「おまえたち2人、互角の力をふるって刺しちがえるがいい。
……ほら、おまえたちが望んでいた大魔王と大勇者の力だ! 受け取れ!!」
言って、ベーロンは、地面から立ち上る淡い光に包まれた。
そして掲げた右手の先端が輝き始める。現れた光の球体は、紫から緑、黒へ
色を巡らせながらふくれ上がっていく。次の瞬間、真っ白い光が目を覆った。
耳をつんざく轟音。
ルカは背中からはじき飛ばされ、前へ転がり込んだ。
「……うお? うおおおおおおお、なんだこれは!」
背後でスタンの声を聞いた。素早く振り返れば、今までいた場所に
『自分の影であるはずのスタン』だけが立っている。
天井へ向けて激しい雷が走る中、光にかき消されない黒い影が大きく
震えていた。
「キャァアア、スタン様ー!」
「ロザリーくん!」
キスリングの見る先、ロザリーもまたベーロンの光に囚われていた。
2人を覆う光はやがてどす黒い粒へ変化し、空間をうごめいている。
その黒いうごめきは、次に正方体を形作り、内部で爆音と共に光を弾けさせて
いた。2人の姿は見て取れない。
ようやくふたつの黒い正方体が形を崩し始めた。帯電するように雷が2本、
3本と走る陰で、肩を大きく揺らす姿がある。正方体に囲まれていたスタンだった。
「……うおおおお」
ルカは目を見張った。
「余は、余は、ついのこの姿を取りもどしたぞ!」
そう。現れたスタンは、『ルカの影』ではなくなっていた。
一見、人間と変わらない姿だが、耳の先が尖っている。
その耳にかかる渋味色をした金髪は額から後ろへ流され、褐色の肌に
金色の瞳がギラリと輝く。
黒いスーツに包んだ身は、力強く引き締まっていた。しかもただ引き締まっているだけではない。
「余こそ大魔王。この余の邪悪を統べる者、
スタンリーハイハットトリニダード14世なり!」
胸と尻のボリュームは見たこともないほど豊かで、そりゃあ悪口でも
ロザリーさんのスタイルをボロクソ言うだけはあるよなあと
手を打ち合わせたくなる見事さなのだ。
「――……って、おんなぁあああああ!?」
ルカを始めとした一同の叫びに、続いていたロザリーの台詞がかき消された。