「新年だなあ」
「新年だねえ」
年が明け、ルカはマルレインと二人で過ごしていた。
ルカの家族はそれぞれ新年の挨拶回りに出かけ、二人は留守番を任されていた。
先ほどのような他愛も無いやり取りを何度も繰り返しているが、五人が帰ってくる気配は
いっこうに無い。
一年を通して温暖湿潤で、四季の変化にメリハリのほとんど無いこの地域の気候は、
ベーロンの支配とは無関係だったらしく、例年通りの暖かさだった。
テーブルの向かい側に座り、本を読んでいるマルレインの顔を見ながら、ルカは物思いに耽る。
マルレインと再会を果たして数ヶ月過ぎ、更には初めて結ばれて数週間。
いまだに二人きりになると気恥ずかしさを感じてしまう。
初めて結ばれた翌日に、母が突然、遙か東の島国に伝わる、「オセキハン」なる料理を
作った時は少し驚いただけだったが、後日、テネルの長老にその意味を教えられ、
オセキハンに負けないほど赤くなると同時に、母に空恐ろしい何かを感じていた。
アニーとマルレイン以外の全員が、やけにルカとマルレインの二人を見て笑っていたのは
そういう理由だったのか、と、両親や祖父母に少し憤ったりもしたものだけれど。
と、視線に気付いたらしいマルレインが顔を上げた。
「どうしたの、ルカ君?」
「え?ああ、何でもないよ」
「そう?なんだかちょっと顔が赤いけど、大丈夫?」
「そうかな、特に何もないけど」
少し慌てながら答えると、そう、とだけ答えてマルレインは再び本を読み始めた。
影が薄い影が薄いと言われ続けてきた自分を気にかけてくれる人がいる。あまつさえ、
その人は自分が本当に大切に想う人である。
そのことに喜びを覚えると同時に、マルレインに愛しさを感じ、気付けば口を開いていた。
「マルレイン」
「なに、ルカ君?」
必ず自分の名を呼んでくれる愛しい人に、少し間を空けて言葉を続ける。
「好きだよ、マルレイン」
その瞬間、ほんの少し顔を赤らめて、小さな小さな声で、愛しい人は返事を返した。
「私もっ、好きだよ、ルカ君のこと……」
俯いてしまった恋人の左手に、そっと右手を重ねて、この幸福が永遠に続いてほしいと、
ルカはずっと祈っていた。
──了