りまで飛び、汚した。  
”服……、染みになっちゃうかな?”  
「あぁ……あぁぁ。なんてこと。私、粗相を……」  
 眩暈を覚えたようにふらつくアリアナさん。僕は立ち上がり、彼女を支える。気を失  
ってはいない。が、彼女は疲れたのだろう。目を瞑ったまま荒い息を立て僕の胸にもた  
れかかっている。アリアナさんをベッドに寝かせてから、僕は服を手早く脱いで全裸と  
なる。汚れた服は洗濯籠に放り込んだ。  
 
 午後の赤味かかった光りの下で、アリアナさんの白い肌は、透き通るように映えてい  
た。  
 僕はベッドで横になっている彼女のそばに腰を下ろし  
「起きていますか?」  
 と、アリアナさんの肩を軽く揺すった。  
 
「はい、どうにか」  
 彼女の答えは、少し力無い。  
「これを、貴方の中に入れます!」  
 僕は半ば勃起した物をアリアナさんの顔前にさらした。  
「これが、殿方の持ち物……」  
「そうです。これが"男"です。でも、準備が整っていない。手伝って下さい」  
「どうすれば?」  
「ですから、手を」  
 アリアナさんの手首を掴む。そして彼女に僕の逸物を触らせる。  
「ひいっ!?」  
「落ち着いて。ゆっくり優しくして下さい。そう。それから前後に動かして」  
 しゅる! しゅる! しゅる!  
 おっかなびっくり、アリアナさんは手を動かす。深窓の令嬢、という言葉がぴったり  
の彼女の手こきは、僕の興奮を煽るに十分だった。  
「あっ! これ、硬くなってきましたよ……。いいんでしょうか?」   
「う、うん! はい、準備は出来ました」  
「少し、名残惜しい。不思議ですけど……」  
 逸物を包んでいたアリアナさんの手が離れる。僕は彼女に覆いかぶさり、足を開かせ  
る。僕の腿がアリアナさんの秘所に触れる。洪水――と、言うほどに濡れている。初め  
てでも楽に入りそうだ。首筋や肩のラインにキスをしたり舌を這わせるなど、アリアナ  
さんの気を紛らわせながら、逸物を秘所に近づけて――ズチュッ。亀頭の埋まる音が響  
いた。  
「入ったんでしょうか?」  
「先っぽだけです、まだ」  
 口での攻めと逸物の挿入を再開する。ずずずっ、ず、ず、ずっ! 逸物が深く埋まっ  
ていく。アリアナさんが、短い悲鳴を上げ苦しげに目を瞑る。  
「ひぃっ! いっ! ……い、ぐぅ」  
 全身に力が入ったか? 締め付けがきつくなる。腰を少し引く。すると締めが緩まり  
もう一度腰を突く。それを繰り返し、三歩進んで二歩下がるように、少しずつ奥へと進  
んでいく。こつん、と振動が伝わった気がした。最も奥に達したようだ。  
「はぁはぁはぁ、はっはっはっ……」  
 アリアナさんの息は荒い。初めは短く多く、やがて長く少なく呼吸し落ち着く。それ  
を図ってから、僕は動きを再開する。  
「あぁぁ! カーライルさん、私の中で貴方の物が擦れているのが分かる」  
「僕も、貴方の中が絡み付いてくるのが分かる。気持ちいいんだ!」  
 僕とアリアナさん。どちらもお互いの名を呼びながら求め合う。やがて体位を変え、  
対面座位で繋がる。僕は下から突き上げ、彼女はそれに併せるよう全身を揺らした。  
”凄いな……。アリアナさんて、激しい女なんだ……”  
 目の前で上下する女の痴態に僕の興奮は抑えきれなくなる。と、ドクン! アリアナ  
さんの中で逝った。その直後、彼女は僕に抱きつき精を懸命に受け止め、やがて力無く  
横になった。  
 
 事が終わってから、二人一緒にベッドで眠った。  
 目が覚めて横を見る。そこには当然アリアナさんがおり安らかな寝息を立てている。  
双丘が一定のリズムで浮き沈みしているのを見るうち欲望に駆られて、片方を掴む。  
”柔らかい……。綺麗な体をしている”  
 一瞬、アリアナさんの全身が小さく跳ねて彼女は目を覚ました。僕は驚いて、胸を掴  
んでいた手を引っ込める。アリアナさんは無言でベッドを降りて、浴室へと向かった。  
シャワーを浴びているようだ。  
 ザー。湯の流れる音が耳朶を打つ。手持ち無沙汰だった。床に落ちていたブラとパン  
ツを拾い上げ、探る。パンツから、縮れた毛が見つかった。  
 湯が止まり脱衣所の曇りガラス越しにアリアナさんの体が見えた。扉を開けて彼女が  
入ってくる。バスタオルを巻いたアリアナさんの後ろからは浴室に残った、湯気が対流  
に乗って室内に流れ込み、どこか幻想的が雰囲気を醸し出していた。  
「カーライルさん」  
 その空気の中、アリアナさんがぽつりと、言葉を漏らした。  
「なんですか?」  
「あまりに突然の事で、貴方は迷惑かもしれないけれど……お願いしたいことがあるん  
です。聞いてくれますか?」  
「内容にもよりますが、大概のことならば。どうぞ……」  
 言うように、促す。  
「でしたら――」  
 と、アリアナさんは一呼吸置いてから、本題を口にした。  
 
「アーネストを、彼を、……殺してくださいませ!!」  
 
 それは衝撃の発言だった。少なくとも、聞かされる方にとっては……。  
 

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