これはもう随分昔の話。
2人の仲のいい姉弟のお話。
「ユウ、これ預かっててくれないか」
「え?姉さん、何だよこれ」
12歳になったばかりの少年ユウは、姉から手渡されたものを不思議そうに観察する。
そんな弟に姉であるクインシィ―――いや、この時はまだ依衣子―――はぶっきらぼうだが優しい声で言い聞かせる。
「いいから、預かってて。くれぐれも壊したりしちゃ駄目だからな」
そう言ってクインシィは外出していった。
だがまだ幼さの残るユウが、その預けられた『リモコンっぽい物』に興味を示さないはずが無かった。
姉が家を出て数分も経たぬうちに、ソレを弄りだすユウ。
「なんだろ、これ」
取り敢えず『入/切』のスイッチを『入』にする。
一方、街の中心のある大通り。
依衣子は一人、突如下半身を刺激する振動に耐えていた。
(…ク…んぅ……ああ、ユウ、いけない子ね…。私の預けた『超遠距離調教用バイブ イボ増量004型』のリモコンの電源スイッチを触って…。ああっ…)
伊佐未家。
「ん〜、なんのリモコンだろ、これ?」
そう言ってさらに『強』のスイッチに触れるユウ。
街中。
(―――ひぃ!?ユ、ユウったら、いきなり『強』だなんて……ん…。ああっ…こんな、人の沢山いるところで……姉さんを責めるのね…)
自分がそう差し向けたのだが、弟にいぢめられているという妄想とそこから得られる快楽によって依衣子の中では事実が改竄されていた。
だがそんな彼女にも誤算が一つ。
(…え…ちょ、まさか……んんッ…ヒィィイアアア!!)
「あ、またなんか押しちゃったみたいだ。えーと…『回転』?」
どうやら伊佐未ユウは天性のテクニシャンらしい。
(―――ひ、あ…くう…。や、も、もう駄目…。こ、この私が、僅か10分で陥落…?…あ、ダメ、漏れ…こんなトコで―――え、あ、ひ、くひいィいィ!?)
近くのデパートに駆け込み、急いでトイレに向かう依衣子。あまりの快楽に失禁したらしい。
(…うう、間に合わなかったぁ…。スリルのために利尿剤飲んでたからな……パンツぐしょぐしょ)
世間ではそれを自業自得という。
(でも、最後のって…)
再び伊佐未家。
既に興味を失ったのか、ユウはリモコンをテーブルに放って、テレビを見ていた。
テーブルの上のリモコンのスイッチは『激強』と『ビーズ発射』と『発掘モード』のセットされていた。
「ああ、ユウってば素敵…。お姉ちゃん壊れちゃったよ…」
余談だが、この時の理性崩壊がクインシィ誕生の布石になったとかならなかったとか。
「……なあ、おい。……クインシィの奴、アルバム見ながら涎垂らして逝ってやがるぞ」
「ほっとけジョナサン。今日はまだ4回目だ。あと6回はあるんだからな、いちいち相手してたって時間の無駄だ」
1日10回を心がけているクインシィの妄想パラダイス。それを見守る周りの視線は生温かった。大体20℃くらい。