意図的にヒメを放置したユウと違い、弟のお姫様だっこに身を委ね、両腕をユウの首に回して幸せに浸 
るイイコの脳裏からは今朝からの一連のヒメ絡みの出来事は綺麗さっぱり消去されていた。  
やがてイイコを抱いたユウは姉の部屋へ。  
朝から色々とやっていたせいで、まだ布団が引きっぱなしになっていた。  
ちなみにこの家にはベッドがない。  
布団はかつて祖母と共に三人で暮らしていたことを、ベッドはオルファンの暗い個室を思い起こさせる 
のだから、姉弟がどちらを選ぶかは自明の理だった。  
姉を布団へと横たえたユウは、手近にあったタオルでまだ少し濡れている身体を拭う。  
どうせこれから自分と姉の汗、そして姉の随喜の涙と愛液で濡れるのだが。  
一方のイイコもバスローブを脱ぎ、パンティに手をかける。  
が、思いとどまってそのままでユウの前に身体を横たえる。  
脱がせてくれとの意思表示と受け取ったユウは、姉の身体をひっくり返しうつ伏せにする。  
そして小振りだが引き締まって形の良いヒップに手を添える。  
「あふっ」  
今日は既に一度、アヌスへの舌奉仕という荒技でイカされているイイコはさきほどじらされたこともあ 
って既に全身が性感帯状態になっている。  
「早く、ユウ、早く脱がせてぇ」  
「ふふっ、ダメだよ姉さん、そう急かさないの…」  
「だって…」  
「それともさっき言ったように、やっぱり姉さんは弟に下着を脱がされるのが大好きな淫乱さんなのかな?」  
ユウはこの期に及んでもまだイイコを焦らすつもりだった。  
 
姉をリクレイマーとしての呪縛から解き放ち。  
その腕に取り戻してから今まで、ユウは禁断の関係を当然のように続けて来た。  
幼少期の前半を固い絆で結ばれて過ごし、後半は引き裂かれ。  
そして思春期には近くにいながら心がすれ違いを続けていたという特殊な環境が、二人を近親禁忌とい 
うモラルの埒外に置いたのかもしれない。  
初めて姉と結ばれた頃は、ユウはその引き締まった瑞々しい肉体に溺れていた。  
カナンやアイリーンなど幾人かの女性との経験(その頃はヒメとはまだキスしかしていなかった)はあっ 
たとはいえ、心から求めていた相手との関係は格別だったのだ。  
しかしたとえ性欲は有り余っても、いくら若いとはいえリビドーに任せて肉欲を発散させていては身体 
がもたない。  
発射回数を一日二回程度に留めるためには、昼前から本番に及ぶわけにもいかなかった。   
そこでユウは少しずつ姉をじらすようになって来た。  
今では直接抱くよりも、指や道具、そして言葉で姉を責める方が多い。  
結果的にそれは正解だった。  
姉に欲情する度に、または姉に求められる度に。  
その都度姉を抱いていたら今頃ユウは腎虚でこの世を去っている。  
そしてまた、最初は弟のじらしに不満気だったイイコも、次第にそのじらし行為そのものに快感を感じ 
始めていた。  
 
「淫乱なんて…酷い…あたしがこんなことするのはユウだけなのに…」  
頬を膨らませるイイコ。  
だがその顔が赤く染まっているのは怒りや羞恥だけではなかった。  
明らかに快楽の色だ。  
だが彼女は決して罵られて感じるように調教されたわけではない。  
再び一緒に暮らし始めてから、ユウは彼女に幸せを味合わせ続けていた。  
そのため今ではユウの口から漏れた言葉は全て、快感中枢に作用すべく脳内変換されてしまうようにな 
っていた。  
ユウ以外の者に同じような事を言われれば即座にクインシィが発動し相手を殲滅するだろう。  
「…そうだ…いつもいつも俺が脱がせてあげるのも飽きたし、姉さん自分で脱いでよ」  
「もう、いじわる」  
そう言って寝転んだままで下着に手をかけたところで。  
「違うよ姉さん」  
ユウが制止する。  
そして部屋にあるソファにゆっくりと腰かけると。  
「俺の目の前で、もっと魅力的に脱いでくれない?」  
「な、何言ってるの?」  
「わかんないかな?」  
「バ、バカ、イヤよそんなのっ!」  
ユウが自分に何を求めているのか、それを悟ったイイコは耳まで紅く染めかぶりを振る。  
要するに目の前でストリップをしろ、という要求に、冗談ではないと即座に拒否反応を示していた。  
日頃から一糸纏わぬ姿で交わったり、先程のように一緒に入浴したりしている仲とはいえ、それとこれ 
とは別であった。  
だがそれを許す淫魔ユウではない、すぐに次の手が控えていた。  
 
「ふう」  
落ち込んだように溜息をつくユウ。  
「やっぱりさっき言ったことは嘘だったんだ…」  
「な、何言ってるの?」  
突然のことに訝しんで聞くイイコ。  
「姉さんを好きにしていいって言ったじゃないか、自分の身体は全部ユウのものだって」  
「そ…それは…」  
「いいんだよ、結局姉さんにとって、俺なんて自分が気持ちよくなるための『道具』なんだね…」  
この場には「それはお前だろっ!、姉を自分の道具と言うか玩具にしてるのはっ!」というもっともな 
突っ込みを入れる者はいない。  
ただ弟の言葉に衝撃を受けて必死に「誤解」を解こうとする姉のみ。  
「そんなことないっ!」  
「それでもいいさ、たとえ道具でも姉さんの傍にいられるなら」  
「ユウ…」  
姉の言葉を意図的に無視して一方的に話し続けるユウに、イイコは言葉を失ってしまう。  
そして決意する、弟に自分の愛情をわかって貰うには、言うとおりにしてあげるしかないのだと。  
まさにユウの企図した通りに。  
さながらユウの糸で思うがままに動かされるマリオネットのようなイイコ、しかし初めからこういう関 
係ではなかった。  
本来ユウはその強気な性格と比して姉にはあまり強い態度を取れない。  
やはり幼き日、姉に庇護されていた記憶は彼の中で余りに強いのだ。  
直接姉には頭が上がらないユウとしては、常に今回の誘導のような絡め手の積み重ねで姉に対処するし 
かなかった。  
その経験の蓄積が、こうしてイイコの心を自在に操れるまでに熟練させた。  
それでも突発的なクインシィ化という問題や、先程のヒメとの一件のような予期せぬ事態には対処し切 
れていないのだが。  
とりあえず今回はユウの狙い通り、イイコは下着姿でユウの目の前に立ち俯いていた。  
 
「あらどうしたの姉さん、見せてくれるんじゃないの?」  
ユウの前で顔を赤らめたまま硬直しているイイコ。  
しばしの時が流れ。  
「どうして?」  
不意に言葉が口をつく。  
「姉さん?」  
「どうして、こんな事させたいの?」  
赤く染まった顔を上げて、ユウを問いただす。  
「言ったろ、俺は姉さんの全てが見たいんだ」  
「あたしの裸なんか、いつでも見てるでしょ!」  
「俺が見たいのは姉さんが脱ぐ姿さ」  
 
幼少時、ユウは姉の着替えや入浴時の脱衣をドキドキしながら覗いたものだった。  
ただしその頃はまだユウの男性機能は成熟しておらず、 
乱入して姉を押し倒すどころかその光景を目に焼き付けての自慰すら出来なかったが。  
だが今回のは話が全然違う。  
目の前で姉が脱ぐ姿を堂々と凝視して、逆にイイコの方が心臓が止まるような思いを味わう。  
言ってみれば幼少時の思い出を、自らの肉欲で汚すようなものだった。  
まあ姉に新たな快楽を教えてあげるという意味も無きにしもあらずだが。  
 
「さあ、早くやってよ、姉さんが少しずつ肌を露にしていく姿が見たくて見たくて仕方がなかったんだ」  
微妙に姉の自尊心を擽るような言葉で催促すると。  
「…わかったわよ、どうせあたしの身体はユウだけのものなんだから…」  
ユウにというより、自分に言い聞かせるような言葉を口にしながら、 
依然として俯いたままのイイコが、トップのフロントホックに手をかけた。  
 
意を決し、自らの脱衣をユウの目の前で行うべく動き出したイイコの手。  
しかしその動きはぎこちない。  
全身が羞恥で赤く染まっているせいで、さながら血が指先にまで登って動きを妨げているかのような緩慢さ。  
一秒もかからずに外せるホックを外すのに、既に十秒以上を費やした上に何度も手が滑って失敗する。  
深層心理が羞恥の余り脱衣の決意に抵抗しているかのように。  
ようやく完全にホックが外れるかと思った瞬間。  
「ちょっと待って」  
ユウがそれを制止する。  
「ちゃんとこっちを見て、俺の目を見ながら脱いでくれよ、姉さん」  
またも予想もしなかった言葉に一瞬硬直し、やがて我に帰ると。  
「い、嫌よ、そんなの恥ずかしすぎるじゃない」  
弟の余りの淫虐な要求に俯いたまま首を振るイイコ。  
「だって、そうじゃなきゃ意味がないよ」  
「意味って…」  
「俺は女が脱ぐ姿が見たいんじゃない、姉さんが脱ぐ姿が見たいんだ、 
顔をこっちに向けてくれないと意味がないだろ」  
「…あたしじゃないとダメなの?」  
「そう、姉さんじゃなきゃね」  
「…ユ、ユウ…」  
自分がユウにとって特別な存在であること。  
それを再確認させてくれる言葉に、イイコは胸がときめく。  
どう考えても変態そのものの要求でありながら「姉さんだけ」という附帯条件があるだけでときめいて 
しまうのだからイイコのユウ依存症はもはや重症であった。  
 
「…わかったわ、ユウ…あたしを…見ていて…」  
消え入りそうな声でそう呟くと、ユウに視線を向けたまま、再び胸の谷間のホックに手をかけるイイコ。  
先程よりもさらに手が震え、これ以上ないほどに紅潮していたと思われた顔もさらに鮮やかな紅に染まる。  
(ユウがあたしを見ている…ユウが見たいのはあたしだけ…)  
先程のヒメとの一件一つとっても絶対に信じられないようなことなのに。  
イイコは信じた、いや、信じたかった。  
色々な意味で、今のイイコにはユウしかいないのだ。  
オルファンの中で拒絶しても拒絶しても手を差し伸べてくれたユウ。  
あの時から、イイコにとってのユウはもはや最愛の弟とか、愛する男、というより、存在意義そのものなのだ。  
ユウを信じられなくなった時、イイコの自我は脆くも崩れ去るだろう。  
 
一方そんなイイコの姿を嬉々として見つめるユウ。  
今日はヒメと過ごす予定が消えてしまった分、たっぷり姉を弄び楽しもうという目論見が予想以上に良 
い滑り出しを見せたことに満足気。  
何しろ気をつけなくてはならないクインシィ化は今朝のうちに起きている。  
イイコの中のクインシィはそう毎日現われるものでもない、一度現われたなら少なくとも三日、普通は 
一週間、長ければ十日以上は現われない。  
それを思うと思わず顔がにやけそうになるのを抑えるのが大変だ。  
初めは精力をセーブするために始めた「じらし」だが。  
最近はイイコが切なそうに哀願したり、今のように羞恥にうち震える姿を見ることそれ自体が楽しみに 
なっていた。  
 
ユウの期待に満ちた視線に晒されながら、目を背ける事すら禁じられて。  
イイコは大きくはないが形のいい乳房を覆う薄絹を自らの手で外した。  
そしてガクガクと脚を震わせる。  
(どうして、胸なんてユウにはいつも見られているのに…どうしてこんなに恥ずかしいの…)  
イイコを待つ羞恥痴獄が、今その幕を開けた。  
 
羞恥に打ち震えつつ、目の前で自らの手で胸を曝け出したイイコに。  
ユウの歪みに歪んだリピドーは強烈に刺激された。  
「こ、これでいいの…」  
震える声で尋ねるイイコに。  
「いいよ、だからさ、続けて」  
今度はボトムの方を脱ぎ捨てるように無慈悲にも言い渡すユウ。  
もしかしたにトップを外すだけで許してもらえるかも、という甘い目論見を脆くも崩されたイイコ。  
一瞬俯きながら、すぐに健気にもさっき言われたとおりに目をユウに向けて震える手を両腰に添える。  
薄い布を両手の指先で掴み一気に下ろすつもりだった。  
何度も述べられたように、毎日毎晩一糸纏わぬ姿でユウと絡んでいるイイコにとって裸を見られる事自 
体は恥ずかしくも何ともない。  
ただ目の前で服を脱ぐという行為が恥ずかしいだけ。  
ならば嫌な事は早く済ませてしまおうと思うのは至極当然の話だった。  
しかし…。  
先程同様、イイコの指先は震え、力が入らない。  
ガクガクガクと脚が震えている。  
そして…。  
気づいた時には、イイコの双眸からは涙が零れていた。  
泣くほど恥ずかしい、まさしく今の彼女の心境はそれだった。  
その涙を見て。  
ユウの中の獣が咆哮をあげる。  
(泣いてる、姉さんが泣いてる、可愛い、可愛すぎるよ姉さんっ!ああっ、姉さんかーいいっ!)  
以前のユウなら己の中の獣性の赴くままイイコに飛び掛って押し倒し、その身体の奥に熱いゴア(角) 
を突き立てたであろう。  
それはイイコにとっても望むべきことであった。  
しかし歪みきったユウはそれよりも、更なる羞恥でもって姉を咽び泣かせることを欲した。  
イイコの受難は続く。  
 
目に涙を浮かべながら、震える指になんとか力をこめようやく薄布を掴んだイイコ。  
まさにそれが引き下ろされる寸前に。  
「待った」  
またもや淫獣がよからぬことを思いついてその手を止める。  
「どうせ下を脱ぐなら後ろ向いて脱いでくれないかな?」  
さっきは顔を見ながら脱げと言ったくせ、今度は後ろを向けという。  
この時点で「俺は女が脱ぐ姿が見たいんじゃない、姉さんが脱ぐ姿が見たいんだ、顔をこっちに向けて 
くれないと意味がないだろ」などという言葉は嘘であった、と気がつきそうなものだが。  
もはや今のイイコに冷静な判断力は皆無。  
ただただユウの顔を見ながら下まで脱ぐという恥ずかしさから逃れられるとぱかりに、言われるままに 
後ろを向くが。  
「そしてお尻をこっちに突き出して、それで脱いで見せて」  
ボンッ!ただでさえ上気しているイイコの顔から湯気が噴き出す。  
「バ、バカッ!いい加減にしてよユウッ!」  
さすがに腹を立てるイイコ。  
先刻の浴室ではクインシィ化したとはいえ弟に「舐めて」と尻を突き出した女が何を今更、とはいえない。  
羞恥という物はようはシチュエーションに左右されるものである。  
同じ行為も違う状況ですると物凄く恥ずかしいことになる。  
ユウはそれを熟知していた。  
一体誰にこんなことを教わったのか、師・ジョナサンからはごくストレートなテクニックしか教わって 
いないというのに…。  
「あたしを虐めてそんなに楽しいのっ!何とかいいなさいよユウッ!」  
振り返れず、後ろ向きのまま恥ずかしさをごまかすかのように叫ぶイイコ。  
「見たいよ」  
ユウはそれに対して今までのような弁明はしなかった。  
「見せてよ姉さん」  
 
もはや余計な策や企みは必要なかった。  
「お願いだよ、姉さん」  
すこし甘えた口調で要求をしてくるユウに、イイコは怒りを瞬時に萎えさせ弟の顔を見つめる。  
ただでさえユウの言葉は鵜呑みにしてしまう〜かつてユウを完全に拒絶していた時期の反動かもしれない〜のに、昂奮と羞恥で思考力が減殺されているイイコには。  
ユウが幼き日のように甘えた声でおねだりしてくるのに対して抗う術などはなかった。  
 
「わ…わかったわよ…本当にエッチな子ねユウ」  
「あれ?エッチなことをしたがってるのは姉さんの方じゃなかった?」  
「知らない!」  
ユウから顔を背け、続いて身体全体を後ろにむけ。  
心もち腰を折って、引き締まった尻をやや突き出し気味にすると。  
「見てユウ」  
するする。  
既に完全に開き直ったのか、顔といわず身体といわず羞恥の赤に染めながらも今度は失敗もなく薄布を掴んだイイコは、それを一気に引き下ろした。  
「ぷるん」と柔らかそうな肉が震える、先程さんざん舐め弄った尻を改めて見て。  
「ああ、やっぱりいいなぁ姉さんのお尻は」  
掛け値なしの本音を漏らす。  
肉厚なカナンの尻も良かったが、こういう小振りなものもそれはそれで興をそそる物だ。  
「こうして見ているだけで、何かムラムラしたきたよ」  
弟の誉め言葉に、そしてようやく「その気」になってくれたような口ぶりに羞恥に耐えたかいがあったとイイコが安堵した刹那。  
「それじゃあそのままお尻振ってみてくれない?」  
次なる要求が、色魔の邪な口舌より発せられた  
 
ぶるぶるぶる。  
目の前のイイコの尻が、小刻みに震えている。  
その震えの原因が怒りなのか羞恥なのか、顔が見えないので確認ができないまま、とんでもない要求に姉が従うかどうかを待っているユウ。  
自分の方でも色々と策をめぐらせはしたものの、いつになく言う事を何でも聞いてくれる姉に、この時とばかりに今までしたことのないことをやらせてみるつもりなのだ。  
ある意味では先程ヒメを放置した時と同じ賭けだが、今度の場合は負けても別にどうということはない。  
もし姉が怒れば、このまま姉への奉仕を開始し、強く望んでいる睦言へ移行して機嫌を取るまでだ。  
怒りが多少激しければ、機嫌が直るまでに二、三発くらい引っぱたかれるかもしれないが、その程度はリスクのうちに入らない。  
ちょっとしたことで嫉妬し命の危険を感じるほどの攻撃をして来るクインシィ化は起きていないのだから。  
そして賭けに勝てば、姉の玩具化は一層進み、楽しい遊びが増える。  
とんでもない鬼畜思考だが、決してユウは姉を愛していないわけではない。  
それどころかこの世の誰よりも大切に思っている。  
そんな大切な存在を弄べることこそ、ユウの強さであった。  
愛してもいない女を騙し利用することなど三流の結婚詐欺師にでも出来る。  
最愛の実姉を思うがままに躍らせ、自分の快楽の道具として扱える真の鬼畜、まさにその高みにユウは達しようとしていた。  
 
しばしの無言の後、ユウは姉の感情を確認した。  
何も言わないが、背中から尻にかけて肌が赤味を差している。  
猛烈な羞恥心に襲われているのだ。  
それが怒りに転じるのか、それとも羞恥心を突き破って弟のおねだりを叶えるのか。  
その解答は言葉ではなかった。  
ぷるん、ぷるん。  
小刻みな震えとは明らかに違う、意図的な腰ふりによって、ユウの目前の尻肉は震え始めた。  
 
「うわぁはぁ」  
自分でやれと言ったことながら、いざ目の前でそれが実現してみるとあまりの淫靡な光景に、さしもの淫欲魔ユウも感極まった声を漏らす。  
かつてカナンに後ろから挿入した時、目の前で雄大な尻がブルブル震えていた時のような直接的な視覚インパクトはないが。  
姉が全身を真っ赤に染めながら、いかにも不慣れにぎこちなく尻を振っているという非日常な光景が、ユウのリビドーに火をつける。  
あと少し、ほんのあと少しで、ユウの我慢は限界を突破し、そのままイイコに後から飛びついて姉弟の禁じられた交わりを開始しただろう。  
しかし…。  
(凄いよ姉さん、ここまで聞き分けが良くなるなんて…どうせなら…)  
そう、先程尻ふりをリクエストした時に打算したように、怒られたらその場で姉弟性交に持ち込んで機嫌を取ればいいだけだ。  
ならばこの際、徹底的に淫靡なお遊びをイイコに強いてみるべき。  
どこまで堕とせるか。  
どこまで汚せるか。  
もうユウに歯止めはない、そうどこまでも堕ちて汚れきった姉でも愛せる自信があるから。  
 
(こんな、こんなことしちゃって…)  
弟の要求に従い、目の前で尻を振ると言う屈辱的な行為を強いられて、イイコは顔面から蒸気が出そうなほどの羞恥に苛まれていた。  
『そんなに嫌なら断ればいいのに』  
誰かが心の中で言う。  
クインシィではない。  
孤独から自らの自我を守るべく作り上げた人格は今は眠りについている。  
『本当は好きなんじゃないの、こんなことするのが』  
だが内なる声は確かに聞こえてくる。  
かつてクインシィが自分の中に現われた時と同じようにイイコは確実に壊れつつあった。  
以前のように孤独と悲嘆ではなく、幸福と悦楽によって。  
 
『あなたは男の前でお尻をふって誘う淫乱、それを自覚しなさい』  
心の中のもう一人の自分の声が、厳しい指摘をして来る。  
(そんなことない…)  
それに対するやはり心の内での反論は、力ないものだった。  
現に自分がやっていることを考えたら…。  
『じゃあ何でそんな恥ずかしいマネをしてるの?』  
(ユウが、見たいというから…)  
『ユウに言われたら、何でもするのかしらあなたは?』  
(そうだよ、ユウはあたしの全てで、あたしはユウのものなんだ、あの時から…)  
固く閉じた目の中に、オルファンの中に吸収されそうになっていた自分を迎えに来てくれたユウの顔が浮かぶ。  
『それじゃ訂正するわ。あなたはユウの前でお尻を振って、ユウを誘惑しているのね、実の弟を』  
(そうよっ、来て、来てちょうだいユウッ)  
狂気の第一歩たる自己問答の末に、恥ずかしがりながらも何故こうもあっさりと素直に尻を振りはじめたかを悟った。  
さっきから自分をじらしいじめるばかりで一向に抱いてくれないユウをその気にさせるために、あえてこんな恥ずかしい真似をしていたのだと。  
(おねがいよユウ、早く、早くっ)  
そう思って不意に瞼を開いた瞬間。  
「ひっ」  
背後で自分の尻ふりを見ていたはずのユウが、目を閉じている間にいつのまにか前に回り、自分の顔を眺めていたのだ、心底楽しそうに。  
改めてユウと目線が合い、自分が弟のたくましいもので後ろから突いて欲しくて恥ずかし気もなく尻を振っていたことを思って、イイコの羞恥心はついに限界を迎えた。  
「いっ、いやっ!」  
顔を両手で覆ったイイコは、へなへなとその場に座り込んだ。  
 
(そろそろ潮時かな…)  
崩れ落ちた姉を見て、羞恥ゲームをするのも限界かと考えるユウ。  
「ひっ、ひくっ」  
見るとイイコは顔を覆うばかりでなく、嗚咽していた。  
「…ばか…ユウのばか…もうしらない…」  
泣きながら自分を詰る姉に、もう少し大丈夫だろうと思う。  
本当に追い詰められたら何も言えなくなる筈だから…つまりはそこまで姉を追い込むつもりらしい。  
「ほら、どうしたんだよ、立って」  
その腕を掴んで立たせると、イイコは強い力で振り払う。  
「触るなっ!」  
涙目で自分を恨めしそうに睨む姉に、ゾクゾクとした快感を背筋に感じる。  
愛しいたった一人の姉さんの心を、思うがままにしていることへの満足感。  
だがどこまで姉を玩具にしても、どれだけ淫魔であっても、根本的には姉思いのユウ、この辺りでそろそろイイコに鞭だけでなく飴を与えるべきだと考える。  
「何を怒ってるの、姉さん?」  
「何を?人にあんな恥ずかしいことさせてっ!」  
「ああ、してくれって言ったのは俺さ、でもあれは姉さんが自分からしたんだよ」  
「そっ、それでもっ!」  
ガシッ!とユウの両腕を鷲掴みにするイイコ。  
「あんな恥ずかしいことさせておいて、いつの間にか人の顔を見るなんてっ!」  
羞恥心を払拭するかのように激しくつめよる。  
「なんだ、姉さんは怒ってるんじゃなくて恥ずかしがってるのか」  
「!」  
最初から気づいていることをさも今気づいたかのように口にする。  
「そう怒らないでよ、見てみたかったんだ、姉さんがどんな顔であんなことしていたのかさ」  
「あんなって…」  
「そう、物凄く色っぽい尻ふりダンスをさ」  
さっきからもう何度も湯気を噴いているイイコの頭が、またもや噴火した。  
 
数十秒ほど俯いていたイイコが。  
血管がニ、三本切れたのではないかというくらい紅く上気した顔をあげる。  
耐え難い羞恥の中でも、ユウから賛美の言葉をかけられるとそれは快感へシフト  
していく今のイイコだが、気力を振り絞って怒った態度を取り続ける。  
「何言ってるのっ!」  
ついにイイコの掌が、ユウの頬に炸裂した。  
「あたしは今怒ってるんだよっ!真面目に聞けっ!」  
姉としての矜持(そんな物が残っていればだが)で弟の軽口を塞ごうとする。  
いまさらかよっ!という突っ込みが入りそうなほど既に時遅しだが。  
しかしその程度のことでひるむようなユウではない  
「怒ってる?恥ずかしいの間違いだろ」。  
姉の怒り…のように見える態度などどこ吹く風。  
「まだそんなこ…」  
「姉さんの恥ずかしがってる顔って、可愛いね」  
イイコの心臓がユウに射抜かれる。  
淫靡な行為を強いる変態とは到底思えない、さわやかな声と笑顔に。  
腰砕けになり、再びへなへなと座り込む。  
「どうしたの?もう終わり?もう少しやってよ、凄くセクシーだったぜ姉さんの  
尻ふりダンス」  
「ばっ、ばかっ」  
あからさまな言葉責めにも、涙目でそう言い返すのがやっとだった。  
「姉さんがもっともっと色っぽいポーズしてくれたら、俺も興奮してたまらない  
気持ちになるだろうな」  
要約すれば「抱いてほしけりゃ言われたとおりにしろ」ということだ。  
実に倣岸な言い草だが、熱く火照った身体を貫いて欲しい一心のイイコはそれに  
従う以外の術はもう残っていない。  
「わかった…言うとおりにするから、だから」  
姉の権威(そんな物は残ってなかったが)に任せた最後の逆襲もなんなくいなされ、  
完全に敗北したことを悟ったイイコは、もはや恥も外聞も捨てた。  
弟の淫靡な要求に従う、肉人形がここに誕生したのだ。  
 

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