「ねえ、またモデルになってよ」
僕を見据えてシフォンさんが言う。過去、彼女の描く絵のモデルを務めたことがある。
だから今回も軽い気持ちで快諾した。その後に待ち受ける事も知らずに……。
シフォン=ライネスト。貴族の娘である点を除けば、ごく普通の女の子だ。
騎士に成り立てで下っ端だった頃の僕にも、よく話しかけてくれるなど気さくなところがある。
僕はそのシフォンさんの住むライネスト伯爵邸へとやって来たわけだ。
「来たのね、待ってたのよ。ほら、上がって上がって!」
そういってシフォンさんは僕を案内する。屋敷には下働きの人たちが大勢いるのに主人の娘が客人の案内をする。
そこからも彼女の性格がうかがえる。
「はい、到着。まぁ、貴方は前に来たことあるけどね」
通されたのはシフォンさんの自室だ。彼女の言う通り過去に何度かお邪魔している。
「それで? 僕はどうすれば……」
と、腰を引き気味に室内に入る。
「ん……? じゃ、脱いで」
あっけらかんと言うシフォンさん。僕は耳を疑い、「はぁ?」と顔に出した。
「……? 何、変な顔してるのよ。今回、貴方にお願いしたいのはヌードモデルよ」
この人はいったい何てことを言うのだ。僕は眩暈を押さえながらドアノブに手をかけたが、
「辞退するつもり? だったら街中に貴方の悪い噂、無いこと有ること吹いてまわるわよ!!」
などと脅迫され、やむ終えず彼女の創作活動のため文字通り一肌脱ぐこととなった。
「平気だって。扉には鍵をかけるしカーテンは全部閉めるから。誰にも見られないわよ」
シフォンさんは僕に「大丈夫よ」と念を押す。
僕としては、そんなこと言う本人に見られるのが堪らなく恥ずかしいのだが。
幸いにして、大事な部分を隠すことは許された。彼女の視線から僕を守るのは、たった一枚の薄い布切れ。甚だ心もとない。
素っ裸同然で立ちんぼするのというのは、手持ち無沙汰だ。モデル自体には慣れているのに、どうも格好が固定できない。
「こら! 動くなっ!!」
「す、すみません……っ」
こんな調子では、大して進んでいないだろうな。そう思い声をかけてみた。
「どうです、筆は進んでますか?」
「……ふ〜む……」
聞こえてないのか、シフォンさんは低いうなりを上げ、しゃっしゃと作業を続けている。
それから小一時間がたった頃、シフォンさんが立ち上がる。
「出来たわ」
「そ、それじゃ、これで身柄釈放!?」
「出来たのは下書き。まだ陽も高いし、休憩してから色塗りまでやっちゃおうかなぁ…
…。その間は外套くらい羽織っていいから」
なんだ、喜んで損した。言われた通り外套を掴みながら椅子に腰掛ける。
「落ち込まない、男の子でしょ。ほらほら、私の淹れたお茶をご馳走するから」
と、シフォンさんは茶の入ったカップを差し出す。受け取ったときに茶の香りが僕の鼻を心地よく刺激する。
「うん、いい香り。気分が落ち着きます。ではいただきます」
ずっ――。一口すする。美味しい。ふと、シフォンさんに目を向ける。なんだか顔が赤いような?
それに彼女も僕を見ているぞ。ずずぅっ――。照れくさくなって一気に飲み干した。
別にやましい事はないと言うのに。火傷した口内を下で舐める度、自分の落ち着きの無さが嫌にった。
休憩が終わり、再び僕は肌を出す。シフォンさんは色を塗りを始める。
時刻は午後。閉めきった室内の温度は高い。僕でさえ暑いのだ、シフォンさんは堪らないだろう。
「……」
シフォンさんは、額に汗を浮かせながら賢明に作業続ける。倒れやしないかと心配になった僕は、
「ちょっと、開けませんか? 窓を」と言った。
「駄目よ……。貴方、他の人に見られちゃうわよ」
そのままで色塗りは続いた。
「はぁ……。巧くいかな〜い……」
やけにぶっきらぼうな物言いをシフォンさんは、した。
「何がです?」と、僕が問う。
「色が……思い通りの色が出ないのよ……っ!!」
そう叫び、席を立つ。部屋をずかずか歩き出し、染料をぶちまけキャンバス布を引きちぎり、のたうちまわる。
「お 落ち着いてシフォンさん。貴方は熱にやられているんだ。横になったほうがいい」
僕は言い聞かせて、彼女をベッドに横たえる。熱を逃がすために袖をめくり胸元のボタンを一つ二つ外す。
「ほら、水です」
水を一杯飲んでようやく落ち着いたようだ。ぽつりぽつりと話だした。
「ごめん、私変だ。思い通りに描けないといつもこう」
「まあ、落ち込まずに」
「うん……」
普段はこっちが振り回されるのに、やっぱり年下だな。随分しおらしくなったぞ。
「ところで、カーライルさぁ……」
「うん?」
「いつまで、それを見せてるの」
と、言って僕の腰の方を指差す。んん?……あぁっ!!
「腰布落としてる……」
シフォンさんのやけに冷静な声。慌てて僕は手をやるが絶対にみられたぞ、これは。
「ふふっ……あぁ、止め止め、今日は調子が悪い。続きはまた今度だぁ〜!!」
空元気か?と思える声でシフォンさんは言う。
「それにしても、暑いわねぇ……。この服、邪魔だわ」
と、言いながら、背を向けて立ち上がり服を脱ぎ始める。
閉めきった薄暗い部屋で、突如始まった貴族令嬢のストリップに僕は呆然と見入ってしまった。
一枚、一枚、床に落ちていき、今、シフォンさんの肌を覆っているのはブラとパンツのみ。そこで体の向きをこちらに変える。
「ねぇ、カーライル。脱がして……」
(何を考えているんだ?)と、そんなことを考えることすら僕の頭からは消し飛んで、言いなりになるしかなかった。
「そ、それじゃ……ブラから……」
シフォンさんの正面に立ったまま腕だけ背中に回しフォックを手繰る。目の前には彼女の胸が薄い布腰に存在する。
そう思うと興奮で指先の感覚がおかしくなる。
「ひゃぁっ! こら! 顔が当たってるぞ」
そう言われたとき丁度、フォックが取れた。名残惜しいがここは一旦離れよう。
次はパンツだった。室内の暑さに反して、やけに身が震える。
「ねぇ……早く……」
急かされてやったと思われたくない。
何故だかそんな気になって僕は、パンツの上からシフォンさんのあそこをじぃ〜っと見つめた。
「ちょ…ちょっと! 見ないでよ、カーライル!」
「シフォンさんだって、僕のを布越しに、じっくり見てたじゃないですか。」
と、言いつつ下着越しに愛撫をする。
「はあぁん……いゃっ……あんっ!!」
シフォンさんの膝ががくがくと笑い出す。彼女は僕の頭を抱えるように持ち体を密着させる。
「い……意地悪しないでよ。お願いだから、優しく……続けて……っ」
意地悪はしない。でも焦らしているのも可哀想だ。
意を決して、パンツの端の方を持ちゆっくりとずり落とす。シフォンさんのあそこが見える。
「これで、おあいこかな……」と、僕が言うと、
「貴方のが見えたのは自己責任でしょ」と、シフォンさんが返す。
はははっ――。二人は同時に笑った。
ベッドにちょこんとシフォンさんが座る。そこで、僕に手招きする。
「ほら、来て、カーライル」
「は はい。それじゃあ失礼して……」
僕は、シフォンさんのすぐ隣に座った。
手が重なる……。
「あ……、大きいね。カーライルの手」
「シフォンさんの手は、絵の具の汚れが」
雰囲気も読まずそんなことを言ってしまう。
「……落ちにくいのよ、こういうの。気になるわよね」
「いや……。だってこれから僕の色でシフォンさんを彩るから……」
「ぶぁ〜かぁ……でも嬉しいぞ!このこの!!」
そういうわけで、事を始めるのはしばらくじゃれてからになった。
まずはキス。ふっ……と、唇同士を合わせる。
「ん? これだけ?」
「物足りない?」
こくんと、頷くので僕は今度はより深いキスをした。
「うぅん……んん……ふぅっ……むちゅ……んちゅっ」
唇を離す。シフォンさんは何も言わない。これは、先に進んでいいかな?
「シフォンさん、ベッドの端の方に座って下さい」
と、頼むと言われた通りに動く。僕はベッドを下りて膝立ちでシフォンさんの前に座る。
「な 何を……するの?」
それには答えず、僕はシフォンさんの秘所に下を這わす。
「はあぁん……っ!!」
シフォンさんの背が反り返る。その様子を上目で見つつ僕は舌を上下に忙しく動かす。
「んくぅ……あっ……くっ……うぅんっ!!」
じわりじわりと秘所からは体液が溢れてくる。
なんだかアゴが痛くなってきた……ちょっと休もう。
「ね、ねぇ……今度は……私が貴方の物を……」
シフォンさんがそう言ってきた。それはいい、しばらく攻守交替と行こう。
「ちゅぱっ……ちゅぷりちゅぷり……ちゅぱ……」
部屋の中に水音が響く。僕はベッドに寝転がりシフォンさんの懸命な奉仕を受けている。
貴族令嬢ともてはやされた彼女が僕の物を加えている。
いつまでもその令嬢に奉仕されているのも悪いなと思い、僕は体の位置を変える。
「ん? ……何? ……ひゃっ! ふあ……あぁんっ!」
シフォンさんは一瞬”?”顔になったが、思わぬ不意打ちに更なる喘ぎを奏でた。
今の体位は云わば69の形だ。僕とシフォンさんはお互いの性器を口で攻めることができた。
「くぅ……いいですよシフォンさん」
「んっ! ……あん!! カーライルぅ!カーライルぅっ!!」
お互いの攻めが激しくなる。与えた快楽を倍にして返され更に倍して与える。
さながら無限機関だった。だがその活動もやがて破綻を迎える。
二人同時に果てた。お互いの体液が口に注がれる。
「んん…こくん…ん…こく」
「ぺちゃ……じゅる……うんっ」
シフォンさんは僕のを飲んで、僕はシフォンさんのを飲んだ。
「なんだか……喉が渇いたわ……」
「ぼ、僕も……」
二人揃って水を飲んだ。やけに美味しかった。
「それじゃ……今度は本番ね」
臆面も無く、シフォンさんは言ってのける。
僕は今更何も言うまいと彼女の肩を押さえながらベッドに倒す。
「ねえ……本当に私とするの?」
急に真剣な目になってシフォンさんが言う。今になって何を、と思った。
「貴方……レミリアのことはいいの?」
そうか…シフォンさん。そのことを気にして……。
そりゃ、姫様に対する憧れはあるがそれと恋の対象は別だ。
「シフォンさんこそ……自分に聞いてみたら」
「わ、私は……。貴方と……」
そこからは声にならない。だからか、シフォンさんは顔を近づけてくる。
それが答えか……と思い、何度目かのキスをする。深く、より深く……。
「それじゃ、いくよシフォンさん……!!」
「まって、さん付けを……シフォンさんて呼ぶの止めて……せめて今だけは」
別に、期間限定にしなくても構わない。そう思いながらシフォンを抱いた。
「あっ……くうっ! か、カーライルぅっ!」
「はぁあ……はっ!! シフォンっ! シフォンっ!!」
僕の打ちつけにシフォンもあわせて腰を動かす。さながらパズルのようにぴったりと合
わさり二人は動く。
動きが円滑になるたび”本当に二人パズルなのでは”と思った。
「はぅっ! シフォン……僕はもう……シフォンはどうっ?……くぅぅっ!」
「わ 私も、あっ……ふぅんっ……げ 限界ぃ…っ」
その声で余計に射精感が煽られる。僕は急いで物をシフォンの中から抜き取り
彼女の割れ目に這わす。
ずぅり……ずぅり……。ニ、三回往復したところでイッた。
白濁の精液がシフォンの腹や胸……果ては鼻の頭にまで飛び散った。
「す すごい……っ。カーライルの白絵の具が……私を真っ白に……っ!?」
そこまで言ってシフォンははっとした表情になる。
「こ、これよ! この色が足りなかったのよ!!」
そういって体に付いた精液を余さず拭い取って裸のまま、それをキャンバスに塗りたくり始めた。
「あぁ……もう、足りない!! カーライルぅっ!!」
シフォンがこっちを向いて怒鳴る……。なんだったんだろう……さっきまでの態度は。
数ヶ月後、芸術の奨励と啓蒙のために開かれるリーヴェラント国展において、
シフォン=ライネスト作の裸夫像が出展され絵画部門の大賞をとった。
尚、その作品からは妙に香ばしい臭いが漂っていたと、審査員や一般観衆の間で物議をかもした。
モデルは匿名となっていたが、僕はほとぼりが冷めるまで内勤に専念した。
完