ちいさな四人の妖精さんたちは、とっても知りたがり。今日も、せんせいさんのお留守に人間界のお勉強です。
元気娘のくるると物静かなちりりが、二人ならんで本を読んでいるときのこと。ふと、くるるが見慣れない言葉をみつけました。
「ねぇ、ちりりん。『きす』って何?」
「えっ?」
くるるの口から飛び出た言葉に、ちりりは少し赤くなってしまいました。
(くるるちゃん、ほんとに知らないんですね…)
ちりりの顔を覗き込むくるるの表情はとっても真剣。からかってるわけではなさそうです。
「え〜と、う〜んと…キ、キスというのは、お互いに好きあってるにんげんさんたちが…するんです」
「ふ〜ん、何を?」
「あ、あのぉ…」
無防備に近づいてくる、くるるの唇はとっても柔らかそうで、ちりりの目は釘付けになってしまいます。
「ん? どしたの、ちりりん?」
「そのぉ…ちょっと、説明するのは…」
「じゃ、やってみようよ」
「え、でも・・・」
「だって、好きな人同士でするんでしょ? くるるは、ちりりんのこと好きだもん」
ちりりの胸がドキドキ高鳴ります。こんなときに言われる『好き』は、とっても刺激的だから。
「わたしも、くるるちゃんのこと…大好きです」
そっと両腕をのばして、くるるの華奢な体を引きよせると、ひざを崩して座っていたくるるが、よろめくようにしなだれかかってきます。
二人の顔と顔が、息がふれ合うほどに近づきました。
「ち、ちりりん? これって…んっ!?」
しゃべるヒマもあたえず唇をふさぐと、くるるは驚きで目を見開いたまま固まっています。
ほっそりした体をギュッと抱きしめると、しだいに力がぬけて、ちりりに身を預けてきました。
(くるるちゃんの唇、やわらかい…)
ちりりにとっても初めてのキスです。体中がカァッと熱くなって、しゃにむに口を押し付けていきます。
たっぷり数秒間のキスを終えたあと、ちりりはゆっくりと体を離し、くるるの顔をみつめました。くるるは少しうつむいて黙っています。
ピンク色の髪が、紅潮したほっぺたにサラサラとかかって、なんだかとてもキレイ。
「…どうでした、くるるちゃん?」
急にこんなことして怒ってしまったかしら、と心配になって、ちりりは不安げに訊ねます。
「…ぃょ」
「え?」
「すごいよ、ちりりん! なんだか分かんないけど、すごくドキドキして、でも…気持ちよくって」
くるるは突然ちりりの手を取り、目をかがやかせながら喋りはじめます。
「ね、ちりりん。もういっぺん…しよっ」
「く、くるるちゃん!?」
今度はくるるの方から抱きついてきました。ふわっと、暖かくて柔らかい感触がちりりを包みます。
「くるるちゃん…」
「ちりりん…」
見つめあう二人。ちりりの胸のあたりに、くるるの胸の鼓動がドキドキと伝わってきます。
どちらからともなく二人の顔が近づき、今度はゆっくりと唇が重なりました。
「ん…」
「んふっ…」
静かな部屋に響くのは、時折もれるかすかな息と衣擦れの音だけ。
ちりりは、自然と閉じていた目をうっすらと開き、くるるの様子をうかがいました。
くるるはうっとりした表情で、無心に体を預けています。つむった瞼の先で、長い睫毛がかすかにふるえています。
(ふふっ、かわいいっ)
ふと、いたずら心を起こしたちりりは、そっと桃色の舌を伸ばして、くるるの唇の間に滑り込ませました。
くるるは一瞬ビックリしたように目を開きましたが、すぐに口を小さく開けて受け入れます。
ピチャッ…ピチャッ…
やがて、湿った音を立てて二人の舌が絡み合いはじめました。お互いの舌先が離れては触れるたびに、しびれるような気持ちよさを感じます。
(くるるちゃんのお口、なんだかとっても甘い…)
お昼に食べたキャンディーの甘さでしょうか。ちりりは夢中でくるるの舌を吸い上げます。
「んんっ…ぷはっ。ちりりん、苦しいよぉ」
くるるが苦しがって体を離しました。しばらく肩で息をしたあと、二人は顔を見合わせてニッコリと微笑みあいます。
「あ〜、くるる達すごいことしちゃったね。これでまた、にんげんさんに近づいたよねっ」
「はい、今度さららちゃんやほろろちゃんにも教えてあげましょう」
でも、このことは二人の秘密にできたらいいな。くるるのかわいい笑顔を見ながら、ちりりの胸にはそんな気持ちもわいてくるのでした。
〜 おわり 〜