「ここで、速報が入っています」  
「昨夜未明、長野県飯波市にて、オオカミ男が発見されたそうです」  
「その時撮れたたVTRをご覧ください」  
このたった数秒のVTRに映っていたのは、忘れようのない銀色の毛並み。  
 
 
早苗の場合。  
「もしかして……銀ちゃん、なの?」  
オオカミ男なんかそうそういるものではないから、そう思うのも無理もないだろう。  
実際事実なのだから。  
「どうしたんだ、早苗」  
彼女の父、そして銀之介とは何かと因縁のあった男、大作が言う。  
「お父さん、私、行く大学決めたよ」  
「それはいいことだが……どうして急に?」  
「………」  
「まあ、お前が決めたことならこれ以上聞かないことにしよう」  
あれから相当年を取ってこの男も多少は丸くなったのだろう。  
「ありがとう、お父さん」  
そして数日後、定期便の上には早苗の姿があった。  
船は一路本土へ、そして、そのままあの街へ……  
 
 
織川静の場合。  
「嘘……駒犬……君?なんで?」  
「行かなくちゃ……」  
そして数日後。  
とある朝。  
机の上には一つの置き手紙。  
とても簡潔な手紙。  
 
ずっと探し続けていた人の手がかりが見つかりました。  
どうしても、逢わなくちゃいけない人なんです。  
落ち着いたら連絡します。  
勝手に行くことを許してください。  
 
「嘘……静、静!!」  
これで驚かねば親ではない。  
やはり親らしく驚いた静の母は、そのまま放心してしまった。  
………  
……  
…  
 
いつまでもそうしているわけには行かないことにようやく気づいて外へ飛び出したとき。  
そこには玄関前で佇んでいる静の姿。  
「静……よかった」  
「あ、お母さん……」  
「静!どうしてあんな事を!?」  
「あ……あれ……」  
震える指は、かろうじて玄関の一角を指さしていた。  
そこにはのたうち回る一匹のムカデ。  
この彼女にとっては人類史上最大最悪の敵によって、彼女の旅はあっけなく終わりを迎え……たわけではなかった。  
「そんなに逢いたい人なの?」  
のたうち回るムカデを追い払ってから静の母は尋ねた。  
「……うん、どうしても逢わなくちゃいけない人なの」  
「それなら……止めないわ、お父さんには私からよく言っておくから」  
「え……」  
「あなたももう大人なんだから、やりたいことは自分で決めていいのよ」  
少しの沈黙。  
そして、それが破られる時が来る。  
「ありがとう、お母さん。行ってきます!」  
「落ち着いたら連絡するのよ。それと、駒犬君によろしくね」  
「え!?どうしてわかったの?」  
「何年あなたの母親をやっていると思っているの?さあ、早く行きなさい」  
「……行ってきます」  
 
 
七味唐子の場合  
銀之介君がこの街を去ってからほんの二週間もたたないうちに、アタシは高校を卒業した。  
そして、行ってみたいな〜って思ってた、飯波市調理師専門学校っていうところに通うようになったんだよ。  
そして、それから半年くらい経ったのかな?  
あの子と出会ったのは。  
それは、ある日のこと。  
キーンコーンカーンコーン  
チャイムの音が響く。  
「はぁ〜やっと終わったぁ〜」  
講堂の机の上でへばっている一人の女子。  
外はねの赤髪に、そばかすが特徴的である。  
詰まるところ七味唐子その人である。  
丁度時間は正午をちょっと回った頃。  
学食で何たべよっかな〜なんて事を頭の中に走らせている事であろう。  
そんなことを考えながら歩けばそこはもう学食である。  
 
調理師学校ということもあって、なかなかおいしく健康的な学食のメニューは生徒にも教員にも好評で、やはり学食には人がごった返していた。  
人の山のなかを長年うどんと格闘することで築き上げた手によってかき分け先に進んでいく。  
運良く空いている席を確保することができ、次なる問題は何を食べるかと言うことである。  
基本的に何でも食べる娘なのだ。  
うどんだけは状況限定だが。  
そして数分後。  
再び人の山との格闘を終えた唐子の両手には、しっかりといくつかの料理の乗ったトレーが握られていた。  
「うん、やっぱりおいしいな。アタシもいつかこれくらいおいしい料理を作れるようになればいいんだけどなぁ……」  
うどんを除けば唐子の料理の腕前はアトランティス級である。  
それでもここ数ヶ月の調理実習で、なんとか古代ギリシャ級までは進歩したのである。  
と、そんなとき。  
「隣、座ってもいい?」  
女の子の声。  
「ん?いーよいーよ、座って座って」  
「ありがとう」  
「アタシは七味唐子、よろしく!」  
「私は山河早苗、よろしく、唐子さん」  
 
「よろしくね、早苗ちゃん」  
どことなく性格の合いそうな二人はそのまますぐにうち解けたようで、ほんの数十分後にはもう普通の友達といってもいいレベルにまで達していた。  
食事が終わる頃にはちょっとディ〜プな話をするくらいにまで達していたのである。  
例えば。  
「ねぇねぇ、早苗ちゃんはどこから来たの?」  
「私は会地島っていうとこから来たの」  
「おおちしま?」  
「瀬戸内海のね小さな島なんだ……」  
またあるときは。  
「唐子ちゃんはどこから来てるの?」  
「アタシはこの町に生まれたときから住んでる生粋の飯波市民だよ!」  
その言葉を聞いて、早苗の顔色が変わる。  
「そう……なんだ」  
「どうしたの、早苗ちゃん?お腹でも痛いの?」  
「ううん、何でもないの」  
少しの沈黙、そしてその後、早苗はゆっくりと言った。  
「ねえ、唐子ちゃん」  
「ん?どうしたの早苗ちゃん」  
本当にゆっくりと、一語一語を確かめるように。  
「半年くらい前かな、この街で出たっていう毛むくじゃらの怪物について、何か知ってること無いかな?」  
 
今度は唐子が沈黙する番になった。  
このとき唐子の頭の中では結構激しい葛藤が繰り広げられていたのだ。  
前後のやりとりからいって、何かの事情があることはいくら唐子でもわかっていた。  
某ぐるぐる眼鏡の少女のような、非常にやっかいな純好奇心っぽい光はその瞳からは全く垣間見なかったこともそう思えた理由の一つだろう。  
それでもやはり躊躇する理由は数多く残る。  
とてつもなく悩んでいる唐子ちゃんである。  
「知ってるわけないよね、ごめんね、変なこと聞いて」  
その言葉を紡いだ途端に、かえってきた言葉。  
「早苗ちゃん、一つだけ聞いてもいいかな?」  
「え?」  
やはりゆっくりと言葉を紡いでいく唐子。  
「早苗ちゃんは、その毛むくじゃらの怪物を探して何がしたいの?」  
「私は……確かめたいんだよ」  
「え?」  
「多分信じられないと思うんだけど、私、子供の頃に……」  
早苗の話が始まってすぐ、唐子は大体の真相を掴んだのである。  
そして話が終わって。  
「あはは、ごめんね。こんな話信じられるわけないよね」  
「信じるよ!だってアタシ……」  
そんなときに、無情にもチャイムの音が鳴り響く  
「あ!もう午後の講義始まっちゃうよ〜!!」  
どちらからともつかず焦りの声が響く。  
「そうだ、早苗ちゃん、今日の放課後正門のところで待ってて!」  
「うん、それじゃあね、唐子ちゃん!」  
二人はそれぞれ正反対の方向へ稲妻ダッシュしていったのだった。  
 
それから数時間後。  
そこは七味うどん亭の二階  
かつてある特殊な体質の男の子と特殊な性格の女の子が馬鹿話に花を咲かせていた場所。  
そして今そこにいるのは、その片割れの女の方、この部屋の主でもある七味唐子と、男の子の方に会いに、はるばる遠い島からやってきちゃった女の子、山河早苗である。  
そして、唐子の口から早苗に全てが伝えられたのである。  
あのVTRに映っていたのは銀之助に間違いがないこと。  
つい最近までこの街に住んでいたこと。  
もう一人のオオカミ男との間にで起きた悲しい出来事と、その末路。  
そして、もうこの街を去って遙か異国の地へ旅立っていってしまったこと……  
全てを話し終えたときには、もうお日様はほとんど熟睡モードに突入していた。  
「……というわけで、銀之助君はもうこの街にはいないんだよ」  
「そう……なんだ」  
途端に悲しそうな表情になる早苗。  
「でも大丈夫だよ!いつか会いに来るって銀之助君も言ってたから!」  
だんだんと、曇っていた表情が変わる。  
「……わかったよ、私、それまで待ってる!」  
「その意気だよ、早苗ちゃん!」  
ここまで来るともういつもの唐子にいつもの早苗である。  
元気爆発系のこの二人は、これからもますます交友を深めていくことだろう  
「ところで、ずっと気になってたんだけど……」  
「え?」  
「その、頬の傷、一体どうしたの?」  
「ああ、この傷はね……」  
軽く古傷をなぞって、早苗はポツリポツリと語りだした。  
「銀ちゃんが島にいたときにね、私、虎に襲われたんだ」  
「そして、その時に銀ちゃんが助けてくれたんだけど……」  
早苗の語りは続く。  
唐子はいつものように的はずれなことを言うこともなく、ただじっと、その話を聞いていた。  
 
「そんなことがあったんだ……」  
「うん。その後すぐにね、お父さんにすぐ本土の病院で治してもらいに行こうって言ってたんだけど、私行かなかったんだ」  
「どうして?そんな傷つけてたら将来あっち系の人と間違えられちゃうよ」  
「唐子ちゃんって、変なこと言うんだね」  
笑いながら早苗が言った。  
「私がこの傷を治したくないわけはね、この傷だけが、私と銀ちゃんの思い出だから何だよ」  
「もう一度銀ちゃんに会うまでは、この傷は、残しておきたいんだ」  
「大丈夫だよ!アタシに任せて、絶対銀之助君と会わせてあげるから!」  
「ありがとう、唐子ちゃん」  
これが、七味唐子と山河早苗の最初の出会いであった。  
 
 
こんな感じで二人が出会って約一年と半年  
かつての飯波高校生の間で、ある計画が動きつつあった。  
もったいぶってもどうにもならないから言ってしまうと、同窓会である。  
同窓会とはいうものの、この学校ではクラス単位等という小さな物ではない。  
それどころか何年も前の卒業生が、未だに顔を見せ、ある意味伝説になっていたりもするのである。  
突き詰めていってしまえば、毎年一回同窓会執行委員によって執り行われている、もはや毎年恒例のイベントの一つなのだ。  
事前になると色々と準備も珍しいことで、この日、七味唐子も放課後の飯波高校に姿を現した。  
「倉地先生、こんにちわっ!」  
元気120%で唐子が美術室の扉を開け放つ。  
「あら、七味さんじゃない、どうしたの?」  
何とも大人チックな声。  
飯波高校最強の美術教師、倉地香である。  
その人気はけた外れで、今ではそのファンクラブの会員数は500人を優に超しているらしい。  
「同窓会のことを聞きに来たんです」  
「ああ、そのことなら大丈夫よ。会場は私の屋敷で用意させて貰うから」  
「いいんですか!?」  
「いいのよ、一年に一回のイベントだもの」  
とそこまで会話を弾ませてて、ふと唐子は教室の端でなにやら書いている女性を発見したのだ。  
一瞬にして好奇心袋が満たされ言葉に変わる。  
「ところで倉地先生、あそこにいる人って誰なんです?」  
「ああ、あの人はね。ちょっと織川さん、来てくれない?」  
「はい」  
言われてやってきたのは青いロングヘアーでの女性。  
「この人は先月から美術教師の研修で来ている織川静さんよ」  
 
とまあこんな感じで二言三言言葉を交わすと、  
「私はまだ仕事が残ってるから、それじゃあね、唐子さん」  
といい残して部屋を去る。  
そんな彼女を見送りながらも、卒業生と教師の会話はぽんぽん弾んでいくのである。  
「ところで七味さん、駒犬君の方は?大丈夫そう?」  
「銀之助君なら大丈夫です、ちゃんと来るってエアメールで来ましたから!」  
「そう、それならよかったわ、あんな変身シーン見せたんだからもう来れないかとも思ったけど、良かったわね、七味さん」  
「はい!」  
バサッ!  
楽しい会話タイムは、突然の物音によって急遽停止させられた。  
その物音の先には織川の姿。  
なんだか放心しているような表情だ。  
「どうしたの、織川さん」  
心配げに倉地が声をかける。  
「あの、今話してた駒犬って言う人……」  
「昔この学校に通ってたのよ、もっともちょっとした事情があって今は遠くにいるんだけどね」  
「そう……なんですか」  
「織川さんって……銀之助君のこと知ってるんですか!?」  
「もう4年以上前かな、一緒の高校だったの」  
織川の語りが続いていく。  
 
大体時計の針が上で別れて下で出会うくらいの時間がたっただろうか。  
織川の語りもそのころにはほとんど終わりを告げていた。  
「私が、ガラの悪い人達に捕まりそうになったとき、銀之助君が助けてくれて、でも……次の日には……もう……」  
そこまで聞いて、唐子はおや?と首を傾げた。  
銀之助は走る速さをとっても、ケンカの強さをとっても遙かに全国水準を下回っているだろう。  
おまけに相手がそんなガラの悪い連中ならなおさら銀之助が勝てるはずがない。  
そう、スーパーマンにでも変身しない限りは……  
「っていうことは……織川さんも銀之助君の体質のこと知ってるんですか?」  
「うん、初めはちょっと怖かったけど……でも、銀之助君なんだって思ったら……全然怖くなくなったの」  
微かに笑みを浮かべながら織川は言った。  
「うんうん、その気持ち、アタシすっっごくよくわかるよ!」  
応じる唐子。  
「大丈夫だよ、もうすぐ銀之助君、こっちに来るんだから!」  
「本当!?」  
「本当だよ!同窓会の時に来るって銀之助君、言ってたもん!」  
「そう……なんだ、よかった……」  
呟くようにしていった言葉は、誰の耳にもとどくことなく消えていった。  
さて、件の本人はというと……  
 
 
大いに困っていたのである。  
「困ったなぁ……」  
山道を歩きながら呟く男。  
見るからに人の良さそうな顔に、見るからにひ弱そうな体つき。  
そして実際ひ弱な銀之助君である。  
いつのまにやらここは飯波市と長野市の県境にある山中。  
どういう訳か一週間早く日本へ帰ってきてしまったのである。  
とうぜん、行くあてもあるはずが無くただぶらぶらと歩いていたのだ。  
背中に背負った荷物は重く、さらに雨まで降ってきている。  
何とか街まで降りて、唐子の家になだれ込もうなんて事を企みつつ、山道を歩く銀之助である。  
しかし、その歩みはあまりにも遅かった。  
ふと、その亀並に遅いんじゃなかろうかという歩みが止まった。  
理由はただ一つ、とんでもない光景を目撃したからである。  
崖っぷちに佇む一人の女性。  
この雨だって言うのに傘さえさしていない。  
結構単純な思考回路を持つ銀之助は、一瞬で判断した。  
ザ・身投げ!  
「早まるなーー!!」  
何も考えもせずに銀之助はダッシュした。  
そしてそのままその女性を抱きしめ、引き戻す。  
「え、きゃっ!」  
両手にちょっと柔らかい感触が当たってたりとか、その声が微妙に聞き覚えのある声だったりしたけど銀之助は気づきもしなかった。  
こういうときの彼は至って単純なのだ。  
「なにするんですか!」  
さすがにいつまでもされるままのはずがないその女性、銀之助の腕を振り払って向き直った。  
「「あ……」」  
二人揃って硬直。  
しかしその時間は長く続いたりはしなかった。  
「駒犬さん!」  
「神楽さん!」  
お互いの驚きの声が、硬直を吹き飛ばしたのである。  
 
ちょっとした沈黙が辺りをはね回った。  
あっという間にその沈黙は吹き飛ばされたのである。  
「あの、神楽さん、どうしてこんなところに?」  
途端あずさの顔色が僅かに変わる。  
しかし、そんなことにも気づかないほどに銀之助の鈍さは健在だった。  
「ちょっと考え事をしてたんです」  
何とか取り繕って言うあずさ。  
「考え事……って、この雨なのに!?」  
傘も差さずに立っていたものだから、もう全身びしょびしょに濡れてしまっている。  
「すぐどこか雨宿りできるところに行った方がいいって!それに早く乾かさないと風邪引くよ!」  
「あ……」  
少し戸惑いがちにあずさが口を開く。  
「それなら、すぐそこに私の家がありますから駒犬さんも雨宿りしていきませんか?」  
「え……いいの?」  
多少銀之助は悩んだ。  
見知らぬってわけじゃあないけどあんまりたびたびあったわけでもない女の子の家に上がり込んでいいものかどうか?  
かといってこのまま濡れ続けるのは辛い。  
「私は全然構いません、駒犬さんさえよければ」  
その言葉が決めてとなり、あっさり銀之助は雨宿り宣言を出した。  
「そう言うことならお邪魔させてもらおうかな」  
「はい、それじゃあ行きましょうか」  
あずさは微かに笑って言った。  
その笑みに、多少の影が混ざっていたことに気づく銀之助なんかじゃなかった。  
 
歩くこと数分。  
山間のなかなか綺麗そうなマンションの前に銀之助は立っていた。  
「おっきいなぁ……」  
思わず感嘆する銀之助。  
一体何階建てなのか数えるだけで結構時間がかかりそうだ。  
「こっちですよ」  
放っておくとどこまで迷うかわからない銀之助の手を引いて歩くあずさ。  
女の子と手を握るなんてことがなかなか無い銀之助にはちょっとドキドキものだったようで、少し顔を赤らめながらついていく。  
なんだかんだでここはもう1011号室の扉の前。  
「お邪魔します」  
早速入った部屋の中。  
なかなか広めの部屋にきちんと整理されている小物等々、あずさの性格を物語っているような部屋だった。  
そんな部屋の中に一人佇む銀之助。  
着替えるから、と部屋に入ったあずさを後目に濡れた体を何とかバスタオルで拭いていたのだが……  
「あれ?これって……」  
視線の先には写真立て。  
写真の中にはあずさと銀之助に唐子。  
周りを取り囲む人人人……  
「うわぁ……懐かしいなぁ」  
それはもう何年も前、映画の撮影が終わったときに記念として撮られたものであった。  
もちろんこの写真は銀之助の家にも送られ、アメリカのある物置の一角でアルバムの華になっているのだ。  
そんな思い出を噛みしめ噛みしめ時間がたつ。  
思い出を13回くらい噛みしめたところであずさが部屋から出てきた。  
その後は自然な流れでお話タイムに入って行くわけである。  
 
とにかく色々話した。  
そんなときのこと。  
「ところで神楽さん」  
「なんですか、駒犬さん」  
「最近仕事の方はどう?うまくいってる?」  
ただ会話の延長として発しただけの言葉。  
しかし、あずさはあからさまに顔をしかめていた。  
さすがにそれにすら気づかないほど鈍い銀之助ではないらしい。  
「もしかして……うまくいってないの?」  
何も言わずに頷くあずさ。  
彼女にとって最近の一番の悩みの種がそのことであった。  
最近なにをしてもうまくいかない。  
誰もが必ず乗り越えなければならないスランプという奴だった。  
いきなり重くなった空気に、銀之助はまずいこときいたかな……という不安を隠しきれずにいた。  
ここに唐子でもいたらどうにか話題を提供してくれそうなものだが、彼女は今もうどんと格闘中でここまでこれるはずもなかった。  
「ごめん神楽さん、変なこと聞いちゃって」  
「いえ、いいんです、うまくいってないのは事実なんですから」  
重苦しい沈黙。  
どうにかしてそんな空気を破ろうとして銀之助は話し出した。  
「神楽さんなら大丈夫だって!」  
それはお人好しな性格からでた何の根拠もない言葉だった。  
「駒犬さん……」  
目を潤ませているあずさ。  
それを見ていると、またしても悪いこといっちまったか!?という不安勢力が脳内を徐々に制圧し始めたのである。  
しかし、そんな不安は一瞬にして消し飛んだ。  
変わりに別の物が脳内全域を制圧したからである。  
それはなにかって?  
 
 

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