クインシィ・イッサーは思い詰めていた。
ここは彼女の自室。
ベッドに腰掛け、傍らのテーブルにはワインボトルとその中身である赤い液体が注がれた『ビール用大ジョッキ』がある。
その大ジョッキを空にしては再びワインを注ぎ、またそれを腹の中に流し込むという動作を壊れた機械のように繰り返していた。
酔ってはいるのだろうが……これだけ飲んで吐かないのだろうか。
テーブルの下、彼女の足元には既に何十本という空のボトルが転がっている。
……なんかボトルのラベルに書かれている文字が『ロマネコンティ』とか読めるよーな気がしないでもないのだが。しかも全部。
そんなソムリエ泣かせな豪遊一歩手前なクインシィ(本名:依衣子、但し本人はクインシィこそが本名と言い張ってる)だが、その顔は浮かばれず、私憂鬱よと喧伝している。
普段の彼女であればこのような姿は他人には決して見せないが、この部屋には彼女以外には誰もいないので無問題である。
酒を浴び続けるのに飽きたのか、ジョッキをテーブルに放って虚ろな視線を天井へ向ける。
その濡れた唇からは溜息とともに呟きが漏れる。
「ユウ…」
それは最愛の弟の名前だ。
彼女は今、実の弟である伊佐未ユウと何の因果か敵対している間柄だ。
いや、それだけならまだいい。
たとえ敵対していようと、いつかは分かり合える時が来るだろうし、いつかは姉弟の一線を越え…ゴフン、ゴフン。
……いつかはまた昔のように家族の絆を取り戻せるだろう。
だが、現状において看過できない問題が一つあった。
「…なんだ、あの女は」
敢えて、口に出して言葉にする。あらん限りの憎々しさを篭めて。
「カナンだけでも我慢の限界を越えているというのに、あんな乳臭さの残っている小娘にまで誑かされて」
厳密にはユウの方が誑かしたのだが。天然で。
「あまつさえ、肩を並べてダブル・エクスティンクション!?畜生…!あれはいずれ私がユウとする予定だったのに!」
ギリッ、と歯を鳴らす。
怨嗟と呪詛の独り言は続く。
「大体、ユウの好みは体のラインがほっそりでいて巨乳のスレンダー&モデルタイプだったハズだろう…。そのせいでカナンにユウを掻っ攫われたんだしな。……くっ、僅か2pの差で…!」
過去を思い出し涙を流すクインシィぃ依衣子。繋げてみました。
「―――なのに。なのになのになのに!なぁんであんなぺったぺたのつるつるに!…………何故だ……うぅ…守備範囲広がったのか、ユウ」
本人からすればなかなか不名誉に思う台詞をのたまい、さらに一杯ワインを呷る。今度はボトルのまま。
そのままベッドに仰向けになる。
その眼には、剣呑な光が宿っていた。
しばらくして、クインシィの部屋からは押し殺したような笑い声が聞こえてきた。
クインシィ・イッサーは思い詰めていた。
あんまり思い詰め過ぎて、頭の中では凄い事になっていた。
おもに「拉致」とか「監禁」とか「調教」とか。
あと、逆にこっちが飼われてやろうか、とか。
FIN